禁断の夜がやってくる
投稿二か月目になりました。いつも応援ありがとうございます。
もう暫くの間、この少し歪な関係性にお付き合い頂ければ幸いです。
※タイトルを少し変更いたしました。沢山の人に見て頂きたくて色々試行錯誤しておりますので、ご不便をお掛けいたしますがご容赦ください。
「ななみん、この前の話考えてくれた?」
スマホから真美さんの明るい声が響く。
この前の話って……あれ、本気だったんだ。
「うーん……私は構わないですけど……他の人はオッケーなんですか?」
「まだ聞いてないけど多分オッケーっしょ。最近の配信観ても暇そうにしてるし」
「暇ではないと思いますけどね……」
登録者百万人超えのバーチャル配信者を捕まえて「暇そう」とは、流石真美さんはスケールが違う。
「やるにしても、場所はどうするんですか?」
この前はうちでやったけど、四人となるとうちではちょっと厳しい。広さは問題ないんだけど……クッションとか椅子とかが全く足りない。
「確かありすがいいとこ住んでた気がするから、そこかなあ。ちょっと聞いてみるわ」
カタカタとキーボードを操作する音がスマホ越しに聞こえてきて、ああ、本当にやるんだ……とじわじわ実感が湧いていく。
「お、ありすの家オッケーだって。そんでバレッタにはありすが声掛けてくれるらしい」
ありすさんもバレッタさんも一緒に遊んだことはない。
なんなら、多分気にしてないと思うけど、この前の大会で最後倒してしまったから、勝手に若干気まずく思っている。
そんな相手といきなりオフコラボだなんて。
本当に真美さんは、いつも突拍子もないことを企画する。
◆
その日の晩、私は真美さんに誘われてありすさんとバレッタさんと顔合わせ通話をすることになった。
初対面の人が二人もいると、流石に少し緊張するな。おまけに真美さんは遅刻して居ないし。
「えっと……初めまして。氷月こおりです」
おずおずと切り出すと、元気な明るい声が返ってくる。
「やっほー。不可思議ありすだよ。何かいきなりオフコラボしよーって連絡が来てびっくりしちゃった」
「あはは、そうですよね……。私も本当にやることになるとは思ってなかったです」
「…………あの……初めまして。バレッタです」
消え入りそうな声が辛うじて耳朶を打つ。
「……え? バレッタさん?」
「…………えっと……はい」
バレッタさんって、あのバレッタさんだよね?
何度か配信を見たことがあるけど、もっと激しい人だったような……?
「あはは、初見だとビックリするよね! バレッタ、本当は大人しい子なんだよね」
ありすさんの愉快そうな声。ありすさんはイメージ通りの人って感じがするな。
「そうだったんですね。てっきりリアルも激しい人だと思ってました」
多かれ少なかれ皆配信用にキャラや設定を作っているけど、ここまで違うのは珍しいんじゃないかな。少しビックリしちゃった。
「おっすー。皆やってるかー?」
真美さんが遅れて通話に入ってきた。初対面の人を引き合せるのに遅れてやってくるなんて、本当に自由な人。
それでも全く嫌な気がしないのは真美さんの人柄だろうか。一緒にいて本当に楽しい人なんだ、真美さんは。
「おっすー。やってるよー」
「いいねー。じゃあ早速だけど日程とか決めちゃおうぜ。場所はありすん家でいいんだよね?」
「いいよー。ソファもあるし四人くらいならよゆーよゆー」
「サンキュー。んじゃ日程いつがいいとかある?」
「ボクは出来れば来週がいいかな。珍しく土日何の予定もないからさ」
「私は基本的にいつでも大丈夫ですよ」
私は企業に所属している訳ではないから予定はかなり自由に調整が効く。個人勢バーチャル配信者のいい所だ。
「…………えっと、私も来週の土日なら大丈夫です。マネージャーさんに確認も取ったので」
「ほいほい、じゃあ日程は来週の土日で!」
「はいよー。そういやバレッタってオフコラボしたことあったっけ?」
「…………ううん、はじめて。ちょっと緊張してる」
「やっぱりそうだよね! ぐへへ、楽しみだなー!」
ありすさんのハアハアという荒い吐息が聞こえてくる。二人はMMVCで組んでいただけあって仲が良さそうだ。
「…………ありすちゃん……なんか怖いよ……」
「ふふっ」
あの荒々しいバレッタさんがやり込められてるのがなんとも面白くて、思わず笑ってしまう。
二人ともいい人そうで本当によかった。初対面の人とお泊まりするのは少し怖かったけど、ありすさんとバレッタさんなら楽しい一日になりそうだな。
「よーし、それじゃ詳細も決まったところでツブヤッキーに投稿しちゃおっかな。タイトルは……『MMVC優勝&準優勝ペアが送る禁断の夜! まさかのオフコラボ開催決定!』。よし、こんな感じでいいだろ」
「あははっ、禁断の夜ってなにさ!」
ありすさんはツボに入ったみたいで大笑いしながらツッコむ。
「私もツブヤいちゃいますね。えーっと……バーチャリアルの方々とオフコラボします、と」
真美さんのお陰でお友達が増えていく。本当にありがたいな。
ところで……禁断の夜って、本当になんなんだろうか?
◆
「…………マジか……!?」
こおりちゃんのツブヤッキーを見て俺は固まっていた。あまりにも衝撃的なことがそこに書かれていたんだ。
「こおりちゃんと……あの三人がオフコラボ……!?」
この前の姫とのオフコラボも衝撃だったが、それとは訳が違う。
何故って……俺はもう神楽さんや鳥沢さん、栗坂さんと知り合っている。三人はもう、画面の向こうの存在ではなく、確かな存在感を持って俺の人生に存在しているんだ。
その知り合いが……こおりちゃんと会う。
何と言うかそれは…………こう……言葉に出来ないが、とてつもないことのような気がするのだ。こおりちゃんが少し近しい存在になったような。
「こおりちゃん……どんな人なんだろうなあ」
こんな恋慕、普通なら実現するわけが無い。テレビを見てもしこのアイドルと付き合えたらなって妄想するのと同じだ。
…………でも。
手を伸ばせばギリギリ届くんじゃないかって。そう思ってしまうくらいにはこおりちゃんは近くにいて。
だから俺は、今日もこうやって悶々とした気持ちになってしまう。何を真面目にバーチャル配信者に恋してるんだって、自分を笑えなくなってしまうんだ。
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