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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
18/132

7’.5歳半 王宮に来たからって大人しくしているわけがない

今回も主人公の行いがひどいです

ご注意ください


私が連れ込んだ女の子(男の子)が実はルイ様だと知ったのは控室にルイ様の従者たちが押しかけてきたからだった。


一時は誘拐未遂だと大騒ぎになって私に付いていたメイドが首を刎ねられるのではないかという危機もあったけれど、ルイ様が庇ってくれたことや、本来なら庭園に行くことは禁止されていたのにこっそり抜け出したことなどがあってとりあえずはお咎め無し。


夕方からの立食晩餐会への参加は許可された。


5歳で立食なんてハードル高いことするな~と思ったけどそこはやはり訓練された貴族の令嬢がた。料理も手で食べやすいものに限定されていたし子どもでも取りやすい低い高さのテーブルで用意されていたから誰一人口元を汚すこともグラスをこぼすこともなかった。


「メアリー様、ルイ殿下をお部屋に連れ込んだというのは本当でして?」


やはり貴族というのは耳が早いもので、女の子がさっそく近寄ってきた。ざっとみて5人程。みんな一様に子どもとは思えないねちっこそうな哂い方をしていた。


「あら、ジャンナ様。お耳が早くていらっしゃるわね」


「覚えていて頂いて光栄ですわ」


ジャンナ様はうちより家格は下。この5人のボス的存在のようで昼間のお茶会でも5人で固まってほかの女の子たちを威嚇していたようだった。


「メアリー様ほどのお方ですとオーギュスト様もルイ様も手玉に取るくらいかんたんなことなのでしょうね」


ジャンナの隣にいた女の子が鼻で笑う。この子はカイリー。ジャンナの妹だ。姉によく似たニヤニヤとした笑い方をしている。


「まさか。私はいつでもオーギュスト様一筋ですことよ」


ルイ様を連れ込んだことは本当に誤算だったんだ…いや、本当に…

正直あまり触れないでほしいけどそういうわけにはいかないのが貴族の世界。たったひとつの小さなミスをいつまでも引きずり出してずっとチクチクとつついていく。


「まぁ。そうでしたの?てっきりメアリー様は年下がお好みなのかと思っていましたわ」


「ふふっ!メアリー様ならどんな殿方でも構わないのではありませんこと?」


「噂に聞いておりますわ。どんなわがままもお父様がかなえてくれるのでしょう?」


カイリーの言葉にその後ろにいた女の子たちも頷いてクスクスと嗤った。


このマセガキ共め。私の内心に気づかず、調子が出てきたのか彼女たちのおしゃべりは続く。



「オーギュスト様って少し期待外れっていうのかしら?もう少し楽しい方だと思っていたわ」


「そうね。お話していて退屈だったわ」


「もっとユーモアのある方かと思っておりましたのに」


「皇族ですもの。お行儀がよろしくていらっしゃるのよ」


「オーギュスト様のお嫁さんになったら毎日退屈そうですわ。お姉様はよろしくて?」


「カイリー、皇妃になったら秘密のひとつやふたつ持つものなのよ」


「まぁ!」


「…でも私、オーギュスト様のお嫁さんにはならないかもしれませんわ」


「え?どうしてですの?」


「うーん、お嫁さんではなくてオーギュスト様がお婿さんになるかもしれないってお父様が言っていらしたの」


「何が違うのですか?」


「えーと…」



は?こいつら今、オーギュスト様のことをなんて言った?今日だってひとりひとり不公平にならにように、でも話す内容が被らないようにめちゃくちゃ注意してひとりひとりお話されていたじゃない。家名出したらいけないから親のことも話せないなか初対面の女の子に話題提供してくれてんだぞ?どれだけオーギュスト様が気を使っているかわからないとでも?おまえらこそ頭沸いてんじゃね?は?


顔の表情を一切崩すことなく尚も続く彼女たちのトークを聞き続けた。その内容はボスであるジャンナが皇妃になったら~とかそんな内容で退屈なことこの上ない。



「あなた方、それ以上品のないお話はお辞めなさい」


鈴を転がしたような可愛らしいソプラノボイス。声がした方に視線を向ければ深窓の令嬢と呼ぶにふさわしい可憐な少女がいた。

はかなげな容姿にビスクドールのように整った顔立ち。病的なまでに白い肌をしているが頬だけは子ども特有の桃色がさしている。


「リリー様…」


スティルアート家よりも下とはいえエスターライリン家も上位の貴族に属する。特にリリーはエスターライリン家の末妹として両親や兄たちから大変溺愛されていることは有名な話であった。そんな彼女に目を付けられるというのはこれからの貴族同士の社交で不利に働く。


いや、私ならいいのか?という疑問はあるのだけど…!!



「王宮にきて少し気分が高揚されているのかしら?あまり品のない振る舞いは控えることね」


そう言って、リリーは立ち去って行った。5歳とは思えない優雅なふるまいと大人びた口調にすっかり言葉を失ったようでジャンナたちはため息さえついている。


しかし私は気づいていた。これはリリーが私たちを使って『子ども同士の喧嘩に混ざらない大人の自分をアピールしている』ということに。

何故なら私たちにさっきから目を光らせる大人の目がいくつもあったのだから。


皇妃というのは貴族の女性たちの頂点に立つ存在だ。

女性同士の間で発生した問題の解決を求められることだってある。そこで発揮される影響力をアピールしたのだ。なんという強かな子どもだろうか。


いや、今はそんなことよりこの子どもたちへの制裁だ。


いくら他の大人たちに聞こえていないとはいえ私の前でオーギュスト様のことを悪く言った罪の重さを知るがいい。






「ねぇ、私昼間に大人たちが残りのお菓子と王都でしか売っていないおもちゃを隠しているところをみましたの。私は見張られているので行けませんが…よかったらみなさんで行ってはどうですか?もちろんほかの子たちには秘密ですよ?」


「え?お菓子?」

「おもちゃ?」


秘密という甘い言葉さ誘い出せばジャンナたちはあっさりと釣れた。

ほかの子どもたちとマウントの取り合いに興じていた彼女たちは美味しそうなお菓子を満足に食べることができなかった。そしてこの年頃の子どもというのはおもちゃに弱い。しつけのために貴族たちですら子どもに与えるおもちゃは厳選していると聞いているくらいだ。


前世の世界と違って交通網の発達していないこの世界では王都に売っていても自領で手に入らないものというのはごまんとある。


普通に考えたら隠しているわけないんだけど子どもって単純だな~。




さっきルイ様と遭遇したときみつけたのだがここには小さな小屋があった。そこの場所を教えたらジャンナたちは大人の目をかいくぐりながら晩餐会の会場を抜け出して中庭に向かった。


そこはおそらく庭師たちが庭の手入れをするときに使う物置小屋だと思うけど外から南京錠で施錠できるようになっている。昼間にみたとき、その南京錠は施錠されていなかった。


私も小屋に向かう彼女らをそっと追いかけた。




キイィと音をたてる木製の扉を開ければ照明のない小屋は真っ暗で外からの僅かな光しか頼りにならず気味の悪さがジャンナたちの足をすくませた。



「あの奥かしら…なにかありますわ」

「え?!どこ?!?」

「みえないわぁ!!」

「中に入ってみましょうよ」


小屋にはシャベルやスコップ、肥料が所せましと並べられていた。どれも貴族のご令嬢がたには初めて見るものばかりだったようでキョロキョロと薄暗い小屋を見回している。

当然おもちゃもお菓子もあるわけないのだけど初めて見る農工具や肥料の袋は絵本に出てくる宝の袋に似ていて、興味をそそられるらしい。


恐々と忍び足でゆっくりと小屋の中に入っていく。




「まぁ、これはなんでしょう?」


「それより奥をごらんなさい!初めて見るものばかりです」


「本当です!あら!こちらの袋はなにかしら?」


最初こそ怖がっていたが、一人ではないという安心感から余裕を取り戻したようだ。


5人は楽しそうに声を上げながら一人ずつゆっくりと小屋に入っていった。初めて見るものに驚きドレスに埃が付くこともいとわず農工具や肥料に触れている。

いつもは従者たちがこんなものに触れることすら許してくれないのだろう。そりゃそーだ。


最後の1人が中に入って干からびたロープに夢中になっていることを確認して、



がっちゃん



私は唯一ある扉の南京錠の鍵をかけた。この世界の南京錠はまだナンバー式なんていう上等なものにはなっていない。だから鍵穴に鍵を指して開錠するしかないわけだが、これほど広い城だ。すぐに鍵は届かないだろう。



「ちょっと…どうして扉が閉まっているの?」


「え?どうして?!さっきまで空いていたのに!!」


「この扉…開かないわ!!」


「嘘!!」


「どうして!?!?!」


「いやぁぁぁぁ!!!」


悲痛な悲鳴が小屋から湧き上がった。この世の終わりのような幼い子どもの泣き声は次第に増えていきとうとう5人全員が嗚咽を漏らし始めた。中庭に誰のものとも判断できない悲鳴が木霊する。


しかしここは晩餐会の会場から離れているし殆どの警備は晩餐会に充てられている。中庭に気をまわす余裕なんてない。


小屋のなかから見えるのは換気のために付けられた天上近くの小さな窓だけ。それも人が出入りするには小さすぎるし何より子どもの身長では届きそうにない。小屋にはロープとか脱出に使えそうなものはあるけど果たして実行に移すことはできるだろうか?


私は小屋の近くに詰まれた土嚢の口を開いた。

こちらの世界にはまだ化学肥料というものは存在しない。そのため植物の肥料には家畜の糞尿が使われる。

ほら、前に家庭教師を突き落としたときにもお世話になったでしょ?あれですよ、くっさいアレ。どれだけ綺麗な花でもこんな臭いものを吸収しているのさ。


「よっ…と」


私は熟成して程よく臭いを放つ袋をつかむと、小屋の脇に詰まれていた空き箱をよじ登って窓に袋の口をかけた。


そして、


べちゃべちゃどばっ!と音を立てて、臭いたつ栄養たっぷりの肥料は汚いモノを知らない幼い少女たちの頭上に容赦なく降り注いだ。


「きゃあああああああ!!!」


「なにこれ!?!?くさっっ!!!」


「きたない!!」


「もういやああああ!!」


「誰かたすけてぇぇ!!」



同じ要領でもう2袋ほど肥料をぶちまけると私は意気揚々と階段代わりの空き箱から降りて、丁寧に崩していった。窓から脱出したとき足場にされないようにするためだ。

まぁ糞まみれになって人前に出られるのなら、の話だけどね。



「栄養たっぷりの肥料をたくさん食べて綺麗な花を咲かせるといいわ」



そうして私は素知らぬ顔で晩餐会の会場に戻っていった。でも臭いがどうしてもついてしまっていたのか、メイドに見つかって早々に着替えさせられた。


「一体どこでこんな臭いを付けてきたのですか?!少し目を離したらすぐこれだわ!」


着替えをしている間、臭いの付いたドレスを洗濯するメイドは悲鳴をあげていた。


「ちょっと肥料をあげに行ったのよ」


意味深にほほ笑んで、私は人の海の中に飛び込んでいった。

さっきよりよっぽど晩餐会を楽しむことができそうだ。オーギュスト様を悪く言うなんて罪深いことをした彼女たちは反省してほしいと思うし命があるだけマシじゃないかしら?




匂いネタ多くてすみません…

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