8.ルイ様は黒ショタなんです
「お嬢様、殿下がおみえです」
「えっ!?もう!?!?」
ユリウスが去った部屋で再び物思いに耽っていた。メイドたちはこれから始まる一大イベントにさすがのメアリーも緊張しているのだろうと察してか、何も言わなかった。
「いえ…ルイ殿下が…」
「それこそどうしてルイ殿下がいらっしゃるの?…とにかくお通しして。くれぐれも失礼のないように」
「かしこまりました」
メイドたちも困惑しているようだった。
これから謝恩会なのだ。私を迎えに来るのならルイ殿下ではなく婚約者(仮)のオーギュスト様だろう。しかもメアリーはルイ殿下と親しくしてはいるもののわざわざ謝恩会の前に来るほどの間柄でもないはずだ。
…いや、ユリウスという例外もいるけど…
丁寧なノック音がしてそっとドアが開かれた。
そこにはオーギュスト様とよくにた雰囲気の、でもオーギュスト様より数段可愛らしさを増した男の子が立っていた。
ラブファン攻略キャラ、ショタ枠担当ルイ殿下。
お名前をルイ・パティス・フォン・ロート・ド・ジョージ・フリードヒ・アルテリシア殿下
名前長いよ…。
優秀すぎる兄にコンプレックスを持つ小悪魔キャラという位置づけで只のショタキャラではない。
可愛らしい笑顔の裏で何を考えているかわからない、自分の笑顔ひとつでどんな相手でも手玉にとれると思っているのだ。
つまりメアリーに通じるものがある上に地位がルイ殿下の方が高い分あまり敵に回したくない相手である。
ルイ殿下に何か要求されたら私は断ることができない立場にある。
「メアリー、入ってもいい?」
「えぇ。どうぞ、殿下」
ルイ殿下は可愛らしい笑顔を張り付けたまま先ほどユリウスが掛けていたソファーにゆったりと腰かけた。
柔らかな髪にキメの細かな肌、くりくりとした宝石玉みたいな目元に縁どる長く豊かな睫毛。たいへん美人だったというお二人の亡き母君、ソフィア様の生き写しとまで言われるルイ殿下はオーギュスト様によく似ているにもかかわらず中世的な容姿をしている。
計算されつくした角度でこてんと頭を傾け、どのように形作れば最も魅力的に映るか知りつくした笑みを浮かべる。
普通の女性ならこれでイチコロになるのだがルイ様の本性を知っている私としては気が気じゃない。
これゲームだったらルイたんまじきゃわわわわ~~~~~~~とかのたうち回るしルイ殿下の靴舐めます!!ゴミを見る目で見てくださいっ!!罵倒してっ!!その蔑んだ目最高っっ!!!!!て平身低頭するんだけどなぁぁ…。
あ、もちろん推しはオーギュスト様一択だからこれはラブファンのファンの挨拶みたいなものであって決して浮気じゃないから!!
じゃなくて!!!
このタイミングでメアリーを訪問する理由って一体何?!?!?
オーギュスト様に悪役令嬢はふさわしくないから遠巻きに婚約を辞退せよと言いに来たとか??
ルイ殿下ってそういうことするタイプじゃないけどなぁ~。
沈黙を破ったのはルイ殿下だった。
「メアリーは兄上との婚約が正式に決まったそうだね」
「…はい…」
え?!急に本題入る?!っていうかこれ本題でいいの!?!?でもほかに用件ってある?!?!
「ふうん、オメデトウ」
片言ーーーー!!!殿下片言だよーーー!!!なんか背後に黒いモノ見える!!!
オーギュスト殿下に裏の顔があるように、ルイ殿下にも裏の顔がある。
それがこの背後に黒いものを背負ったルイ殿下で、ファンの間では通称、悪魔のルイ様。
普段のお姿が天使のようにお可愛らしいのに対して、この黒いモノを背負ったルイ殿下は悪魔のようになる。
ゲームでもたびたびお目見えしていて、それはルイ殿下の大切なものを傷つけられたときに発揮されのだ。
それはルイ殿下が大切にしている温室のが傷つけられたときだったり、ヒロインが傷つけられたときだったり…。
あ、このヒロイン傷つけるのは誰っていうか私なんだけどね。
で、なんでその悪魔のルイ様が降臨したの?!?!やっぱりオーギュスト様の婚約ダメだった?!?!
すみません、私から断らなくてもオーギュスト様が破棄してくれるから待ってて!!!
「チッ、アリスも役に立たないなぁ」
「え?!殿下、今何と??」
「ううん、メアリーは知らなくていいんだ。それよりメアリーは約束破るんだね」
「約束…ですか?」
「うん、小さいとき約束したじゃないか。僕とずっと一緒にいてくれるって」
「え…?」
やっば、マジで身に覚えない…。
え?私ルイ様とそんな約束してたっけ???
私の記憶が戻ったのって5歳くらいのときだから攻略キャラたちとの接し方には気を付けていたつもりなんだけどな…
ルイ様と約束なんて迂闊なことするとおもえないんだけど…うーん…。
「覚えてない?小さいときお城に遊びに来た時約束したじゃないか」
「小さいとき…あぁ!!!!!」
思い出した!!!!あの時か!!!!
さて、ルイ様は小さいときから大変可愛らしかった。それこそ女の子たちに紛れても全く見劣りしないどころか他の女の子を押しのけて可愛さを発揮してしまうくらい。
そのルイ様を大変気に入ったのが幼いときのメアリー、私だ。
もうさ…歩くお人形にしか見えなかったわけね…。でさ、しっかりルイ様って紹介されていれば私もあんなことしなかったって…。
うん…。
メアリーがまだ5歳と半分くらいの頃。
オーギュスト様の婚約者候補たちが一同に集められたことがあった。王宮の中庭には5歳前後の女の子がいっぱい集められていて、みなそれなりに集められた理由はわかっているようだった。
とはいえ私は既に記憶があったので自分が選ばれることも婚約破棄されることも知っていたからこんな茶番退屈で仕方なかったのだ。
その時偶然みつけたのがお忍びで様子を見に来ていたルイ様だった。
私はその可愛らしさを一目で気に入り私の控室に連れこんだのだ!!
『あなたとってもかわいいわね!!この服がきっと似合いましてよ!どうして男の子の服なんて着ていらっしゃるの?』
『えぇ…だってボク男の子だし…』
『そうですわね!!こんなに可愛いのです!男の子に決まっていますわ!!』
『意味わからないよ!!』
困り果てるルイ様をあれよあれよという間に着替えさせあっという間にドレスを着せ可愛らしく髪飾りを付けてあげればあっという間に等身大の着せ替え人形だ。
いやね、私もこの可愛い子がどうしてルイ様だって思わなかったか本当にわからないのだけど…ふつう女の子しか集められていない中庭に男の子がいると思う?
てっきり男装している女の子って思うじゃん??
人とおり遊び終わったメアリーは満足したが、ルイ様はそれどころじゃない。自分の従者とも離れ離れにされ(メアリーが強引に引き離した)さぞ心細かっただろう。
ルイ様のお母様はルイ様を出産して間もなく亡くなった。
王宮にはオーギュスト様も優しい従者たちもいたが寂しかったし誰かに思いっきり甘えたかったのだ。
そしてこの日、ルイ様の不安は限界に達した。
『うっ…うぐっ…えぇえええええええん!!!!うわああああああああん!!!!!』
『えぇえ!!!ごめんなさいっ!!私調子に乗りすぎたみたいで…あぁ、泣かないでくださいな…』
わんわん泣くルイ様を安心させるように抱きしめポンポンと背中をさすってあげればルイ様は安心したようにしゃくりを上げた。
『うう…ボクさみしいんだ…もうやだよ…』
『誰かあなたのことをこうして撫でてくれる人はいらっしゃいませんの?』
『お兄様もお父様もお忙しいから…』
『そうですか。こんなに小さいのにお一人で頑張っていらしたのですね』
頭のいいメアリーはこの時点で母親が故人であることを悟っていた。医療技術が未発達なこの世界では風邪をこじらせて亡くなることだってよくある話なのだ。
それでも、まだ自分より年下であるこの子どもが母親に甘えることもできず一人で泣くことも我慢していたということはメアリーにとっても真理にとっても同情するに値した。
普段は悪役令嬢として傍若無人に振る舞っているメアリーだが泣く子どもには弱かった。
『では今日は私があなたのお母さんです。思う存分甘えなさい』
『今日だけなんてヤダ!これからもずっとがいい!!』
『あら、我がままさんですわね。では二人だけのときは私があなたのお母さんになってあげます』
『これからもずっと?』
『えぇ。ずっとです。でもこれはふたりだけの約束ですよ』
そう言って、メアリーはいたずらっぽく微笑むとようやくその子は天使のような笑顔を浮かべた。
って…まだ覚えてたんかーい!!!!!!
あれ10年以上前のことだよ!?!?!?え????マジ?????ルイ様一途過ぎない????
えええええええええええええええええええええはははははははああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!?!ちょっとマジかよ!!!!
こんなのゲームに無いって!!!!
私もあの美少女がルイ様だって気が付いたときにはやっちまった~とか思ったさ!!
でもね!ルイ様が将来小悪魔になるって知ってたの。だから大丈夫かな~って思ってたわけね!!
そりゃ10年以上も前の話だよ?ふつうもう忘れてるって思うじゃん?!
あー…どうしよう。困った。
これ忘れてたとか言えないやつ~。そんなこと言ったらルイ様の性格上なにをスティルアート家に命令してくるかわからない…無理難題とか平気で言ってきそう…。
えー…交易ルート?品種改良の技術提供?運搬ルートの提供?魔力蓄電池の権利とか?
あー、これ痛い!!断固阻止!!
そもそもほとんど私の権利じゃないから一存で渡せないんだけどね!!婚約破棄されたとき混乱しないようにお兄様とお父様に渡しちゃってるんだ!権利!!
「ルイ様」
「なんだい?メアリー」
「私、嘘なんてついていませんわ」
ええい。こうなったら言い訳だろうがなんでも誤魔化してやろうじゃないか。
悪役令嬢の口のうまさを見せろ、メアリー!
「へぇ」
ルイ様は相変わらず背後に黒いものを背負って私を試すように流し目で答えた。
この兄弟のこういうとこ好きぃ!!!
じゃない!!!今真面目なとこ!!
「ルイ様のお母さんでいることとオーギュスト様と結婚することは矛盾しないではありませんか」
「覚えてたんだ」
「…もちろんです」
見抜かれてらぁ…。
「それによくお考えくださいな。私がオーギュスト様と結婚したら私の住まいは王宮になりますのよ。今よりお会いできる機会は増えるのではありませんか?確かに義理の弟君と過度に仲良くする行為は許されたものではありませんがルイ様なら誤魔化しもききましょう」
「へぇ、随分買ってくれてるんだね」
「もちろんです。ふたりでお庭にお菓子と珍しいお茶を持ち寄ってささやかなお茶会を催すことくらいメイドたちも目くじらを立てませんわ。あとはルイ様の温室でお花を観賞したいですわね。お城に住むのですから夜にしか咲かない花は開花する瞬間も一緒にご覧になれますわ」
一息にまくしたてれば、ルイ様は満足したのか背後の黒いモノをひっこめてくれた。
お?これは…
「…いいよ、その言い訳のってあげる。約束を忘れてなかったことに免じてね」
あっっっっぶねーーーー!!!!!
忘れてたとか言わなくてよかった!!!悪役令嬢の伸縮自在の表情気ありがとう!!!命拾いした!!!
「ふふっ、兄上とお幸せにね」
「ありがとうございます…」
ルイ様は天使の笑顔で部屋をあとにした。
なんだろ…ドッと疲れた…。
あ…ルイ様ルートはあとでってことで…今は少し疲れたんだ…化粧も直してもらお…