プロローグ
暗闇の中で、ただひたすらに目の前を流れる景色を見ていた。
何も考えず、何も感じず、何かをしようとさえもせず、時間だけが過ぎて行く。
人々が争い、水が汚れ、あらゆる生き物が浮かんでは死んでいく。
その悲惨な景色は、誰かの記憶なのかもれない。過去か未来で起きたことなのかもしれない。
しかしそれ以上を伝えようとはせず、それ以上考えることもない。
あまりにも無機質な世界。
永遠のような時間がまるで一瞬かのように流れる。いや、本当に一瞬だったのかもしれない。
このまま永遠に終わらないと思っていた。そもそも「終わり」という意識すらなかった。
しかし、変わらず流れ続ける景色に終わりが来る予感がした。その異常を、変化を感じ取った瞬間、
高速で流れていた少年の中の時間が、止まっていくかのように減速した。あるいは、そこで初めて彼の時は動き始めたのかもしれない。
彼が、初めて自分の意志で見た景色は、彼を包むかのように蒼く広がっていた。
視界が青く染まった。何が起こったのか分からなかった。
今までいた暗く狭い場所から、吸い込まれるように。
その手を、その心を引かれるのように。
蒼い世界の中に、心と体を奪われた。
俺は、その世界に見とれていたんだと思う。
初めての感覚だった。今までいくつもの景色を見てきたが、どれに対しても何も感じず、何も伝えてこようとしなかったはずだったのに、この蒼い世界だけは違ったんだ。
綺麗だ、と。
ただ単純に、そう思った。
不思議と、笑ってしまった。
遠くの方で光る太陽に安心したのかもしれない。
自分自身がこの光に照らされる時が来るなんて、思ってもいなかったんだ。
見ていただけ、ただ知っていただけの存在と初めて出会い、感動する気持ちと同時に、今までいた暗い世界に戻ることはないという確信を与えてくれた。
視界の隅に、白くふわふわしたものが浮かんでいた。
少しづつ降りてくるかのように、上から近づいてきている。
その様子を見て、自分が今いる場所がどこなのか気づいた。
空の上だ。
雲よりも高いところから、真っ逆さまに落ちている。
そう気づいた時には、既に雲の中にいた。
一瞬だけ視界が白く染まり、また青い景色に戻った。
その青色は、先ほどまでと少し違った。
所々で太陽の光を反射し、白く光っていた。
きっとそれは海だろうと、なんとなく思った。
考えているうちに海の表面がすぐそこまで迫っていた。
怖くはなかった。海があまりにも大きくて、自分を受け入れてくれそうな予感がした。
そんな気持ちのまま、俺は海に落ちた。
激しい衝突音と高く上がった水しぶきが印象的だった。
痛みも衝撃も感じなかったし、冷たくもなかった。逆にあたたかく感じた。
まるで海に包み込まれていくような気分だった。
その心地よさのせいか、眠くなってきた。
意識が少しづつ途切れていくのを感じる。
失敗した。
心地よさの中で、なぜかそう感じた。
理由は自分でもよく分からない。
「おい、大丈夫か」
遠いところから、小さくそう聞こえた。
でも、答えることはできなかった。
少しづつ増していく眠気に、俺は意識を奪われていった。
初投稿です。
表現が変だったり、文章の運び方が上手くいっていない箇所が多々あると思います。
「こう表現したほうがいい」などの意見をコメントしていただけたら幸いです。