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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第158話/知ったかぶりの優等生

注目される職業は敵が多い。可愛さ余って憎さ百倍と言う言葉がある通り、感情は不思議なもので簡単に変貌する。



朝からの雑誌の取材が終わり、ライブハウスに行く前にみんなで食事をすることにした。

お腹空いたーと話しながらお店に入り、案内された席に座ると近くの席の若い女の子達が私達の方を見つめてきた。


多分だけど、私達がCLOVERのメンバーだと気づき、そして…私達を嫌な気分にさせる視線を注ぎ、負のオーラを出す。


なぜ、芸能人だからといって私達は知らない子にそんな目で見られないといけないのだろう?美香と由香里が視線と目から漂う悪意に気づき怒った表情をする。


芸能人は華やかな職業で楽しい仕事だけど身勝手な悪意を向けられる職業でもある。そして、何もしていないのに弱者になる。

一度も会話を交わしたこともなく、会ったこともない人から一方的に悪意を向けられ、これほど無意味な敵意はない。


だけど、どれだけ腹が立っても行動に移さず私達はひたすらじっと我慢をする。これが芸能人としての立ち振る舞いだ。

どれだけ理不尽なことを言われても、されても我慢をしなかったら私達が悪者になりSNSに悪意の言葉を拡散され、一方的に叩かれる。


SNSで炎上でもしたら高校時代から性格が悪かった、売れてから態度が傲慢になったなど誰に聞いたのか分からない、お金儲けだけの自称ライターが書いた馬鹿な記事が後押しするだろう。


考えただけで舌打ちをしたくなる。一度も会ったことも話したこともない人に対し、何で芸能人だからと、こんな仕打ちを受けないといけないのだと苛立つ。


私は平常心を装い、メニューを開きみんなに何を食べるか決めようと促した。無意味な悪意は無視をするのが一番だ。


それに、やっと駐車場に車を止めたよっちゃんが来てくれて、席に座るなり「お腹空いたねー」と和やかな空気に変えてくれた。

私は梨乃とメニューを見ながらどれにするか悩み、イライラを抑えるために大好物のデミグラスソースのハンバーグに決めた。


梨乃もトマトソースのパスタに決め、美香達を待っていると「普通だね」と女の子達の方から嫌味のこもった言葉が聞こえてきた。

この普通だねの言葉はどんな意味を持つのか私には分からないけど、嫌味が含まれているのは分かる。人は悪意を持った時、勝手に声のトーンが変わるからだ。


ここで、女の子達の方を向いたらいけない。きっと、私達を睨んでいるはずで、喧嘩を売ってほしくてうずうずしている。

マジで、、うざい。なぜ、私達に悪意を持ったか知らないけど、自分のやっていること、思っていることを正解だと思いこんでいる自己中さに腹が立つ。


「高橋君…」


人はどれだけ他のことに集中しようとしても知っている言葉に反応をしてしまう。一番に反応したのは私と梨乃で、美香や由香里、よっちゃんは高橋君と聞こえた瞬間、まだメニューを見ていたのに動きが固まった。


高橋君のことが原因の場合、ドラマでヒロインを演じた梨乃ではなく、、私だ。


マネージャーのよっちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をし、私は下を向く。梨乃と美香達はきっと私を心配そうに見ているだろう。

私は高橋君と付き合っていない。プライベートでも遊んだこともないし、ただドラマと映画で共演しただけ。


高橋君とは仲は良いけどそれだけだ。だけど、高橋君と二度目の共演をしている私は一部のファンからしたら邪魔者でしかない。


人を好きになると盲目になり

馬鹿になり、自分勝手になる。


今がまさにその状態であり、私に向けられた悪意と敵意が分かり、ため息を吐きたい。

私と高橋君の間には何もないけど、そんなの意味がない。私と高橋君のリアルは本人しか見えないし、盲目になると全てが敵になる。



アイドル×アイドルは一番御法度な恋だ。

そんなの私が一番知っている。

そんなの分かっているよ!

だから!!!!

私が高橋君と付き合うことなんてない!



だけど、私の心の声なんて言えるはずもなく我慢するしかない。否定しても、聞き入れてくれない。人間は嘘をつく。だから…嘘かなんて誰にも判断できない。

それにいつか…と邪険な考えをする。今は付き合ってなくても未来は分からないと考えてしまうのが人間だ。


きっと私のことを悪意の目で見ている子達はガチ恋と言われている子達だろう。本気で芸能人(高橋君)を好きになってしまった。

何だろうね、、ガチ恋を否定する気はないけど、バカ野郎と言いたい。噂が立った私をどれだけ恨んでも憎んでも何も変わらない。


ガチ恋で生まれた憎しみは一方的な悪意でしかないことを知ってほしい。だから、私は恋愛なんてくだらないと思いたくなる。

恋をしてしまうと自分中心の世界に変貌し、甘い蜜を永遠と吸い続けることができる魅惑的なファンタジーに迷い込む。


マジで、、くだらない。

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