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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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17’.6歳 無茶なおねだりと後始末

「え…ちょっとそれは無理があるんじゃないかなぁ…言葉は通じるけどそれは僕たちが魔法を使っていたからで朱菫国には魔法は無いんだ。こちらに来てもらっても言葉が通じない。第一文化が全く違うんだ。職人たちが嫌がるよ」


「魔法はこちらの教会で祝福を受けたら授かることは可能ですわ。かつて異国からの移民はみなそうしてアルテリシアの国民となっています」


「え…そうなのかい?」


「あぁ。メアリーの言う通りだ。いくつかの決まりはあるが移民として魔法を授かることは難しいことではない。しかしメアリーはどこでそれを知った?」



「あっ…何かの本で読んだのですわ」


どうして私こんなこと知っているんだろう…。まだ私は7歳でないから魔法を授かっていないし魔法についての勉強もしていない。こんなこと…知っているとしたら前世の知識でしかない。でも前世の世界でも魔法はファンタジーの極みみたいなもので存在さえしてなかった。


ならどうして…?


「先ほど言っていたスティルアートにとってのメリットとはなんだ?」


「は、はい。朱菫国の文化はアルテリシアでも大変珍しいものです。ならばスティルアートからこれらを売り出せば一つの産業になりませんか?」


「メアリーは朱菫国の菓子や文化がアルテリシアでも受け入れられるというのか?」


「はい。アルテリシアのお菓子というのはぱさぱさとした口あたりの焼き菓子が中心です。ですので先ほどのような冷たいお菓子は人気がでると思います。なにより甘いお菓子は女性からの人気が高いですからアルテリシア風にアレンジを加えれば必ず受け入れられると思います」



「女は単純だからな…」



お父様がぽつりとつぶやいた。少し気になる発言だが今は目をつぶろう。




「なるほど。アルテリシア国内での引き抜きは以前より行われていることがだ外国からの引き抜きはあまり例がない。先ほどアルバートが言ったように職人らとて簡単には頷かないぞ?」



「そんなの、絶対的な力が我が家にはあるじゃないですか」


「力?」


「金で雇えばよろしいのです!」












==========



スティルアート家親子が朱菫国に派遣されてから1年が経った頃、朱菫国とアルテリシアである外交問題が勃発する。


スティルアート家が朱菫国の職人を金の力で強引に引き抜き、朱菫国から抗議文が送られてきたのだ。


これにはアルテリシア国内からも批判が勃発した。金持ち領地の傲慢、身勝手極まりない行い、娘の我がままのために友好国との間に大きな火種を生んだ、7歳にして国際問題を起こす我がまま娘、親は娘の言いなり等々。メディアはスティルアート家、特に発端となったメアリーへの批判と朱菫国を紹介する記事をこぞって掲載した。



しかしこれらの批判にスティルアート一切の沈黙を突き通し、代わりに流通したのは朱菫国風の菓子であった。ちょうど話題が朱菫国一色だったことも相まって話題を呼び、貴族たちはこっそりこれらを入手した。



そしてその味に誰しもが驚愕した。


口のなかで蕩ける雪のような柔らかいケーキ、ひやりとした食感が瑞々しいゼリー。子供たちからは卵を使ったプリンが大好評。手土産には日持ちするカステラが好まれたがこのとき生クリームを添えることが女性たちの間で流行した。これらの菓子に使われる卵や小麦、砂糖が店頭から卵が姿を消し農務省が一時は頭を抱えたほどであった。



朱菫国の菓子が広がり始めるとスティルアート領への批判は徐々に姿を消し、反対に少しでも早く菓子の情報を手に入れるべくスティルアート領にやってくる記者が続出、主人の命を受けていち早く菓子を手に入れるべく貴族たちの家人まで押しかけるようになった。



スティルアート領に入るさいスティルアート家への批判をしていない貴族や記者のほうが融通してもらえる上にまだ出回っていない情報も貰えることもあって批判が消えたのだがこの事実は大衆に知られることはなかった。


ちなみに卵や小麦が姿を消した時、アルテリシア国内でも有数の農業、畜産地帯であったスティルアート領が備蓄を開放したことも批判収束への一助となっている。










「一時はどうなることかと思いましたけど…結果的には大成功なのでしょうか…?」


アルバートは手元の資料と父の顔を見比べた。資料には昨年比より領地内の収入が倍増していることを示すデータが記されていた。


「批判も収束したし、我が領は特産品を手に入れた。確かに朱菫国から文書が来た時はどうしたものかと思ったが…結果的にはメアリーの言う通りになったな…」



これにはハロルドも溜息をつくしかなかった。一体6歳のあの娘は何を考えているのか、父親には全く予想が付かなかった。

メアリーももちろん可愛いが、真摯に屈託なくまっすぐにいてくれるアルバートに救われる日々だ。この秀才で控えめで気の利く息子の爪の垢を煎じてメアリーにも飲ませてやりたい。





最初の出張の目的は朱菫国で起きた産業改革の調査をするためだった。



朱菫国の技術は確かに素晴らしいものだった。

繊細な職人技に仕事に取り組む真面目な姿勢。


どれもハロルドにとっては好意的にみられるものではあったが、朱菫国ではありふれた当たり前のことになっているのかハロルドの考えとは違っている。



朱菫国の職人の地位は年々下がる一方であった。

少しでも安いものを、という国民の声に押されるように伝統工芸の職人たちの収入は下がる一方。効率的に大量生産が始まったことも相まって職人たちは数を減らし文化は衰退するばかりだった。


そこを突いたのが今回の発端だ。


職人たちを高い給料と好待遇でスティルアート領に招待したのだ。職人たちは自分たちの技を受け入れてくれるならとハロルドの提案に乗った。




『どうせなら職人たちの家族もお呼びしたらどうです?家族がスティルアート領に馴染めば朱菫国に戻りたくなくなりますからこちらに長くいてくれますわ』



ハロルドは職人たちに敬意を持っていた。


だからこそメアリーの言う通り、家族も一緒に住む場所も用意し工房もそろえること、魔法の授与、スティルアート領の住人と同等の権利を保障することを約束すると職人たちは諸手を上げて喜んだ。



これにはハロルドも驚いたが、年々下がり続ける収入と文化の衰退する現状に職人たちも頭を抱えていたらしい。例え外国であろうと自分たちの仕事を残すことができて今より環境がよくなるならと提案に乗ったそうだ。



かなりの批判と外交問題は勃発したもののスティルアート領は増益、職人たちも子どもたちに満足のいく教育と収入を得ることができ満足。今はこの流行を一時のもので終わらせないよう頭をひねっているらしい。是非頑張ってほしい。



「朱菫国からの文書の件は大丈夫なのですか?」


「あぁ。朱菫国から来た人たちがこちらでの好待遇をあちらに伝えてもらったら朱菫国内で職人たちの待遇について問題になっているらしい。こんな環境なら外国に活路を求めても仕方ない、と」


「しかしそれでも外交問題が解決したわけではありませんよね?」


「いう通りだ。領地内はこれでよくともアルテリシアはそういうわけにはいかない」


はぁ、とハロルドは頭を抱えた。

確かにメアリーのいう事をなんでも聞くと言ったのは自分だし、メアリーの提案に乗ったのも自分だ。それについては強引だったとは思うが後悔していない。


しかし、ふつう6歳の子どものおねだりなんてお菓子をもっと食べたいとか、おもちゃがほしいとか、そういうものだろう。


まさか職人を引き抜けとは…。



やはりメアリーの中にはなにか得体の知れないものが潜んでいるのかもしれない。



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