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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第150話/想いのディストーション

今日で鮎川早月としての日々が終わり、この制服を脱ぐ。今日のセリフは完璧に頭に入っており、後は監督とどのように演じるか話し合うだけで…胸がジーンと熱くなる。

やっと慣れた頃に最後なんて寂しく、周りの方達が本当に優しい人ばかりで、新人の私と梨乃を指導して下さって感謝しかない。


隣に座っている梨乃も台本を握り締め、熱のこもった視線で周りを見渡している。今日で最後と分かっているからこそ、今の光景を胸に刻みたいし忘れないようにしたい。

出来れば、愛もこの現場にいたらもっと良かったのにと思ってしまうけど撮影の順番は決まっているから仕方ない。


明日は愛がクランクアップで、既に高橋君は昨日でクランクアップしている。私は明日からは高橋君との映画撮影の日々だ。

時間が過ぎるのが早く、あっという間に1日が終わる。ずっと一緒だった愛との撮影も無く寂しい気持ちが溢れる。


プライベートでは会えるけど、愛も新しいドラマの撮影に入るし…今度はいつ会えるかなと寂しい気持ちになった。

毎日のように会えていた時間が無くなることがこんなにも寂しいなんて、自分が寂しがり屋だと初めて知った。


「みのり… 寂しくなるね」


「うん」


周りを見渡していた梨乃が寂しそうな声を出す。またいつか違う現場で会えるかもしれないけど、この作品は今日で終わりだ。

映画化とか二期などが決まったら嬉しいけど、高橋君と私は映画で共演するし、ラブストーリーだし流石に厳しいかもしれない。


それでも私は鮎川早月に救われた。この役を掴めたからこそ、今の私がいる。今日、よっちゃんからデビューシングルのフラゲの売り上げを聞き嬉しかった。

ドラマのお陰でみんなに聴いてもらい知ってもらった。タイアップも付き、まさに夢物語みたいな順調ぶりだ。


お母さんはフラゲで沢山買ったCDを親戚に配り回っており「彼女はちょっと変わっている」と「さんかくパシオン」の漫画本をリビングで一番目立つ位置に飾っている。

私はお母さんの自慢の娘で親戚からは自慢の女の子としての扱いを受けている。


マジで…くだらない


一度受けた可哀想な子とした目を私は一生忘れない。だからこそ、やる気が漲る。絶対に負けたくないと。

仕事が私の全てだ。恋に敗れ、仕事だけが私を未来へ連れて行ってくれる。





松本梨乃.side


あれだけ嫌だったドラマの現場が今日で終わると考えた時、寂しい気持ちになり泣きはしないけど目頭が熱くなる。

でも、こんな風に思えたのはみのりと愛がいてくれたからだ。2人がいなかったら私は逃げ出していたかもしれない。


少しだけ演技の楽しさも知り、自分がポスターに大きく映っているのを見た時、私は芸能人なんだと改めて感じた。

少しづつ、色んな人に顔を覚えられ名前を知ってもらい、良い方向に進んでいるけど出来ればアイドルの仕事だけをしていきたい。


それにしても、今日のみのりはいつもより甘えん坊で私に引っ付いてくる。

お陰で私の体温は常に高く、みのりに後ろから抱きしめられると、次は真正面から抱きしめられたいという欲が満ち溢れてくる。


私とみのりの身長は5センチの差しかないからみのりが少し首を傾ければ簡単にキスをできる高さでと妄想し、、顔が熱くなる。

まだ、ファーストキスをしたことのない私は妄想少女だ。いつか、大好きな人…みのりとキスをしたいと妄想し、妄想に酔いしれる。


そのせいで、私はどんどんエッチな女になり、常にみのりを性的対象として見る。

好きだから触れたい、触れられたいという気持ちは抑えていても湧いてくるもので止められない感情と衝動だ。


妄想のせいで私は大事な日なのに、台本を強く握りしめる。感情の昂りが抑えられない。

エッチな私は一度、イケナイ夢を見た。これは欲求不満を意味するのか、私がただエッチなだけなのか…あまりに妄想ばかりするからあんな夢をみたのかもしれない。


起きた時、びっくりして服を着ているのか確認し、みのりを探した。

夢だと分かった時は安心とガッカリを同時に味わい、恥ずかしくてベッドの上で暴れた。思い出すだけで、体と顔が熱くなる。


私とみのりとの距離は約20センチ…


隣に座るみのりとの距離は私をおかしくさせる。仕事そっちのけでみのりのことを考え、恋に盲目になり欲が溜まっていく。

顔のコンディションを気にして、体のプロポーションを気にするようになり、恋をすると綺麗になるというけどそのお通りだ。


好きな人に可愛いと言われたいし、抱かれたいから見た目を気にするようになった。

もうすぐリハーサルが始まり、私は佐藤小春として演技をする。その前に…少しでもと私はみのりの方へ手を伸ばす。

制服を着ているみのりの腕に触れると振り向いてくれて、みのりが私を見つめる。


きっと、私の手の意味を考えているのだろう。優しいみのりは私の手の上に手を重ね、笑顔で「緊張するね」と言ってくれた。

もし、みのりと私が同じ学校だったら一緒にいる友達やグループが違う。私は人気者のみのりに憧れこっそり見ている。


アイドルの私は大好きなみのりに簡単に触れることができる。コンプレックスばっかりだった私は恋をし、青春真っ只中だ。

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