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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
89/132

78’.11歳 メアリーのお茶会 ※BL表現あり

注意

・主要ではない男性キャラクター同士が交際している表現があります。

・会話に出てくるだけです。

・現在避けられないBL表現は今回だけです


























快晴。心地の良い日差しが降り注ぎ花々は咲きほこり木々や芝は瑞々しい緑色で、さながら絵本に出てくるお茶会をそのものだった。



学園の中庭のひとつでいよいよ私の主催するお茶会がひらかれた。


準備はベリンダとクリスが取り仕切ってくれたので私はてきとうに要望を言ったり研究所とソニア商会に連絡を繋いだ程度だった。



それでこれだけ完成されたお茶会ができあがるわけだから実務能力のたかい二人が友人でよかったと思う。


参加人数がお茶会といえない規模になってしまったのでガーデンパーティのようになり、庭園の各所に設置されたテーブルに給仕係を付け、各々お菓子やコーヒーを食べながら歓談に興じる立食形式になっている。


普段だと円卓をいくつか並べたり大きなテーブルに座っておしゃべりするらしいんだけど、参加希望者が20人を超えた時点で無理だと判断してこうなった。



給仕係のほかにも我が家から連れてきたメイドや執事たちが庭園内を動き回っている。

この日のために臨時で雇い入れたスタッフもいるくらいなので今後はなにか人員確保する方法を考えた方が良いかもしれない。


不馴れなスタッフのためにウチから連れてきたメイドたちがフォローに当たるので効率が悪い。


こんなことが次も起きるのは見過ごせない。


とはいえお茶会は今のところ夏休みまでの短期間だし毎日コンスタントにあるわけでもない。

雇われる側としては難しい条件だろう。


どうしたものかと頭をひねらせるが、いい案は浮かびそうにない。


「メアリー様、クッキーの詰め合わせに大量注文が入りそうですがいかがいたしましょう?」


「数は?」


「小分けしたものを200ほど」


「お母様、ソニア商会に連絡を。おそらく用意することは可能だけど無理なら研究所の食品部門にまわして」


「かしこまりました」


日雇いのメイドは一礼すると足早に招待客のもとへ戻っていった。


ウチから連れてきたメイドであればこの程度、私に確認を取らなくても自分で判断してくれる。

エマがいれば先回りしてくれたことだろう。


そのエマは別の日雇いスタッフの対応に追われているし、デイジーは裏の厨房をまとめている。


いくらベリンダやクリスが有能だと言っても本体は1人しかいないのだ。

事細かにすべてを対応するのは無理な話なのだ。



「やはりスタッフ確保が優先ですね」


ルーシーが私の顔をみて思っていたことをそのまま口に出してくれた。

彼女もまた、別のご令嬢からシルクの注文が入ったので研究所に連絡を取っていた。


戻ってきたら私が日雇いメイドと話しているので察してくれたみたい。


よくわかっているなぁ。



「そうね、どこかにお茶会のときだけ働いてくれる人はいないかしら」


「条件が厳しいのですよね」


「不定期でほぼ丸1日なのはともかく、礼儀作法が身に付いていて貴族の応対ができる身元のしっかりした人ってだけで引く手数多だもの。こんな学園のお茶会で日雇いされているわけないのよね」


「いつかに教会へ乗り込んだときのことを思い出します」


「あ~」


忘れもしない、8歳くらいのときのことだ。

公共事業の人材が足りないので浮浪者や不法移民を人材に当てたのだ。


運良く職を探していた人がたくさんいたからできたことで、今回は適用できないだろう。


第一、貴族に応対できる礼儀作法を身に付けさせるあいだにお茶会期間が終わる。




「あら、眉間に皺を寄せていてはせっかくの美貌が台無しですわよ」



ひとりで唸っていると隣から鈴を転がしたような可愛らしい声が飛んできた。



「随分盛況なようですわね。こんなに大規模なお茶会なんて久しぶりだわ」


以前よりもだいぶ砕けたよな口調は彼女が私との距離を詰めて貴族令嬢としてではなくただの先輩として接しようとしてくれている証拠だろう。



「フローレンス様、この度は私のお茶会にご参加いただき光栄ですわ」


「当たり前じゃない。誰のおかげだと思っているの?」


「感謝しております」


「…私も感謝しているわ。本当にありがとう」



フローレンス様は私が渡したお手紙を上手に使い見事に生徒会の実権を握ることができた。

そのせいか初めて会ったときの無機質さは消えてなくなって、血の通った人間らしくなってきた。


お兄様が言っていた『フローレンス様は生徒会活動には積極的ではない』とは自分が副会長に甘んじていることへの不満とか、身分の低い平民に不正な手段で会長の椅子を奪われたことによる悔しさで不貞腐れていただけらしい。



これまでの恨みと言わんばかりに生徒会長を傀儡として実権を握らせてみれば調子が良くなってきたのか最近では可愛らしい声で毒を吐くにまで成長されていた。


突然フローレンス様が激変したことによって周囲は慌てているようだけど本人はどこ吹く風と言った具合である。



「私は偶然手に入れた面白いモノを面白くしてくれる相手に渡しただけです」


「そんなこと言っちゃって」


嘘は言っていない。

私は手に入れたとお手紙を渡しただけ。

持っているだけでは面白くないので最も有効活用してくれる相手に渡しただけ。


フローレンス様は周囲をチラチラと見回すと、声を潜めて小さく呟いた。


「にわかには信じがたかったけれど本当だったわ…」


どこかげんなりとしているというか、信じたくないものをみたかのような。



「あら、やっぱりそうですか」


私も疑心暗鬼だったけれどどうやらアタリだったみたい。


「えぇ。手紙を突きつけてカマをかけたらあっちから白状したの。『前生徒会長とは恋仲だ』って…」


そう。

現在の生徒会長、平民出身の男子であるアーロン・マカヴィーと前生徒会長でコネリー伯爵家ダニエル・コネリーは身分違いの恋人だったのだ。



アルテリシアにおいて同性愛は禁忌ではない。

公に認められているわけではないけれど特に禁止する法律はないし宗教的にも許容されている。



ただし、己の義務を果たした上でなら。



貴族であれば当然跡継ぎ問題が出てくるし運良く近い親類から養子がもらえるとも限らない。だから同性を恋人とする場合この跡継ぎ問題をどうにかしないといけないのだ。


倫理に反しているとかで同性愛を批判する人たちも少なからずいるのも事実だけどそれは今回の件とは関係ない。


彼らが自分たちの関係を隠しておきたかった理由はほかにある。



それは『身分違いの恋人』ということだ。


たとえ階級は低くても同じ貴族であればまだなんとかなったかもしれないがアーロンは爵位も持たない平民である。

しかも実家はしがない貧困農家。

まだ商家でもあれば商売をしているコネリー家とつながりが作れたかもしれないが貧困農家だ。


前世の真理の感覚だと恵まれていない環境で一生懸命勉強した優秀な学生だと思うけれど、貴族はそうみてはくれない。


コネリー伯爵家は事業がうまくいっていないとはいえ伯爵家である。

そんな伯爵家の一人息子が平民の男にうつつを抜かしているとあれば社交界で噂になることは避けられない。



しかも自分の後任の生徒会長に指名してしまうあたり、お遊びの相手にしては度が過ぎている。


さらにはフローレンス様を押し退けての人事。

私情が絡んでいるとあればダニエルどころか実家のコネリー伯爵家が批判を受けることは必須。



だからふたりの関係を示す生々しい証拠は隠しておきたかったのだ。


そもそもラブレターなんて他人にみられたくないものだけどね…。


ダニエルの実家が家宅捜索を受け手紙が押収されただけでもショックだろうというのに、その手紙が愛しいアーロンの首を絞めることになったとあればダニエルはどれほどショックを受けるだろうか…。


私には関係ないことだけど。



「会長、アーロンはダニエルさんに迷惑はかけられないからといってあっさり手を引きました。あとは私が好きにしていいそうです。今頃ダニエルさんに泣きついていることでしょう」



ということはアーロンもダニエルも私が裏で手を回していることは気づいているようだ。

私が関与していなければウチが押収した手紙をフローレンス様が持っているわけないから。




「ダニエルさん…前生徒会長に喧嘩を売ることになりませんか?」



ダニエル前会長はもう生徒会役員ではないとはいえまだ3年に在学で、フローレンス様の先輩にあたる。

あまり口出しはしないとはいえ影響力は持っているはず。


「この程度…喧嘩のうちにも入りませんわ」


私の懸念をよそにフローレンス様は胸を張って答えた。


「まぁ!頼もしい」


「こちらは約束を果たしました。そっちも頼みますわよ」


「もちろんですわ」


ここで約束のことなんて忘れたふりをしたほうが悪役っぽいなんて考えながらほくそえんだ。


でも約束を反故にする気はない。


一部の平民が目障りなのは私もおなじだから。




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