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四年生3


「今日はルネをランチに誘おうと思います!」

「いいんじゃない」

片手をあげて、宣誓!と告げた私に、ロランは本から顔も上げずに答える。

冷たい。

「うまくいくと思う?私、彼女に避けられているみたいなんだよね」

ちらりと教室の反対側にいる彼女へ視線を向ける。

編入生のルネ・ファウストは、イザベラたちに囲まれて困ったように微笑んでいる。

そういえば新学期に入って、イザベラはロランのファンクラブから脱退したらしい。

最近はカルや編入生のルネによく話しかけているのを見かける。

嫌味を言われたり、突っかかられたりしかしたことないけど、まったく関りがなくなると少し寂しい。

ロランはルネに避けられているという私の言葉に、器用に片眉だけつりあげた。

「アニエスが?いや、彼女はたぶん……」

何か言いかけて、ロランは口を閉ざした。

そしてその何かを飲み込み、頭を軽く左右に振った。

「僕はやめておく。カル・ラヴォジエでも誘えば?」

カルを名指しするなんて、珍しい。

どちらかといえば、ロランはカルと私が仲良くすることに反対だと思っていたのだが。

「どうして?」

「カルは編入生のお気に入りだろ」

「お気に入りっていうか……まぁ確かに一緒にいるところはよく見るかも」

世話役を任せられた私よりも、カルのほうがずっとルネの世話をしている感じはある。

どういう経緯で仲良くなったのかは知らないけれど、編入して数日でルネとカルは急接近だ。

あれ?そう考えると、イザベラがルネに普通に接しているのがおかしくないか?

なんだよぉ、ルネのことをいじめろとは流石に思わないけど、ちょっと対応違いすぎません?

あともうロランのファンじゃないなら、私にも無視じゃなくて、普通に接してくれないかなぁ。

「そんなに編入生が気になる?」

「そりゃあまぁ……」

だって彼女はロランの父親と一緒にいたのだ。

探りを入れたいと思うのは、当然ではないだろうか。

「ロランは気にならないの?」

何をとは言わずにぼかして問いかけてみる。

彼は机を人差し指でコツコツと叩いて、どう答えるかしばし悩んだ。

「本音を言うと、アニエスには彼女とあまり関わって欲しくない」

「なんで?」

「……僕の問題に、これ以上深く関わるのは危険だと思う」

「なにそれ」

急に突き放された気持ちになって、私は思いっきり顔をしかめてしまった。

だってこんなに一緒にいるのに、いまさらじゃないか。

「いや、気にしないで。誰と仲良くするかは、アニエスの勝手だし、危険だっていうのも僕の勝手な心配だから」

昨日も思ったけど、最近のロランはちょっと変だ。

いつも通り私の心配をして励ましてくれたかと思えば、急にふさぎ込んだような、何かに怒っているような雰囲気をにじませる。

そしてこういう時の彼は、自分の中で結論が出るまで訳を話してくれないということを私は知っていた。

ちょっとうんざりして、じゃあ勝手にすると私は前を向いた。

タイミングよく先生が入ってきて授業が始まった。





ロランの助言通り、三人でランチをしないかと誘うと、カルは快諾し、ルネも緊張しつつも誘いに乗ってくれた。

カルもルネも目立つので、食堂の隅っこをわざわざ選んだのに周りからの視線が刺さる。

「見て。ロラン様と一緒じゃないわ」

「何?喧嘩?」

私も私で目立っているようだ。

プチ喧嘩みたいなのをした後だから、余計に嬉しくない。

ルネもヒソヒソ声が聞こえたのか、あたりを見回した。

「ロランと一緒じゃなくてよかったの?」

「たまにはね」

「そう……」

明らかにホッとした顔で、ルネはフォークを手に持つ。

おや?

てっきり私が避けられていると思っていたのだが、もしかしていつも一緒にいたロランのほうが避けられていた感じなのでは?

そこでロランが言いかけた言葉が「彼女はたぶん僕を避けている」という内容だったのではないかと、ようやく気が付いた。


「ルネはロランが苦手?」

「苦手というか……ちょっと怖くて」

「いつもすましていて、感じが悪いからだ」

「なんだと、万年次席め!」

「次席って言うな!」

今年もロランから首席の座を奪うことができなかったカルのローブには、去年と同じ銀の刺繍が施されている。

「見た目ほど怖くないよ」

「そう、だよね……」

真っ白な顔に少しひきつった笑みを浮かべ、ルネは意を決したようにこう尋ねてきた。

「アニエスはロランと付き合ってるの?」

「え!?」

付き合うって、あれか?

異性交遊的な?

いや、それ以外にないよね。

「えっと……」

そういえば今までちゃんと考えたことなかった。

ロランのことは大好きだし、ロランも私のことが好きだって言ってくれた。

学院内では公認カップルということになっているし、先日はファーストキスも奪われたばかりだ。

私自身、公認カップルという称号を否定したことはないし、キスだって別に嫌じゃなかったというか、後から凄くドキドキしたというか……うわ、恥ずかし!もにょもにょする!

でも恋人になろうと言われたことも、言ったこともない。

「付き合っているような……いや、付き合ってる、と思う、思いたいけど……」

曖昧な私の返事に、二人は顔を見合わせた。

「それって、大丈夫なの?」

「だ、大丈夫だよ!悪い男に騙されている女を見るみたいな顔をやめろぉ!」

カルに向かって拳を突き出し抗議したが、軽々とかわされてしまった、


咳ばらいをして、仕切りなおす。

「私のことはいいから!ルネは何か困っていることはない?私が世話役なのに、全然一緒にいられなくてごめんね。その……私、いつもロランと一緒だったから、話しかけづらかったでしょう?」

「ううん!気にしないで!私の方こそ、避けるみたいなことしてごめんなさい……」

とりあえず、わだかまりは解消した。

ルネと友好関係を築くという目標に、一歩前進だ。

「おかげでカルはルネと友達になれてよかったみたいだけどね」

ちょっとおちょくってやると、わかりやすいくらいにカルは顔を真っ赤にして怒る。

なるほど、これは完全にルネのことが気になっていますな。

お子ちゃまよの~。

「そうなの!カルが親切にしてくれてとても助かってるの!」

無邪気に喜ぶルネに、カルはちょっと複雑そうな顔をした。

「私、本当に世間知らずで……」

「病気で屋敷の外に出られなかった。お父上だって好きでルネを閉じ込めていたわけじゃないって、ちゃんとわかっているんだろ」

「そうなんだけど」

なるほど。

ルネは病気を理由に屋敷に閉じ込められていた、と。

できればその「お父上」について、もっと詳しく聞きたいが、まだ早いだろう。

「私も去年、モリエヌスの外から来たばかりなの。だからわからないことがあったら是非聞いてほしいな。私もわからないことだったら、勉強になるし」

だから遠慮しないでと微笑むと、ルネは驚いたように数度瞬きをする。

「アニエスって、いい人?」

「私に質問されましても……」

自称いい人というのも、うさん臭くない気がして返答に困る。

こういうところが、世間知らずというやつなのだろうか。

「いい人かはわからないけど、悪い人間でもないと思うよ。見た目は悪役っぽいって言われるけど」

困った末にそう答えると、ルネは悪役、と確かめるようにつぶやく。

「ほら、私って主人公をいじめる悪役令嬢みたいな見た目してるでしょ?」

自分にしかわからない自虐ネタで笑う私に、カルが露骨に何言ってるんだこいつという顔をする。

「なんだよ、悪役令嬢って」

「でもそんな感じするでしょ?」

「まぁ、確かに下級生もお前とロランのこと、逆らったら磔にされそうなカップルって言ってるもんな」

なんだそれ。

初耳。

磔にされそうって、失礼な!

もっと詳しく教えろとカルに詰めよろうとしたとき、ガタン!と大きな音とともにルネが立ち上がった。

彼女はわなわなと震えながら、私の両肩をがしっとつかむ。そしてなぜか涙ぐみ、キラキラと輝く赤い目で私を見つめた。

「アニエス、私と親友になろう!あと付き合うなら、カルとか、リュイ先生の方がいいと思う!」

「なんて?」



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