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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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52’.9歳 仕事したくない

教会汚職事件の余波はアルテリシア中に広がったらしい。

大教会を含めて全国の教会は説明や調査に追われて冬に行う予定だった聖誕祭は中止になったと発表があった。



キャンタヘリー教会の火災以降過労で倒れた私は自室のベッドでお気に入りの本を読んでぬくぬくしていたのだけど、お父様がそれを許してくれるはずはなかった。


サインだけ必要な報告書を山のように私の部屋に送ってくれたのだ。



「お父様は幼い娘をいたわる気持ちがないのかしら…」


悪役令嬢の親にしてはうちの両親はまともな人だと思っていたけど、メアリーの強引なところは間違いなくお父様譲りに違いない。


相手に有無を言わせず自分を通すところに猛烈な既視感を覚える。



「きっとそれだけ領主様も困っているのですよ」



ベッドの横から伸びた小さなテーブルでちまちまとサインを入れ、確認した書類をルーシーに渡し、未処理の報告書を新たにもらう。


ルーシーが事前にチェックしてくれているからよほど変な書類はないし簡単な作業だけど、ちまちまとサインだけを入れていくという仕事は地味に苦痛だ。



そろそろペンを握る手が痛くなってきているし腱鞘炎を疑った方が良いかもしれない。ペンから手を離すと筋肉が固まって手を開くとき痛いくらいだ。


前世で姉の原稿を手伝っていたとき毎度毎度追い込みをかけているときはこんなんだったっけ…。



ベッドの上で上体を起こしクッションを背もたれ代わりにしているけれど、同じ姿勢をずっと続けているせいで腰に違和感がある。


黒い小さな文字ばかり目で追っていたせいでこ心なしか目がしぱしぱしてきた。瞬きを頻繁にして目のマッサージをするようにしているけど回復した傍から目が疲れる。



前世の世界で入稿前に無茶しまくっていたときは既にいい歳だったけどこの体はまだ9歳に差し掛かったばかりなのであまり前世のような酷使はできないだろう。





「あとどれくらいあるの?」


「このくらいですね…」


一抱えはありそうな箱に報告書と思われる黒い文字がびっちり書かれた書類の山が詰め込まれていた。


確認が必要な箇所に付箋が貼られているようだけどその付箋もわんさか貼られていた。



「…私病み上がりなのよね」


「存じております」




もう嫌だ。


どうして優雅な令嬢に生まれ変わったはずなのにこんなブラック企業みたいな仕事してるの?私。



本来こういうご令嬢ってフォークより重いもの持ったことないものなんじゃないの?


ちょっと歩くと貧血で失神起こすものなんでしょ?色白通り越したくらい肌が白いほうが美人なんじゃなかった?



少なくともこんな腰痛寸前で腱鞘炎になっている令嬢が美人ってわけじゃないよね?




「……明日は街の視察に行かない?街びらきとか収穫祭とか寝込んでたから今の様子を知らないのよね」



「しかしこちらを終わらせてからでないと…」



「行きましょう。報告書なんかより街の視察の方が重要よ。これは命令だから。もうイヤ、もうサインなんてしたくない。誰が何と言っても明日は仕事しないから。絶対。絶対に。」



「……はい…」



私のただならぬ気配に何かを察した優秀な文官は渋々明日の外出を許してくれた。





というわけで翌日はお忍びで街に行くことになった。いつも通り私が呼びつけたエマとデイジー、ルーシーという面々だ。




地味な服を着て馬車に乗り込めばちょっといいところのお嬢様がお忍びで遊びに来たという雰囲気になる。


この間モニターで散々私の姿は見られたけど服装や雰囲気が少し違うだけであまり気づかれないようだった。


ちょっとした芸能人気分である。



「街もすっかりきれいになったわね!臭くないっていいことだわ!」


「皆もよろこんでおります。久しぶりに街を気兼ねなく歩けると」


「ふうん、いいことだわ」



公共施設がオープンして街では式典が行われ、人が行き来するようになって活気が戻ってきたそうだ。


以前のように道が汚水であふれることは無いし頭上から汚物が降ってくることもない。


街にこびりついていた異臭は式典のとき魔道具を使って綺麗にしたとのことで、少し前までこの街が汚物まみれだったと気づく人はいないだろう。



「あれね、ブレインがやってる啓蒙活動って」


「はい。ゴミ分別と回収のポスターですね。あっちはポイ捨て禁止のポスター。学校の子どもたちが描いたそうです」



「へぇ」


ゴミの回収日と回収場所について書かれたポスターと小学生くらいの子が図工の時間に描いたであろう大胆なタッチと奇抜な色使いで描かれたポスターが貼ってあった。


『ゴミはゴミ箱へ』という単純なメッセージに子どもとその親がゴミ箱にゴミを入れている単純な絵だけど、子どもが描いたというだけでなんだかポイ捨てしてはいけないような気分にさせられる。



街にはこのポスターが至るところに掲示されていて、街の住人たちへの意識付けを行っているそうだ。



「効果はあったの?」


「せっかく綺麗な街になったから自分たちの手で維持していこうという声は上がっていますよ。以前は汚物を道に捨てても何も言われませんでしたが最近では近所から叱られるそうです」



「でも街の風景がポスターまみれっているのもなんだか地味ね」



街は確かに人の行き交いが盛んになって活気が戻っている。でもまだ景観に対する意識は低いようでなんだか地味だった。


せっかくオーギュスト様をお迎えするのだからもっと華やかで明るくしたい。



「そうねぇ、街に花でも飾ってみたらどうかしら?」


「花、ですか…?」


「花よ。花。珍しい花とか彩りのきれいな花でもあったら華やかだと思わない?さっそく手配してちょうだい」



「は、はい…」


名案とばかりに手をポンと叩きルーシーに指示をだした。ルーシーはメモ帳に書きつけて不思議そうな顔をしていた。


「どうかした?」


「いえ、お嬢様がお花と言うのも珍しいと思いまして」


「花より野菜とか果物のほうが食料にもなるから好ましいけれど、こういうのって玄関を綺麗に整えておくようなものよ」


「なるほど…」




いつも街へは仕事で来ていたからこういうふうにのんびりと街を歩くのは初めてだ。



すっかり舗装された大通りでは客を呼び込む声がそこかしらに響き渡っていて、子どもが走り回っている。

初めてみたときは場末のゴミ溜めのような街だと思ったけれど、今となってはその面影もない。


改装した店舗もあったようで真新しい看板を掲げている店や今まさに改装中の店も立ち並んでいて賑やかそのものだった


その中でもひときわ目立つ外観の宝飾店があり、看板の端にソニア商会の名前をみつけた。



「あの店ソニア商会の店なのね。入ってみない?」


「え?お嬢様本当ですか!?」


デイジーが嬉しそうに聞き返す。エマも表情が明るかった。やっぱりアクセサリーのお店って若い女の子に人気なのかしらね?


「えぇ。いつも付き合ってくれているしお礼みたいなものよ。なにか選びなさい」


「やったぁ~」



ちなみに私が自由にできるお金はちゃんと持っている。


額は子どものお小遣いにしては高額だけれど、それでも足りなくなったら我が家に請求をまわしてもらえばいい。



エマとデイジーがきゃっきゃしながら店のドアを開き私を通してくれた。


ふたりが髪飾りやネックレスをあれこれと物色している間、私は店の様子を眺めることにした。



ソニア商会はかなり手広く商売をしているようで、最初に始めた食品部門から今では化粧品、服飾、宝飾品と女性向けのブランドをいくつか展開しているらしい。



この宝飾店は少々高級な部類に入るようで、外観はガラス張りになっていて中の様子は見えるのに敷居が高い印象を受ける。


内装もそれに見劣りしない高そうなインテリアに囲まれていて、毛足の長い絨毯が出迎えてくれた。


店の中には傷ひとつなく磨かれたケースが整然と並んでいて、高級店に相応しい整った身なりの店員たちが品よく接客をしていた。



一目みて私がどこかのお金持ちのご令嬢と判断した店員は丁寧に私とルーシーにソファーとお茶を出してくれたので一服することにする。



「ルーシーもなにか見てきなさいよ」


「え、私は…」


「いつも頑張ってくれているご褒美よ。私もこういうお店に興味あるから一緒に見に行きましょう」


「は、はい」



ルーシーはやっぱり根が真面目なせいか洒落たことにまだ苦手意識があるらしい。


最近は服や化粧を綺麗にするようになったけどエマやデイジーの前では遠慮してしまうようだった。



私の場合は直接店に出向かなくてもあちらからやってきてるので店自体、来たことがないのだ。


前世の世界で私の私室にしていた部屋より広い衣裳部屋にはどれだけの衣裳とアクセサリーがあるのかわからないけど、それらは全て外商から直接買ったものなので直接店に行くということは少しだけ新鮮だった。




「いいものはあったかしら?」


「あ、お嬢様!こちらの髪飾りがルーシーさんに似合いそうだって話していたんです」


「綺麗ね。良いと思うわ」



デイジーが店員から出してもらっていたのは白いパールと石で小さな花のモチーフがあしらわれた髪飾りで、シンプルだけど手の込んだ品だとわかった。


日常的にも使いやすそうだしブローチみたいにしてもいいかもしれない。



「ためしに着けてみたら?」


「えぇ!?よいのですか?」



ルーシーが大袈裟に驚くのでこちらの世界ではあまり試着をしないのかと思ったけど、エマもデイジーもニコニコしているので単純にルーシーが気おくれしているだけみたい。



「ささっ!ルーシーさん、御髪を失礼いたしますね!」


「やっぱりルーシーさんは綺麗な黒髪ですからよくお似合いですわ~」


カウンター越しで店員が鏡を構える。手際のよい3人の連携によって髪飾りはあっという間にルーシーの髪にとめられてしまった。



繊細な白やクリアカラーが艶やかな黒髪に映えてとても綺麗だった。ルーシーは日本人を思わせる黒髪をしているからどこか懐かしい気持ちになる。




「似合うじゃない。これ私からのプレゼントにしましょうか。包んでくださる?」


「ほ、本当によろしいのですか!?お嬢様!!」


「ルーシーにはいつも頑張ってもらっているからたまにはいいでしょう」



金額を確認したら十分に予算内だったので有無言わさず購入を決めた。


店員は愛想よくお礼をいうと髪飾りをビロードのトレイにのせて奥で梱包をはじめてしまう。



「あ、ありがとうございます…お嬢様…」


「これからもあなたの活躍に期待しているわ」


「は、はい!」



「ルーシーさんは綺麗な黒髪をされていますからなんでも似合いますわね」


「え、そうですか?地味ですし不気味ですから小さいときは気味悪がられたのですよ…」



「確かに黒目黒髪って珍しいですわね。もしかしてハーフだったりするのですか?」


「はい、父が外国の人だったと聞いています。私が生まれる前に家を出ていったのであまり詳しくないのですけど…」



3人は歳が近いし一緒にいる時間が長いけれど、エマやデイジーはお堅いイメージのあるルーシーにどこか近寄りがたいところがあったらしい。


逆にルーシーも華やかな二人に気後れしていて、どこか距離があったようだ。



おしゃべりに花が咲いた3人はそのままにしておいて、別のケースをちらほらと眺めていく。


とはいっても家にネックレスもイヤリングも山ほどあるからあまち物欲はわかなかった。



前世の頃からそれほど服にもアクセサリーにも興味なかったからね…。



貴族のお嬢様に生まれ変わってしまったからそういわけにもいかなけど、髪留めも服も最低限のTPOを弁えていてくれたらそれでいい…。




曇りなくピカピカに磨かれたケースを見ているうちに、一つだけ気になる指輪をみつけた。


赤い、ルービーみたいな色をしているけど、どこかおかしい。なんていうか…違和感がある。



「ちょっと、こちらを出してくれる?」



つかず離れず私の様子を伺っていた店員にそういうと、白い手袋がケースの鍵を開けて指輪はグレーのビロードに乗せられてケースの上に姿を現した。



「こちらは今日入ったばかりのルビーです。これほど傷がなく大粒の石は珍しいのですよ。お目が高くていらっしゃる」



男性店員は流暢に接客トークを続けるが私はそのほとんどを聞き流し、指輪を手に取って裏側をみたりじっと石を見つめた。



シルバーのリングにオーバルの真っ赤な石が堂々と鎮座していている。均一にカットがされキラキラと光を反射いていた。


透き通るような真っ赤な石は貴婦人の指に添えたらさぞ映えるだろう。



高価な品であることがよくわかる逸品だ。小さく付けられた値札もさきほどルーシーに買ってあげた髪飾りよりも桁が多い。



でもなにか違和感がある。



それが何かと聞かれたら何かわからないけど、少なくとも私が見慣れた宝石たちとは違う気がした。



「そちらの指輪はまだお嬢ちゃんには大きいね。もっと大きくなったらお父さんかお母さんにお願いして買ってもらうといいよ」



男性店員が子どもに言うみたいに猫なで声でそんなことを言う。

要するに「きみのような子どもが買えるものじゃないから出直してこい」ってことだ。



「うるさいわね。見るくらいいいでしょ」



無礼な男に言い返していると、何かを察した3人がすぐに来てくれた。よくできたメイドと文官だ。



「あら、お嬢様はルビーが気になりましたか?」


「立派な石ですね」


「気になるって言うかこれ違和感があるのよね」


指輪をくるくると指先でまわして考え込む。私には宝石の真贋がわかるような能力はないし前世の頃からそんな特技はない。


だからこの指輪に何があるかと聞かれてもわからないとしか言いようがないのだ。



「もしよろしければ奥様に相談されてみてはいかがでしょう?」


「いいわね。今ってお母様はお屋敷にいらっしゃるかしら?」


「連絡鏡があるので大丈夫ですよ。えっと…」



デイジーがハンドバッグを探って連絡鏡を取り出す。花のモチーフがあしらわれたそれはお母様用の連絡鏡だった。




「連絡鏡が一対でしか使えないってけっこう不便よね。どうにかならないのかしら?」


「ディーさんに相談したらなにか作ってくださるかもしれませんよ」


「いい案だわ」


「お嬢様、奥様に繋がりましたわ」



デイジーが連絡鏡を私に向けてくれた。お母様は屋敷の私室にいたようで、背景は見慣れた自宅だった。



『メアリー?どうしたの?今日は街に行っていると聞いているけど…』



「はい。今日は街の視察をしておりましたの。そこでソニア商会の宝石店に来ていたのですけど…」



『あら、お買い上げありがとう。なにかほしいものでもあった?』


「それは私のお金で買ったのですが…気になる指輪がありまして…」


『指輪?』


「はい。なんというかその指輪についているルビーに違和感があるんですよね…」


『ふうん。ちょっと店長はいるかしら?』


「え?」


エマが店長と思われる男性店員を呼んでくれた。さっき私に指輪を出してくれた男だ。急な呼び出しに怪訝な顔をする。



店内で私たちは目立っていたらしく他の客たちからも注目を集めていた。売られている商品がなにかおかしいと騒ぐお嬢様がいて迷惑していたのかもしれいない。



「いかがされましたか?」


『ごきげんよう』


店長は眉をひそめながら連絡鏡をのぞくと、そこに写っていた人物に驚いてヒィッと小さく声を上げた。


みるみる真っ青な顔になって店長はお母様と何か言葉を交わし、やがて終わったらしい。


連絡鏡が私のところへ戻ってくると同時にくるりと振り替えって店の奥へと小走りにひっこんでいった。



「なんだったのかしら…」


『メアリー、今から店長がいくつか石を持ってくるからおなじように違和感があったものを教えて頂戴』


「私鑑定なんてできませんよ?」


『ちょっとでもおかしいと思ったら教えてくれたらいいわ。そんなに深く考えないで』


「は、はい…」


『じゃあお願いね』


そういって、連絡鏡は一方的に切られてしまった。入れ替わるように店長が大きめのビロードが貼られたトレイを運んでくる。


さっきの失礼な態度とは打って変わって今にも倒れそうな顔をした店長は恭しくトレイを差し出した。


これはお母様に何か言われたのかもしれない。



「先ほどは…その…メアリーお嬢様とは存じ上げず…大変失礼いたしました…どうか存分にご覧ください」



トレイの上には色とりどりのネックレスや指輪、イヤリングにピアスが均一に美しく並べられていて、さながら高級なチョコレートだ。


全てのアクセサリーに大小さまざまな石が乗っていて思わずほうと溜息がでる。



店長はトレイの向こう側に空のトレイを2つそっと置いて、そのあとは置物みたいに存在感を消し固まっていた。


私たちは店長の意を汲んで彼の存在を無視したままあれこれと石を手に取ってより分けていく。


大半は私の勘でなにかおかしいと思ったものを右、違和感を感じなかったものを左といった具合に分けていくだけなんだけどね…。



「ふう。こんなもんかしら?店長、終わったわ」



だいたい3分の1くらいのアクセサリーが右のトレイに移された。


勘で選んだだけだから本当に正しいかわからないけれど、それで構わないと言ったのはお母様なので確認とかはしないでおく。



店長はより分けられたトレイを再び奥へ持っていき慇懃に頭を下げた。



「余計な仕事が増えたわね。エマ、デイジー、あなたたち欲しいものは決まったかしら?」


「はい!」


思いがけず仕事をしてしまったけれどここへ入った目的は忘れていけない。


そのあとは店長自ら丁重に私たちをもてなしてくれて、エマはネックレス、デイジーはイヤリングをそれぞれ選んでお買い物は終わった。



買った品物はスティルアート邸に送ってもらうよう手配してようやく店を後にする。




「ちょっと冷やかすだけのつもりだったのに仕事をした気分だわ。今日は仕事しないって決めてたのに」


「もしかしたらお嬢様はお仕事に好かれているのかもしれませんね」


「絶っっっ対イヤ!」




するとそこへにゃあという泣き声と共に猫がひらりと私たちの前に現れて。


「猫だわ」


「あら、珍しい…」


可愛らしい三角の耳と長い尻尾と揺らした茶トラの猫はもう1度にゃあと鳴いて道を悠然と渡っていく。少し毛が汚れているので野良猫だろうか?

きゅるきゅるとしたまん丸の瞳でみつめられるとつい手を差し出してしまいたくなる。



「おいでおいで~」


しゃがんで猫に触ろうとすると、猫は興味がないようで長い尻尾を一振りして裏道に入って行ってしまった。うちでは猫が飼ってもらえないから少し残念である。



でも小さい動物というのは癒しの効果が高いようで、少しだけ優しい気持ちが返ってきた。



前世の世界でも猫は大人気で私も好きだった。私以上に猫好きだった姉が猫アレルギーだったから1度も飼ったことはないけど…。



でもその反動なのか家には猫グッズがたくさんあって猫雑誌とか、猫も飼っていないのに猫用の土鍋とかあって猫のぬいぐるみが詰め込まれていた。



猫を飼っている友達の家に遊びに行ったときはあまりに可愛がりすぎて蹴りを入れられたものだ。




「猫は気まぐれですからね。でも珍しいです。街で猫なんて」


「そういえばあまりみないわね」



「昔商工会の会長が猫嫌いで猫を駆除したことがあったそうです。見かけると捕まえて役所の動物管理部に持って行ってしまうのです。その影響ではないかと…」



「その猫たちはどうなるの?」


「まとめて殺処分されていたようです。役所で飼育できるわけではありませんからね」



「猫を捕らえて殺処分にするなんて罪深いことこの上ないわ!!街に猫を増やしましょう!お屋敷で猫が飼えないのだから街で可愛がればいいのよ!」


「えぇ…!?本気ですか!?」



「当たり前じゃない!猫は可愛いのよ!こんなに可愛い猫が街中にいたら癒されるに決まっているわ!」



あのふわふわの毛並みとぷにぷにの肉球、ぴょこぴょこと動くお耳、存在そのものが可愛らしい。きっと仕事に追われる人間たちの心を癒してくれるだろう。いや、そうに違いない。



この報告書に追われ急に仕事を押し付けられ、心まで荒んでしまった私をこれほど癒してくれたのだ。


きっとマイナスイオンとかそういう物体を発生させている。猫そのものがマイナスイオンの塊なのだ。マイナスイオンが何なのか知らないけど。




かくして、役所動物管理部に保護されていた猫たちは病気やノミの検査を受けたのち街に戻されることになった。



一時的に街のゴミが荒らされたり糞便のトラブルが発生したそうだが、ネットを貼ったり猫よけのハーブを置くことで対処できたそうだ。



これに伴い私が提案した花を街に設置する計画は一部にハーブが加えられた。今街の中はハーブのほのかな香りと色とりどりの花々に囲まれている。



ちなみにこの設置された花にはお兄様からの発案でアルテリシアで栽培されている珍しい花が加えられたそうで、子どもたちの学習教材になっているそうだ。



さすがお兄様。抜け目ない。


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