第13話/果てしない夢の先
夢はアイドル。アイドルになれたのに夢はアイドル。一般の人からしたら不思議な言葉だけど私にとっては普通の言葉だ。
役者も同じで売れなければ、誰も興味を持ってくれないし知られていない。
芸能界は売れてなんぼの世界だ。どれだけこの仕事が好きで続けたくてもお金がないとバイトをしなければ生きていけない。
名前を知られなければ堂々と職業を言えず、胸を張って言えない悲しい職業なのだ。
今日は夕方からライブをする日で、私と梨乃はさっきまでバイトをしていた。
高校生である美香と由香里は学校帰りで制服からレッスン着に着替え、今からストレッチとリハーサルをした後にミーティングする。
私はストレッチをしながら美香の目が腫れていることに気づいた。普段、天真爛漫な美香の目が腫れるなんて珍しいことだ。
最初は目が痒いのかと思ったけど目を掻いている様子はなかったから気になり声を掛けると顔を逸らされる。
「何でもない…」
「でも、一度冷やした方がいいよ」
「うるさい!みーちゃん、親みたいで嫌い」
「美香、みのりが心配しているのにそんなこと言ったらダメだよ」
「りっちゃんもうるさい!」
美香は天真爛漫だけど頑固なところがあり、拗ねると口を聞いてくれない。でも、この目の腫れや赤さは泣いた証拠だ。いつも、泣き顔の美沙を見ていたから当たっているはず。
顔を合わせてくれない美香の手を掴み「ちょっといい?」と声を掛ける。
美香は私の行動に俯いたまま「みーちゃん…ごめん」と謝ってきた。落ち込む美香の手を掴んだまま「行くよ」と言い歩き出す。
私と美香は楽屋に戻り、さっき買っておいた冷たいジュースを俯く美香の目に当てた。これで目の腫れも治るだろう。
「ありがとう…」
「何かあったの?」
「別に…」
「そっか。あっ、そのジュース飲んでいいよ。美香にあげる」
「さっきはごめん…イライラしてみーちゃんに八つ当たりした」
16歳は多感な年頃で反抗したくなる年齢だ。そんな美香の頭を撫で、ポケットに入れていた飴玉をあげる。
こんな風に接すると美香に子供扱いしないでと怒られるけど、今日は素直に貰ってくれた。
「イチゴ味が良かったな」
「レモン味で我慢して」
「ねぇ…CLOVERはいつデビューできるの?」
「いつだろう…私にも分からないよ」
そんなこと私が一番知りたい。私と梨乃は来年10代じゃなくなるのだから。
「友達に馬鹿にされる…地下アイドルって。アイドルなのに地下って言葉が付くだけで下に見られて悔しい」
私も美香と同じような経験をしてきた。悔しいよね。頑張っているのに鼻で笑われる…
「美香、あー!って大きな声を出してみて」
「あー!って言うの?」
「うん。出来るだけ大きな声で」
「あーーーーーーー!!!!!!」
「どう?少しはスッキリしない?」
「した。凄いー」
「美香、絶対にデビューしよう。私と梨乃は武道館に行くつもりだよ」
「私も行く!絶対に武道館に行く!」
やっと笑顔になった美香を連れ、ステージに戻ると梨乃がすぐに駆け寄ってきた。私が美香を怒っていたと思われたかもしれない。
リーダーとして怒る時はあるけど、怒るのは苦手だ。平和主義ではなく面倒くさいのだ。
「梨乃…美香を怒ってないからね」
「分かってるよ」
「早く練習しよう。美香、早く踊りたい」
16歳は立ち直りが早い。私達に「早く、早く」と急かしステージに呼び寄せる。
梨乃と一緒にステージに上がると由香里はリップを塗りながら、ゆっくりと歩みでステージに上がってきた。
「よっちゃん、音楽流してー」
美香がよっちゃんに指示を出し、16歳の高校生からアイドルCLOVERの上野美香になる。
私も負けていられない。絶対にセンターになりたいから負けたくないし、私達はまだ完熟もしてないのに腐ることなんてしない。
みんなの熱量が上がっていく。練習を終えた時、由香里に「私も絶対に武道館に行くから」と言われた。
由香里は私と美香の話を聞いていたみたいで、私は当たり前でしょと言い、タオルで汗を拭きながら楽屋に戻った。
ミシッと音が鳴る古い椅子に座り、私は飲み物を飲みながら一息つく。でも、休憩は一瞬で美香が私の膝の上に座ってくるから全く体が休まらない。
私の名前を呼びながら甘えてくる美香は16歳の高校生で、私は美香のお母さんだ。
「美香、みーちゃんの独り占めはダメ!」
「今日ぐらいいいじゃん」
由香里と美香が私のことで揉める。私としては休憩したいから膝の上から降りてほしいけど、美香の腕が私の首に回っており降りる気はなさそうだ。
由香里も甘えたいモードに入ったのか、美香よりお姉さんなのに口喧嘩をする。
マネージャーのよっちゃんはこの現状をニコニコしながら見ているし、2人の口喧嘩を止める気がなさそうだ。
私は梨乃に助けてもらおうと思い、梨乃を見るとなぜか梨乃は拗ねた顔をしている。
最近の梨乃はやっぱり変わった。こんな時はお姉さん的な立場で助けてくれるのに、美香や由香里みたいな表情や態度を取る。
私の知っている梨乃はどこにいったのだろう?梨乃がどんどん変わっていく。




