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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
26/132

15’.6歳 美味しいお菓子が食べたい

甘いものが食べたい。



それは女子なら誰しも考えることで私はこれが特段贅沢なことだとは思わない。

何故なら女の子は甘いお菓子とスパイスで出来ているから。









オーギュスト様との初邂逅からだいたい半年がたった。

ちなみにこちらのアルテリシア皇国は元がゲームの世界というだけあって暦の数え方は前世と変わらない。


つまり私は6歳になった。


前世では小学校にあがったりとなにかと節目になる歳かもしれないがこちらの世界ではそうでもないらしい。

まぁ…貴族の学校に入るのはもう少し先だからね…。


さて、高位貴族として衣食住不自由するこなく暮らしている私、メアリーだけどどうしても前世の記憶や感覚を引き継いでいる分どうしても受け入れがたいことがあるのだ。



それは食事。



王宮の料理を食べてわかったことだけどアルテリシア皇国の料理は…まぁ…なんというか…お上品すぎる…。


マズいとかそういうわけではないし食べられない味でもないんだけどこれが美味しいかと聞かれたらノーという感じだ。


素材の味を全面に生かしました!みたいなお味。


こっそり厨房を覗いたり料理を観察してみてわかったのだけどこの国の料理には調味料とか香辛料がほとんど使われていないのだ。あっても塩くらいじゃないだろうか?


そして魔法を使った冷蔵設備があるにもかかわらず何故かお菓子は焼き菓子が中心でクリームとか生ものがない。

冷蔵庫は肉や魚を保管することがメインみたい。



あぁ…あのジャンキーな脂肪分たっぷりのクリームに包まれたケーキ、にあぶら塗れのポテチ、ひんやり冷たい大きなボックスアイスに濃厚なチョコレートが食べたい!!!!



「はぁ…」



「メアリー?どうしたの?なんだか浮かない顔ね」


「お母さま…」


隣に座っていたお母さまがのぞき込むように視線を合わせた。数日前からお父様とお兄様が外国に行っているということでこの家には従者たちとお母様と私しかいない。そのことで私がすこし寂しがっているのではないかと心配しているのだ。



「いいえ、お母さまなんでもありませんわ」


「そう…。お父様とお兄様は早ければ今日にでもお戻りになられるわ。帰ってきたらたくさん外国のお話を聞きましょうね」


「えぇ。楽しみですわ」



ごめんなさい…お母様。あなたの可愛い娘は決して寂しくてこんな落ち込んでいるわけではないのです…ただお上品な味の料理に飽きているだけなんです…。



いつも通り、家庭教師と勉強をしている間も私は上の空だった。

何度か叱責が飛んだけど食欲には勝てない。てきとうに返事をしているのだけど次第に先生も1週間ちかく大好きな兄や父に会えなくて寂しいのだろうと勝手に勘違いしてくれたおかげで口うるさく言ってくることはなくなった。




時計の針が昼を回った頃、急に屋敷の中が慌ただしくなった。

お父様とお兄様がお帰りになったのだ。


私もメイドに急かされて玄関までお迎えに上がると、1週間ぶりとなるお父様とお兄様の姿があった。


「おかえりなさいませ!お父様!お兄様!」


「メアリー、只今帰ったよ。いい子にしていたかい?」


お兄様が少しだけ疲れを感じさせながら優しく頭を撫でてくれた。

まだこの時点でメアリーとアルバートの兄妹仲は良好なものでこうして頭を撫でてくれたり寝る前に本を読んでくれたりする。


「もちろんですわ!私がいい子でないときなんてありましたか?」


「…あぁ、そうだったね。メアリー、お土産があるんだ。後で渡すから楽しみにしていて」


「まぁ!外国のお土産ですの!楽しみですわ!」



お兄様が行った国はたしか西の果ての異国情緒あふれる国だったはずだ。アルテリシア皇国の西側に属するスティルアート領とは近い関係にあるらしい。外国のお土産と聞いて私のテンションは目に見えて上がっていった。



「さぁ、メアリー。お兄様とお父様はお疲れだからまずはお部屋で休ませてあげましょう」


「はぁい」












「メアリー、受け取りなさい」


領地経営と皇帝陛下の側近という激務にあるお父様でも外国への出張は疲労を感じるものだったらしい。

少しだけ声に疲労を感じさせながらも私には明るくお土産を手渡してくれた。


「僕からもどうぞ」


「ありがとうございます、お父様、お兄様!」


手渡された包み紙はアルテリシア皇国では見かけない柄の包み紙でラッピングされていて、


「和紙?」


「おや、メアリーはこの紙を知っていたのかい?」


「え?…本で読んだことがあるだけですが…」


「へぇ、メアリーは物知りだなぁ」




アルテリシア皇国はどういうわけか魔法による機械化の影響か産業改革が都合のいいように進んでいて服や生活スタイルは中世ヨーロッパめいているのに魔法を使った車に乗っていたりする。

その過程で製紙技術もかなり進んでいてどういうわけか紙は私が前世の頃に親しんだ薄くて丈夫な紙をはじめとしたさまざまな紙が出回っているのだ。


でもその包み紙はこちらでみるどの紙とも触った感触が違う。柔らくて、ザラザラしていて、アルテリシア皇国では見かけない東洋風の朱色を使った色使いと唐草模様のようなデザイン。


そっと糊付けされている部分を指ではじき優しく破かないように包装紙を捲ると木でできた寄木細工のデザインの四角い箱が姿を現した。


「あら、宝箱ですわね」


「ふふ、開けてごらん」


お兄様が悪戯っぽく笑って箱を指さした。私はわくわくしながら箱をひっくり返したりまわしてみるがどこにも開けるところが見当たらない。箱の上部に切り込みがあるからこの上の部分をスライドさせることはわかるのだけどどう動かしてもピクリともしないのだ。



「お兄様、変ですわ。この箱開くところが見当たりません」


「メアリー、アルバートからの宿題だ。この箱を壊すことなく正しい手順で開けることができたら何でもひとついう事を聞いてやろう」


「えぇ?!ひどいですわ!」


「その箱の中に父からの土産が入っている。せいぜい頑張るのだな。期限は明日の朝までだ」



お父様まで楽しそうに笑って箱を指さした。お父様も私にはこの課題は出来ないと思っているに違いない。そうでなければお父様が何でもいう事を聞くなんて無茶なご褒美出すわけないのだ。


箱を軽く振るとカラカラと音がした。何かが入っていることは間違いないらしい。



「さ、難しい課題はあとでにして外国のお菓子を食べましょう!とても珍しいお菓子を買ってきてくださったのよ!」


弾むようなお母様の声に促されてメイドたちがテーブルにお茶の用意を始めた。私は包装紙を丁寧にたたんで箱と一緒に膝に置いた。既に意識はお土産のお菓子に向かっていた。外国のお菓子というだけで期待は膨らむ。



メイドたちが運んできたのはこの国ではよく見かける魔法を使った温度を一定に保つ箱だった。魔力の続く限り保温と保冷をしてくれる便利なアイテムでわりとメジャーなもの。私たち貴族が使うものはそのままかなりデザインが凝っていたりするのだけどね。


ワゴンに乗せられた箱から恭しく取り出されたのはメアリー、いや、真理にとっては見慣れたお菓子だった。


「まぁ、可愛らしい!」


お母さまが思わず歓声をあげ、背後からのぞき込むように見ていたメイドたちも小さく声を上げた。


丸い、プリンカップのような透明の容器の下半分にはミルク色のムースのようなお菓子が、上半分には薄っすら空色がついたゼリーが注ぎ込まれていて、空色の池を泳ぐように赤い金魚のような魚が2匹ひらひらと泳いるようだった。


「なんというお菓子ですの?」


「これは2層ゼリーというそうだ。これを作った職人が新しく売り出そうとしているそうなのだが試作品を譲ってもらったんだ」


「へぇ。外国にはこのように可愛らしいお菓子をつくる職人がいらっしゃいますのね!」


「あぁ。西の国は美食の国でもあって食べ物へのこだわりが強いのだ」




全員に行き渡ったことを確認してシルバーのスプーンでうっすらと青いゼリーをすくうとその感触は前世で食べたゼリーそのものだった。

透明なキラキラとしたやわらかいゼリーがぷるんと震える。


「まぁ…不思議なお菓子ですこと…」


お母様が小さく溜息をつきながらゼリーを眺め、光にすかしたりしていた。反応を見る限りこちらの世界ではゼリーは珍しいお菓子のようだった。メアリーが見たことなかったっていうわけではないらしい。



「ひんやりしていて甘いですわ!不思議!」


口に含めば、それはやはり前世で食べたゼリーそのままだった。はやる気持ちを抑えて下側の白い層にスプーンを差し込むと柔らかく泡を突いているような感触がして疑いは確信に変わった。


「生クリーム!!」


「雪のようで綺麗だろう?」


「メアリーは生クリームも知っていたのかい?アルテリシアにはまだない食材だから知らないと思っていたよ」


「え…えぇ、これも本で読んだ程度ですが是非食べてみたいと思っていたのです。とても美味しいですわ」


「だろう?できることならこれを作る機械もうちに導入したいものだ」


「そのようなものがありますの?」


「あぁ。これは牛の乳から作るのだが生クリームにするにはたくさんの乳と分離機が必要だそうだ。時間をかければ勝手に分離して作ることもできるそうだけど西の国では皆がこれを食べたがるから機械を使っているらしい」


「へぇ…お父様、西の国ってなんていう国ですの?」


「あぁ、言ってなかったな。朱菫国という国だよ」


「朱菫国…」



私はしっかりと記憶するようにその名前を口にだしてさっきもらった寄木細工の箱を引き寄せた。

生クリーム…こっちの世界にもあったんだ…。









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