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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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43’.8歳 誤解なんです

「そんなわけだから4日後、迎えをやるからウチまで来て頂戴」


『いや…どんなワケなの?全くわけがわからないのだけど…』


「だからお父様にあなたたちのことを紹介するのよ」


音をたてないように優雅にお茶を頂く。目の前に置かれた小さな連絡鏡にはドクター(仮)が写っていて、隣ではルーシーがそわそわと双方の様子を伺っていた。


『それは構わないのだけどきみってボクの言ったことが信用できないから自分で調べてからとか言ってなかったかい?』


「そうしようかと思ったのだけどやっぱり私だけだと限界があるのよね~。もう調べようがないからお父様に丸投げしようかと思って」


『あぁ…そう…』


ドクター(仮)はわざとらしく額を指で押さえた。相変わらずなにを考えているかわからない顔だ。

結局ドクター(仮)の言う通り移民たちは教会の人質として保護されていた可能性の方が高い。


とはいえ監禁されているわけでもないし、主教のいない隙を狙ったとはいえ移民たちは自立に向けて頑張っているらしい。


人質というにはあまりにお粗末である。



「あの副主教も来れそうなら一緒に連れてきなさい」


『えぇ…クラウスってボクと違って忙しいよ…来てくれるかなぁ』


「だったら領主命令よ、連れてきなさい」


『わぁ…きみが領主ってわけでもないのに横暴…』


副主教のクラウスをわざと私に引き合わせたことからドクター(仮)のいう『ボクたち』に含まれるほかの人はクラウスだろうと予想していた。


否定しないのでアタリのようだった。



「あとあなた、そのみすぼらしい服装で来ることは許さないから。きちんとお父様に会うに相応しい恰好で来なさい」


『はーい』


鏡の向こうでひらひらとドクター(仮)は手を振った。わかっているのかいないのか…。まぁ門前払いを食らっても私は困らないしいいか。


「あの…ドクターさんだけでなくクラウスさんもいらっしゃるのですか?領主様にご紹介するのに?」


ルーシーがおずおずと聞いてきた。綺麗に化粧が施された綺麗な顔がなんだか朱を帯びていて、思春期の女子高生みたいだと思った。


「えぇ、なにか不都合があって?」


「い、いいえ!ありません…ありませんけど…えぇ?!」


何もないといいつつルーシーは言葉にしがたい呟きを漏らした。「あらあら…」とか「まぁ…!」と百面相に忙しそうだ。



「いいわ。あなたも…っていい加減呼びにくいわね…」


『ボクのことはドクターとでも呼んでって言ったじゃないか』


「あなたのように胡散臭い人を間違ってもドクターなんて呼びたくないわ。私の知っているドクターはもっと服装や身なりに気を使っているもの。そうねぇ…」



このヨレヨレの白衣と衛生という言葉に欠ける性別、本名一切不明の怪しい人をドクターと呼ぶにはどうも耐えがたい。


あだ名のような感覚で呼べばいいのかもしれないけど、なにか解せない。



「そうだわ。好きに呼べばいいならあなたのことはこれからディーと呼びましょう。いいでしょ」


「えぇえ!?」


『ディー…』


隣でルーシーが間の抜けた声を上げ、ドクター(仮)は口元と肩だけでげんなりとしてみせた。


ダメか?ディー。ドクター(仮)だから頭文字を取ってディーにしてみたけど呼びやすくていいじゃない。



「どうせ本名を教えるつもりがないなら勝手に呼んだってかまわないでしょう?それなら私は勝手にあなたのことをディーと呼ぶわ。そういうわけでよろしく、ディー」



『…はぁ…もういいよ、好きにして…』


「まぁ…!!お嬢様ったら大胆…まぁ…!」


ドクター(仮)改めディーは盛大に溜息をついて諦めたようだった。


ルーシーのほうは何やらさっきより顔を赤らめて頬に手を当てている。何やら考え込んでいるのか視線はどこか遠くを見ていた。



…よくわかんないけどいいか…。



「じゃあ4日後ってことでお父様には伝えておいて頂戴。あと迎えの手配もお願い」


「は、はい!わかりました!」


すぐに空想の世界から帰ってきたルーシーは手元のメモノートに手早く書き込んだ。


「そういえば、ドクターは魔法にもお詳しいのですよね?」


『あぁ。専門は魔法の研究だし』


「魔法石のこと?」


昨日、施工中に魔法石がみつかったと報告を受けたばかりだ。


魔法石が多く見つかった場所は地図に記録しているけどコレと言った共通点はみつかっていないらしい。



「はい。専門のかたなら何かご存知かもしれないと思いまして」


『なになに?魔法石?』


「そうよ。工事中にたくさん見つかったんですって」


『へぇ!それでそれで?』



明らかにディーは興味を示したようで、ぼさぼさの前髪を揺らして身を乗り出しながら続きをせがんだ。


眼鏡のせいで表情はみえないが喜色満面だろう。



「見つかった場所に共通点がみつからないのよ。えぇと、どこだったかしら?」


「最も多い場所は教会の付近ですね。大小合わせて100以上は見つかっているそうです。ほかには街の病院や広場、ふつうの民家にあとは賭場からも…」



「賭場なんてあったのね…」


「違法なものですのであまり大きな声では言えませんけど…」


『本当に共通点がないねぇ…それって地図に記録してある?』


ディーも両腕を組んで考える。どうやら魔法の専門を自称する胡散臭い医師にもわからないらしい。


「はい、お嬢様からの指示で地図に印をつけてあります。今は手元にありませんが…」


『それなら明日そっちに行ったとき見せてよ。なにかわかるかもしれない』


「あぁ。どうせ来るなら丁度いいわ。クラウスも来るなら一緒にみてもらいましょう」



教会は魔法を管轄しているというしそっちの方面から意見をもらえたほうが新しい発見があるかもしれない。


『わかった。クラウスも連れていくよ』


「お願いね」



ディーを念押ししてその日の連絡は終了。



今日はお勉強がお休みなので環境部に顔を出し、進捗を確認した。朝から深夜まで工事の手を止めることなく進めているお陰で工事の進みは順調だそうだ。



「防音布や魔道具のお陰で周囲からの騒音による被害もみられていません。家の中に入る必要があるときはどうしても気を使いますけどなるべく短時間で済むよう調整しているそうです」



アラン部長からの報告によると街のほとんどはもう施工が終わって、下水を流しても問題ない状態になっているそうだ。



「ゴミ問題は大丈夫かしら?」


「はい。ゴミの回収日を決めてその日以外は道への投棄を禁止しています」


アラン部長に代わってブレインが報告を上げた。


「でもそれって以前も出したけどあまり守られなかったのでしょ?大丈夫?」


「あ…それは…」


ブレインが手元の資料をペラペラとめくって答えを探した。やはりそこまで考えていなかったらしい。


「街に清掃員を配置することになったのではありませんでした?ゴミの回収と街の清掃作業員を募集するとおっしゃっていたではありませんか」


「そ、そうだった!」


ルーシーがメモノートを捲りながら答える。どうやら私がいない間に決まったことらしい。そういや私もそんな報告受けてたな。



「えぇと…領民たちへの意識改革として啓蒙ポスターの設置やゴミ捨て方法の統一を呼びかけた冊子を配布予定です」



「わかりました。ブレインもよく確認をしておいてください。次、作業員たちの管理はどうなっていますか?」


「今のところ脱走者は出ていま、セン。肉体労働に不慣れな作業員が体調を崩して休んだり作業員同士のいざこざはあるようだけど今のところ大きな事件には発展してないようデス。


あとは外部の記者が防音布の中に入ろうとして揉めたくらい、か?」



「何それ?工事の邪魔をしようとしたってこと?」


「捕まえる前に逃げられてしまったので目的はわかりません…」


「そう…警備を増やしたほうがよさそうね」



スティルアート領に入ってくる記者は多い。


そのほとんどはスティルアート家のゴシップ目的か新作お菓子の取材だけど厄介なのはこの改善計画のアラをさがっしてあることないこと記事にされることだった。



過去にスティルアート家の批判的な記事を書いた記者や出版社は領地に入れないようにしているけれど、移民たちのように不法に侵入することだってできるしフリーの記者だってこちらの世界には存在しているのだ。


警戒するに越したことはないだろう。



「…あの、その人本当に記者だったの?」


「ブレイン、どういうこと?」


ブレインがいぶかし気にカルロスを見って言った。


「だって、わざわざ工事現場に入ってこようとする人間だよ?正規の記者みたいにちゃんと腕章しているわけないと思うんだ。ならどうして記者ってわかったんだろう、って思って…あ、たいしたことじゃないから気にしないで!!」



あまり自信がないのか、言葉尻がだんだん弱くなっていくがブレインのいう事には一理あった。


こちらの世界でもゴシップ誌は存在しているのでそっち専門の雑誌の専属、フリー問わず記者は多い。

しかしそのほとんどは身分を明かさないことがほとんどだ。


大手のお堅い新聞の記者はきちんと名刺を持って新聞社の名前が入った腕章をしてくるが、防音布の中に入ってこようととする記者がお堅い新聞の記者とは思えなかった。




「言われてみれば、その通りですね…カルロスさん、それは現場からの報告ですよね?」


「あ、あぁ。俺のところに上がっている報告だが…」


「気になるわね。それ、詳しく聞き取りをしておいて。ことと次第によってはその記者を警備兵に突き出して見せしめにしましょう。あと現場の警備も強化しないとね」



こんな些細なことで工事の邪魔をされるわけにはいかない。万が一記者だった場合あることないこと書かれて邪魔をされることは避けたかった。


「わ、わかった!」


カルロスは雑な字で手元のメモ帳に書きつけた。


「さて、少し休憩にしましょうか」



そう言って、手をぽんと叩けばブレインはため息をついて脱力して、カルロスは大きく腕を上に伸ばしていた。アラン部長もゆったりと立ち上がってロッカー室に入っていく。



私がいてはあまりゆっくりできないだろうと思い廊下に出た。少し外の空気を吸いたかった。



「お嬢様、奥様からご連絡が…」


そう言って、デイジーが小さな連絡鏡を差し出した。


「あら、何かしら…?」


『ねぇ!メアリー、お父様に誰か紹介したい人がいるって言ったって本当?!』


挨拶もそこそこにお母様はそんなことを言ってきた。


若い娘が面白そうなものをみつけたときのようにはしゃぐお母様は今日もお美しい。


誰から聞きつけたんだろう…ってお父様かルーシーしかいないか…。



「えぇ、お父様がこちらにお戻りになるタイミングで紹介する予定です」


『へぇ~!まだ8歳なのにやるわね~!さすが私の娘だわ』


お母様は小躍りしそうなくらい上機嫌で、さすがになにかおかしいと思い始めた。



「あの…どういう意味ですの?ルーシーもお父様も様子がおかしいのですけど…」


『え?メアリー、あなたどういう意味でお父様に紹介したい人がいるって言ったの?』


「教会の件で情報提供者から保護を頼まれたのでお父様にお願いしたいのですよ。私の一存でできることではありませんし」


かんたんにディーたちのことを話すとお母様は明らかにガッカリしたと言わんばかりに眉を下げた。


え?何?私なにかした??



『なーんだ、そういうことなのね。まぁいいわ。そのことはお父様には黙っておきましょう』


「え?どうしてです?ていうか何故今それを…?」


『いいのよ。おもしろそうだから。あ、私まだお仕事があるから行くわ。メアリーもお仕事もいいけどちゃんと勉強しないとダメよ』


「は、はぁ…」


お母様は嵐のように話すだけはなして、連絡鏡はぷつんと切れた。あとに写るのは何が起きたかわかっていない私の顔だけだ。



「な、なんだったのかしら…」


「さ、さぁ…」



デイジーにもこれはどういうことかわかっていないらしい。まぁ…いいか…。


とりあえず未だドアが直されていない環境部の部屋に戻ると、私は目の前に写った光景に再び激怒することになる。



「何をしているのですか!!」


「えぇっ!!」


「わあっ!!!」


「お、お嬢様!」


カルロスがルーシーの腕をつかんで今にも殴り掛かろうともう片方の腕をふりあげていた。


ブレインは少し離れたところでその様子をみているだけだったが私の声に驚いたのか椅子から飛び上がって驚いていてる。



「カルロス!!あなた見損ないました!暴力にだけは訴えないと思っていましたのに!!」


「ち、違う!誤解だ!」


パッとルーシーの手を放して降参というように両手を上げる。


「誤解?今にもルーシーを殴ろうとしていたではありませんか!それのどこが誤解だと言うのです?!」


「お、お嬢様、おちついてください!私はなんともありませんから!」


「ルーシー!あなたも暴君を庇う必要ありませんわ!」


「お嬢様!本当に誤解なんだって!」


「ブレインも!男なら黙っていないでルーシーを助けなさい!今日こそこの男に制裁を下してやるわ」


私が怒っている間に、どこからともなくスティルアート家に仕える影の騎士たちがわらわらと現れた。


全員黒一色の服を着て覆面で顔を隠していて、動きはきびきびとしているものの一切の音がなく機械的だ。口をきくことなくただ命令に従う姿はいっそう不気味なかんじさえしてくる。


彼らはいつも私に張り付いて警護しているスティルアート家専属の騎士集団なのだ。


「ちょ!ちょっと待ってくれ!頼む!話を聞いてくれ!」


騎士たちがカルロスの両腕を抱えるとこれから出荷される牛か豚のように連れ去られていった。


いくらガタイの良いカルロスと言えど専門職の彼らには敵わないらしい。


「命までは取らないから十分に反省なさい!」


「ま、まってくれ!!頼む!!いやだぁぁぁぁ!!」



断末魔の悲鳴を廊下中に響かせながら、カルロスはどこかへ連れ去られていった。


その声は屠畜場から聞こえる家畜の声に似ていたと、見た者たちは後に証言したという。



「フン!!少しは改心したと思っていたのに」


「…お嬢様、本当に誤解なんです…カルロスさんは何も悪くないんです」


騎士たちがそわそわとどこかへ身を隠したところでルーシーが涙声で言いにくそうに口を開いた。


みたところ外傷はなさそうだ。さぞ怖い思いをしたことだろう。


ん?誤解?


「あの…ルーシーってこの通り女性だし小柄でしょ?


仕事の帰り道とか危ないねって話をしていたんだ。いくら街が綺麗になって治安が良くなるとはいえ金目当ての強盗に合わないとも限らないし…こんな仕事をしていると夜だって遅くなることもある。


僕も何度か街で女性が襲われたって事件を聞いていたから心配だねって話をしていたんだ」



「そしたらカルロスさんが女性でも使える護身術を教えてくださるってことで…ブレインさんと順番に教えて頂いていたんです…」


ルーシーが申し訳なさそうに縮こまってわけを話してくれた。

なんだ、何もなかったのか。



「そうだったの?あら嫌だ、私ったら誤解していたみたいね」



何度も誤解だと言ったじゃないか、全員がそう思ったが誰一人、口に出すことはなかった。


どこからか音もなく現れたスティルアート家影の騎士があまりにも不気味で恐ろしく、ぞわぞわと彼らの気配を感じていたからである。



「おや?何かありましたか?」


ロッカー室からアラン部長が戻ってきたようだけれど、誰もアラン部長に今起きた出来事を話す気にはなれなかった。










「それにしても、カルロスも少しは丸くなったようね」




環境部での報告が終わった帰りの魔車の中。


すぐにカルロスのことは解放してもらうよう騎士たちには通達を出したけれど、仕事の早い彼らは尋問と拷問を行うための隠れ家にカルロスを運ぼうとしていたらしい。


私が制裁をと言ったからだろう。



寸でのところで入ることはなかったらしいけど、カルロスはその時の恐怖で震えていたらしく鼻水を垂らして泣きながら許しを乞うたそうだ。


みてみたいなーと言ったら連絡鏡を繋いでくれた。


大柄で威勢のいい成人男性が泣きながら顔をぐちゃぐちゃにしているさまはとても面白く、これまで散々カルロスにはイライラさせられていたけれどこれで少しは溜飲が下がった。





『あはははっ!おもしろーい!!大の男がっっぷぷっっ!大泣きしてる!!』


『お、お嬢様!そんなに笑ってはカルロスさんが可哀想ですって』


『お嬢様アンタ鬼か悪魔かぁー、たすけてくれよぉ!!』


涙声でわめくカルロスに益々笑いがこみあげてきてお腹が痛いほどだった。


『こんなかわいい女の子に向かって鬼か悪魔なんて…!!あぁおもしろい』


『今までのことは謝るから許してくれぇー!!』


『お嬢様…そろそろよろしいのでは…?』


『カルロスには散々失礼な態度を取られてきたのよ?もう少し楽しまないと気がすまないわぁ~!!あぁ!愉快だこと!おもしろっっ!』



たぶん前世の真理ならここまでおもしろがることはないだろう。そこはやはり悪役令嬢メアリーというべきか。


全く罪悪感がない。


むしろ清々した。



散々笑ったあとで解放はしてやったけどこちらの誤解を謝る気はなかったのでそのままだ。


明日にでもなにかあるでしょ。





「求人募集の件でカルロスさんにも考え方に変化があったようです」


「求人募集?」


「はい。お嬢様が他部署から女性の応援を頼んだでしょう?彼女たちが仕事をしている様子をみて反省するものがあったみたいです」



「ふうん、それはよかったわ」


求人募集をするとき、ただ募集するだけで実際の仕事と契約内容が違っていては後から問題になるので、説明会形式の募集をすることになった。



しかしカルロスでは強面すぎるし部長は多忙、私はそんなことしたくないしルーシーやメイドたちを使うわけにはいかない。


なにより人が足りない。


そこで他部署に要請を出して数少ない女性スタッフを応援を頼んだのだ。



ムスっとした男が堅苦しく説明するより女性が対応したほうが当たりも柔らかいし警戒心を解いてくれると思ってのことだったけどこれが功を奏したらしい。



慣れない仕事であったろうに一切そのことを顔に出すことなく手際よく仕事をした彼女たちは、同行してきた男性スタッフよりもよく働いてくれた。



一応、先に行った街の浮浪者向けの説明会で男性スタッフも何人か応援に来てくれたのだけど、そちらが対応した人たちは何人か契約前に逃げてしまった。


最初こそ『相手が悪い』だの『相性が悪かった』だの言っていたけど隣でサクサク契約をしていく女性たちをみてプライドがズタズタにされたらしい。


ひどく落ち込んでいた。



みていたルーシー曰く、『あんな怖い顔をされたら裏があると思われてしまう』とのこと。


ブレインも同意見だったので次からは男性は全員外し、女性スタッフだけで説明会を行った。




「あとはお嬢様に仕事を任されたことが彼なりに嬉しかったみたいですね」



「そんなことで喜んでくれるならいくらでも仕事を与えるわよ」


「カルロスさんってあぁみえて厳しい家で優秀なご家族に囲まれて育ったのですよ。でもカルロスさんだけ落ちこぼれてしまって劣等感が酷かったのですって」


「へぇ」


さしづめエリート家族に生まれたヤンキーってところだろうか。

前世の世界でもよくあった話だ。家族全員東大なのにひとりだけグレてしまった子なんてよくある話だった。


「結局家族から勘当される寸前だったところを親戚だったアラン部長が助けて環境部に席を置いているそうです。


でも仕事なんて無いからすっかり腐っちゃっていたみたいです。だから今回お嬢様に仕事を任せてもらえたことが嬉しったようでカルロスさんなりに喜んでいました」



「それならもう少し素直になればいいのに」


「私にはだいぶ優しくなられましたよ。最近は不器用なりに言葉遣いも気を付けていますし」


「そのようね」


今日の報告での舌を噛みそうな敬語を思い出した。


あれもカルロスなりの努力なのだろう。

できることならそのまま頑張ってほしいと思う。



「まぁ、今日は少し悪いことをしたわね」


「そう…ですね…」


これにめげずに頑張ってくれ。




後日、役所内には『なんだかよくわからないけどメアリー様の逆鱗に触れると命はない』という共通認識が生まれたという。またメアリーには『あの手の付けられなかった男を大泣きさせた恐ろしいご令嬢』という新しい肩書がつくことになった。




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