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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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50’.8歳 悪役令嬢はたからかに嗤う

(後半に火事の描写があります。苦手なかたはご注意ください)




「め、メアリー様!!これは一体どういうことですか?!この警備兵たちはっっ!!??」



警備兵たちは手筈通りに応接室に乗り込むと、主教は面白いくらいに狼狽えた。


主教の手に縄をかけないのはまだ私との話が終わっていないからに過ぎず、合図ひとつでこの主教をいつでも牢に放りこめると思うと思わず嗤いが込み上げるが、まだ話は終わっていない。


きっちり落とし前を付けてもらわなくては私のこれまでの労働と見合わないのだ。



「こちらは私からの正式なお気持ちですわ。お気に召していただけたかしら?」



「ご冗談を…何かの間違いでしょう?大人を揶揄うものではありませんよ」



「ご、じょうだぁん?フフっ…あははっ!冗談を言っているのは主教様、あなたではなくて?


どこの、誰が、いつ、『お気持ち』がお金や魔法石だなんて言いましたか?」


「なっ!教会へ捧げるお気持ちといえば価値のあるものだと…そんなこと常識でしょう!」


主教派の司祭が吠えるように叫ぶ。彼らも警備兵の捕縛対象なので屈強な警備兵に囲まれて気がきではないのだ。

声が裏返っているところがまたおもしろい。



「あら?なんのことですかぁ?私は『これまでのお気持ち以上のお気持ち』としか言ってませんのよ?神の言葉を騙る不届き者の主教様に正義の鉄槌を下しただけではありませんか?これ以上のお気持ちがありまして?」


「騙したのか!!詐欺師め!!」


「神の罰が下るぞ!」


「神への冒涜だ!」



「神への冒涜?罰?そんなものがあるなら私より先にそこの主教に下るでしょうね。主教様の罪は重いから」



違法魔道具の所持や移民たちを人質にして寄付金をだまし取ったこととか、いろいろあるけれど何より私の衛生改善計画を邪魔した罪が最も重い。


本音は処刑にでもしたところだけどそのへんはお父様にお任せする話になっているので私は知らない。



「はっ!こんな小娘の話なんぞ誰が信じるか!!貴様らもたかが領主の娘というだけで言い包められよって…私の背後に誰がいると思っているのだ?こんなことをして許されると思っているのか!」



「あははっ!絵にかいたような悪役のセリフねぇ~。あなたの背後に誰がいるかなんて知らないけど、あなたは少なくともこれでオシマイよ」



「どうだかな!証拠が無ければ私は無罪放免!そこの魔道具だって一回使ったら単なる羽ペンになるのだ。いくら調べようが証拠は出てこんわ」



主教が勝ち誇ったように吐き捨てた。

どうやらさっきの魔道具は証拠品にはならないらしい。それはそれで少し手間が増えるがかまわない。



「それが何だと言うのです?」


「何?!」


「お嬢さんがた、証拠は抑えまして?」


「ばっちりです!」



私の背後で魔法石を構えていったメイド2人が嬉々としてカシャカシャとカメラのシャッターを切った。


この場に不釣り合いな軽快な音がせわしなく鳴った。



「おまえたちは…一体?!」


「あら?主教様ったらご自分でお雇いになった記者のことをご存知なくて?彼女たち、けっこうな危険を犯したのに支払いが滞っているって随分お怒りなのよ?」



「記者?!うちで雇った記者は確か男のハズ!女ではないぞ!!」



「女だと侮られるから男の名前を使っていただけです!そうでもしないと女の記者なんて仕事がありませんからね!」



あの工事現場に忍び込んでいた新聞記者というのはこの女性だったのだ。ペンネームはエドワード、本名をエドワルダ。


まだまだ数少ない女性の記者として細々と仕事をしていたものの何処の出版社も女性というだけで相手にしてくれず何か大きな仕事をして認められたいと思っていた。


そんなところに教会から破格の仕事が舞い込んできた。


教会からの依頼はスティルアート領で行っている修繕工事についてスティルアート家に批判が及ぶような記事を書けという事実無根の内容で正直彼女も引き受けたうは無かったのだけれど、金に困っていたエドワルダは泣く泣く仕事を引き受けた。



工事現場に忍び込んだり集合住宅で張り込みをしたり、ネタがないとなると私や環境部の面々を狙ったりしていたけれど収穫は無し。


追い詰められた彼女はついに役所で私と環境部が揃うタイミングを狙って写真を撮り裏取引をしている体で記事を書こうとしていたらしいが、あっけなく現場監督や影の騎士たちに捕まった。



そんなエドワルダに私は取引を持ち掛けたのだ。


私と一緒に主教の悪事を暴く手伝いをしてくれるなら作業現場に忍び込んだことは不問にしよう、と。


教会から支払いがないことに嫌気がさしていた彼女は二つ返事で承諾した。


ついでに新しく領内に入り込んできたもうひとりの記者、マデリンも捕まえ同じように交渉したところあっさり承諾してくれた。


彼女は彼女で大きなネタがあれば何でもよかったそうだ。




「はっ!!たとえ記者だろうが何だろうが女のいう事なんぞ誰が信じるか!新人の女記者と教会の主教、どちらの言い分が信用に値するかなんぞ火を見るより明らかだ」



「それがそうでもないんですよね~」



ちょいんちょいんと、エドワルダが持っている盆に乗ったピラミッド型の魔法石を突いた。


よくみると三角の中央に小さな穴が開いていて、そこには鏡が仕込まれている。よく見ないとデザインの中に紛れ込んでしまうものだ。



「この様子は全てお父様、領主様もご覧になっているから下手な言い訳しない方が良いわよ」


「…は?」


「これ、連絡鏡になっていてあちらにこっちの様子が映されるようになっているの。便利よね~」



「そんなもの…教会の魔道具登録にはないぞ!」


「無いもなにも、連絡鏡なんだから申請の必要ないでしょう?だたちょーっと鏡面が小さいってだけで普通の連絡鏡だし。で、どう?ちゃんと録画できているのでしょうね?」



『ばっちりだよ~、お嬢様!』


「どこから声がっ?!」


「あ、これこっちのお盆とセットの連絡鏡なの。ほら」


魔法石風連絡鏡が乗っていた盆の裏をこちら側に向けると、そこには瓶底眼鏡の自称医師がでかでかと映っていた。隙間からチラっとお父様とお兄様が見える。


連絡鏡の魔法石部分が盆とセットになっているから盆を傾けても魔法石は落ちてこない。



魔法石部分の鏡に映った映像をどうやってあちら側に送るかでディーは苦労したらしいけど最終的には完成させてくれた。



「やっぱりあなた、連絡鏡の職人にでもなったほうがいいんじゃない?」


『え~、絶対イヤ!お嬢様の我がままに付き合わされるだけじゃん!』



『主教よ、貴殿には失望した。しかるべき処分をさせてもらうぞ。牢獄で貴殿の罪、よく反省し神に許しを乞うがいい』



「りょ、領主様!これは誤解にございます!!私は騙されたのです!そう!これはそこにいる副主教の陰謀!メアリー様もみなさんも騙されているのです!」



この期に及んで主教は連絡鏡に映るお父様に向かって縋るように手を合わせ懇願した。さっきまでの言動は全て筒抜けだと言うのに愚かしいことだ。


「何言ってるの?副主教が潔白なことは調べがついているわ。教会病院のことだってね」


「…っ!!」



「無駄よ。お父様もずっとあちらであなたが違法魔道具を使うところもみていたし録画だってしているの。これから上がってくる証拠だってこちらの記者さんが世間に知らしめてくれるわ。



あなたはもう終わりなのよ。お父様の言う通り、神に許しを乞いなさい」



「…ふん、何が神だ!何が信仰だ!神など我々教会が無ければ崇める対象にすらしてもらえないというのに!」



「教会があろうがなかろうが神は神でしょう。この世界の創造主にして私たちに恵みを与えてくださる偉大な存在だわ」



「神などいるわけなかろうが!魔力も実りも、全て神が与えていると思ったか?!そのようなことあるわけないだろう!


この愚か者どもめ!愚民はそうやってひたすら神を妄信していればいいのだ!」



「まるで自分たちが神のようなご発言ね」



「あぁ、その通りだ。神は信託の巫女にしかお言葉を渡されない。信託の巫女がいない今、誰が神の存在を確固たるものにする?我々教会しかなかろうが!すべては神のために我々が行ってきたこと!全ては神のため、我々が神となるのだ!!」



「下水に汚水を流してはいけないとか、神へのお気持ちを捧げないと罰せられるっていうのも全て神のお言葉ではないというの?」



「そのような戯言…まだ信じていたのか。所詮領主の娘でも只の子どもだな!そんなことあるわけなかろうが!下水を流しただけで神の怒りを買う?だったら先人たちは全員地獄行きだ!」



「…神のためなら神の言葉を偽っていいとでも?」


「愚かにも神を妄信した貴様らの罪だろう!己の愚鈍さを呪うがいい!!」



もうこのくらいだろうか?いい加減この男と話していることにも疲れたのでそろそろ終わりにしようと思う。

小さく溜息をついて最後の締めにかかる。



「言いたいことはそれだけかしら?言いたいことを思いっきり言えて満足?」


「何?」


「って主教様がおっしゃっていますけどぉ、領民のみなさんどうですかー??」


「は?」


今度はマデリンが持っている連絡鏡に向かって話しかける。


そちらにもエドワルダが持っている連絡鏡と同じように魔法石に擬態させた鏡が仕込まれているが、その機能は異なるのだ。



『ぎゃははは!!メアリー様さいこー!!超おもしろかったよ~!いいモノみれた』


「ど、どういう…」



「こっちの魔法石だけ只の魔法石とでも思った?そんなわけないでしょう?


こっち、あなたたちが設置したあの大きなモニターに繋がってるのよ。


主教様の今のありがたーいお話は絶賛放送中ってワケ!よかったわね。偉大な神のお言葉が領民に知れ渡っているわよ」




こちらの魔道具は教会が設置したというあの迷惑なモニターに繋がれている。


私たちがここへやってきて主教が違法魔道具を使っているところからばっちり領内に放送されているのだ。もちろん今も。



「た、大変です!主教様!表に民衆が集まりだしてっっ!!」


「あら、思ったより早かったわね」


主教の腰巾着の司祭が応接室に飛び込んできた。


主教の暴露に疑問を持った人たちが続々と教会に集まりだしたというわけだ。


そりゃ慈悲深く民衆に優しいと思っていた主教様が違法魔道具を使っていたり汚職に手を染めていたらこうなるよね。



「教会の正門を破ろうと…!!」


「なんだと!?」


大量の足音がバタバタと近づいてくる。足音を止めようとする司祭たちの声もするが、数の暴力には逆らえないらしい。


襲い来る民衆に捕まるか、ここで警備兵に大人しく捕まるか、主教に与えられた選択肢は二つに一つだ。


私としてはどうでもいいのだけど今後の取り調べのためにも主教にはおとなしく警備兵に捕まってほしい。



「さぁ、どうします?主教様。このまま領民たちに誠実な対応をいたしますか?それとも警備兵と仲良く私たちと一緒に来ます?」



これでオシマイ。


モニター用の連絡鏡に私の顔が写らないよう注意しながらニイッと唇を歪めた。


たぶん私は今悪役に相応しい表情をているだろう。主教は今にも食われそうなネズミみたいにプルプルと震えていた。


しかし一番見所になる瞬間は何かが崩れ去る轟音と共に中断した。



「何のおと?!」


「何かが崩れたぞ!!」

「確認急げ!」


警備兵たちが慌ただしく状況を確認する。廊下から近づいてくる足音もさっきの轟音には驚いたようで動きが止まっていた。


つまり音の正体は彼らではないということだ。



嗅ぎなれない、悪臭とも違う鼻につく臭いがじわじわとした。


「え…まさか火事?」


この臭いには私も覚えがあった。


前世の頃、冬に焚き木をした時の臭いだ。ほかにも理科の実験でマッチを擦ったときの臭いにも似ている。


『お嬢様!礼拝室が火事だって!すぐ避難して!』


「嘘でしょ?!?!」


ディーが連絡鏡越しに大声を上げ、隣ではお父様が誰かに指示を出す声が聞こえた。マデリンとエドワルダが小さく悲鳴をあげる。



避難訓練なんて無いこちらの世界では火事とあれば一大事なのだ。しかもさっきの音からして礼拝室が崩れているのかもしれない。


応接室は礼拝室からそれほど距離はなく、早く非難しないと煙に巻かれる可能性だってある。



「煙を吸ってはいけません!すぐにここから避難するわよ!」


「は、はい!」


口をなるべく塞ぎ、腰をかがめて煙を吸わないようにする。前世でめんどくさかった避難訓練の知識がまさか役に立つなんて…。


基本はおすしだっけ?地域によってはおかしって言うところもあるそうだ。



「捕まってたまるか!」


「待ちなさい!」


火事に気を取られていた警備兵の手を振り切って主教が応接室から礼拝室のほうへ向かった。


黒い煙が濃くなって、目を開けているとしみて痛い。肺に煙が入ったようでせき込み、また煙を吸いそうになる。



「お嬢様!危険です!お戻りください」


「離しなさい!今主教を逃がすわけにはいかないわ!」


「お嬢様に危険が及ぶのを見過ごすわけには参りません!どうかおやめください!」



もう一度何かが崩れる音がした。


礼拝室の天井だろうか?このままでは主教のほうが死んでしまう。あと少しで主教を取り押さえられそうなのにもどかしい。


「警備兵が追っていますからご安心ください。私たちは早く避難しましょう」



「…わかったわ。…警備兵!絶対に主教を生かしたまま捕らえなさい!あいつにはまだ聞きたいことがたくさんあるのよ!」



警備兵たちが威勢よく返事をして私たちは中庭と通り外へ避難した。


外には予想通り街に住人たちがごまんと押しかけていて道を埋め尽くしている。


なるほど消防隊が来るのが遅いわけだ。消防隊の魔車が通れないらしい。



さっきまでモニターに映っていた私たちは注目を集めるには十分だったよで、どこからともなくメアリー様だ!とか、主教様のお言葉は本当ですか!?とか聞こえてきた。



煙を吸って息がしづらいこともあって、それらに応じる気になれず無視をする。



火の手が上がったという礼拝室はやはり天井から崩れているようで、黒い煙と赤い炎を上げながら崩れていた。


その様子をみながら住人たちが神がお怒りなのだとか、罰が下ったに違いないと言っていた。



遠くから消防隊がやってくる音が聞こえるが道が民衆で埋まっていて思うように進めないらしい。


このままでは礼拝堂の火は奥の孤児院や病院にも燃え移ってしまう。


声を上げようにも煙を吸ったせいかせき込んでしまいそれどころではない。ルーシーや記者たちも同じようでげほげほと苦しそうにしていた。



背後には炎と煙、風向きからしてこちらに火が及ぶことはないだろうけれど、このままでは私たちも危ない。


いくら外に出たとはいえ煙を侮ってはいけないのだ。でもこの群集では煙から逃げることも難しいだろう。



どうしようか考えていると、突然群集が海を割ったみたいに道の両脇にひっこんで、真ん中が綺麗に割れた。


まるでモーゼの海割りのような現象に何事かと顔を上げると、消防隊をスティルアート家騎士団の紋章が入った魔車が先導していた。



「騎士団の…車?」



「アルバート様です!アルバート様が騎士団と消防隊を連れてきてくれたのですね!」


先頭の魔車をよく見るとお兄様が乗っていて、魔車に取り付けられた拡声器で道を開けるように呼び掛けていた。



スティルアート家の騎士団は領内の警備兵と違って個人的に所有しているもので、動かせるのは直系のスティルアート家の人間に限る私兵だ。私兵といってもその力は国軍にも劣らないと言われる精鋭部隊である。



滑り込むように魔車と消防隊が駆けつけ、慌ただしく消火活動がはじまる。鎮火の魔道具が用意され機敏に動く消防隊によって教会は瞬く間に閉鎖された。



「メアリー!大丈夫かい!?怪我は?!」


お兄様が私の安否を確認するようにぺたぺたと触れ、怪我がないことがわかるとハァと大きく溜息をついて私を抱きしめた。


「お、おお兄様?」


「よかった…メアリーが怪我をしていたらどうしようかと思ったよ…」



すっぽりと包み込まれた感触に私も安心したのかどっと体の力が抜けて体重の全てをお兄様に預けてしまいそうだった。


一歩引くと、お兄様はそれを見抜いたのか殊更力を込めて私を腕の中に納め煙から私を守るように上着で顔を覆ってくれる。



「お兄様!ダメです!まだ主教は中にいますの!礼拝室のほうへ逃げて…」


「大丈夫、今警備兵と騎士団が追っているから!」


「でも火が…!!!」


「消防団の人たちが防火の魔道具を持ってきてくれているから少しの間なら炎のなかでも安全だよ。礼拝室は既に火が回っているし外に逃げるのだってこの状況じゃ無理だ。…あぁ、ほら、あちらをご覧」



「え…」



お兄様に促されて燃え盛る礼拝室に視線をむけると、防火の魔道具だというコートを着た消防団と警備兵、それに騎士団に囲まれて主教とその部下の司祭たちが連行されているところだった。


手にはこちらの世界の手錠のような魔道具をかけられすっかり小さくなっている。



「メアリー様、このとおり主教とその一味は捕縛いたしました。この度のご協力に感謝いたします」


警備兵が主教を私の前に連行する。主教は礼拝室に向かっていったせいで服がところどこと燃え黒いすすがついていた。おまけに抵抗でもしたのか、破れているところもある。


宝石や細かな刺繍が施された高そうな衣裳はすっかりみすぼらしくなっていた。



大柄な消防団と警備兵、騎士団の面々に囲まれると余計にしょぼくれてみえて滑稽だった。警備兵に背中を押され私の前に転がってきた。



「あぁ…慈悲深いメアリー様…アルバート様…どうか哀れなわたくしめにお慈悲をお与えください…


アルバート様はいつも孤児院の恵まれない子供たちに優しくしておりましたね…私はいつもそのお姿を拝見させていただいておりました…


子供たちにお与えになったようにわたくしめにもどうかお慈悲を与えて頂けないでしょうか…」




額を地面にこすりつけるように主教は懇願する。

私には強気な態度だったというのにお兄様にはへりくだるのだ。


このまま命じたら靴でも舐めそう。



でもお兄様だっていくら哀れな姿を見せられたからといって罪を軽くするつもりはないだろう。


記者も群集たちも遠目からこちらの様子を固唾をのんでみつめていた。一言一句聞き漏らすまいと誰しもが黙り込んで耳を澄ませている。



「あははっ!主教様もこうなると寂しいものね!」


「メアリー?!」


「私が慈悲を与えると思ったぁ?そんなことするわけないでしょう!神の名を騙る不届き者に罰が下ったのだわ!牢で己の罪を悔い神に許しを乞いなさい!」


「こ、この小娘め!!」


「連れて行きなさい」


憎悪に歪む主教を見下して冷徹に嗤う。両脇を警備兵に挟まれて引きずられるように警備車両に連れていかれた。



ようやく終わった。主教を牢屋にぶち込むためにしてきたこれまでの努力を思い出していると、だんだんと嗤いが込み上げてきた。



「あぁ!終わったわ!ようやくこの瞬間が訪れましたのよ!」


オーホホホと高らかに嗤う私の声が燃え尽きた礼拝室と教会に響き渡たる。



あとほかにもいろいろやることがあったなぁと頭のどこかで告げる声がしたけれど今はとにかくこの余韻に浸りたかった。


ひたってひたって小躍りでもしたくなったあたりで、


ブツンと私の記憶は途絶えた。



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