81’.12歳 花園会の新メンバー 前編 ※BL表現あり
注意
・キャラ同士がBL、夢小説の話をしています
・BL、夢小説が苦手なかた、意味がわからないかたはご注意ください
・うっすら話しているだけなのでそれほど濃くないです
・『12歳 花園会の新メンバー 前編』は読まなくても話はわかります
久しぶりの花園会は新しいメンバー迎えた。
「と、言うわけでみなさんにも説明した通りフローレンス様が花園会の新メンバーに加入したわ」
最早、説明不要の存在ではあるが形式的に紹介するとパチパチと穏やかな拍手が送られた。
「ようこそ!花園会へ」
「フローレンス様とこうしてお話しできるなんて夢のようです」
エレナが頬を赤く染めながら呟くとディアナの表情が一瞬だけ固くなる。
分かりやすい反応で助かるなぁ…。
ベリンダとクリスを交え話している隙にディアナにそっと耳打ちする。
「ディアナ、大丈夫よ。エレナってちょっと惚れっぽいところがあるだけだしフローレンス様には憧れてたのよ」
「そ、そんな別に私はなにも…」
みるみる顔が赤くなる。口では否定していても隠しきれていないところは素直でいい。
「ふふ、私の勘違いだったかしら?」
エレナがディアナの後ろに隠れているような関係でエレナが依存しているようにみえるふたりだけれど、エレナは最近変わりつつある。
以前までのか弱い小動物のような少女ではあるけれど創作に目覚めてから溌剌とした時に過激とも取れる年相応の一面をみせるようになったのだ。
その変化に戸惑っていたのはディアナだった。
本人ですら持て余している複雑な感情を整理している真っ最中なのだ。
「フローレンス様がメアリー様にお声をかけたことは存じておりましたがまさかこのような結果になるとは…」
「あら?ベリンダは私を歓迎してくれないの?」
「まさか!フローレンス様とこうしてお話しできるなんて光栄です」
「ふふ、ここでは私のほうが後輩なんだから堅苦しいのは無しにして頂戴。私もそのほうが気楽なの」
「は、はい」
フローレンス様は鈴の音のような可愛らしいお声をコロコロと転がしご機嫌の様子だ。
彼女もまた貴族として常に気を張っていたので趣味全開の裏読みしなくていい関係というのは気楽で心地が良いのだろう。
さて、どうしてフローレンス様が花園会に加入されたのか。
簡潔に言うと彼女もまた『目覚めて』しまったのである。
フローレンス様と私が懇意であると中等部に知れ渡りアプトン家が第三皇子、オーギュスト様の派閥に着くのでは?と噂され派閥争いが水面下で激しくなっていた頃。
私は崩れ行く借金返済計画から気を逸らすため図書館に来ていた。
いくらお茶会の収益が良く評判も上々だからといっても悩みの種はやってくる。
例えば無断でバカ高い魔法石を仕入れてくる研究者とか、希少な素材を勝手に買ってくる研究者とか、いつの間にか便利そう!ってだけで新しい魔道具開発したあげく製作費をあとから請求してくる責任者とか。
どれも需要があるものだとお兄様も言うので開発を進めているが、なにせ初期費用がかかって仕方がない。
その上販路が弱い我が研究所はなかなか売る場所を獲得できずにいる。
営業部門にも予算をまわしたいのに開発部門にかかる予算が高すぎて思うようにいかないのだ。
営業よりも開発に力を入れてしまうあたり、前世のオタクの性だよなぁ。
「あーもう…頭いたくなってきた…」
こういうときはなにも気にせず本でも読みたい。
最近は芳醇なBLにも恵まれるようになったので思う存分、浴びたいのに…。
はぁ、とため息をついて図書館を散歩するようにぐるぐるまわる。
学園図書館は広大な敷地のなかになんと1ヶ所だけなのだ。
そのかわり壁一面に本棚が張り巡らされ吹き抜け3階構成。
学園の建設時に建てられたというだけあって歴史と趣のある建造物になっている。
このほかにも資料室や保管庫が地下にあるというからおどろきだ。
そんなバカみたいに広い図書館は散歩にうってつけである。
国立図書館と同様に国内で出版された本のほぼ全てが集められるというので探せばBL騎士物語とかあるだろ。
なくてもそれっぽかったから勝手に妄想で補うから構わない。
火の無い所に煙をたたせる、それが腐女子。
新しいネタを探索していると奥まった本棚の影になる隅のソファで難しい顔をしながらとある有名な騎士物語を読むフローレンス様をみつけた。
眉間にシワを寄せ難しい顔をしているが、痛快系の話なんだからもう少し気楽に読めばいいのに、と思いふと立ち止まる。
いやまて、あれは確かエミリーが同人誌を書くときの参考にしたと言っているシリーズではなかったか…?
騎士について学ぶために読んだがBLを匂わせる描写が随所に見受けられ一石二鳥だったとか…。
再びフローレンス様のサイドテーブルに積まれた本のタイトルを目で追うとそのほとんどが濃厚ではない、BL的雰囲気を併せ持つ宮廷物語、騎士物語、冒険譚だった!
これはもしや…。
「フローレンス様」
ボリュームを下げて声をかけたのにフローレンス様ははた目からみてもわかるほどにびくりと肩を震わせた。
「め、メアリー様…どうされたの…?こんな奥まで…」
「フローレンス様をお見かけしたのですがなにやら思い詰めていらっしゃったのでつい…」
「メアリー様はさすがですね…少し相談にのってもらえる?」
珍しく情けないような声音で話されるのはフローレンス様が私に気を許してくれている証拠だ。
最近はこうして話してくれることが増えた。
「私で良ければ是非」
「生徒会長と前会長の件…覚えていて?」
「もちろんです」
あの秘密の恋人同士だよね。
忘れもしない。
「私…あれからどうもおかしいの…」
「おかしいとは?」
「どういうわけか殿方同士の強い絆にとても魅力を感じるようになってしまって…おかしいわね」
そう言って、困ったように笑われた。
が、私の頭の中ではファンファーレが鳴り響いている。
黒!確定!
間違いなし!ドンドンパフパフ!!
オメデトー!
「フローレンス様は衆道に嫌悪感がおありで?」
「まさか!好きあっている同士が結ばれるのは素晴らしいことだわ。…え!?でも…」
素晴らしい。
なんて素晴らしい回答。
これは素質がある。
さすがは良家で上質な教育を受けていただけある。
素晴らしい回答だ。腐女子的に。
教育関係あるか知らないけど。
「大丈夫です。まだ目覚めたばかりのフローレンス様が戸惑われるのも無理はありません。しかしその感情は目覚めたものにだけ与えられる特別なものなのです。まずはこちらをお読みになって感想を教えてください。私たちには同士がおります。きっと彼女らもフローレンス様の助けとなりましょう」
一息でそう言うと、図書館に並べられていた『ランスロット』の1巻をそっと渡す。
「え…これ…」
「おや、もうお読みでしたか?」
「いえ読んだことはありませんが…」
「ならば是非読んでください。きっとフローレンス様に正しい道を教えてくださいます」
フローレンス様の手を包み込むようにそっと触れる。
まだ戸惑っている様子であるがおずおずと頷いて『ランスロット』の表紙をそっとめくった。
なんやねん、正しい道って。
明らかに道を外させる気満々なのに何いってんだ、私。
とにかく、
さぁ、新世界へいらっしゃい。
と、まぁこんな経緯があって新しい扉を開いたフローレンス様は翌日には既刊を全て読み切り情熱溢れる感想文のお手紙を書いて渡してきた。
可愛がっている後輩にお手紙を渡すというのは珍しいことではないので誰も不審には思わない。
問題は内容だけど…。
お手紙には『ランスロット』の感想とふたりの友情を越えた絆、深い信頼と相反する憎しみとぶつかり合いが情緒が溢れる豊かな言葉で綴られていて、読むだけで教養が増えた気さえするほどだった。
これを花園会でみせたところ満場一致で花園会にフローレンス様を迎え入れることとなったわけだ。
ちなみに花園会において事前確認をしなければいけない重要なことがある。
「で!フローレンス様はどう思われました?」
エレナとクリスがずいっと前のめりになって期待に満ちた瞳をむける。
「どうとは?」
「どうってもちろん!ランガウェ派ですか?ガウェラン派ですか??」
カップリングである。
今のところ均衡を保っているのでフローレンス様の出方によっては私が調整することになる。
「そうですね…私は…」
悩むフローレンス様をエレナとクリスが固唾をのんでみつめた。
ちなみにベリンダとディアナはお互いの書いてきた作品を交換してご満悦だ。ちょっとはこっちのことも気にして欲しい。
「両方いけますわね!」
まさかのリバ!?さすが上位貴族。
懐が深いというか欲深いというか。
さすが上質な教育を受けているだけある。
関係あるか知らないけど。
「ふたりの関係性をみていて最初こそランガウェではないかと思っていたのですが、あれ、これけっこうガウェインにランスロット甘えているような…やはりガウェイン実弟がいるから甘やかすの上手い、という考えに至りまして…。もう左右どちらかで悶々とするくらいなら雰囲気で分けているほうがふたりの関係として納得がいくと思うようになりました」
「なるほどー!」
「言われてみればそういう見方もアリですわね!」
よかった!エレナとクリスが絶対固定過激派じゃなくて!
花園会の平穏は保たれた。
オメデトー!!
心の中で感涙しながら拳を強く握りしめた。
腐女子におけるカップリング問題は根が深い。
それで何度も仲違いする同士たちをみてきたし特にこだわりのなかった真理はしょっちゅう巻き込まれていた。
そのうち私もオーギュスト様過激派夢女になっていたのであまり巻き込まれることはなくなったけど。
「そういえば『ランスロット』は来月新刊が出るそうですね。みなさん予約されました?」
もうそんな時期か。
新刊は2、3ヶ月おきに発売されるが前世の世界のように情報を得るための媒体は少ない。
こちらだと出版社から出ている情報誌がメインとなる。
ディアナは情報誌のチェックを欠かさないので情報が早いのだ。
「えぇ、今回はちゃんと正規ルートで予約したわ」
なるべくほかの読者の反感は買いたくないからね。
「…メアリー様なら印刷所を作って一番に入手されそうですよね」
「あら、ベリンダ。さすがね、名案だわ」
「でしたら作者のジョージ様を買収してすぐに原稿を手に入れたらよいのではありませんか?」
「クリス、さすがにそれは迷惑がかかるわ…」
ポンと手を叩くクリスをベリンダが諭した。…うん、さすがに私もそれはしない…。
作者と読者の境界線を越えるつもりはない。
手の届かない存在であるからいいのだ。
ファンレターは出せど、直接会おうなんておそれ多いじゃない。
「にしてもこれだけ大人気なのにジョージ様のことは全くわからないですよね」
「高い教養をお持ちにみえるから貴族のかただとは思いますが…」
「お名前が男性というだけで実は女性の可能性は…?!」
「ほかに書かれていませんし若いかたなのかも…」
「それこそ、お名前を変えているだけだと思います!」
この国において、同じ名前というのはそれほど珍しいことではない。
なんならメアリーという名前もわりと溢れているくらい。
ジョージという名前も男性名としてはメジャーな名前で、ただジョージというだけでは特定はほぼできない。
だから別名義のペンネームに向いている。
でもこれだけ人気作なら作者についてもっと情報があっても良さそうなのに全くないのだ。
雑誌のインタビューにも登場しないし、性別、年齢さえもわからない。
サイン会も開かれたことはないほど。
みんながあれこれ作者について考察を重ねているなか、フローレンス様だけじっと何か考えている様子だった。
「フローレンス様?」
「あ、いえ…なんでもないのよ…ただこの方…」
「ジョージ様についてどなたか心当たりがおありなのですか?」
「いいえ、私もにもさっぱりだわ」
あ、こりゃ何か知ってるな。
勘がそういうけど、フローレンス様が隠そうとしているということは本当に確信が持てなくて混乱させたくないのだろう。
無理に聞き出すことはしないのが礼儀だ。
「フローレンス様もご存知ないということはお手上げですわね」
さっきまで作者の考察をぶつけていたエレナが降参のポーズをとって笑ってみせた。
ディアナも相槌をうってこの話は終わると暗に告げる。
「私も最近『ランスロット』を読み始めたばかりだからあなたたちのほうが詳しいくらいよ」
「でもフローレンス様の考察も見事でしたわ。特に学園でふたりが再会したときのやりとり…幼少期の何気ない会話と繋がっていたなんて…」
「あー!それ私も気づきませんでした!言われてみればそうなんです!」
「ふふ…あそこの会話はガウェインの警戒を解くためランスが繰り出した技なのよ…あれもまた彼の武器のひとつではないかしら…」
そんなふうにまた好きな物語の話で盛り上がる。
前世と変わらない、どこにでもある光景にどこか心が和らいだ。
たまにはこういう日も必要なのだ。




