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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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83’.12歳 波乱の気配

歓迎会は2部構成みたいな形を取っていて1部は学園の教会で行われた。


セイガ様の魔力を開くためである。


アルテリシアではだいたいみんな7歳前後で魔力を授かるものだ。


だけど朱菫国では信仰する神が違うので魔法がない。


アルテリシアで魔力なしの生活をするのは不便があるということで最初にこの儀式を行うことになった。


セイガ様も朱菫国から身の回りのことを世話する従者や補佐役を何人か連れてくるのでまとめて儀式をする。




歓迎会も兼ねているので全校生徒参加である。

もともと学園の教会は中等部生全員が入れるくらい広いので大丈夫みたい。


ここへ大教会の主教たちを招いて儀式を執り行うため主教たちも学園に来てせわしなく動き回っていた。


数年前に色々あった教会はかつてのように財政が潤っているわけではなく、主教たちは慎ましやかなようで大主教も伝統的な衣裳をそのまま着ていた。


主教たちのなかに懐かしい人をみつけた。

クラウスだ。

領地にいたときより顔色はいいけど相変わらず不健康そう。




こんな儀式をしなくても魔力を開くことはできると知っている身としては退屈で仕方がないし準備だってめんどうなことこの上ないが、大事なのは魔力を開くことではないそうだ。


オーギュスト様は大々的に儀式を行って朱菫国側に歓迎の意を表していると同時に学生たちにも朱菫国の重要性を知らしめるのだとおっしゃっていた。


さすがオーギュスト様だわ。

朱菫国側からしたらセイガ様は人身御供にされたようなものだ。そのセイガ様を歓待することで朱菫国側との外交をやりやすくできる。学生側もかつて開戦寸前とまで言われた朱菫国に良い感情を持っていない学生もそれなりにいる。

大々的に儀式を行うことで今は友好路線であることを示したいのだ。




儀式も歓迎会も学園では大々的に行うけれど、私はお父様とお兄様からは絶対に目立つなと厳命されている。




以下回想。



『いいか?おまえは朱菫国の者たちからどう思われているかわからんが確実に良い印象を持たれていない。

かつての我々の行いが火種となって外交問題に発展したという事実を忘れてはならない。


もし万が一あちらと問題がおきたら直ぐに呼ぶのだぞ。今日は急ぎの用件はないから』




『絶対にオーギュストの後ろに隠れているんだよ?生徒会の仕事はほかの人たちに任せれば良いから。なにかおきたら誰かを必ず高等部に人を寄越して僕を呼ぶんだよ。あーもう…どうして高等部は参加できないんだろう…』



家を出るとき耳にタコができるほど何度もいわた。

さらに通学の車のなかでさえルーシーとディーに同じことを言われたくらいだ。



『何かしらのトラブルが起きるとは思いますがとにかくにっこり笑っておけばなんとかなります。プログラムの流れ通りなら何も起きません。…私は教会資料館にいますので』


有能文官にしては雑なアドバイスだな!もっとなにかあるでしょ!何か!


教会資料館とは学園のすぐ隣にある資料館だ。

一般入場可。



『お嬢様になにもするなって無理な話だと思うけどなるべく揉め事は起こさないでね~。あ、ボクはクラウスに会いに行ってるから』



…そういえばクラウス、こっちにいるんだけどディーはどこに行ったんだろう…。



以上、回想終わり。




とにかく全員何かあったら飛んでこれる場所にいるから呼べということだ。



私への信用のなさがよくわかる。

学園の行事だから中等部生しか参加できないけどそうでなかったら絶対囲まれていただろう。


一応断っておくが、私は自らトラブルを呼び込んだこともなければ意図的に起こしたことは最近ではあまりなかったはずだ。

だいたい向こうからやってくるってだけだし大きな問題だって起こしていない。

大人しいものじゃないか!


そう、無意味と思いつつ抵抗したところディーに無言である魔道具を渡された。明らかに魔法石を変化させたであろう石のブローチだ。




今日は制服での参加だけど、つるんとした楕円の形と色を合わせているであろう石は制服につけても違和感がないようにデザインされていた。

たぶんデザインはジャンナとカイリーによるもの。





生徒会メンバーは今回主催者という立場になるので準備や進行のため忙しく動き回っていた。

朱菫国側との対応はあちら側の担当者と調整をしていて、あちらも予定通りとの連絡がきた。


教会の装飾や警備の最終確認、2部の会場設営の確認と進行具合をみる。問題なし。


学生たちも順に会場入りしていよいよ朱菫国ご一行を待つだけとなった。


私たちオーギュスト様をはじめとした生徒会メンバーは最前列の席だ。




「緊張してる?」


耳元で囁かれた美声に思わず全身が粟立った。突然の囁きボイスずるい!


「そうですね、みんな初めておこなう行事ですからやはり緊張します」


さすがメアリー。

何もありません、みたいな涼しい顔をしてオーギュスト様の美声をやりすごす。


「実は僕もなんだ。メアリーも一緒でよかった」


眉根を下げて安心したように微笑まれた。

もう今日のクエストクリアでいい。

仕事終わった。



「メアリーはセイガ様に会ったことはあるかい?」


「いえ、お兄様は朱菫国に行ったときお会いになったようですけど私はないのです」


「僕もないんだよね、どんなかただろう?」


「文武に長けたかただと聞いておりますが…」


「楽しいかただといいなぁ」


「まぁ!」


オーギュスト様がおどけて言うので私もつられて笑ってしまった。

ふたりでバレないように顔を近づけて。


こういう何気ないところが好きなんだよなぁ…オーギュスト様。




そういえばセイガ様については全然知らないな。

ゲームにも出てこなかったはずだしどんな人なんだろ?


やがて朱菫国ご一行の来訪を告げる声が響き渡り全員が立ち上がって入り口をみつめた。



席と席の間を割る長い通路はどこの教会にも共通してあるものだけど、大教会と学園の教会だけはその幅が広い。


一行の入場を告げる声がして、教会全体が拍手に包まれギイと、音をたててて扉が開き、まず男女2人のシルエットが現れた。

女性の方はリリーホワイト様。

セイガ様の婚約者である彼女が案内役を買ってでた。

学年もクラスも同じだからね。

これは改めてリリーホワイト様がセイガ様の婚約者であることを知らしめるための演出でもある。



そして今日の主役、セイガ様も教会に足を踏み入れた、瞬間私は目を疑った。


背丈はオーギュスト様と同じくらいだろうか?すらりとした細身だ。

制服ができていないのか演出の一環なのか、朱菫国の伝統衣裳をお召しになっている。


後ろに続く従者たちも同様で、年齢はばらばらだけど朱菫国の伝統衣裳姿だった。

教会に武器の持ち込みは禁止されているので帯剣はしていないが、何人か一目で手練れであることがわかった。



一目見て思ったのは珍しい色素であるということだった。

朱菫国の人たちは東洋系の髪色と瞳の色をしている。領地にいる朱菫国の職人たちも一様に同じだからそういうものだと思っていた。


でもセイガ様は茶色ともオレンジとも言い難い、伽羅色っていうのかな?黄土色にちかい髪色をしていた。

アルテリシアでも珍しい色だ。


瞳は濃い色で朱菫国特有の色だからもしかしたら異国の血を引き継いでいるのかもしれない。


端正なお顔立ちで涼しげな目元と爽やかな雰囲気は文学少年といったところだ。


武に長けているとお兄様は言っていたけれどパッと見ただけではわからないので着痩せするタイプなのだろう。


女子たちが何人か熱のこもったため息をついたが、それも納得できるまさに朱菫国の王子の肩書に相応しい花のような美少年だ。


あ、私はオーギュスト様一筋だけどね!



でも…



私はこの人を知っている。



待って、でも


名前が違う。


どういうこと?



リリーホワイト様に伴われたセイガ様は真っ直ぐに微笑をたたえて花道を進まれ、


会場は歓迎の拍手につつまれ誰しもが異国の王子様を歓迎していた。


「メアリー?」


私の異変に気づいたオーギュスト様がそっと顔を覗かせる。


それにすら反応できないくらい、私は驚いていた。


他人の空似、なんて言葉がよぎったのは一瞬ですぐさま似ているだけではないと頭が修正をいれた。

本人だ。



近づくたび、セイガ様が進むたび、確信に変わる。


「大丈夫かい?」


「……は、はい」


会場全体を見渡すように、ゆっくりゆっくりと進み全員と視線をあわせるように進まれるところはさすが王族だ。


リリーホワイト様もわかっているようでセイガ様に歩調をあわせつつ決して前に出すぎないよう控えていた。


朱菫国でもアルテリシアでも女性は男性の数歩後ろを歩きなさいと言われるのでそういうところは国が変わっても同じなんだと、資料でみたとき思ったな。



そして最前列まで一行が進み、オーギュスト様と挨拶をした。


次に私の番。

かんたんに歓迎の言葉を言っておしまい。


あとは主教たちが儀式を進行して終わったら休憩を挟み2部の会場に移動。


何事もなく終わりましたって家のみんなに報告するだけ。


なんの心配もないじゃない。




そのはずだったのに、みんなの不安がみごとに的中する結果となった。




「トーリ…だ…」



セイガ様、朱菫国の第三王子は『ラブファン』の隠しキャラ、トーリだった。


たぶん彼らにしか聞こえないくらいの声音だったけれど、その名前は彼らにとってよほど重要なものだったらしい。




私がその名を呼んだ途端にセイガ様をはじめ朱菫国一同が戦慄し雰囲気が変わった。

今にも襲いかかろうと構えたことをオーギュスト様と私は気づいていた。




あ、これはヤバい。



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