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鉄砲斎  作者: 梔虚月
序章
1/27

リャンとリズ

戦国時代を舞台にしたファンタジー作品です。

手元で完結しているので、校正しながら一気に更新します。

 0 リャンとリズ


 澳門(マカオ)の病院で病床に伏す男は、錬金術師だった祖父が、世界中から集めた錬金術を書き残した(あお)()(ひゃく)(せん)を、幼い兄妹に託すことにした。


 男は世界を股に掛ける火縄銃を扱う商人であり、彼自身も石を金に変えると言われた錬金術に傾倒している。そんな彼が子供たちに託す青図百選は、錬金術師たちが当時の最先端技術を以ってしても作れなかった薬品や工作物の図面で、それらは暗号で守られた鉄管に収められていた。

 鉄管を開封するための暗号は、収められた青図百選を解読するために、必要な知識を試されるものである。仮に暗号を解かずに開封を試みれば、鉄管内部に仕掛けられた小瓶が割れて、漏れ出した薬液が描かれている図面を消し去ってしまう。


「リャン、青図百選に不老不死の錬金術が記されていれば、それを賢者の石として、邪な連中に襲われることもあるだろう」


 病床に伏す父親の手を握ったリャンは、次第に力が抜けていく手の感触に、最後のときが近いと悟った。リャンの父親は件の不老不死の錬金術に成功したが、その代償に何某かの毒素に蝕まれたらしい。もう目が見えないのか、兄妹のリャンとリズに向き合わず、見当外れの方を向いている。


「リズは、リャンを困らせるんじゃないぞ」

「私は、(あに)(さま)を困らせるような真似しませんわ」


 リズが泣き顔なのに、声を弾ませて気丈に振舞うので、リャンは(うつむ)いてしまった。リャンは人間の機微に疎いところがあり、リズのように振舞うことが難しい。リャンにも父親の今際の際に立ち会っているリズが、努めて明るく振舞っている訳合いを理解している。それでもリャンは泣くのか笑うのか、いっそ場違いな反応するくらいなら、無言を貫くしか出来なかった。


「リズ、もう行こう」


 リャンは医者が首を横に振るので、父親の亡骸を前にして、動けないリズの肩に手を置くと、いつも大人びた彼女が肩を震わせて泣き出したので、このとき初めて幼くと感じた。しかし妹が十二歳であれば、普段の態度が早熟なだけで、今が至極当たり前なのだろう。


 あれから父親の亡骸を澳門の墓地に埋葬した兄妹は、貿易相手だったヒノモトに向かうイエズス会の船に便乗して、商材の火縄銃と長崎に渡航する。長崎港に降り立つリャンは、寄港先の澳門で病死した父親から家業である火縄銃の商いと青図百選、それにリズの面倒を引継いだ。こうして戦乱のヒノモトに渡来したリャンは、若輩にして砲術に長けた火縄銃の商人であり、代々引継いだ錬金術を学ぶ錬金術師でもある。

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