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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第104話/澱むフィルター

松本梨乃.side


今日は待ち望んだ大好きなライブの日。ライブが嬉しくてソワソワしていた。

ライブは私の活力だ。だから…私の活力を奪わないでとよっちゃんに言いたいけど、私の我儘ばかり押し通すことは出来ない。


でも、ドラマのオーディションに受けた事に後悔の念がある。この気持ちが悩ましい。

ドラマさえって思ったけど…未来が見えなくてアイドルを諦めようとしていた時もあったから今がどれだけ恵まれているか分かる。


私はみのりと午前中に雑誌の取材と撮影を終え、ライブハウスに向かう。今日はドラマのことについて話す日で…気が乗らない。

どうでもいいと言ったら、きっと色んな人に怒られるだろう。だったら、ドラマ出演を断ればよかったじゃん!っと。


オーディション会場には沢山の人がいた。みんな女優の仕事が好きで、役が欲しくて必死に頑張っている人達。

私だけが嫌々行き、無情にもみんなが欲しがっていた役に受かってしまった。


「何これ…」


よっちゃんが運転する車がライブハウスの近くにある駐車場に着き、私は驚きの声を出す。

みのりもよっちゃんも「えっ…」と驚いており、初めての状況に戸惑った。


ライブハウスの前には沢山の人がおり、見たことのない人達で溢れている。

この人達は誰…?と思っていると、よっちゃんが急いで携帯で中にいるスタッフに連絡をし状況を確認している。


「みのり、梨乃。帽子を目深に被って。あと、マスクもちゃんとしてね」


「この人だかりは…」


「ライブに来てくれた新規のお客さんみたい。スタッフが今、確認した」


私はみのりとよっちゃんの会話を聞くことしかできなかった。この状況に頭が追いつかないし、意味が分からない。


これまでのライブは開演30分前ぐらいにいつものファンが入り口に並んでいる。でも、今回はいつものファンではなく見たことがない人達ばかりだし、まだ開演2時間前だ。

それに若い女の子も沢山おり…


ドラマの影響の凄さを思い知った。


私達は裏手からお客さん達にバレないよう中に入り、やっと一息ついた。美香と由香里は既に来ており、私達に「おはよー!」と元気に挨拶をしてくる。


いつもと変わらない2人だから外の状況を知らないのだろう。美香や由香里が知っていたら興奮気味に騒いでいる。


「2人とも、今から外に出たらダメだからね。飲み物が欲しい時は私が買いに行く」


よっちゃんがまず、2人が外に出ないよう注意喚起をする。でも、何も知らない2人は「何でー?」とまだ呑気な言い方だ。


「外に沢山のお客さんがいるの」


「えっ、どういうこと?」


よっちゃんの言葉に美香がまだ理解できていない返事をする。私も外の状況を知らなければ美香と同じ反応をしている。


「多分、ドラマの影響で新規のお客さんが沢山来てる」


「えー!凄いー!」


由香里がよっちゃんの言葉に驚き、美香は外の状況を見ようと勝手に動き出そうとしていて、慌ててみのりに止められている。


「美香、ダメだって」


「えー!みーちゃん達はその状況を見たんでしょう。私も見たいー」


「だから、人が沢山いるからダメなの」


美香がみのりに叱られ、やっと大人しくなった。でも、この状況はおかしすぎる。

私達はまだメジャーデビューもしていないし、ドラマも始まっていない。


なのに、私達をよく知らないはずの人達で溢れかえっている。それに、CLOVERのファンの男女の比率は男性が多く、女の子は少ない。もしかして、高橋君のファン?

偵察かと思ったけど、女子人気の高い鮎川早月を演じるみのりを見にきた可能性もある。


勝手に周りだけが急速に変わっていく…


みのりは美香達みたいにはしゃいでないけど、顔が嬉しそうでソワソワしていて、私だけ取り残された気分だ。

何で、みんな嬉しいの?私達はまだ何も発信できていないし、これからなのに…私は急速な変化に異常さを感じた。





吉田夏樹.side


まさか、こんなにもドラマの反響が早く訪れるなんて思わなかった。でも、早く、この状況をどうにかしないとまずい。

明らかにお客さんの人数がキャパオーバーだし、初めて来てくれた人がまばらに立っているから乱雑で道を塞いでいた。


そして、外でお客さんの対応していたスタッフからチケットについて聞かれ焦っている。

いつも来てくれているファンの人達は既に取り置きしているチケットがあるけど、今日初めて来てくれた人達の分はない。


一応、まだ当日チケットはスタッフから買えるけど、圧倒的にチケット枚数が足りない。

この思いがけない状況に私もスタッフも困惑し、頭を抱える。私の事務所にはアイドルがCLOVERしかおらず、今みたいな状況を想定したシュミレーションをしていない。


想定外の人気の急上昇。ドラマの影響力がここまでとは…マネージャーとして失格だ。

この乱雑では早く着た順の手が使えず、チケットを売ることが出来ない。どうしようか悩んでいるとみのりが提案をしてくれた。


「よっちゃん。チケットの枚数に限度があるし、チケットを持ってない人達は抽選にしたら?」


「あー!その案いいね!」


多数の新規の客を逃すことにはなるけど、今回は仕方がない。私のミスだから。

でも、今回の反省を必ず次に生かす。暫くはこのライブハウスだけど、次こそは逃がした魚を絶対に離さない。


メジャーデビュー後に、必ず大きなライブ会場でCLOVERのライブをする。

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