第154話/難題無題迷路の思考回路
新しい現場は緊張と興奮と高揚感に包まれる。監督、スタッフの方達に挨拶をしながら私は気合いをいれた。
そして、主役を演じる高橋君に私は笑顔で挨拶をする。顔馴染みがいると安心する。
髪を少しだけ短く切った高橋君は森田翔平ではなく、羽川涼太で不思議な感じだけど私も鮎川早月から上坂未来になった。
二度目の女優としての撮影が今日から始まると考えると胸が高鳴る。ずっと、女優(特に映画)をやりたいと願ってきた。
あんなに遠かった未来が…
現在進行形で叶っていく。
そして、未来と未来は同じ漢字だと気づき、また勝手に縁を感じた。
去年の苦しい1年が嘘みたいに変わっていき、今では沢山の仕事を怒涛のようにこなし日々を過ごしている。
メジャーデビューをし順調に進む私の未来。
監督と高橋君と打ち合わせをしながら、私は「さんかくパシオン」を描いた作者の妄想の世界を造っていく。
上坂未来は可愛い女の子だ。羽川涼太は心優しい男の子だ。そんな2人のラブストーリーは色々なことを乗り越え、恋を実らせる。
漫画家さんって本当、凄いよね。私はこんなラブストーリーは絶対に描けない。
私は常にバッドエンドを妄想をしてしまうし、私はハッピーエンドが信じられない。
だから、今から仮面を被る。恋愛不適合者の藍田みのりから女子高生の上坂未来になる。
これもある意味、偽造になるのかな?私じゃない私を演じるから。
バスケが得意な鮎川早月
涼太が好きな上坂未来
恋愛不適合者の藍田みのり
こんなにも違う私がいる。
吉田夏樹.side
アイドルの現場とは違う世界。この世界は私もずっと憧れていた世界で今も憧れている。
でも、今はマネージャーとしてやらないといけないことがある。梨乃が女優として活躍するにはどうしたらいいかを。
みのりのお陰で梨乃は映画のオーディションを受けてくれるはずだ。でも、これから先…みのりにばかり頼れない。
梨乃を攻略するにはみのりを使うことが一番有効だけど、根本的には梨乃自身が変わらないと意味がないのだ。
梨乃は難攻不落の王城だ。アイドルという堅い城壁に囲まれ出ようとしない。
唯一、王城から顔を出す時はみのりがいる時。みのりの声だけを受け取る。
頑固者で意地っ張りの梨乃。悪いことではないけど、頭を柔軟にして欲しい時もある。
現場に着き、スタッフ・監督・高橋君に挨拶をするみのりを見て、梨乃もアイドル・女優として成功してほしい気持ちが強くなる。
アイドルとは違う形の華やかな現場とアイドルとは違う形の魅力に溢れている世界。
アイドルでは得られない経験値とアイドルを卒業した後の未来がここにある。
アイドルをやれる時間は永遠ではない。女性アイドルは時間制限があり、だからこそ若いうちから経験を積ませてあげたい。
それに何より梨乃は演技の才能がある。この才能を野放しにはしたくないし、梨乃の未来を守るためでもある。
いっそのこと、梨乃を放っておくのも手なのかもしれない。みのりと梨乃の差が広がれば広がるほど梨乃は焦るはずだ。
梨乃は今、当たり前のようにみのりの隣にいる。でも、みのりが売れれば売れるほど、梨乃の性格上、引け目を感じるはず。
今回のオーディション次第になるけど、梨乃が落ちたらみのりと梨乃を今後も引き離す。
あゆはるが人気がある時期に、みのりの売りをこれ以上停止するのは痛手だけど、梨乃を変えるために引き続き続行するのを決めた。
梨乃がアイドルの仕事しかしたくないなら私はもう何も言わない。その代わり、私はみのりに女優の仕事を押し続ける。
【押してもダメなら引いてみろ】
梨乃はきっと…変わる。みのりのために。友達に酷い奴だよーと言われそうだけど、私の仕事はCLOVERのマネージャーだ。
私は私の仕事を完璧にこなす。CLOVERを人気アイドルにするために。私の使命だから。




