第153話/有象無象の過去
今日までドラマと同時進行で映画のポスター撮りや台本読みをこなしてきた。今日から初めての映画撮影が始まる。
鏡に映る私の髪型はポニーテールではなく、降ろした髪に緩めのウェーブがかかった髪型で今日から上坂未来になる。
ドラマとは違う制服に身を包み、ナチュラルメイクをした私はまだ高校生に見えたらいいなと思いながら鏡で全身をチェックする。
私は一応まだ19歳だけど、今年20歳になるからみんなの評価が怖い。まだ大丈夫だよね?と言い聞かせながらじっと顔を見つめた。
上坂未来の性格と見た目は鮎川早月とは真逆のタイプであり女の子らしくむず痒い。
私の性格的には早月に近く、可愛い女の子感が強い未来が私とは真逆のタイプで演じれるか不安があった。
「みのり、どうしたの?不安そうな顔をしてるけど」
椅子に座っているよっちゃんが鏡の前で暗い表情をする私に声を掛けてくる。私はよっちゃんの方を振り向き、心配そうにするよっちゃんに苦笑いしながら不安を口にした。
「上坂未来が素の私とは違うからさ…大丈夫かなって」
「大丈夫だよ。みのりは可愛いから」
「ありがとう…」
照れくさいけどよっちゃんに褒められ、少しだけ不安が消えていく。それに…不安がってもやるしかなく、仕事は待ってはくれない。
「みのりってさ、不思議な魅力あるよね」
「そうかな?」
「可愛いのに、カッコいい」
「それって、褒めてるの?」
「褒めてるよ。可愛いのに内面が姉御肌(+王子様気質)だからカッコよく見えるのかな?特にみのりの顔は女の子が好きになる顔なんだよね」
私の顔を見ながらうんうんと頷き、自分の言った言葉に満足そうな顔をされても、言われた私は戸惑いしかない。
女の子が好きになる顔って…正直、私はあまりこの言葉が好きじゃない。モヤモヤする。
「みのりはさ、女の子に告白とかされたことないの?」
「・・・」
「えっ、あるの⁉︎」
由香里の時は咄嗟に嘘をつけたけど、よっちゃんには嘘をつけず、思わず押し黙ってしまう。
そんな私の態度によっちゃんは「あるんだ…」と驚いた顔をし「そっか」とまた勝手に納得した表情をする。
「キ…いや、あの…」
さっきまで饒舌だったよっちゃんが急に吃り、困った顔をしている。何か言いたげで、よっちゃんが話すのを待っていると意を決した表情で突然また変な質問をしてきた。
「みのりは…友達とキスしたことあるよね?」
「あるけど…」
「どんな気持ちだった?」
「よっちゃん、どうしたの…」
「そうだよね!ごめん!忘れて!」
私の怪訝な態度の言葉に対し、しまった…という顔をし、下を向いてしまったよっちゃんに私は素直な感情を言う。今日は私もよっちゃん同様変なのかもしれない。
「まぁ、柔らかかったかな…女の子の唇って不思議だよね。男の子と全然違う」
「そうなんだ…」
私はアイドルで、よっちゃんはアイドルのマネージャーで、ここは映画の撮影現場の楽屋で…一体何を話しているんだろうね。
「あっ、そろそろ行かなきゃ」
「本当だ!みのり、準備はいい?」
「うん」
私は最後にもう一度鏡で顔を見ながら、自分の唇に触る。美沙の唇は柔らかかった。
私の唇も柔らいのかな?自分の唇の柔らかさは自分ではよく分からない。
私の中で女の子とのキスは嫌悪感がある。美沙は平気だけど綾香はダメだった。
何が違うのかな?美沙と違って、綾香とのキスは嫌な記憶を思い出すキスだった。
ってか、そもそもおかしな話だ。私は何人の女の子とキスしてんの?
女子校、クラスの輪、友達という呪縛が私を雁字搦めにし逃げることが出来なかった。
廊下を歩きながら私は自分の学生時代の私の環境が異質だと認識する。あの頃はひたすら我慢して、自分を保つのに必死だった。




