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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
87/132

76’.11歳 婚約破棄の可能性


「全く!オーギュストも唐突なんだよ!急にメアリーに用事ができたって言うから!」


「遅かれ早かれ殿下から何かしらあったと思いますよ、お嬢様が目立つことをするときはたいてい何か起きますし」


「そうそう、今日だって屋敷は大騒ぎだよ~。ボクも執事長に呼び出されて大変だった」


「たんなる事情聴取みたいなものでしたし良いじゃないですか…」


「あなたたちいつの間にそんなに仲良くなったのよ……?」


私の知らない間に3人はずいぶん打ち解けたようだった。

気心知れた友人同士みたいにコーヒーを飲みながらおしゃべりしている。


ルーシーとディーは私付きだし二人とも従者の立場だからわかるけどそこにお兄様も一緒になるってどういうこと?


「そりゃ共通の愚痴があれば仲良くなるって~」


「共通の…愚痴?」


「もちろんお嬢サマのことに決まってるじゃん!お兄さまも苦労してるよね~」


「ディー?あなたちょっと口のきき方には気を付けなさい?お父様にお願いしてあなたを屋敷から追い出すわよ」


「お~こわーい!」


怖がっているなんて微塵も感じていないことは丸わかりだ。

ディーもルーシーも私の従者ではあるけでど、ルーシーと違ってディーは私に従う気などほとんどない。


一応命令したら聞いてくれるけどね…。


「メアリー、ディーさんは我が家の恩人なんだからそんなこと言ってはダメだよ」


「むっ…そうだったわね」


「せめて国立図書館の許可書を没収するくらいにしないと」


「え!?それは困る」


「なるほど、さすがお兄様です。素晴らしいことを聞きました」


お兄様に素直な賛辞をおくればお兄様は嬉しそうに胸を張った。



「それでお嬢様は殿下とどのようなお話をされたのですか?」


「あぁ、そうだったわね。大方ルーシーとお兄様の予想通りよ。お茶会の全日程予約したことの理由を聞かれただけ」


「本当にそれだけ?」


お兄様が念を押すように確認した。

やっぱり連絡鏡を繋いでおけばよかっただろうか?


…いや、バレる。

なんとなくそんな気がした。



「えぇ、あとは連絡鏡を贈ることになったわ。ディー、急ぎで連絡鏡2つ用意して。殿下とユリウスにプレゼントして差し上げるの」


「それはいいけど、急だねぇ」


「今さっき決まったことだから」


「ちょっと待って、オーギュストとユリウスが連絡鏡を持つようになるってこと?これとおなじやつ」


お兄様は顔をひきつらせながら制服のポケットに潜ませた連絡鏡をちょんとつついた。


連絡鏡は1対でしか使えないという特性上、自分で持ち歩くことは滅多にしない。

よほど重要な相手とかそれこそ恋人や夫婦くらいなのだ。

それですら身分が上の人にもなるとメイドに持たせているくらい。




「そうですね。同じやつ」


「今のところウチで作っている連絡鏡ってこれだけだからそうなるね~」


研究所で開発してもらった1つで複数の相手に繋げることができる最新式の連絡鏡である。

組み込んだ魔法石に魔力を登録することで個人を識別しているらしい。

詳しいことはわからないけれど仕組みは花園会で使っているノートや名簿みたいなものなんだって。



話を理解したのか、お兄様のお顔がどんどんひきつっていく。口のはしがひくひくしているし何やら言いたげだった。


「どうかされましたか……?」


「…お嬢様、この連絡鏡けっこうお高いのです…」


「……そうなの?」


「はい」


ルーシーからこっそり教えてもらった金額は相当なもので、2つあれば中古の安い魔車くらい買えるらしい。


「うっそぉ…」


「本当です…」


「もしかして借金また増えた?」


こくん、とルーシーが小さくうなづいた。

今のところ実績もなく業態としてたいした利益を生みそうにない我がスティルアート研究所にお金を貸してくれるのはスティルアート家くらいなもので、既に予算を使い果たしていることから追加の融資を受ける必要がある。


そしてその分は借金として積み重なっていくのだ。



「それだけじゃないよ…オーギュストからいつでも呼び出されるなんて考えただけでもゾッとする…」


「でも殿下はそれほど人使いの荒いかたではないのでは?」


「メアリーは知らないだけだよ…あいつなぜかメアリーの前では猫被ってるし」


「えぇ…」


どうやらお兄様が連絡鏡をオーギュスト様に渡すと言って焦っているのは金額的なことだけではないらしい。



「メアリーは知らないんだよ!僕がこっちにいるとわかったらあいつはすぐに呼びつけて1日中やれ仕事に付き合えだの遠乗りに付き合えだの街を案内しろだの…適当に用事をつけようにも父上は『側近たるもの殿下を最優先にしろ』って言うし!」


「あー、なんかごめんなさい…」


そうだったんだ…。

そりゃ休みのたびにわざわざ領地に帰ってきていたわけだよ、お兄様。



「いや…いいんだ、どうせ時間の問題だったんだよ。僕が使っているところをみたらほしがるだろうし」


「はぁ…」


おかしい。

オーギュスト様とアルバートの関係ってこんなんだったっけ?

たしかにオーギュスト様はアルバートを兄のように思っていて多少のわがままを言ったりしていた。


でもアルバートはそれを受け入れていたはず。


面倒見のいいアルバートはオーギュスト様のわがままを聞いてあげるし年上としてオーギュスト様の相談役を担う。

アルバートルートでもそれは共通だったしなんならデートの最中でもオーギュスト様に呼び出されたらデートを中断していたくらい。


オーギュスト様のグチなんて聞いたことすらない。



「お兄様、殿下はお兄様を頼りにされているようです。連絡鏡だってお兄様とおなじと言ったところ興味を持たれたのですよ」


「…そうなのかい?」


頭を抱えていたお兄様がチラリとこちらを覗き込んだ。

お、これは脈ありか?



「殿下は幼少の頃からお兄様と共に過ごされていましたからお兄様のことを頼もしい兄と思っていらっしゃるのかもしれませんね。…それとも殿下に頼られるのはお嫌ですか?」



「…そういうわけではないけれど…メアリーのように手のかかる妹のめんどうをみるので手一杯だからね」


そう言って少しだけ嬉しそうに私の頭をくしゃくしゃと撫でた。その感覚がくすぐったくてつい頬が緩んでしまう。

兄妹だというのにゲームのアルバートと重なってしまうのは私の悪い癖だ。

ゲームでもアルバートは面倒見のいいお兄さんキャラでいつも問題を起こす妹の世話に追われていた。

そのせいかエスコートは完璧で女子人気も高い。

友達以上には発展しないっていう弱点もあるけどね。

ただ女性の扱いはお手の物で髪から手を離すときささっと髪を直してくれる気づかいもさすがだ。



でもちょっと待って、私のせいでオーギュスト様のお世話までできないって聞こえる。

そんな馬鹿な。


「私のことはそれほど気にかけずとも…」


「そういうわけにはいかないよ。大事な妹なんだ。

それに少しでも目を離したらすぐこうして問題を起こして帰ってくる。

僕の可愛い妹はいつになったら僕を安心させてくれるんだい?」


困ったように微笑みながらお兄様は私の髪を一房とって指先で遊び始めた。

一瞬顔に熱が集まって湧き上がってしまうような、心が浮つくような恥ずかしさを覚えるが、今はそれどころではない。


お兄様への謝罪で一杯なのだ。


すみません、たぶん一生無理です。

心のなかで盛大に土下座した。スライディング付きのやつ。



「…その節はありがとうございました。お兄様たちが来てくれなかったら殿下に下手ないいわけをしていたかもしれません」




時は先程のプライベートエリアにむかう途中まで遡る。


オーギュスト様が急にコーヒーをご所望されたのだ。

スティルアート領で話題に火がつきなかなか品薄で入手困難という飲み物。


婚約者候補がそのスティルアート領のご令嬢なら用意してくれるに決まっている。


瞬間、私はユリウスに睨まれながらルーシーに連絡をとりすぐ学園までコーヒーセットを持ってきてもらうよう頼んだ。


有能な秘書はすぐさまディーを呼び出し移動用コーヒーセットとして試作していた商品と、ひいた豆を持ってきてくれた。


しかもルーシーが有能だったのはこれだけではない。


道中でお兄様にも連絡。

全くの不意打ちでオーギュスト様が私を呼び出したと聞いたお兄様はすぐさま高等部校舎から中等部校舎に移動しふたりと合流した。


プライベートエリア近くの食堂でコーヒーセットを受け取ったときに言われたのがあのアドバイスだった。



『答えを間違えるな』


『オーギュストに下手な嘘や誤魔化しは通用しない』


頭のなかで質疑応答のシミュレーションを繰り返していたのに全てがぶっ飛んだ。


そして私の思考はクリアになった。



「とにかくルーシーの機転に感謝だよ。ほんとうに助かった。もしメアリーがオーギュストの眼鏡にかなう答えを出していなかったらオーギュストはメアリーを切っていたかもしれない」


「切る?」


「見限るってこと。婚約者候補を」


それって婚約破棄ってことじゃ…?


「まだメアリーは婚約者候補だからね。騒動を起こしたことで婚約者として相応しくない、として婚約者候補から外される可能性があったんだ」


「そんなかんたんに婚約者候補を外すことができるのですか?」


「すぐにはしないと思うけど不適格となったらいずれは」


「………」


嘘でしょ聞いてない。

こんなところから婚約破棄されるリスクがあったなんて…。


てっきり高等部の3年、それこそアリスちゃんが転校してきてからだと思っていた。


あれ、でも最終的には婚約破棄されるわけだから今破棄されても同じ?


「まぁオーギュストの場合はほかの皇子たちより後ろ楯が弱いからスティルアート家に喧嘩を売るようなことはしないし余程メアリーがやらかさなければ大丈夫」


「き、気をつけます」


「婚約破棄なんてされたらスティルアート家の評判は地に落ちるしメアリーも学園に通えなくなるだろうから」


「それはイヤです!」


もう少し学園生活を楽しみたい!ていうかゲーム始まってすらいないのにゲームオーバーはないでしょ!


「そうだね。なにか事を起こすときは相談してからにするんだよ」


「…事件が起きるとわかっていて事件は起こしませんよ。できれば私だって平和に過ごしたいのですから…」


「お嬢様の場合は何をしても何か起きますからね」


「うっ…」


ルーシーからの一撃に返す言葉がない。

思い返せば前世の記憶を得て以降なにかしたら何か起きるの繰り返しだ。


「はぁ…せいぜい僕とオーギュストで見張っておくよ」


お兄様は諦めたような盛大なため息をついて頭を指でおさえた。


ん?オーギュスト様も?


「殿下も?」


「僕は学園にはいるけど高等部だから。オーギュストは中等部にいるしクラスも同じだから気づくのも早いだろう」


「殿下にそのようなお手間をかけさせるわけには参りませんよ」


「だったら大人しくしていてくれ…!」


「がんばります」


なぜわざわざオーギュスト様も私を見張ることになるのかわからないけれど、まぁいいか。



「いつになったら正式な婚約者になれるのでしょう?」


「早ければ卒業のときだね」


「なるほど」


ここでひとつ疑問がとけた。

どうして学園で好き放題していたメアリーが婚約破棄されなかったのか。


後ろ楯の弱いオーギュスト様はスティルアート家を敵にまわすことができなかったのだ。

だからスティルアート家以上の後ろ楯を得る必要があった。


ゲーム内ではラスボスを倒し聖女とまで崇められるアリスちゃんを伴侶とすることで後ろ楯を得たというわけだ。


神に愛された女性以上に人の心を惹き付ける後ろ楯はほかにいないから。



つまりはアリスちゃんがオーギュスト様ルートでトゥルーエンドを迎えるにはラスボス攻略するしかないってこと。


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