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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
1.この世界がゲームであると知っている
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2.岡部真理とは前世のこと

日本というのは地球に存在している小さな島国だ。


水産資源、気候風土、技術云々…知る限り不便はなかったし私自身、日本に生まれたことに不満もなく大きな不便もなく人生を謳歌していた。


そんな日本で岡部真理という人物はごくごくありふれた、どこにでもいる少しだけオタク気質なふつうの女の子だった。




一般家庭に生まれた女子××生、××歳。容姿は可もなく不可もない。1度すれ違っただけでは即忘れられるモブ顔だ。

趣味はアニメ、ゲームといったサブカルチャー。

所謂乙女ゲームってやつからBL漫画まで幅広く好むオタクだ。



姉も同じような趣味を持つ人間で夏と冬、それから各種イベントのために薄い本を描くような人だったので私もよく手伝わされた。おかげでどこで役に立つのかわからない画材道具の知識からイラストソフトの使い方まで覚えてしまった。



だからといって姉のように1冊の本を作り上げるために情熱を注げるタイプでもなく、唯一続いていた漫画やゲームの趣味以外に熱中できることもなかった。



人より感情の変化に乏しいようで、学年が変わる修了式でクラスメイトがしくしくと涙を流すなか私は醒めた目をしていたし、卒業式ですら悲しいとは思わなかった。

なんなら野生動物のドキュメンタリーをみていて、食べ盛りの子どものために骨が浮き出そうな体で賢明に狩をする動物をみていても平然としていられるドライなタイプだった。



そんな私が唯一心を動かされた存在がPNP専用乙女ゲーム『ラブ・ファンタジーマジカル』(通称ラブファン)だった。


ゲームの内容はどこにでもある下位貴族の純粋なヒロインが次期皇帝候補やその側近たちと身分差や悪役令嬢、世界の破滅の危機を乗り越えて結ばれるというものだったが、私が胸を打たれたのは攻略キャラの1人、オーギュスト様だった。



乙女ゲームなので当然ながら容姿端麗、文武両道。


皇子という立場にありながら努力を惜しまない姿勢、早くに母親をなくし弟を守りながら国のために尽くす献身っぷり。

冷酷でありながらヒロインに対しては激甘だけど初めての恋にどうしていいかわからず戸惑い不器用さ。ヒロインと共に成長していくオーギュスト様はヒロインを翻弄していくのだ。



私は学業に勤しむ傍らPNP片手にスチルとボイス集めに奔走した。

美麗なスチルを集めて悶絶し、携帯の待ち受けに設定しボイスを集めては耳元でささやくオーギュスト様の天上から与えられた神のお声とも錯覚する美声にもしや自分は未経験なのに孕むのではと錯覚したほどだ。



可愛らしい仔猫をみても流行りのアイドルのライブに言っても一切心動かされることはなかったのに私はオーギュスト様のことを考えオーギュスト様のことをおもい1日があっという間に過ぎていく日々を送った。



そうしてようやく気が付いたのだ。これは恋であると。



人生初の恋に私はのめりこんだ。


日々のなかにオーギュスト様の息遣いを感じ、彼の高潔な精神に恥ずかしくないよう自身を磨き制作会社のために少ない情報を頼りにグッズを買いあさり部屋の壁という壁に掲げ、ドラマCDやキャラソンは各販売店の限定特典ごとに予約した。


神(制作会社)がラブファンを続けてくれるかどうかは信者(ファン)がどれだけ貢げるかが重要なのだ。



アニメ化のおりにはアニメ放送前から予約を開始していたDVDとBlu-rayを各店舗ごとに全て予約をいれ(12店舗DVD、Blu-rayそれぞれ。ただしBlu-rayプレイヤーは持っていない)、毎週家のテレビで予約し忙しい日々を送ったものだ。ちなみにエンディングのダンスは振り付けを完璧に覚えた。



自分の平々凡々な容姿ではオーギュスト様に相応しくないと一念発起しダイエットと筋トレを開始。それまで興味のなかった化粧をするようになった。


ダイエットはエンディングのダンスを踊りまくっていたら自然と締まった体つきになっていったのでオーギュスト様のお陰だと思う。


性格も明るくなり、ドライで感情があまり動かないに違いはなかったが相手に会わせて顔を動かすようになった。オーギュスト様は後に皇帝になる方である。私は皇妃として恥ずかしくないよう社交術だって磨かなくてはいけない。


オーギュスト様は容姿もさることながら学園での成績は常に主席。人知れずいつも勉強していた。ゲームで最初にであった場所も一目につかない中庭の外れだったほどだ。


努力を怠らず勉学に励むオーギュスト様の支えになるよう私も勉強を頑張った。

あまり長時間机に向かっていることは苦手だったが、発売されたばかりのオーギュスト様のフィギュアを机に飾り、オーギュスト様に囲まれた部屋にいてはサボるわけにいかない。


くじけそうなときはいつもオーギュスト様が励ましてくれる。辛いときはオーギュスト(フィギュア)が応援してくれるのだ。オーギュスト様の前で格好悪いところは見せるわけにはいかった。



そうして10位以内となった成績表を親よりも先にオーギュスト(フィギュア)にみせたら部屋中のオーギュスト様がおめでとう!って言ってくれる気がして増々頑張った。


結果、成績は飛躍的に伸び受験のとき希望から2つも学校のランクを上げることができた。それもこれもオーギュスト様のおかげだ!



好きが高じて当時はやっていたファンサイトを携帯からちまちまと作りオーギュスト様の夢小説なんてものに手を出し情熱のままに書きなぐったこともいい思い出だ。


HTMLやタグなんていう用語を覚え、オリジナルのファンサイトを作った。インターネットの世界に散らばる神々の作品を鑑賞しひと時のオーギュスト様との時間に浸り、辛い現実世界を生きていくための活力にした。


遥か遠くにいる同士たちから少しずつ感想がもらえるようになって交流を持つようになるにつれてだんだんと自信がついたのか、人見知りの気があったのに改善されていった。




ゲームの発売から早3年が経過し、アニメも第2段まで制作されたのち、神(制作会社)から重大発表があると告知があった。


劇場版?新キャスト?続編発表?ファンの間で様々な憶測が飛ぶ中で私はドキドキしながらアニメグッズ専門ショップに雑誌を買いに行った。



ラブファン!重大発表!と大きく書かれた見出しの雑誌を購入し中身がわからない青い袋に入れ意気揚々店を出たところで、私は暴走した大型トラックに轢かれて命を落とした。




神様、どうか携帯のデータも一緒に消してください。

あと黒歴史(夢小説のファンサイト)が親にバレませんように…。


そしてどうか重大発表の詳細を教えてください!!



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