1 黒く長い爪
私が所属する組織『エベレスト』は、反社会的な集団の情報を盗む組織だ。
一言で言うならば、スパイ組織って感じ。
ただ、ここで注意してほしいのは、『エベレスト』は普通の組織とは全く違うということだ。
他の組織は家柄が重視されるが、『エベレスト』は完全実力主義&結果至上主義である。
私はスパイには不向きだけれど、怪我の処置や病気の治療ができるのは組織の中で私、マリン・ダークリットだけ。
この組織の中で唯一無二の存在だから、追放される心配もないだろう。
と、思っていた。
ある日のこと。
その日は重要な会議があり、私もその会議に臨席した。
「マリン、君はこの任務についてどう思うかね?」
『エベレスト』のリーダー、ヘーブン・アグロン様が私に問いかけてくる。
少し間を置いてから口を開いた。
「今回の任務は確かに危険です。ですが今から私の言う注意点を意識していれば、必ずこの任務
は・・・」
「マリン!!」
突然、ヘーブン様が血相を変えて叫んだ。
「貴様は追放だ!!」
貴様は追放だ。
この言葉を理解するのに数秒かかった。
「な、なにゆえ・・・」
「貴様、魔術を使っていたのだな!?」
魔術?
何を言っているのだろう、このお方は。
魔術を使っている者は皆、爪が長く黒くなる筈・・・
って、ウソ!?
朝は普通だったのに、なぜか今の私の爪は、長く真っ黒!
だからヘーブン様は声を荒げたのね。
「私を追放してもかまいません!ですが、医学に詳しいのは私だけですよ?私がいないというのに、あなた方は任務を成功させられるのですか?」
「誰に口を利いている!?お前の代わりなどもう既に存在している!!」
ウッソー!
てことはもう私は『エベレスト』にとって、用済みってこと!?
「長年、私を欺いていたのだな!?許さん、手下ども、奴に死なない程度の傷を負わせろ!」
ええー、やめてよ!
話し合おうって・・・
痛い痛い痛い痛いっ!!
顔に傷つけないで、結婚できなくなるじゃん。
いや、だからって腹とかならいいって問題でも無いんだよ?
「それぐらいにしておけ」
ヘーブン様・・・いや、あいつの一言で、手下どもは手を止めた。
ふう、助かった。
「マリン・ダークリット、判決を言い渡す。お前を永久追放処分とする。さらばだ」
その日から私は、『エベレスト』の人間ではなくなった。
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