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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
82/132

71’.11歳 花園会 前編 ※BL表現あり

注意

・キャラ同士がBL、夢小説の話をしています

・BL、夢小説が苦手なかた、意味がわからないかたはご注意ください

・うっすら話しているだけなのでそれほど濃くないです

・『11歳 花園会 前編』は読まなくても話はわかります


↓スクロールでどうぞ



























貴族の子どもというのは魔法が使えるようになったくらいから同世代の同じ階級くらいの貴族の友達をつくる。



それは親同士の繋がりづくりであったり、同派閥の結束を強めたり、はたまた子供の情操教育のためであったり、思惑は様々だが当人たちにとっては友達でしかない。


絡み付く思惑なんて関係ないのだ。



そして私にも親公認のお友達というのが存在している。




「我、秘密を守るものなり」


「我、秘密を楽しむものなり」


「我、秘密をつくるものなり」


「我、秘密を共有するものなり」


「我、秘密を論ずるものなり」


「我ら、秘密を否定せず、分かち合い、美点見出だすもの!」



合言葉を唱えると、真っ白だったノートのページから染み出るように文字や絵がじわじわと浮かび上がる。

それと同時に私たちのテーブルに薄い幕がドーム状に展開した。


ひとりがドームから外に出て確認、再び戻ってきて着座する。


「完璧ですわ!メアリー様お抱えの研究者というのはたいへん優秀ですわね」


「当然よ」


開発費高かったんだから。


「ではみなさん、今日も花園会、はじめましょう」


「はい!」



花園会。

誰が呼んだか私を中心とした5人の集まりをそう呼ぶ。



全員同じ歳で家格も同じくらい。

ゲームではメアリーの取り巻きとして登場するモブキャラだ。

学園でいつも一緒のベリンダとクリスにディアナ、エレナのふたり。



ディアナとエレナは幼馴染みでふたりセットでいることが多い。

内気なエレナにしっかり者のディアナってかんじ。



「みなさん新刊は読みましたか?」


エレナが1冊の本を取り出した。


「もちろん。ネタバレ問題なし!」


クリスが同じ本を手にもって拳をぎゅっと握る。


「私も読了済みですから問題ありませんよ」


ベリンダも同じ本を出してうなづいた。


「ならみなさん存分に語り合いましょう!」


私の号令を合図にまずはクリスが口火をきる。



「今回も怒濤の展開ながら…まさか弟が誘拐されるなんて思いませんでした」



「前巻でランスがガウェインを自分の学校に誘うっていうのも意外でしたけど」



「やっぱりランスお兄様としては義弟が心配じゃない?厄介払いみたいに本国から留学に出されたんだから気になるわよ」



「同じ異母弟でもランスはガウェインのことを明らかに特別扱いしてますよね?」



ベリンダの一言で場が凍りついた。

そう、それは誰しもが既刊で思って新刊で確信に変わったことだろう。



そしてその一言は切り出すのにいささか勇気がいる。


が、


「それはもう当然ですわ!たしかにランスはガウェインとマクネモのことを特別可愛がっていましたけどやっぱり自分と同等の話ができて親友でありライバルでもあったガウェインのことを特別視せざるをえないのでしょう。あのシーンはたしかにマクネモもピンチでしたがガウェインなしにマクネモの奪還はできませんしガウェインを先に助けて万全にしてからマクネモを救出したほうが成功率があがりますからランスの判断は正しかったんですの!」




エレナ、ここまで一息である。

ふだんは言葉数も少なくディアナの後ろに隠れていることが多いエレナが鼻息荒く語りあげた。

それにブンブンと首を縦にふって激しく同意しているのがクリスである。




「エレナ様!さすがの慧眼です!私も同じことを思っておりました!本来であれば捉えられたマクネモを助けるべきですがあえてガウェインを助ける…そこには成功率をあげるべきという冷静な判断もありますが実はひそかに見え隠れするガウェインへの…愛情!ランスがガウェインしかみえていなかったことも明白です」



拳を握りながらクリスも応える。


「そう…つまりこれは…」


ふたりは恋する乙女のようにうっとりとため息をつきながら同時に言った。


「ガウェラン」

「ランガウェ」


瞬間、ピシリと亀裂が入った音が聞こえた。



「クリス様…なにを思ってしてガウェランなのかしら?ランスが兄としての包容力を発揮してガウェインを受け入れていることは明らかではありませんか」


「エレナ様こそ…どう解釈したらランガウェになるのか…ガウェインはランスのことを敬愛すべき兄であり一人の男性としてみています。ランスもガウェインを守るべき対象とみているじゃない」


「ランスにとってガウェインは対等な存在のはずよ」


「そこで垣間見える兄の矜持がなぜわかりませんの?」


「兄だからこそ弟を受け入れるのではありませんか」


「兄だから弟を導こうとしているのよ。…ちょっと表で話し合いませんこと?」


「いいですわね、語り合いましょう、拳で」




「はいはい、そこまで。最初に誓ったでしょう、『否定しない』って。


組み合わせの右左については穏便に話し合ってちょうだい。ちなみに私は両方いける派よ。ディアナは?」



「私は男同士の恋愛にあまり興味ありませんからね」


「ディアナは夢派ですものね。私も好きよ」



「話を振っておいて申し訳ないけれど私はまだそこまで解釈できてないわ。今回も描写が最高だったからそこを堪能したい」



「ベリンダが健全すぎてなにも言えない…」


「あ、でもランスがグレンかセラどっちを選ぶのかは気になりますね」


「…うん、健全だわ」



「メアリー様はなんでも美味しく頂ける派ですものね。羨ましいです」



ディアナが熱くなっているエレナとクリスを尻目にため息をついた。



「そうね、みんなが作ってくれるお話しがどれも素晴らしいから楽しみたいじゃない。今日も新しいお話し持ってきてくれた?」



「もちろんです。合言葉はいつも通りです」


「ありがとう。じっくり読ませていただくわ」



「でも絵にしても文章にしてもお話作りはメアリー様が一番お上手なのではなくて?」




「そんなことないわ。確かに教えたのは私だけどみんながどんどん上達しちゃうから今じゃ私の出番なんてないじゃない。ベリンダのかく小説だって公式に負けず劣らずおもしろいわ」



「ありがとうございます。私も1本書いてきましたので是非感想教えてください」



「作文にするから待っていて」



さて、この花園会というのは私を中心としたおしゃべりグループみたいなものなんだけど最近5人共通のとある話題に夢中だ。



それが小説『ランスロットの英雄譚』である。

登場人物の名前が前世の世界の『アーサー王』に似ているので最初に見たときは驚いたけれど中身は全然違った。




物語は架空の王国、ブレーズを舞台にした復讐モノ。


王族のひとりとして生まれたて主人公、ランスロットが謎の少女、セラから強大な魔法を手に入れる。ランスロットは憎き祖国と親兄弟に復讐するための戦いに挑むのだ。



ランスロット、短くランスと呼ばれる彼は王子として何不自由なく暮らしていた。しかし幼少期に暮らしていた宮を何者かに襲われ自分を庇って母親を、ふたりを守ろうとした家人すべてを失った。

父である国王は早々に犯人探しを打ち切りランスは父親に抗議するも無下に断られてしまう。


それから色々あって素性を隠して同盟国、ブルタンでひっそり暮らしていた。


祖国へ復讐の機会を伺いながら穏やかな学生生活を送っていたランスであったがある日テロリストの起こした事件に巻き込まれ謎の少女、セラを助けた。


しかしテロリストに間違えられ命の危機がせまるなかセラからある契約を持ちかけられランスはある古代魔法を手に入れ窮地を脱出するのだ。



騒動の最中、かつて弟と呼んだブレーズの第3王子、ガウェインと再会する。

彼もまたブレーズで立場を追われ弟と共にブルタンへ送られてきた。

そしてふたりはときに反発しあい、ときに協力しあって様々な危機を乗り越えていく。




と、まぁこんなかんじのお話。

既刊は3巻まで出ていて発売から話題を呼んで国家への復讐モノにも関わらず爆発的な人気を呼んでいる。



発売しても店頭では入手困難な新刊をなぜ私たちが全員持っているかというと上位貴族のコネを使ったから。


前世の世界みたいにあらかじめ予約できるんだけど…予約すらできない状況らしい。



…予約の仕組みはあるのに私たちみたいなお金持ちが財力にモノを言わせて横から持ってっちゃうから予約不可…。


前世の私だったら間違いなく激怒してる…。



で、この『ランスロットの英雄譚』は男性向けの重厚なストーリーが軸になっていて、かなり難しい内容ではあるが女性にも爆発的な人気を博している。



その理由がこれ。


「今回もガウェインへの感情溢れまくりでしたね。たしかにふたりがBLに目覚める気持ちわかります」


ベリンダがほぅとため息をついた。


これである。



主人公、ランスロットはやたら異母弟のガウェインを美化するのだ。

幼少期の描写では『咲いたばかりの薔薇のような頬』『柔らかい指先』『宝石のような瞳』、成長してからは『細く滑らかな指先』に変わり『切れ長で吸い込まれそうな瞳』といったかんじに。



ちなみにこれ、ガウェインにはマクネモという弟がいて、これである。

マクネモは幼少期から病弱で大人しく心優しい文系少年で余程マクネモのほうがか弱い細い。


そのマクネモを差し置いてこれ。



それどころかガウェインもランスロットのことを美化している節があり、『細身ながら筋肉はしっかりある』『幼少期から勝ったことがない』『彫像よりも美しい』などなど。



君たちお互いを大好きすぎだろと誰しもが思うだろう。


なおこれはお互いがお互いに抱いている感情であって物語の描写や他キャラにこれらの美化要素はあまりみられない。


ランスとガウェイン以外の視点からはよほどマクネモのほうがか弱いキャラになっているし、ガウェインもけっこう強い。


弟のことを馬鹿にされたら問答無用でブン殴るくらいには強い。




最初に二人の関係にただならぬものを感じたのは意外なことにエレナだった。


懺悔するようにランスロットとガウェインの関係が恋愛のそれにしかみえないと告げられたとき私は思った。



あぁ目覚めてしまったのね…ようこそ『こちら側』へと。


そしてさりげなく教えてあげたのだ。

古来より騎士団にある伝統を。




こちらの世界にもありました。


BL。


衆道。




建前としては団結を高めるためとか戦場で高ぶったアレコレ云々などなどあるけれど難しいことはほっといて、ようは『好きになっちゃったから仕方ないよね!』『恋人にいいとこみせるために頑張ろ!』『子どもができないけれどそれでも大好き!』ってことだ。




そして何冊か衆道描写の濃い騎士物語(全て健全)を教えてあげたらあとは簡単。



自力でこちら側に来てくれたのであとは高ぶる想像力を絵という形に昇華する方法を教えてあげただけ。



エレナがハマればディアナを引きずり込むのは楽なものであっという間にハマってくれた。


ディアナの相談を受けるうちにディアナは夢女子傾向があることがわかったので、想像の世界なら自由であることを教えてあげた。

すると何か吹っ切れたディアナ、立派な夢小説作家となってくれました。




しかしここで問題が生じた。


まだ目覚めていなかったクリスがエレナの描いた絵をみてしまったのだ。



それもランスとガウェインが仲睦まじく微笑み合い手を取り合っているやつ。


エレナ、もともとのセンスがいいのかめちゃくちゃ絵がうまかった。




私が前世の世界風の絵を何枚か描いてみせたらあっという間に飲み込んで、こちらの絵のセンスといいかんじに融合させた絵をほとばしる想像力のままに描いてくれた。



ほとばしる想像力のままに。



それをクリスがみてしまった。ついでにベリンダも。



終わった。

女の友情はふとしたことで脆く崩れやすい。

完全に終わった。

いくら騎士団でBLが認められているとはいえ公のものではない。

秘するものであるとなっているしエレナとディアナにも口酸っぱく言っていた。



ちょっとした油断が命取りなのだ。



最初こそ驚いて受け入れられないと言っていたクリスであったが、しばらくすると一転。


『ちょっとこの間の男性同士が仲睦まじくみつめあっている絵をもう1度みせてくださる…?』


『…新作あるけどみる?どう?』


スッと絵を差し出した。



こうして、ゆっくりとだけど『こちら側』にやってきたのだ。



それから紆余曲折をへてふたりは妄想のままに絵を描き上げ、その量は隠し切れるものではなくなってしまった。



ベリンダも3人に引っ張られるように小説を書くようになった。



最初こそお互いにお茶会でこっそり交換していたのだけどお茶会にいくたび大量の紙の束を持っていればメイドたちが怪しむし、隠しておける場所も限られている。


お茶会の会話も完全に隠し切れるものじゃない。



騎士団における衆道文化は秘するものだったから私たちもおおっぴらに話てはいけないことはわかっていた。


でも話たい。


夢小説、読みたい。


前世の世界で夢小説はホームページの名前変換機能を使っていた。それはネットありきのもので紙の本では思うように雰囲気が出ない。




そこで登場するのがこの魔法具たち。


最初にドームを張った魔道具は会話を隠すもので、メンバー以外には当たり障りのない会話をしているように聞こえる盗聴防止の魔道具だ。



次にそれぞれかいた創作物がメンバーだけが持つノートで共有できるようにした交換ノートの魔道具。



あとは花園会のメンバーの魔力と音声を登録した、これらの魔道具の核になる名簿の魔道具だ。



交換ノートには魔法石が組み込まれていて合言葉と魔力を注ぐことで中を見ることができる。



名簿に登録したメンバー以外が同じことをしても風景画の画集にしかみないというカモフラージュ機能がついている。


夢小説も名前変換機能の魔法が使われていて書くときにタグを組み込むとノートではタグが指定された単語に変換される仕組みになっている。



開発にあたって研究所の人たちにはかなり無理させたし開発費でかなりかかったけど作ってよかった。


この開発費も私の借金の一部になっているが後悔はない。




「これ読むときに魔力が必要ないので便利です」


ベリンダがノートの表紙に組み込まれた魔法石を指でつついた。


「そうね、メイドたちを呼ばなくていいのは助かるわ。あまり知らない人に読まれたくないから」


「まだ試用試験中だからなにかトラブルがあったらすぐ連絡して。あと使用感の感想もお願い」



そう。

これ、ディーの研究している古代魔法を使っている。


魔力を持続して注がなくても魔力を吸い上げてくれる魔法式が盗聴防止の魔道具と交換ノートに組み込まれているのだ。


そのおかげで読むときもかくときも魔力を注ぎ続けなくてよくなったから創作活動に集中できるというわけ。



まだ実用化試験中なので彼女たちにはそのモニターの依頼もしている。


小さなトラブルは何度かあったけど今とのことすぐに対応できるものだったので概ね順調。




彼女らの妄想の塊ともいえる創作物が溜まったノートのページをペラペラとめくった。


前世の姉は夢小説もBLの満遍なく楽しむタイプのオタクだった。


それに付き合わされて絵も描いたし何時間もネーム切りに付き合わされたこともあった。ついでにノベルティの発注から印刷所への入稿までできるようになった。



その知識がこんなところで役に立つなんて…。


とはいえ、まだ持論をぶつけあうエレナとクリス、自分の『好きなキャラにしてほしい妄想シチュエーション』について話し合うベリンダとディアナをみていたら、なんだか間違った方向に彼女らを導いてしまった気もする。



…まぁいいか。




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