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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第112話/虹色ビート

よっちゃんと梨乃と初めて撮影現場に向かう。撮影は実在する学校を借り、今日は学校が休みの日のため生徒はいない。

久しぶりの学校にワクワクしながら、やっと始まるんだとドキドキする。浮き足立つ気持ちで撮影現場に入り、私達は挨拶をした。


現場でのファーストインプレッションの重圧に押しつぶされそうだけど、隣には私と同じように緊張している梨乃がいる。

必死に笑顔を作り挨拶を済ませ、これからお世話になるスタッフの方々に挨拶する。


今まで体験したことがない世界は華やかで明るい。いつもいた地下は暗く、新しい世界の現場はキラキラと輝いている。

私と梨乃はずっと暗い世界で歌ってきた。イベントなどは野外で歌うことがあったけど、ここには全く別世界で私の血流がドクドクと激流のように流れていく。


滾る熱い思いと興奮が私を奮い立たせる。あれだけ未来が怖くて、20歳になることが怖かった私はもういない。早くドラマの撮影をしたくて仕方なかった。


「はぁ、緊張したね」


「うん。心臓が痛いよ」


「私も心臓が痛いよー。ほら、心臓の鼓動の速さやばくない?」


「えっ…うん」


梨乃の手を取り、自分の心臓に当て心臓の鼓動の速さを実感してもらう。こんなに緊張して興奮したのは久しぶりだった。


「2人とも、衣装に着替えるよー」


よっちゃんに声を掛けられ、私の心臓に当てていた梨乃の手を離す。よっちゃんに誘導され、衣装部屋として借りている教室に入り、私と梨乃は制服に着替えた。

もう19歳なのにまた制服を着ることが恥ずかしかったけど、10代のうちに学生役をできることは凄いことで有難いことだ。


制服に着替え終わった後、スタイリストさんに髪をセットして貰い、鮎川早月が出来上がる。隣に座る梨乃も佐藤小春になっている。

今日の私の出番は数シーンだけど、夕方からは体育館を借りてバスケをするシーンを撮ることになっている。


ヒロイン役の梨乃はずっと撮影をするから大変だけど、私は梨乃の演技を見たことがないから楽しみにしていた。


「おはようございます」


「あっ、おはようございます」


「おはようございます…」


鏡で最終チェックをしていると森川さんが部屋に入ってきて私と梨乃は椅子から立ち上がり挨拶をする。年齢は同い年だけど、芸歴は森川さんが断然上で先輩だ。


「あー、早月だー」


「早月に見えますか?良かったー」


「うん。藍田さんって後ろで髪を結んだ髪型似合うよね。この髪型、好き〜」


森川さんがフレンドリーに私の髪に触ってくる。まだ仲良くはなれてないけど、こうやってスキンシップをとってくれることが嬉しい。


「あっ、昨日バスケをする動画見たよ。バスケが上手くてビックリした。余りにカッコよくて何度も見たよ。だからね、今日のバスケの撮影が楽しみなんだ!」


「嬉しいです。今日の撮影頑張りますね」


私と森川さんは着実に距離を縮まっていっている。でも、梨乃は私達の会話に入ろうとしない。何度か私も梨乃に話を振ろうとしたけどタイミングが難しかった。

森川さんが衣装の制服に着替えるため一旦会話を終了し、準備が終わった私と梨乃は部屋から退出する。


横にいる梨乃の表情がずっと暗い。きっと、梨乃はヒロイン役だから出番も多いし緊張しているのだろう。だから、さっきも緊張して会話に入ってこなかった。

でも、私も緊張で全く余裕はない。自分のことで精一杯で、だから表面的なことしか見れてなかった。


「梨乃、頑張ろうね」


「うん…」


今日からアイドル兼女優 藍田みのりと松本梨乃の人生が始まる。19歳の私が制服を着て、17歳の鮎川早月になった。

学校の窓から見える空が明るい。太陽の光が差し込んだ廊下も明るく、明るい未来へのロードが広がっていく…私の野望への未来に。





森川愛.side


今日を楽しみにしていた私のテンションは高く、マネージャーさんにも朝から楽しそうだねと言われ、周りの人が見ても分かるぐらいハイテンションだ。

監督に挨拶を済ませ、衣装部屋に入ると藍田さんと松本さんがおり、2人は既に鮎川早月と佐藤小春になっていた。


昨日、藍田さんのバスケの動画を見たせいで私の心はときめいている。藍田さんが髪を結び、バスケをする姿がカッコよかった。

そして、何より藍田さんが早月そのもので、笑った顔が可愛くて、真剣にバスケをする姿とのギャップにときめいた。


それにしても面白い。松本さんの表情が面白くてつい、藍田さんで遊んでしまった。

藍田さんの髪を触り、松本さんの表情が暗くなっていくのが面白くて、自分の性格がここまで天邪鬼とは思わなかった。


衣装の制服に着替えた後、スタイリストの人に髪をセットして貰っている間も私はさっきの光景を思い出してほくそ笑む。

ドラマの現場がこんなにも楽しいなんて初めてのことで、早く2人と仲良くなりたいと心から思った。


2人のお陰で制限されたつまらない私生活がポップキャンディみたいにカラフルに染まり、色んな味を楽しめる。


今日は天邪鬼なネオンピンク色で明日は何色にしよう?ネオンブルー?それともネオンイエロー?ねぇ、何色がいい?

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