第109話/新しい向こうの世界
今日の天気は快晴で窓から注ぐ太陽の光が輝いており、気持ちよく起きれた。軽くストレッチをしながら体をほぐし、私はエネルギー補給のためバナナを食べる。
いつもは普通に朝食を食べるけど、体が重くなるから今日はバナナと牛乳のみだ。
今日から早月役の為にバスケの練習が始まり、体を作り上げないといけない。そして、今日からよっちゃんの車の送迎になる。
CLOVERが地下アイドルではなく、アイドルに生まれ変わる始まり。
準備を終えた私は迎えに来てくれたよっちゃんが運転する車に乗り込む。車の中にはすでに梨乃がおり、挨拶を交わしたあといつもの通りの席に座る。
今日は梨乃と雑誌の撮影でスタジオに行き、撮影したあと私はバスケの練習だ。
朝から2本のドラマ関係の雑誌の取材と撮影を終え、高校以来の体育館に来た。久しぶりに来た体育館は広かった。
お母さんが買ってくれたシューズに履き替え、動きやすい服に着替える。
髪を後ろで結び、私にバスケを教えてくれるコーチに挨拶をする。事務所がバスケ部の早月を演じる私のために雇ってくれた。
ウォーミングアップしているとよっちゃんが携帯で動画を撮り始め、マネージャーとしての仕事が早くて笑いそうになる。
梨乃は次の仕事も私と一緒で待つ間、練習を見学することになっている。
久しぶりにバスケボールを触り、緊張してきた。バスケは授業でしかしたことがない。
本格的にバスケの練習をするのは初めてで、コーチもいるから気を引き締まる。
まずはドリブルの基礎練習から始め、コーチが私のバスケレベルを見るためレイアップを2年ぶりにする。
ダンス以外でこうやって体を動かすのは高校生以来で、体が動くか不安になる。
昨日、携帯で見た動画を思い出しながらボールを床にバウンドさせる。何度もバウンドさせながらゴールを見つめ、ドリブルしながら走り出す。
シュッと音がし、思い通りのシュートでボールがゴールに上手く入った。
「レイアップは完璧ですね。それでは次はシュートの練習をしましょう」
「はい」
先生に正式なボールの持ち方や投げ方を教わり、フォームを調整してもらう。学校の授業でしかバスケをしたことがない私のフォームは自己流だ。
でも、正しいフォームは慣れるまでが大変で、全くシュートが入らない。
でも、入るまで何度も挑戦をする。早月はバスケ部のエースだ。私も早月のようにバスケが上手くならないといけない。
「疲れたー」
「お疲れ様。はい、タオル」
梨乃がマネージャーみたいに私にタオルを渡してくれて、私が飲むスポーツドリンクを準備している。私は椅子に深く座り、梨乃が蓋を開けてくれたスポーツドリンクを飲みながら一息ついた。
「バスケ、出来るなんて凄いな」
「出来てないよー。全然、シュートが入らなくて泣きそうだし」
「でも、さっき1本入ったよ」
梨乃が私のことを褒めてくれるけど私は全く納得ができていない。本格的にバスケを学ぼうとすると何もかも一からの練習になる。
10分間の休憩が終わり、またシュートの練習を始める。何本も打っていくと、徐々にボールがゴールに入る確率が上がってきた。
やっと、リズムよくシュートを打てるようになってきてテンションが上がる。
それに、コーチからは上達が早いと褒められ、1時間ほどシュートの練習をし、試しにコーチと1on 1をすることになった。
1 on 1なんてやったことないから緊張するけど楽しさが上回りワクワクする。
バスケが楽しい。今までスポーツを楽しいと思ったことなかったけど、負けず嫌いが発動して気持ちが高揚する。
それに、コーチに何度もボールを取られているけど徐々にコーチの動きが見えてくるようになり私は初めてコーチを抜いた。
「やったー!」
「みのり、凄い!凄いよ!」
コーチを抜き、私が放ったボールがゴールに入った。何度目の挑戦だろう?流石に疲れたけど、やっとコーチを抜けたことが嬉しい。
応援してくれていた梨乃も喜んでくれた。よっちゃんも飛び跳ねて喜んでいる。
私は今までアイドルと勉強以外は熱中したことがない。特に運動は得意だった分、夢中になることがなくそつなくこなしていた。
もし、鮎川早月役に受からなかったらこの気持ちを味わえなかっただろうなと思い、改めて早月を完璧に自分の物にすると決めた。
原作ファンの人が鮎川早月役を私で良かったと思ってもらえるよう頑張りたい。
私の大事な四番手の役。
この四番を絶対に離さない。
吉田夏樹.side
バスケの練習をするみのりがとてもカッコよくて目を見張る。シュートやドリブルなど元バスケ部でしょって思わせる動きで、とても未経験とは思えない。
きっと、今日撮った動画をSNSに載せると反響が凄いはずだ。鮎川早月を彷彿させるみのりの運動能力。
頭も良くて、運動神経もいいなんて天は二物を与えずではないのかと思ってしまう。
みのりをうっとりする目で見る梨乃。きっと、みのりは女子校時代もこんな感じだっただろう。顔も良いしスペックが高すぎる。
だけど、みのりはなぜか自己肯定感が低い。これだけスペックが高いのに自分の良さを全く理解しておらず、ある意味勿体ないけどこれも良さである。
自己肯定感が低いから自意識過剰にならず気取ることがない。やっていることがスマートで、常に自然体でカッコいい。
私はみのりをどの路線で売りに出していくか悩んでいた。梨乃は女優としてと売り出していくと決めているけど、みのりは歌が上手いから悩んでいた。
でも、今日の姿を見て路線を決める。みのりも女優として、同性が惹かれる女の子路線で売り出していくことに決めた。
梨乃と対照的なみのり。2人をセット売りしながら個々でも活躍してもらおう。2人のこれからの戦略がどんどん浮かんでくる。
アイドルのコンビ売りは定番の戦略だ。対照的な2人だから面白い。




