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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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80’.誤解のお茶会~side O~

メアリーの主催するお茶会は今回で4回目となった。

生憎招待はされていたが、オーギュストは都合が合わず今日が初参加となる。


評判を聞く限り悪い話はほとんどなく参加者は満足しているようだった、とのこと。


ユリウスはメアリーのお茶会に行くことが面白くないのか眉間にシワを寄せているが、今日お茶会で連絡鏡を渡すと言われてしまえば行かざるをえない。



アルバートが新型の連絡鏡を使っているところを見せてもらったがたしかに便利だった。


1台で誰とでもやりとりができるのは機密保持の面でも役に立つ。

この技術はかなり画期的なものらしく魔法学の教師に聞いたら『魔宝石に個人の魔力を登録するなんてありえない』と笑われてしまった。

同席していたアルバートは連絡鏡を持っていたがそれ以上なにも言わなかったので連絡鏡のことは広めたくないのだろうと判断し教師にはなにも言わずに済ませた。



「アルバートが参加できないのは残念だよね。中等部でのお茶会に高等部生は参加できないから仕方ないけど」


「余計な派閥争いを避けるためですね。高等部では中等部以上に派閥争いが激しい聞いていますから」


「騎士団でもあるのかい?」


「上のほうではあるようですが俺たちのような学生の見習い騎士には関係ない話です。よほど学園のほうが争っているのではないでしょうか?」


「それは安心だ。事件が起きたとき派閥間の関係性で余計な問題が起きなくて済む」


もっとも、騎士団で椅子取りゲームをするくらいなら決闘で勝敗をはっきりさせそうなものだ。



「殿下の期待を裏切らないよう尽力いたします」


「よろしく頼むよ」


そうやって軽口を叩いているうちに会場である中庭に到着した。


天気にも恵まれたこともあって気候は穏やかでお茶会日和とも言える。


狩りにでもでればいい獲物が手に入ったかもしれないと、ついつい気がそれてしまったが次の瞬間目にした光景にオーギュストは思わず目を見開いた。



「彼らは平民の学生たちじゃないか…どうして接客係をしているんだ?」


見覚えのある平民の学生たちが給仕服をきて招待客らに接客をしていたのだ。


「どういうことだ?!なぜ平民の学生が働いている!?説明しろ!」


主の機微に聡い騎士見習いは小さな呟きさえ聞き逃さなかった。


雷のように響き渡った怒声をきっかけに和やかだったお茶会は一瞬で不穏な空気に支配され る。


参加者たちの目には明らかに不安の色がひろがっているし平民の学生たちにも動揺が広がっていた。

これではせっかくのお茶会は台なしだ。


失敗した、そう思った時には遅かった。


これまで聞いてきた経験からメアリーが何の理由もなしに平民を働かせているわけがない。


そうわかっていたのにユリウスを止めなかったのは自分の責任だ。


「あら、殿下もお越しくださったのね。光栄ですわ」


固くなった空気なんてお構いなしに人混みからゆるやかに現れたのはメアリー本人だった。

背後にはいつも行動を共にしている友人たちが控えている。そのうえ、


「フローレンス嬢!あなたという人がいながらどうしてこんような勝手を許したのですか⁉︎」


フローレンス嬢まで同伴ときた。

これは古参貴族の中心がスティルアートと懇意であると語っているに等しい。



「ずいぶんなご挨拶ですわね、ユリウス様。マゼランの家名が泣きますわよ」


「うっ…それは失礼した…」


「将来は殿下の騎士にもなるお方が何の理由もなく女性を糾弾するなんて言語道断です。…全く、殿下はご自身の従者のしつけくらいなさってくださいませ!」


あくまで優雅に穏やかに叱責をとばす。

こんなことができるのはアプトン家の彼女くらいだろう。



「フローレンス様、ユリウス様は正義感に溢れたかた。おおかた私が平民の学生たちを奴隷のように扱っているとでも勘違いなさったのでしょう」


「まぁ!それこそ誤解じゃない!」


「それもこれもメアリー様が誤解を受けやすいからではありませんこと?」


「クリスさん、ベリンダさん、あなたがたもメアリー様が誤解を受けないよう目を光らせてくださいませ」


「はぁい」


「メアリー様は昔から話題に事欠かないですもの。おふたりだけでは荷が重いのではありませんか?」


「あら!」


不穏な空気を追い払うように、女性たちの会話に花が咲き始めた。

それに釣られるようい参加者たちの表情が緩みだし、彼女らの会話にひとり、またひとりと加わり張り詰めた空気はまるでなかったかのようにお茶会が続行された。


「ふふっ、すみません、殿下。ついおしゃべりし過ぎてしまいましたわ。


こちらの平民の学生たちは私のお茶会のために正式に雇用した言わば日雇い労働者ですの」


「日雇い?」


「はい。契約はお茶会期間中。シフトについては各々のスケジュールに任せています。出勤管理はバイトリーダーに任せています」


「シフト?バイト…リーダー?」


聞き慣れない単語がでてきた。

一応意味はわかる。意味は。

しかしおよそお茶会とは不釣り合いな単語だ。



「ですから雇用の実態は私よりバイトリーダーのミアに聞いたほうが信憑生が出るのではないかしら?ミアを呼んで頂戴」


メアリーがクリスに指示をだすと彼女はクルリと身をひるがえしミアを探しに行った。


「ミアって…平民学生の?」


「はい。2年で平民首席の」


オーギュストはミアのことはよく知っていた。



「メアリー様、お待たせいたしました」


クリスに連れられて給仕服を着た女子学生が頭を下げて現れた。

オーギュストも把握している民衆派のまとめ役だ。


彼女は民衆派のなかでも穏健な学生なのでオーギュストもよく情報収集のために接触しているいわば情報提供者のひとりだ。


頭を少しだけ上げたとき目が合い、呼び出したのが自分だとわかってミアは明らかに顔を引きつらせた。


「ユリウスと殿下がミアに聞きたいことがあるそうよ。私がいるとお話しづらいでしょうから外すわね」


どこまで知っているのかわからないが、にっこりと微笑を称えたメアリーは友人らとその場をあとにした。


対照的にミアは死刑宣告でもされたかのようだった。



おそらくメアリーはミアとオーギュストの関係を知らないと推測する。


「お、お待ちください!メアリー様!まだお仕事が…えぇ…」


しかしミアすがるような視線をメアリーは無視して颯爽と去っていった。


「と、いうわけだから色々聞かせてほしいけれどいいかい?」


「えーと、どのようなことでしょうか…?」


この場では情報提供者としてではなく貴族、皇族と平民の接客係の関係なのでミアは居心地悪そうに敬語で対応するが、本当はすぐさま逃げたい本音がまるわかりだ。


ミアはオーギュストがあまり得意ではない。

できることなら会話どころか廊下ですれ違うことすら避けたいとさえ思っているほどに。



「君たちはあの高慢な令嬢に無理やり働かされているのか?なにか脅迫されているなら力になれるぞ」


そんなミアの本心に気づかないユリウスはグイグイ押していく。



「そんなことありませんって!私たちは正式に雇われているんです!」


「騙されていないか…?」


「騙されても脅されてもいません!お互いの利害が一致しただけなんですって!」


両手と首をブンブンと振りながら否定した。



「利害?あいつの言うことだ。あとから約束を破ることだってありえるだろう?」


「たぶんそのようなことはないと思いますよ…したところでメアリー様に旨味はありませんし…だいたい今回の条件だってメアリー様には従業員の候補ができたってくらいしかメリットがないんですから!」


ミアの話を要約するとお茶会で雇ってほしいと頼んだのはミアたち穏健派の平民学生たちだった。


平民の学生はとにかくお金がない。

学園から支援を受けているとはいえ王都での暮らしにはなにかとお金がかかる。学用品、参考書、制服以外での私服などなど。寮生活なので食べるものと住むところ揃っているがそれだけだ。


学園では学業に支障のでない範囲での労働は禁止していないが試験前や長期休暇の帰省時期など働けない時期や寮の門限があるため雇いたがる店や商会は少なかった。

彼らも学園での成績が今後の学園生活に関わるため成績を落とすわけにもいかない。


かといって下級貴族に借金をするという地獄行きの切符を持つことも避けたかった。


貧乏な下級貴族たちが羨ましがる学園からの支援も実際には足りていないのが現状である。



学生であることに理解のあるバイト先を探していたのだが、そんな都合のいいバイトない。



そんなときメアリーが長期休暇までお茶会を独占したとの情報が入った。


お茶会のために何人も外部から雇った接客係が入っていることも。


わざわざ外部から雇わなくても自分たちが働かせてもらうことはできないだろうか?

そこで学生を代表してミアはメアリーに直談判したのだという。


最初こそ驚いていたもののメアリーも外部から接客係を毎回入れることをあまり良く思っていなかったらしくミアの提案を受け入れたのだという。


「それから雇用条件とか報酬とか相談したんですよ。あとマナー講習まで受けさせてくれたんですからメアリー様には感謝してます」


「マナー講習?」


「はい。私たち平民ってマナーを習っていないんです。言葉遣いとか立ち振る舞いとか」


「でも学園にいる以上身についているものだろう?」


「所詮付け焼き刃ですよ。見様見真似でやってきましたけど限界があります。本で読んだり見たりした程度だから何か粗相があってはいけません。そしたらメアリー様が自分付きのメイドさんとか文官さんを呼んで講習会をしてくれたんです」


「…そんな都合のいい話…わざわざメアリーに気を使う必要はないんだぞ」


「嘘じゃないですよ…」


「あの女がそこまでするわけがない。このあと何か恐ろしい条件を突きつけるに決まっている!」


「平民学生がお茶会を開かなくていいってだけでも感謝しているくらいなのに…」


「そうやって平民と貴族の繋がりができることを阻止しているのかもしれない」


「ありがたいぐらいです!めんどうな貴族様と繋がりができてもいいことないですし!それに時給だってかなり良いんですよ!最低賃金の2倍!」


「どうせ残業代込みだろ」


「出ますから!プラス10パーセント!」


「破格すぎるだろ!裏があるに決まっている」


「…僕も嘘ではないと思うよ」


「ほら!」

「なんだって!?」


オーギュストは嘘ではないと確信に似たものがあった。


「以前スティルアート領で大規模な公共事業があったのを覚えているかい?」


それは忘れもしない、過去にスティルアート領で起きた道路や下水の整備をはじめとした大規模事業だ。


これを発端にその後アルテリシア全土を巻き込むことになった教会汚職事件に発展し大主教をはじめとした幹部の辞任、魔力のあり方を問われる事件に繋がるわけだ。


いまだに国内では教会汚職事件で発覚した魔力の在り方について議論が行われている。



「あのときの公共事業って表向きはハロルドとアルバートが指揮したことになっているけど実際はメアリーが主導しているんだよね」


「そんな馬鹿な…!!」


「そうなんですか?」


この場合、ミアとユリウスでは驚いている内容に違いがある。


「あのときまだあいつは9歳かそこらですよね!?そんなこと…」


「え?!スティルアートじゃメアリー様のお陰だってみんな言ってますよ。王都じゃ違うんですね…」


「そうなのか…?」


王都には正しいく情報が伝わっていない。


一部の報道ではメアリーの功績として書かれていたものの途中からどこの報道も主語が『スティルアート家では』というように家名のみ書かれるようになったのだ。


おそらく各社様々な思惑があったのだろうがお陰でメアリーは燃える教会を背にボロボロの主教を警備兵に突きだした極悪なイメージが付いてしまっている。


新聞の一面に飾られた写真の効果も相まってメアリーのイメージが悪役として認知されてしまったきっかけでもある。


本人があまり気にしていないようだけれど、こうしてユリウスのようにメアリーに偏見をもつ者も少なくない。



「ミアはスティルアート領の出身なのかい?それでこのことを知っていたからメアリーに直談判したってところ?」


「正確にはスティルアートの出身ではないのです。両親と仕事をもとめてたどり着いた先がスティルアートでした。そこでメアリー様の公共事業に父が参加してようやく私たちは美味しいごはんと雨風凌げる家で寝ることができたんです。

だからメアリー様なら悪いようにはしないだろうと思って」



「そうか。実際はどうだった?」


「たしかに覚えることは多いし貴族のかたたちを相手にするので楽ではありません。でも私はあのときメアリー様にお願いしたことを後悔していません。それはここにいるみんなが思っていることではないでしょうか?」


「……」


改めて会場を歩き回る学生たちを観察する。誰しもが引き締まった顔できびきびと銀盆を片手に貴族たちに頭を下げていた。

しかしその誰もが恐怖に怯えた様子もなく、自分達の仕事に誇らしげだ。


「どうだい?ユリウス、誤解はとけた?」


「…私の早とちりだったようです。すみません」


「ならいいんだ。――ところで、ミア、僕は一切報告を受けていないのだけど?」


「…何に対する報告ですか?」


「どうしてメアリーのお茶会で給仕係をするって教えてくれなかったんだい?」


「あなたに報告する義務がないからです」


「へぇ、なるほど。僕には報告義務がないと…」


「民衆派がなにか良からぬことを企んでいるわけではありませんし」


「でもここで働いているのは民衆派なんだよね?」


「み、民衆派でも穏健な人たちばかりです!」


「だよね、過激派はこの間メアリーが追い出してしまったし」


先日、食堂で騒動があり問題アリとしてマークしていた民衆派の学生は『家庭の都合』とし自主退学をした。


急に大口の取引先を失ったことで表に出してはいけない金がみつかり多額の罰金を払わなくてはいけなくなったとかなんとか…。



「あーもう!殿下が来るってわかってたら休んだのに!」


時すでに遅し。

このように追求を受けるとわかっていたから会いたくなかった。

たとえ来たとしてもバックにまわるか目立たないようにしようと決めていたのに台無しだ。



「お話は終わりましたか?」


タイミングを見計らったようにメアリーがひとりでやってきた。

静かな声なのに海をも割れそうな迫力はさすがと言える。



「メアリー様!」



これ幸いと言わんばかりにミアが下がろうとするのでオーギュストはあえて止めた。


「メアリー、ちょうどいいところに来たね。紹介するよ」


「え?」


みていてわかるほどにメアリーが身を固くする。


「内密にしていてほしいんだけどこちらのミアは…」


「殿下!お辞めください!」


「兄の婚約者なんだ」


「え?」

「は?」


天を仰ぐミア、ぽかんとするユリウスとメアリー、ニコニコと対人用の笑顔のままのオーギュスト。


一瞬の、当事者たちにとっては永遠とも思えるような静寂ののち。



「長男のデイヴィット兄さんだよ」


オーギュストは特大とも言える爆弾を突き落とした。



「うそでしょ!?」


声量を押さえて小さく、客人たちに背を向けて悲鳴をあげたメアリーはさすがだと心のなかで称賛の拍手を送った。



「ミア!本当なの!?」


「…はずかしながら…」


「私ったらなんて失礼を…ミア様とお呼び…」


「やめてください!正式な婚約者ってわけではありませんし一方的に言われているだけですし…」


「そ、そうなのね…そうよね…それに私が急に呼び方を変えたらバレてしまうものね…」



あからさまに動揺するメアリーというのはみていておもしろいものがあった。

しかしいつも余裕綽々な彼女を動揺させたのがミアというのは気に入らない。



「今私がこうしてこの場にいられるのもメアリー様のおかげなんです。だからメアリー様が私に頭を下げられる必要はどこにもありません」


「ミア…ごめんなさい。私、殿下とあなたが楽しそうにしていたからつい嫉妬していたの…誤解だったわ」


「え、嫉妬?」


意外だった。

いつも自信に満ちたメアリーが嫉妬するなんて。

そのきっかけが自分のことだったのでオーギュストは少しだけ気分が浮き足立った。


「私は殿下の婚約者候補筆頭なのよ?当然です」


顔を赤らめながら拗ねるのでオーギュストは益々嬉しくなった。

不思議なものだ。メアリーが怒っているのに嬉しいなんて。


「まぁ安心してよ。ミアは僕みたいなタイプは苦手らしいから」


「そんなことあるのですか!?」


「兄のほうが好みらしい」


「変わっていますわね。殿下が頭脳明晰で眉目秀麗、文武両道の完璧なかたすぎて近寄りがたいの?私、同担拒否ではないから推すくらいなら良いのよ?」


メアリーのなかの自分のイメージがだいぶ美化されすぎていてオーギュストはたじろいだ。

やはり幼少期は手紙だけでやりとりしていたのは間違いだっただろうか。


「お、推す…?意味はわかりかねますが私には心に決めたかたがいらっしゃいますので…」


これだけ苦手なオーギュストの情報提供者になっているのも恋人であるデイヴィットからの頼みに他ならない。


でなければこのように何を考えているかわからない相手とあえて親交を持とうとするわけがない。



「それなら仕方ないわね。誤解だったのならかまいませんわ。殿下もユリウスもお茶会を楽しんでくださいませ。あとこちらも…」



メアリーが視線で合図を送るとふたりのメイドが恭しく盆に乗った手鏡をオーギュストとユリウスに差し出した。


「こちらは先日お約束していた連絡鏡です。まだ販売しておりませんので持っているのは私と兄のおふたりだけです」



「へぇ。使うのが楽しみだ。ありがとう、メアリー」


「で、殿下から…ありがとうなんて…!!おそれ多い!!感激の極み!」


自分へのイメージにだいぶ偏りがあると確信したオーギュストはこれからメアリーとの時間を作るようにしようと心に決めた。



「…私からも礼を言う。あと…悪かった」


ユリウスは気まずそうに顔を背けながらメアリーに謝罪をした。

メアリーに対して素直になれないが感謝の意を表したいというせめぎあいが手に取るようにわかる。



「なんて?」


対してメアリーはユリウスの葛藤など全く気づいてすらおらず、それどころか届いてさえもいなかった。



「…茶会を!壊しそうになって!悪かったと!言ったんだ!」


彼なりの精一杯の謝罪だった。

誇り高い騎士として努めてきたユリウスがこれまで悪だと評し主の側から排除すべしと言い続けてきた悪に頭を下げたのだ。


それだけでも彼を知る友人や騎士仲間なら驚いたことだろう。



「いいわよ、そんなこと」


しかしメアリーにはユリウスがプライドを殴り捨ててまで下げた頭の重みは届いてもそれほど響いていないらしい。


軽く謝罪を受け止めあっさりと許してしまった。

これまでに溜め込んだ感情や葛藤なんてどこ吹く風だ。



お茶会の客たちからメアリーを呼ぶ声がするとオーギュストに挨拶をして客たちのところへ引き返していく。


「頑張ったじゃないか」


「……オーギュスト様」


「……なんだい?」


「…私はやはりあいつが嫌いです…」


「…そのうち仲良くなれるといいね」


「一生無理だと思います」



素直でない騎手の少しの成長を感じられたのは収穫だったかもしれない。

少なくともメアリーはユリウスを嫌っていないようだから長い付き合いのなかで友人くらいにはなるだろう。



もらった連絡鏡を手のなかで転がし開いてみると表示された『メアリー』の名前に少しだけ頬が緩んだ。

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