第123話/強想プリズム
お気に入りの帽子を被り、マスクをつけ、私は美沙のバイト先に向かう。
美沙にLINEを送ろうか悩んだけど、バイト中だったらと思い、連絡せずに美沙のバイト先に向かうことにした。
久しぶりに訪れた美沙のバイト先のカフェのドアを開け、中に入ると丁度美沙がお客さんの対応をしていた。
注文をしている男の人の後ろに立ち、順番を待つ。今日は何を飲もうかなと考えていると美沙の眉間に皺が寄っているのが見えた。
私は美沙のことが気になり、少しだけ前に移動する。すると軽い口調の男の人の声が聞こえ、私の眉間も皺が寄る。
接客してくれている人にナンパをする人がいるとは聞いていたけど…本当、呆れる。
この人のせいで私の順番がなかなか来ないし、イライラが募った私は今もナンパ中の男の人に「あの、急いでいるので早くして下さい」と低い声のトーンで言った。
なぜ、私が睨まらなければいけないのだろう?これほど矛盾している行為はなく、でも自分の醜態には敏感で他の店員からも呆れた顔をされているのに気づくとばつの悪そうな顔をし結局注文をせず帰ってしまった。
「あの…ありがとうござ、、えっ、みのり…?」
「ホットのカフェラテ下さい」
「あっ、はい…」
本当はちゃんと会話をしたかったけど、ナンパに夢中になっていた男の人のせいで私の後ろにも列ができてしまい注文だけした。
それにしても、やっぱり美沙はモテる。まさかバイト中でもナンパされるなんて。
私は椅子に座り、ゆっくりとカフェラテを味わう。寒い冬には温かい飲み物は最高だ。
特にミルクがたっぷり入ったラテは贅沢感があり美味しさが身体に染み渡る。
私は温かいカフェラテを飲みながら久しぶりに小説を読むことにする。最近は仕事が忙しく全く読めてなかった。
最近は漫画の良さも知ったけど私はやっぱり小説が好きだ。物語の中に没頭できる。
「みのり…」
「あっ、バイト終わったの?」
「うん…」
小説を読み始めると時間があっという間に過ぎる。いつのまにか2時間ほど経っており、私服に着替えた美沙が私の隣にいた。
「美沙。この後、予定ある?」
「ないよ」
「じゃ、ご飯食べに行こうよ」
「うん!」
連絡もせず、急にバイト先に押しかけちゃったから申し訳ないなと思いつつ、お腹が空いた私はカフェラテを飲みつつ美沙と一緒にお店選びし、早速向かうことにした。
でも、今日は安息とは無縁の日みたいだ。美沙と歩いていると知らない男の人から声を掛けられる。また、ナンパかなってため息を吐いていると美沙の知り合いだった。
「美沙ちゃん、久しぶり〜」
「お久しぶりです…」
「友達とどこか出掛けるの?」
「まぁ…」
男の人は意気揚々と美沙に話しかけている。でも、美沙との温度差があるから仲良くはないみたいで一方的な会話が続いている。
「あっ、俺。美沙ちゃんと同じ大学の先輩やってます」
この人は自分の日本語の使い方が変だと気づいていないのかな?同じ大学の先輩をやってますっておかしすぎる。
でも、きっと美沙と同じ大学ってことをアピールしたかったのだろう。美沙が通う大学は自慢の対象になる大学だ。
帽子を目深に被っている私をジロジロと見る美沙の大学の先輩はとても態度も雰囲気も軽く遊び慣れをしている感じだ。
ほら、当たってた。
「あっ、今から飲み会があるんだけど一緒に行かない?丁度、女の子の数が少なくてさ」
私は仕事と勉強で疲れている。流石に時間をこれ以上無駄にしたくなくて無視して帰ろうと思っていると美沙が「用事があるので…」と言った後、私の手を引っ張り歩きだす。
「みのり…ごめんね。あの、先輩うざくて」
「だね。私も苦手」
どれだけうざい先輩でも大学が一緒だと離れることはできないから無碍にはできない。
美沙の大学生として大変さを知り、突然押しかけてしまったことを反省する。
そして、私の知らない美沙の関係値を知り寂しさを覚えた。高校時代と今は違うと分かっているけど寂しい。仕事と美沙の関係が正反対になっていくようで胸が痛い。




