第108話/マイノリティーの距離感
松本梨乃.side
最近、前までは目に入らず気にしなかったことに気づき、色々と考える事が増えた。
電車に乗り、ライブの余韻に浸る事なく私は近くに立っている女子高生を横目で見る。
本当はみのりと話したかったけど、みのりはSNSに夢中で会話が続かないし、私自身も今…私の中で渦巻いているものが近くにあって目が離せなくなった。
私は女の子のみのりを好きになって、恋に対して色々と考え、楽しさと苦しさを知った。
私が恋愛未経験だからアプローチの仕方が分からないってのもあるけど、同性に気持ちを伝えるのは本当に難しい。
性別が邪魔をするということではなく、性別というものから抜け出せないのだ。
恋をすることは性別なんて関係ない。恋をすることは自由だし決まりなんてない。
でも、固定観念というものは存在し、恋を苦しめる。この【まさか】が難しい。
互いに両思いだと進展しやすいけど、片思いだと三歩進んで二歩下がる状態で、歩みがとてつもなく遅く、とてももどかしい。
私は女子高生を見ながらため息を吐く。2人の距離感は0で、互いに顔を見合わせ会話をしているから恋人同士に見えるけど、本当の2人の関係は私には分からない。
でも、近い距離であんな表情で会話をしていたらどう考えても恋人同士にしか見えない。
特に身長の小さい女の子が相手の子に対し、上目遣いで話すからこそ想像を掻き立てる。
あっ、髪がみのりの長さぐらい女の子が小さい子の前髪を触った。相手の髪を直す行為がより恋人感を彷彿させている。
私とみのりが電車に乗っている時、あんな風な感じなのかな?でも、ちょっと違う…
どちらかというと…みのりと谷口さんみたいだ。2人の距離は誰が見てもおかしく、本当に友達なの?と疑ってしまう仲だ。
全て、みのりと谷口さんの普通が違うから。誰だって同性から抱きしめられたり、何度も触れられたりしたら意識をしてしまう。これは私だけじゃないと思う。
人間の感情には好きか嫌いしかない。だからこそ、友達としての好きが触れ合うことで、恋愛的な好きに変化し恋が生まれる。
そうやって私はみのりに恋をした。きっと、みのりはそうやって…色んな人の恋を生み出し無意識に壊してきたはずだ。
みのりの距離感のせいで勘違いさせて、勝手に失恋させる恋のクラッシャー。
あっ、私が余りにもジッと見つめたせいで背の高い子と視線が合い、高校生の2人が距離をとってしまった。
私のせいで、きっと2人はこれから互いに距離を取り、距離に対して意識をするはず。
【これがマイノリティーの弊害】
当たり前だった距離感が、他の人からしたら当たり前じゃない際、異質に思われ違和感を抱かれる時がある。
きっと、今まで何度か経験してきたからこそ、今回は私のせいで離れてしまった。
なんで、普通の違いは生まれるのかな…
私とみのりの普通が違いすぎて嫌になる。きっと、みのりがさっきの高校生達を見ても何も思わないだろう。
だって、みのりが普通にやっていることだから、違和感なんて抱くはずがない。
それに…そもそも、マイノリティーとかマジョリティーとかって人それぞれで違う。
どれだけ、自分の行いがマイノリティーと言われても自分は自分なのだ。
私はみのりを好きになり【普通】という意味を沢山考えた。まだ、結論は出てないけど…結局考えないようにした。
だって、考えてもみのりの普通は私とは違う。私はみのりにみたいな考えになれない。
周りを気にし、人の意見なんて聞いていたら疲れてしまうし、だったら私は私が思うように行動する。きっと、こんな風な考え方をした方が楽に生きられる。
今も携帯を触っているみのりを見つめる。私はみのりと谷口さんの仲が怖い。
近すぎる距離は受け入れたくない距離でお揃いのネックレスを付けているのも嫌だ。
谷口さんを見つめる優しい瞳も優しい口調もみのりがどれだけ谷口さんを大事にしているのか分かるから。
きっと、どけだけ悔しくて、妬ましくても…谷口さんの位置は揺るがない。




