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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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29’.お兄様の頑張り ~side A~

メアリーはやはり調子が戻っていなかったのか屋敷に着くと早々に自分の部屋に下がった。

魔法を授かったばかりのときは魔力の調整ができず体調を崩しやすいのだ。

あとは教会で目の当たりにした移民たちの現状をみてショックだったのかもしれない。


いくら大人びていると言ってもメアリーはやっぱり8歳の女の子だ。

僕だって驚いたくらいだしよっぽどショックだったんだろう。




「アルバート、あなたも少し休むといいわ。今日はとても頑張っていたから」


「大丈夫ですよ。僕だってもう立派な貴族なのですから」


「無理しなくていいのよ?メアリーはもう部屋で寝ているから安心して」


やっぱりお母様にはすべて見抜かれているようで苦笑した。



教会はいつ行ってもこのお屋敷と違って何かよくわからない臭いに満ちている。礼拝室や管理室はそうでもないみたいだけど孤児院や学校はいつだって鼻が曲がってしまいそうなくらい臭い。


最初に教会へ行ったときは僕が魔法を授かったときだけどその時はそれほどひどくはなかった。ここ最近こんなふうになってしまった僕も驚いているくらいだ。


孤児院の先生に聞いても「神が試練をお与えになっているのです」としか答えてくれず全く理由はわからなかった。

いつも孤児院に行くとこの臭いに悩まされるけれど今日ばかりはそんなことを言ってはいられない。



何故なら初めてメアリーが貴族としての行事に参加するからだ。

魔法を授かった貴族として慈善活動は必須で僕やお母様も時間をみつけては孤児院に出向いている。

これからはメアリーも一緒に慈善活動をしていくことになる。



それなのに兄である僕が情けない姿を見せることはできない。



尊敬される兄としてたかだか教会が臭いというだけで根を上げていてはあんまりにもみっともない。

僕が教会を嫌がっていてはメアリーだって教会を嫌いになってしまうかもしれない。


それだけは絶対に避けなくてはいけなかった。



だから僕は教会でいくら鼻を抑えてくても平気な顔をして我慢していたのだ。




「さぁ、アルバート様。こちらへ」


「よい香りのする石鹸を入れてあります。ごゆっくりおくつろぎください」


優しく微笑むメイドたちに見送られて僕は専用のバスルームで体を洗い流した。

髪や服、鼻にこびりついた臭いがたちまち流れて行って気分はすっかり良くなる。









ようやくすっきりと晴れた頭で今日の移民のことを考えた。


移民はスティルアート領にとって避けては通れない問題だ。

朱菫国から招待した職人たちは正式な手続きを踏んで厳重な審査を経てアルテリシアの国民となることが許され魔法を授けられる。

しかし他領からの移民は違う。住まいの変更届さえ受理されたら誰しもがスティルアート領の領民になれるのだ。


でもスティルアート領内の経済が活発になって以降、移民の申請が格段に増えたが、スティルアート領行政は大幅に増える移民に都市の機能が耐えきれず移民を制限したのだ。


昨日まで受け入れられたのに今日になった途端、受け入れを拒否された。これに納得いかなかった彼らは正式な絵続きを踏まずにスティルアート領にやってきた。


領内に入るには関所で手続きを踏む必要があるが厳密に境界線を警備しているわけではないし、夜間の人目に付かない時間や森から入り込めば侵入は容易だろう。



そうやって職を求めやってきた移民たち。

スティルアート領に行けば何か仕事がみつかるだろう、なんとかなる。


行き当たりばったりで辿り着いたものの領内は既に働き手が溢れるありさまだった。さらに正式な手続きを踏んでいない彼らは不法移民、つまり働くどころか不法滞在者として捕まってもおかしくないのだ。


今更もと居た場所に戻る資金も気力もなくなった彼らは食料と居場所を求めて教会に流れ着いた。



おおかたこんなところだろう。



「だからと言ってほおってはおけないよなぁ…」



正式な手続きを踏んでいない彼らを保護したり支援する必要はないかもしれない。

でも目の前で死にそうな人がいてそれを見て見ぬフリができるだろうか。



今も教会の中庭で肩を寄せ合っている彼らはお腹を空かせて震えているかもしれない。そんな彼らと比べたら自分はどれほど恵まれているだろう。


毎日整えられた清潔なベッドで目を覚まし目覚めの紅茶をもらう。丁寧に作られたテーブルいっぱいの温かい食事を食べ贅沢を尽くした衣服を着る。


当たり前だと思っていた生活が当たり前ではなかった。



恵まれている自分が産まれが違うという理由だけでなにもしないなんてできるだろうか。


なにか彼らのためにできることはないだろうか?



僕は難しいことをつらつらと考えながらたっぷりと張られた湯に顎まで浸かった。

メイドたちが用意してくれたという石鹸は心地の良い香りがして一層気分がよくなった。





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