第146話/眩い青い空
吉田夏樹.side
6月に入り、月日は川の流れのように流れていく。つい最近まで5月だったのに、仕事が充実していると1日が短い。
今日は初めての音楽番組にCLOVERが出演する。結成して約1年…みのり達はデビューを掴み取るまで不安な時間を過ごしてきた。
今日はアイドルとしてみんなが輝く日。みのり達は鏡の前で何度も歌とダンスの練習をし、気合いが入っている。
初めて出演する音楽番組がプライムタイムの生放送なんてCLOVERにとって最大のチャンスで、アイドルとして日の目を浴びる日だ。
煌びやかな衣装を着ているメンバーを見ていると胸の奥が熱くなり、自然と瞳が潤む。
私はマネージャーとして、みんなと二人三脚でやってきた。やっと努力が報われる日で、昨日は感無量な気持ちになり眠れなかった。
小さなライブ会場でCDを手売りしながら頑張った日々…みんなの真剣な表情が誇らしい。
私はCLOVERの専属マネージャーとして、今日という日を目に焼き付ける…
「あー、よっちゃんが泣いてる」
感情の昂りを抑えきれず、自然と流れた涙に気づいた美香が騒ぎ出す。私はやめてーと言いながら慌ててハンカチで涙を拭くと、みのり達が嬉しそうに笑っている。
私もみんなの笑顔に釣られ、もうすぐ緊張の本番なのにみんなで笑い合った。まだ、みんな10代なのに頼もしくて嬉しい。
「はぁ、、まだ泣くつもりなかったのにな」
「よっちゃんは泣き虫だね〜」
私が泣き虫なのを嬉しそうに言う由香里。みのりも梨乃もずっと笑顔で、みんなに出会えて本当に良かったと改めて思えた。
でも、私の夢はとてつもなく大きい。夢はドームでライブだし、今日はドームに向け一歩を踏み出した日でしかない。
コンコンとドアが叩かれる。スタッフの声が聞こえ、みんなの表情が笑顔から真剣な表情に切り替わり一気に空気感も変わった。
鏡で髪型や衣装の最終チェックをし、みのりを筆頭にドアからスタジオに向けて歩いていく。今、歩いている道はCLOVERが地下アイドルからアイドルへ変わるロードだ。
松本梨乃.side
夢に見た音楽番組。まだメジャーデビュー前だけど、私達は憧れだった場所に立つ。
私の前を歩くみのりの背中が逞しく誇らしい。今日はとても大事な日だ。中学生の時にテレビで見ていた憧れた場所に私達は立つ。
普段お喋りの美香や由香里が静かで、私達は沢山のスタッフの人達に挨拶をし、本番が始まるまで裏手で待機する。
夕方にスタジオでリハーサルをした時は緊張の嵐で心臓が爆発しそうだった。
憧れの場所に立つプレッシャーは凄いけれど、みんながいれば頑張れる。ほら、みんな緊張しているはずなのに嬉しさが勝ち笑顔だ。
私は嬉しさの余り泣きそうで…そんな時、必ずみのりは私の異変に気づき手を握ってくれる。この優しい手に私は何度も助けられた。
音楽が鳴り始め、スタッフの人に手で合図をされ、私達は歩き出す。今から華やかなスポットライトが当たる場所に立つ。
複数のカメラとスタジオを眩い光で照らすライトの下に立つ私達は紛れもなくアイドルで、私達はやっと夢を勝ち取った。
CLOVERの夢が始まる。
藍田みのり.side
めちゃくちゃ緊張する。悔しかったこと、悲しかったことを思い出しながら憧れの場所に立っている自分を今日は褒めてあげたい。
やっと、憧れていた場所に立てた。でも、まだまだ。夢は始まったばかり。
私はアイドルになりたくてアイドルのオーディションを受けてきた。事務所でみんなと出会い、よっちゃんと出会い、みんなで助け合ってやっとここまで辿り着いた。
ドラマが終盤になり、みのりの、あゆはるの人気が盛大に上がっている。
あれだけ…梨乃を利用するのはと悩んでいた私はもういない。この世界は非情だ。
勝ち組に行くために何でも利用する。芸能界は上に上がらなければ沈むだけだ。
ファンがみのりの・あゆはるを求めるなら供給する。みんなが見たいものを見せるのがエンターテイナーだし、これは仕事だ。
私はもっと、もっと上に行く。二度と地下へは戻らないし、トップアイドルになる。
コンビ売りが私の武器なら活用してやる。
これでいい…よね?
さっき、裏手で私に見せてくれた梨乃の笑顔が純粋無垢で、心がチクっと痛んだ。私は大事な友達の梨乃を利用している。




