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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第115話/ヤメラレナイ内声

心臓の動きの加速が大変なことになっている。もうすぐ、私の出番が回ってくる。

私のファーストシーンは森川さんと一緒だから少しだけ気が楽だけど、今まで沢山の作品に出演してきた森川さんとの差が明確に出る。


そのせいで、頭が少しでも自然な鮎川早月を演じないとと呪縛にかかったみたいに雁字搦めになっている。

スタッフの人に私の名前が呼ばれ…緊張しながら監督の元へ向かう。そして、監督と森川さんと話し合いをしリハーサルに挑む。


台詞は少ないし暗記は完璧だ。静かに深呼吸をしていると森川さんが私の腕に触れ「大丈夫だよ」と言ってくれた。

同じ年なのに全く余裕が違う。だけど、この余裕が私にとって救いになる。やっと、笑顔を作れ「はい」と素直に言えた。





ドキドキしながら監督からOKが貰えた演技をモニターで見る。画面の中には私がいて髪を後ろで結び、制服を着た鮎川早月がいる。

森川さんに「緊張するよね」と言われ、何度も私を支えてくれた森川さんにお礼を伝える。森川さんがいたから私はやりきれた。


「みのり、着替えるよー」


「うん。分かった」


初めての演技を終え、安心しているとよっちゃんに呼ばれる。私の2回目のシーンがしばらく先で、撮影の合間にバスケの練習をすることになっている。

よっちゃんと衣装部屋に向かい、私はよっちゃんに初めての演技について聞いた。


「よっちゃん…どうだったかな?」


「良かったよー!早月そのものだった」


「ありがとうー」


よっちゃんからも褒められ安堵する。本当は梨乃にも聞きたかったけど次は高橋君と梨乃のシーンで暫く2人の撮影が続く。

初めての撮影現場はドキドキすることが多いけどやっぱり楽しい。主役の高橋君も良い人で佇んでいるだけで輝いている人だった。


「みのり、今日3人で食事に行くの?」


「うん。森川さんと初めての食事だから楽しみだよー」


「そっか。帰り、気をつけてね」


演者の絆が深まっていくのはアイドルだけをやっていたら味わえない気持ちで、緊張が解けた私は今は楽しさしかない。

お陰でバスケの練習に身が入りそうだ。監督からは早月のバスケシーンはドラマの見どころになるからと言われ気合が入っている。


私は改めて四番手なのに鮎川早月の人気を実感した。そんな人気のある早月を新人の私が演じる。絶対に手を抜けない。みんなが納得する早月を演じないと…



衣装部屋に着き、私はジャージに着替えバスケットボールを鞄から出す。梨乃が今からまた撮影をするからよっちゃんは撮影現場に戻り、私は1人で体育館に向かった。


誰もいない学校の校内は静かで、勉強ばかりの日々とアイドルになりたくて葛藤していた学生時代を思い出す。


体育館に着き、私はタオルを床に置き、バスケの練習を始める。誰もいない体育館はボールがバウンドする音だけが鳴り響き、無性にワクワクする。


「あれ、森川さん」


「へへ、私も次のシーンまで時間が空くから見にきちゃった」


ウォーミングアップをしていると、入り口から森川さんが入ってきた。マネージャーの人はおらず1人で体育館に来たみたいだ。


「気にしないで練習してね」


「はい」


「敬語やめない…?ほら、同い年だし」


森川さんの突然の提案に驚いてしまう。でも、今日一緒に食事にも行くし私も仲良くなりたいからとぎこちなく敬語をやめた。


「頑張る…」


「ふふ、頑張って。あっ、名前。みのりって呼んだらダメ?」


「いいよ。じゃ、私も愛…って呼ぶね」


互いに敬語ではなくなり、名前も名字から下の名前で呼ぶことが決まった。でも、愛から提案してくれたことが嬉しい。

メンバー以外の芸能の友達が出来たのは初めてだし、そして何より愛は人気若手女優で私より何倍も格上の人だ。


愛に見守られながら、レイアップの練習から始める。何度かドリブルをし、ゴールを目指して動き出す。手から放たれたボールはネットに綺麗に入り、真下の床に落ちていった。


「みのり、凄い!」


「やった、褒められた」


「凄いな〜。私、運動苦手だからバスケできないもん」


「私もバスケは授業でしかしたことないから、もっと頑張らなきゃだよ」


次はバスケの試合を想定しながらシュートの練習と昨日先生と1 on 1をした動きをイメージさせながらステップの練習をする。

シュートの練習だけではダメだ。試合のシーンが本格的に見えるよう試合を想定した動きの反復が必要だった。


目の前にコーチがいるイメージをし動き出す。私はバスケ部のエースの鮎川早月だ。

イメージするのは大変だけど、思い描いた動きができボールがゴールに吸い込まれる。


「みのり…凄い」


「まだまだだよ」


バスケ経験者から見たら私の動きなんて素人丸出しだ。もっと、練習しないといけない。

私はこの役に賭けている。絶対このチャンスを物にし後ろに下がりたくない。





森川愛.side


松本さんがみのりに依存している理由が分かった気がした。それほど、みのりは不思議な魅力がある。松本さんとは反対の魅力。

雰囲気が松本さんが陰ならみのりは陽で、華麗なステップを踏みながらバスケの練習をするみのりから目を離せない。


みのりと仲良くなれたらと松本さんに対する天邪鬼な気持ちで来たのにみのりが放つ陽のオーラに当てられる。

私はやっと気づけた。なぜ、こんなにも私が松本さんに対して天邪鬼になるのかを…私も松本さんと同じ【陰】なんだ。


仲間に入れて欲しくて、遊びたくて、同じ陰の松本さんを捻れさせたくなる。

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