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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第111話/リブートの始まり

昨日は夜遅くまで台詞の練習をし、漫画を読み込みこんだ。勉強は得意分野だから台詞の暗記は問題ない。

だけど、その覚えた台詞を感情に乗せて演じる行為は練習が必要だ。


歯を磨きながら台本の文章を見つめる。一話の私のシーンは少ないけど台本に早月と名前を書かれ台詞が書いてあるのが嬉しい。

最初のページには出演者一覧の名前があり、私の名前が書いてあるのを見ると女優の仕事をするのだと認識できる。


「みのり、今日着るコートこれ?」


「そうだよ」


お母さんが洗面所に来るなり、私のコートを手に持ち珍しい確認をしてくる。左手にはコロコロを持っており、私のコートを綺麗にしてくれるみたいだ。


呆れるぐらい変わったお母さん。受験する時しかしてくれなかったのに…お母さんの中で私は自慢できる娘にランクアップしている。


「今日、頑張ってね」


「うん。頑張る」


「必要なものがある時は言ってね」


「ありがとう」


内心呆れながら、表情を作りお礼を言う。バスケットボールやバスケのシューズも買ってもらったから良い子を演じないといけない。

それに、今はまだお金がないからお母さんに頼らないと必要な物が買えない。


でも、お母さんを見返したいという気持ちは強いけど感謝はしている。お母さんのサポートのお陰で仕事に集中出来るし、上げ膳据え膳の環境は初めての仕事に取り組む私にとってありがたい環境だった。


歯を磨き終わった私は髪を整え、もう一度鞄の中の整理をする。忘れてはいけない物のチェックをし、台本を鞄に入れる。

二話目以降、原作の漫画とは違うスピードで早月は小春と仲良くなっていく。


一話目は凛の友達として、主人公の翔平の幼馴染としてチョイ役だ。でも、バスケをする見せ場もあり気合いが入る。

昨日、よっちゃんがSNSに載せたバスケをする動画の反響がよく、原作者の奏多みどり先生も褒めてくれていた。


頑張らないと…

最大のチャンスの流れが来ている。


よっちゃんからLINEが来た。着いたよと書いてあり、コートを着た私はお母さんに行ってくるねと言い、玄関に向かう。

床に座って、靴を履いていると後ろにはなぜかお母さんがおり、今日は最後まで私を見送ってくれるみたいだ。


ドアを開け、手を振りながら行ってきますと言い外に出る。家の中とは違い外の気温が寒いけど、心が温かい。

今日が私のスタート。CLOVERのデビューが決まった時がスタートだと思っていたけど、ドラマが決まった途端、環境が変わったから本当のスタートは今日だ。


これから私の華やかな芸能人生が始まる。私は芸能人でアイドルだ。もうファンしか知らないアイドルから卒業する!



車の中から見える景色は賑やかで、大通りには沢山の看板がある。沢山の芸能人やモデルの人がポーズを決めており、これぞ芸能人って感じだ。

車のラジオからは人気歌手の曲が流れ、私は鼻歌を歌う。運転するよっちゃんもリズムをとってて楽しそうだ。


芸能界は売れてこそ、売れてからが芸能人という称号を貰う。この世界に入り、知られていない・知られないが一番辛く苦しい。

みんな大きな活躍を夢見て、芸能界という華やかな世界に踏み入れる。周りも期待し、応援されて…だから、苦しさが倍増だ。


私は一握りが掴めるドリームを掴めるだろうか?どれだけ望んでも得られないものもある。努力だけでは叶わない夢がある。

それでも夢を見てしまう。この世界は特に夢を見ないとつまらない。ひたすら上だけを見て、階段を必死に上がっていく。



久々にこの曲を聴いた。昔流行った曲で、いわゆる一発屋の曲。でも、久しぶりに聞いても良い曲は色褪せない。

それに、一曲だけでも売れただけで良いじゃんって言う人もいるはずだ。一度も日の目を浴びず消えていく方が嫌だと。


一度だけのブレイク。私はどっちも嫌だ。贅沢だって言われるかもしれないけど当たり前だよね?だって、結局どちらも消える。

この世界は一度でも華やかなスポットライト浴びてしまうと普通には戻れない。ずっと輝いていたいから離れられない。


芸能界のスポットライトは狂喜乱舞の世界で恐ろしいほど人生を狂わせる。

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