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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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40’.8歳 お父様からの試練

混乱する室内を静めアラン部長の話をまとめると、こんなかんじ。


今朝になって緊急で領主様、つまりお父様から今進めている下水と浄化設備の修繕に合わせて道の整備も行うこと。また今閉鎖になっている公共設備の整備と新たに観光を誘致できるような施設の建設を行うように、とのこと。



いやいやいや、無茶でしょ。

公共設備の建設?!

しかもこれオーギュスト殿下がいらっしゃる来年までにってことだけどさ…1年しかないのよ!!1年でそんなの無理に決まってるじゃない!


道の整備までが限界だって!!



「領主様は昨日何もおっしゃってはいませんでした…」


ルーシーもこの件は全く聞いていなかったのかぽかんとしている。第一昨日お父様と話していたのは私なんだから先に私に言っているはずだ。


「お嬢様!これはどういうことなんだよ!?全く聞いてねぇぞ」


カルロスが机をバンバンと叩きながら猛抗議した。そんなのこっちだって一緒だ。

怒鳴りたい気持ちをグッと抑えて部屋を見回す。


知っている顔より見たことが無い顔の方が多かった。

そのすべてが眉間にしわを寄せて悪意のある顔をしていた。領主様の急な命令は珍しいものではないかもしれないけど、その命令に私がかかわっているとなれば話は別だ。


これまでお父様にぶつけることが出来なかった不満の矛先が私に向く。どうせまた我がままお嬢様の発案に違いない。


そんな目をしていた。


「どーせお嬢様が思いつきでなんか言ったんだろ?!こんなのぜってー間に合わねぇよ!」


「待ってください!お嬢様は領主様にそのようなことは言っておりません!時間がないことはお嬢様自身が一番よくご存知です!」


カルロスにルーシーが食って掛かった。こういうとき味方となる人がいてくれるというのは少しだけ心づよい。

お嬢様付き文官としての仕事を果たしているに過ぎなくても私の潔白を証明してくれる証人になってくれたのだ。



「はぁ?!そんなことわかるかよ!?だいたいてめぇは今お嬢様の味方なんだからなんでもいえらぁ!」


「そのようなこと…!!」


「黙りなさい」


「あぁ!?」


「…!」


今にも取っ組み合いの喧嘩でもはじめそうな二人を制する。こんなことで喧嘩していても仕方ないのだ。



「仮に私が領主様に何か言ったとしましょう。しかしこの命令が領主様自ら下されたことに違いはありません。それなら我々は領主様の命令に従うだけではありませんか?今の状況でどこまでできるかを考えることが先決です」


「いけしゃあしゃあと…!!なんでてめぇの我がままに俺たちが振り回されなきゃいけないんだよ!」


「カルロス、お嬢様の言う通りだ。どのような理由があって領主様がこのような命令を急に出されたがはわからないが命令が出された以上従うのが我々の仕事だろう?」


「…チッ」


助け船を出してくれたのは部長だった。

両腕を組んで納得いかない顔で私を睨み付けるカルロスはひとまずほかっておいく。



「どうやら今日は他部署のかたをお招きした大きな会議になりそうね。急なことでお席がご用意できずごめんあそばせ。まずは情報を整理しましょうか。公共設備の整備と建設ってどういうことかしら?」


誰に聞いたらいいかわからないのでとりあえず部屋のなかを見渡す。


すると一人、若い男が挙手をした。


「お名前は存じませんがそこのあなた」


「建設部のトーマスです。その件は私から説明させていただきます。まず公共施設とは現在使用不可能になっている街の図書館や美術館などのことです。浄水設備の修繕ができなくなったときにこれらの施設は蔵書や美術品を保護する意味封鎖されており現在使用されておりません。また利用中の公共設備には学校なども含まれておりこれらは下水が使えなくなったので修繕が必要です」


「なるほどね」


街が汚物まみれになったことで衛生状況が悪化した。それに伴い臭い移りのしやすい本や繊細な芸術品を守るために設備そのものを封鎖したということか。学校や病院を封鎖するわけにはいかないけどトイレが使えないに違ないから工事のついでにこちらも使えるようにしてほしいといつことらしい。




「環境部の方々が仕事をしてくだされば封鎖する必要もなかったのですけどね」



少しだけ鼻につくその男は細身でエリートぶった容姿の男だった。嫌みたっぷりのその言葉から環境部の3人とルーシーにあまり好意的な感情を持っていないことはすぐにわかった。



「彼らが仕事をしていなかったことに何か言うつもりはないけれど、私の前で責任の押し付け合いみたいな発言は控えて頂戴。目障りよ」



「は、はい!!」


「あと…そうね、エマ、このくらいの紙とヒモをたくさん用意してみなさんにお配りして」


「はいっ!」


「そのあいだに次。新規で建設ってどういうことかしら?」


「私から発言をお許しいただけますか?」


奥のほうから控えめに上がった手に、どうぞと声をかけると人の間からにょきりと顔が出てきた。小柄な少年のような風貌の男だった。



「観光部のフィンリーです。まず、もともとスティルアート領は観光都市ではありませんが近年お菓子ブームの波に乗って領地内に訪れる人が増加いたしました。領地内にきた観光客へのアンケートでは『見るものが少ない』『お菓子しか楽しみがない』という声が多数あったので観光客向けの設備があればより多くの観光客を誘致できるかと」



「ふうん、観光客向けって美術館とか演劇場とかそんなところかしら?」


「ほう!そちらも素晴らしいです。是非取り入れましょう」


本当は動物園とか遊園地も良いかと思ったけれど、こちらの世界で動物の扱いってどういう位置づけなのかわからなかったしけっこう馬が身近な世界だから珍しくはないかもしれない。


なんとなく中世ヨーロッパの人たちが行きそうな場所って考えた結果が美術館と演劇場だったわけだけど受け入れられたならよかったかな…。



「演劇場というのは良いですね。大きな演劇場は王都にしかありませんから」


ルーシーがぽんと手を叩いて賛同してくれた。へぇ…あまりないのか…。



「お嬢様、こちら準備ができましたが…」


エマがおずおずと、名刺大くらいに切った紙とタコ糸のようなヒモをたくさん持ってきてくれた。


「ではこの紙とヒモを皆さんにお配りします。こんなふうに紙に名前と所属を書いて首から下げてください。これだけ人数が集まると一度にお名前と所属を覚えきれませんから」


こちらの世界でも一応名札くらいはあると思う。でも彼らは名前を覚えてもらえないという状況になったことがないのか、名札を下げる動きがぎこちない。

役所勤めってエリートが多いのだっけ?



「さて、それじゃあ次ね。特になかったらどのような設備を新規で建設するか提案してもらうけど、ほかに今言っておきたいことってあるかしら?」


誰も挙手しないことを確認してから新規で建設する設備を出し合った。

やっぱり誰もデイジーが今ある設備と候補に上がった設備をボードに書き出していく。


さっきの演劇場のほかにも観光客向けの宿や公園とかが上がってきた。でもやっぱり動物園はないみたい…。



「ねぇ、動物園ってどうかしら?」


「動物えん…ですか…?それは一体どのようなものです?」


「珍しい動物を集めて檻に入れて展示するのよ。生きたままの生き物の姿が楽しめるわ。わざわざ生息地に行かなくても本物の動物がみれるし子どもたちには好評ではないかしら?」



やっぱりこちらには動物園ってないみたいね。

前世の記憶を頼りに動物園を説明すると、誰かが小さく悲鳴をあげて全員が驚いたような、なにか恐ろしいものを見る目をしていた。



「そ、そうですね…とても面白いとは思いますが…そうですね…えーと…残虐であるという意味で動物愛護的な面から反発も多くあると思いますので…えーと…メアリー様の案が決して悪いというわけではないのですが…その…あー…」



「あら、そうなのね。ならいいわ」


…動物愛護って考え方はこっちの世界にもあるのね…。

あっさり引き下がったことにフィンリーは我がまま令嬢のご機嫌を損ねずに済んだことに安堵したのか大袈裟に表情を緩ませた。



一応動物園には希少な動物の保護や生態の解明っていう目的もあるのだけどこちらではまだそういうところまで考えが進んでいないのかもしれない。



「でも動物園、よいかもしれませんね。子どもたちへの学習教材としても利用ができそうだ」


大きな声ではなかったけど、よく響く声はその部屋にいた全員の耳に届いた。


声の主はアラン部長よりも年上の、高齢と言っても差し支えが無いほどのお歳の召した男性で髪の色はだいぶ白が混じり長年刻まれた皴はその人の思慮深さを物語っているようだった。



「申し遅れました。住民部のダニエルといいます。発言を続けても?」


「どうぞ」


「ありがとうございます。たしかに動物愛護的な面からの批判は避けられないとは思います。が、生き物を身近に感じるための施設と言う意味では大きな意味を持つと思います。生き物の管理に注意を払えば理解を得られるのではありませんか?」



ダニエルという男はどうやら役所のなかでも大きな発言権を持つようで、彼の言葉に部屋の空気が和らいでいく。



「批判はたしかにあるとは思いますが批判が広がればそのぶん知名度も上がりましょう。興味をもった観光客が集まるかもしれませんわよ」


「わざと悪評を受けるのですか?」


「わざと受けるのではありません。結果的にぶつけられた悪評を利用するのです」


「は、はい…」


朱菫国のお菓子を広めた時も最初は叩かれたけど結果的には受け入れられた。悪評が全て敵とは限らないのだ。


「ではどの施設を採用するのか、と建設場所を決めましょうか。これは建設部にお任せした方がいいのかしら?」


「は、はい!では私が…!」


トーマスが率先して立ち上がると、デイジーを押しのけボードの前に大きな模造紙の地図を貼りだした。


「きゃあ」


デイジーがバランスをくずして転びそうになる。間一髪で転ぶことはなかったけれどその行動は私の怒りを買うには十分だった。


「お待ちなさい」


「何か?」


全く何が起きたかわかっていないトーマスはきょとんと私をみた。



「この部屋において脅しや侮辱、女性への暴力的な行為は一切許されません。あなたは初めてこの部屋にくるわけだから大目にみてあげるけど次はないわ」



「ちょ、ちょっと待ってください!何のことですか!?」


この男は本当に自分が何をしたかわかっていないようだ。私はわざとため息をついて小さな子どもに説明するような語り口調で説明してあげた。


「今、私のメイドのデイジーにぶつかったでしょう?それなのに一切謝りもしない。失礼にもほどがありますわ」



「それはそこでぼさっとしていたその女が悪いのであって…」



まだいうか。こいつは。

素直に謝っておけば大目にみてやったというのに。

どうやらルールについてきちんと教えてあげないといけないのかもしれない。



「この話の通じない人を誰か追い出してくれないかしら?」


私がちょんちょんと、トーマスを指差すと光の速さで立ち上がった同じ建設部の男ふたりに両脇を抱えられてトーマスは部屋から出ていった。何かを叫んでいたようだけど無視を決め込む。



「みなさま初めてでしょうから改めてお伝えします。この部屋では私やルーシー、メイド…人が増えそうですから範囲を広げましょう。女性への侮辱、脅し、暴力、これに類する行為はいっさい許しません。もしこれらの行為を確認した場合には加害者側の解雇も辞しませんのでみなさまよく覚えておいてください」



環境部の面々は既に承知していたので頷くだけだったが、今日初めて聞いた面々は言葉なく口を開いているだけだった。

それほど驚くようなことだっただろうか?



「みなさまお返事は?」


「は、はい!!」


建設部の進行役が別の人に代わって、順調に設備の選別や場所の選定が進んでいった。どの設備を目玉にするかで議論にはなったものの、最も集客力がありそうな演劇場が選ばれることとなる。動物園は臭いや騒音の問題から少し街とは離れた場所に作られることになった。その代わり広報には力を入れると広報部に約束させる。




「計画に見直しが必要になりますので計画書は再度検討ですね」


アラン部長が計画書をペラペラとめくり修正箇所や追加箇所をメモしている。アラン部長はメモ魔なのかもしれない。



「そうね。ほかの部署のみなさんとよく話し合ってお願いしますわ」


「あとは時間です。これだけの設備と修繕を1年で行おうと思うと圧倒的に時間が足りません」


ルーシーが地図と手元のメモを見比べて頭をひねる。この問題は最初にお父様から命令が下りてきたときから転がっていた問題だ。

移民たちを採用するからと言っても時間が無ければどれだけ人を投入しても間に合わない。


「魔道具は使えないの?」


「魔道具を使ったとしても、です。本当に1日中作業をするくらいでないと…」


「あら、したらいいじゃない。1日中」


「えぇ?!」


「お嬢様…!正気かい?」

「まさに奴隷のような扱い…」


ブレインとカルロスが呆れたように言うが移民を採用しようと言い出したときくらい意外なことだった。


「できるでしょう?1日中作業って」


私がかんたんに方法を説明する。別に珍しいことでも何でもないけれど街の中で作業をするなら魔道具を使ったり対策が必要かもしれない。



「それなら…」

「からくりがわかってしまえばどうともないね…」

「なんだよ、そんなことか…」



私の説明を聞いてルーシーたちは納得したように呟いた。種を明かすというほどでもないけれど、夜に働くという習慣がない人たちなら意外なことかもしれない。


アルテリシアでは教会が夜は休息の時間と言っているからさらにそういう習慣がないのかもしれないけど、今この状況で教会がどうのと言ってくる人はいなかった。




「時間で作業員を交代させるだけだけど、この方法なら1日中作業を進められるわよ」


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