第131話/変わっていく明日
松本梨乃.side
昨日は久しぶりにみのりと撮影が一緒だった。でも、昨日以外はみのりと撮影が被らず、ドラマ以外でも一緒の仕事にならない。
ライブだとみのりと一緒にいられるけど、他の仕事だと由香里と美香と仕事ばかりで…めちゃくちゃもどかしい。
今日は個人仕事で、1人で雑誌の撮影をしている。周りを見渡してもみのりはおらず、休憩時間は携帯ばかり見ている。
せめて仕事終わりにみのりに会えたらいいけど、みのりも忙しいのが分かっているから簡単にご飯に行きたいや会いたいと言えない。
私の頭の中は常にみのりだらけで、すぐにみのりへの禁断症状が出てしまう。
みのりとの関係が変化がない毎日。簡単に好きって言えたら、告白できたら変わるかもしれないけど、動けない日々が続く。
そんな私に追い打ちをかけるようにみのりが映画に出る事が決まった。それも、今共演している高橋君との恋愛映画。
最悪だ。だから、演技の仕事が嫌だった。みのりの恋愛映画なんて見たくない!
映画の原作の漫画を読みたくなかったけど、内容が知りたくて我慢して読んだ。内容は定番のラブストリーで、、キスシーンがあった。
恋愛漫画にはキスは定番で私はこの定番が憎い。プラトニックでいいじゃん!なんで、恋人になったからといってキスをするの?
私だってみのりとキスがしたい!
いくら仕事でもみのりが他の人とキスをするなんて嫌だよ…考えるだけで頭がおかしくなる。大好きな瞳で私だけを見てほしい。
常に私の頭の中はみのりだらけで、恋の沼に落ちた私はいつももがいている。
みのりの…
笑うと細くなる目が好き
笑った時に見える白い歯が好き
帽子を被っているみのりが好き
私はみのりの全てが好きだ
自分でも呆れるぐらいみのりにぞっこんで、みのりの全てが欲しい。だからこそ、このとてつもなく重い感情が爆発したら私はどうなるのかな…私は私でいられる?
この恋の沼は奈落だ。落ちても堕ちても止まることがない。まるでブラックホールみたいに脱出することができない。
藍田みのり.side
今日はよっちゃんと事務所の会議室で打ち合わせをする。新しい映画のうち合わせで、楽しみにしていた。
「映画のポスター撮りは5月中旬に決まったよ。そして、映画公開が10月」
「公開日、早いね」
「そうだね。あっ、9月は映画のプロモーションで忙しくなるわよ」
「分かった」
恋愛には興味がないけど憧れていた恋愛映画。若手女優の登竜門的なものだし、ずっと大画面に映る世界に憧れていた。
「確認なんだけど、キスシーン大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「みのりは仕事だと割り切るタイプだから良かった。梨乃はキスシーンNGだから」
「そうなの?」
「ドラマのオーディションの時、キスシーンがあるなら絶対嫌だって言われてたの」
梨乃はきっと恋愛経験がないからキスシーンが嫌なのかもしれない。でも、勿体無いなとも思う。割り切らないと仕事にならない。
「これは忠告なんだけど、あんまり高橋君との距離を詰めないでね」
「分かってるよ」
「ごめんね。あんまりこんなこと言いたくないけど、高橋君の事務所は大手だし、ファンがね…ヤキモチ焼く人が多いから」
「そうだね。高橋君のファンはガチ恋の人、多そうだし」
きっとこの世で一番ガチ恋をしているファンが多いのがアイドル。特に高橋君の事務所のアイドルはその手のファンが多い。
だからこそ相手役の女優は気を使う。どれだけ相手に興味がなくても。
「よし、映画のことはこれくらいかな。はぁ〜楽しみだね。早く公開しないかな」
「まだ、撮影も始まってないのに?」
「原作が面白いし、高橋君とみのりのコンビ好きなんだよね」
「何それ」
「だって、2人とも可愛いから」
さっき、高橋君に対しての注意事項を言われたのに、今は笑顔のよっちゃんに反対のこと言われ私は苦笑いする。でも、高橋君は同い年で話しやすい男の子だ。
この前、愛と高橋君と私で話をしていた時に私が運転免許証を持っていると知ると「すげ〜」と言われ、尊敬の眼差しで見られた。
見た目は今時の男の子だけど、仕事は真面目でスタッフの人達に礼儀正しい。
話している時は普通の男の子で演技になると顔つきが変わる。流石プロだなって思うし、愛同様芸歴が長く堂々としている。
「映画、頑張ろうね。今回の映画がヒットしたら必ず次に繋がるから」
「うん。頑張る」
よっちゃんの気合が入っている。だから、私も頑張らないといけない。
明日も仕事、明後日も仕事で、休みの日がない日々が続いているけど、これは私が待ち望んでいた日々で芸能界は売れてこそなんぼだ。




