第117話/恋のレジスタンス
松本梨乃.side
後ろを振り向いてもみのりがいない。そして、森川さんもいない。2人は次のシーンまで時間はあるけど、みのりと森川さんが2人でいなくなったことが嫌でモヤモヤが溜まる。
みのりはバスケの練習だと分かっている。
じゃ、森川さんは何をしているの?
そろそろ…2時間半が経つ。でも、2人は戻ってこない。着々と進む撮影だけど、こんなにもワンシーンを撮影するのに時間が掛かるなんて思わなかった。
面倒だし、緊張するし、楽しくなくて、早く帰りたくて仕方ない。
今日の撮影は主役の高橋君との撮影ばかりで、私とみのりとの撮影はない。
これは原作通りで、ドラマ版は原作より小春と早月は出会いが早いけど一話では絡みがないからみのりと一緒に入られない。
早く他の話数の撮影に入ってほしい。明日から二話の撮影もする予定だけど、私は高橋君との撮影ばかりだ。
凛と早月は一緒の撮影ばかりなのに…演じるなら凛が良かったと言いたいけど凛のキャラクターは私と正反対だから無理だ。
椅子に座り、台本を読み込む。一応、仕事だから割り切って仕事に集中する。みのりに迷惑をかけたくないし、このドラマは事務所からの期待値が高い。
このドラマが成功すればCLOVERはアイドルとして成功するとよっちゃんにも言われ…さりげなくプレッシャーをかけられている。
だけど、初めての世界は眩しすぎる。みのりと一緒だと大丈夫なのに1人だと眩しい世界に圧倒され倒れてしまう。
みのりに会いたい…早く戻ってきてほしい。何で私を1人置いていくの?
バカ…
バカ
バカやろう
ため息を吐きながら台本を椅子に置く。そろそろ次のシーンのリハーサルが始まる。私はどこにもいないみのりを探し立ち上がる。
みのりと同じ現場にいるのにみのりと私は離れ離れだ。アイドルだけをやっていた時は常にみのりは私の横にいたのに。
アイドル以外の仕事が私とみのりを引き離す。そして、脅威を連れてくる。
私がみのりを好きだから異性・同性、全てが脅威で勝手に敵認定する。
もしかしたら…目の前にいる高橋君もライバルになるかもしれない。
そんなの絶対に嫌だ!だって、男の人だし…それだけで私は不利な立場になる。
なんで…同性ってだけでこんな気持ちを持たないといけないの?
恋に性別なんて関係ないのに。
吉田夏樹.side
梨乃は一応頑張って仕事をしているけど、イライラが溜まっているように見える。
きっと原因はみのりで、時間的にバスケの練習から戻り、休憩中だとは思うけど出来ればこっちに戻ってきてほしい。
それにいつのまにかいなくなった森川さん。きっと、森川さんはみのりを追いかけて体育館に向かったはずだ。
だとしたら、みのりは今、森川さんと一緒にいる。別に仲良くなるのは良いことだけど梨乃の不機嫌がそろそろ顔に出そうで危うい。
私はそっとジャケットのポケットから携帯を取り出し、みのりにLINEをする。
きっとすぐにみのりはこっちに来るはずだ。みのりが来たらもう梨乃は大丈夫。
梨乃はすぐに復活をし問題なく撮影は進む。
マネージャーの仕事はタレントの心の管理も含まれ迅速に動かないといけない。
言葉は悪いけど、梨乃をある程度知り尽くした私はみのりを使い操作をする。
ゆっくり教室の後ろのドアが開き、私は口角を上げる。ほら、梨乃がみのりに気づき一気に表情が変わった。梨乃の精神安定剤のみのりを投与すれば簡単に解決する。
ただ1つ…別に問題ではないけど気になることがある。みのりと森川さん、いつのまに2人は下の名前で呼び合うようになったの?
みのり、愛と互いの下の名前で呼び合う2人に梨乃が怒りそうだ。
みのりは精神安定剤でもあるけど地雷原も作る。あー!面倒くさい!仕事人間になりつつある私は恋の魔物が嫌いだ。
私にとって、異性同士の恋愛より同性同士の恋愛は最高に面倒くさい。ライバルが二倍になるし、特にみのりみたいなタイプは可愛いから男性からもモテる。
恋の矢印もマネージャーが管理できたらいいのに…面倒だけど矢印が見えたらスキャンダルはなくなるしカバーできる。
でも、その時はみのりの矢印は見えるだろうか?みのりは私にとって不思議な子だ。
恋愛に興味がないように見えるし、でも彼氏はいたことあって矛盾している。
グループの中でみのりの心が一番読めない。
日本が他の国みたいにオープンに芸能人の交際を応援できる国だったらいいのにな。雁字搦めにするからコアなファンが生まれ、お金を落としてくれるけど制約が多すぎる。
お金を選ぶか、自由を選ぶか…
もし、私が事務所の社長だったら【お金】を選ぶ。結局はタラレバなのだ。
変えることが出来るはずがない。大金を産むシステムって分かっているから。




