第147話/わたし色の想い
谷口美沙.side
落ち着いた気持ちでテレビに映るみのりをジッと見つめる。隣に座っているお母さんは興奮しながらみのりを見つめており、私もお母さんみたいに喜びたいけど静観する。
アイドルのみのりをちゃんとこの目で焼き付けたかった。大事な日だから。
でも、歌い踊り出したみのりを見ていると自然と涙が出てきた。テレビの中にいるみのりが輝いており遠い存在になった気になる。
これは、どんな感情なのだろう?みのりがどれだけ人気が出ても関係性は変わらないはずなのに私は怖いのだろうか?
お母さんはみのりの活躍が誇らしそうで、みのりが映るたびに嬉しそうにし手で叩き、歌を口ずさみながら喜んでいるのに。
テレビの中のみのりが眩しいよ。みのりと同じメンバーの子達も輝いていて、上野美香ちゃんと友永由香里ちゃんは私より年下なのに大人っぽくて。
サビの振り付けで唇に人差し指を当て…
Kiss Me Kiss Me
遠くにいる貴方を振り向かせる
と歌う、みんなの表情は可愛さと色っぽさが入り混じり、改めて芸能人は凄いと思った。スポットライトを浴びたメンバーはキラキラと輝いておりつい魅入ってしまう。
芸能界は華やかで、だからこんなにも惹かれるのかもしれない。画面に映るみのり達が見ている世界が知りたくなり憧れる。
一部の人しか行けない世界の中に私の大好きなみのりがいる。そっか…なぜ胸がギュッと苦しくなったのか分かった。
みのりはみのりだけど、テレビに映るみのりは私の知らないみのりだと決めつけている。CLOVERの藍田みのりは芸能人だから。
それに、CLOVERのみのりの横にいるのは私ではなく松本梨乃ちゃんで、一般人の私は立てない。だから、自分が影の存在のように感じた私は卑屈になっている。
あれだけ、口では応援していたのにね。
今日のみのりはとても可愛くて、めちゃくちゃ輝いてる。アイドルの藍田みのりにいつでも会える間柄のはずなのに、私はただのファン化しており、みのりを求めている。
みのりのSNSの写真にはCLOVERのメンバーが沢山写っている。そして、最近は人気若手女優の森川愛ちゃん。だけど、みのりのSNSには私はいない。
お母さんは昔と変わらず娘の大事な友達のみのりを可愛がり、大切にしている。
芸能人とか関係なく…みのりの活躍を手放しで喜び、私と違い嫉妬などしていない。
私はみのりに追いつけるのかな?みのりが遠い存在になりすぎて後ろに下がってしまう。
奥原百香.side
今日は甘いカフェオレではなく、少しビターなカフェオレを飲みながら先生を観察する。テレビに釘付けの先生は子供みたいで目をキラキラさせている。
こんなにも夢中になれるものがある先生が常に楽しそうで羨ましい。私は芸能人に興味がないし、夢中になれるものがないから。
漫画や映画などは好きだけど、先生が藍田みのりちゃんを好きの気持ちとは違う。どっぷり沼にハマるという感情を知らないし、どんな気持ちなのだろう?
1人の女の子を必死に応援し、お金を沢山使い尽くした対価は得られているのだろうか?
高校時代、百香は現実主義で夢がないと友達に言われたことがある。友達も芸能人にハマりコンサートがあれば必ず行き、グッズやCDを大量に買っていた。
ここまで好きな芸能人に尽くす心理はなんだろうと思うけど、きっとどれだけ説明をされても私には分からない。
だって、どれだけ追いかけてもお金をかけても対価が見えない。ライブなどはちゃんと対価が分かるけど後は…自己満足だよね?
特にアイドルを好きになる人はその傾向に強く感じられ、先生を見ているとなぜそこまで藍田さんにハマるのかなと思っている?
先生より7歳も年下で、女の子で…先生はアイドルの藍田さんに何を求めているのだろうか?対価は何?
藍田さんは顔が可愛いく、歌も上手くて、演技も良かった。でも、だから?考えても答えが分からなくて難しすぎる。
私は心が冷徹なのだろうか?だから、人の魅力を理解できない?でも、先生は尊敬しているし、先生のためなら何でも出来る。
この感情と一緒なのだろうか?別に私も先生に対価を求めていない。先生のそばに居られればいいし、先生の力になりたい。
もし、そうならば先生の気持ちが分かる。恋とは違うこの好きという感情は対価を求めない自己満足の感情なのだろう。
「はぁぁ…最高」
「良い曲ですね」
「ねー!良い曲だよね。もうね、みのりちゃんが可愛くて、めちゃくちゃ最高だった」
CLOVERの出番が終わり、やっとテレビから離れた先生は余韻に酔いしれ幸せそうな顔をしている。みのりちゃん愛を爆発させており、最高に気持ち悪いぐらいニヤけた顔だ。
せっかくだから私は先生にずっと疑問に思っていたことを聞くことにした。なぜ、そこまで年下の女の子にハマるのかを。
「先生は藍田みのりちゃんのどこが好きなんですか?」
「えー、めちゃくちゃ難しい質問すぎる」
「顔ですか?それとも性格?」
「全部好きだけど…言葉にするのは難しいよ。みのりちゃんと同じ時代に生きれて幸せだし、生まれてきてくれてありがとうって言いたいし、、そうだな〜、みのりちゃんに出会えたことが今一番の幸せで、人生の一部で、こんなにも応援したいとか好きって思える感情を持てたことが嬉しい。みのりちゃんのファンになって人生が楽しくて、毎日が楽しいの。私をこんなに夢中にさせてくれたことに感謝だよね。私はみのりちゃんに出会えていなかったら…漫画を辞めていたかもだから」
「えっ?そうなんですか!」
「一度さ…私、逃走したことあるでしょ」
「はい」
「あの時、凄く漫画を描くのが苦しくて逃げたくて、結局逃げたんだけど…その時にみのりちゃんに出会ったの。グループを結成したてのみのりちゃんのチラシを配る姿がオドオドして可愛くてさ、でも目がね…キラキラしてたの。ライブで必死に歌って踊る姿が眩しくて、その時に初めて漫画を描き始めた時の気持ちを思い出せたんだ。だから、私の恩人でもあるしみのりちゃんがいるから漫画を描くのが楽しくて、頑張ってお金を稼いでみのりちゃんを応援したいって思いが強い」
「そうなんですね」
先生のみのりちゃんへの気持ちが私の先生に対する感情と一緒でやっと納得できた。
ハマれるものがなくずっと羨ましいという感情ばかりあって、人生の楽しみって何だろうって思っていた。
私も先生に出会って人生が楽しい。これが応援する対価なのだろう。
「先生、これどうぞ」
「えっ?いいの〜?ありがとう」
私がストックしていた甘いカフェオレを先生にプレゼントする。美味しそうにカフェオレを飲む先生が可愛く、先生が藍田さんに洋服をプレゼントする気持ちが分かった。
好きな人が喜んでくれると私も嬉しい。私もビターなカフェオレを飲みながら、先生との会話を楽しむ。私にとって最高の対価だ。




