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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
130/132

120’.悪かったとは思ってる~side others~

誘拐事件から一夜明けた。


幸運なことに軽い擦り傷と打撲程度の被害ですんだこともあり一行は予定通り別荘で休暇を満喫することになった。


本来ならすぐさま王都へ戻り誘拐犯らの事情聴取や取り調べに協力するべきなのだが、オーギュストの関与を隠すためにあくまで表向きは『オーギュストの連れていった騎士が偶然、窃盗の現場に遭遇。警備兵に引き渡したところ世間を騒がす誘拐グループの一員だった』ということになっている。


少々無理のある内容だが、本当のことが明るみになるより余程マシで、スティルアートと懇意にしている記者と出版社に金を握らせこの内容で通すこととなった。


嘘も100回ついたら真実になるというやつだ。


メアリーは奇跡的に軽症だったが、後遺症が出る可能性を考え今日はルイと別荘の庭でおしゃべりに興じていた。

ルイが庭に植えられた花や魔草のうんちくを語り、メアリーは興味深そうに耳を傾けている。時折わからないことがあればルーシーを交え辞書をひく。


そこだけ誘拐事件のことなど微塵もかんじない平和な時間が流れていた。


ちなみにルイとルーシーをメアリーにつけたのはルイならメアリーに強制的な話を聞かせることができるからだ。

メアリーはルイに甘い。ルイ本人のあざとさに気づいているはずなのに、簡単に言うことを聞く。

さらにもしメアリーの体調に異変があればルーシーが気づくため、ルーシーが異変を感じたら即ルイがメアリーをベッドに送り込む作戦だ。





「で、まぁ世間的なことはいいんだよ?ウチで十分対応できるし、父上も納得済みだし、成果としては及第点だって皇帝陛下もおっしゃっているそうだからいいんだよ。でもね、僕散々言ったよねぇ?」


「えーと…そうだっけ?」


「ユリウス、君も言質は取ったよね?」


「あぁ。我が主はたしかに『救出に失敗した場合は即時離脱する、自分を含めた人質の安全を優先する』と言った」


「だ、そうだ」


「……裏切ったな」


「………………」


ユリウスに聞こえるか聞こえないかぎりぎりのボリュームだったが低く腹の底に響く声音に思わず悪寒がはしる。

敬愛する主から裏切られたなどと入れれては騎士として深く傷つき許しを乞うが、今日ばかりはそういうわけにいかない。


今回に関してはオーギュストに反省してもらわなくてはいけないのだ。

とはいえユリウスではオーギュストに反省を促すことなどできないのでアルバートに嫌われ役を引き受けてもらった。



「実際はどうだった?犯人たちが自動供給魔法が使えるかもしれないから拠点まで乗り込む?魔法の手がかりを掴んでから離脱する?リスクを考えてくれ!リスクを!!」


「あー、そうでしたね…」


「オマケに一晩安否もわからず応援の要請もできないまま少人数での捜索。しかも騎士たちは護衛が本来の任務で、捜索は専門外なんだ。最初から離脱してくれたらここまで大ごとにならなかったわけだけど…そこについてなにか言うべきことはあるか?」


「えーと、すまなかった」


「すまんで済んだら警備兵はいらないんだよ!!」



あ、これは長くなるやつだ。

ユリウスは内心ため息をついたが、今回に関してはアルバートに全面賛成しているし申し訳ないがオーギュストには反省してもらいたいため、静観を決め込んだ。



幸い、捜索隊本部だった談話室は人払いをさせ、身内しかいない。

そもそも第三皇子であるオーギュストが側近であるアルバートに説教されている姿など見せられるわけがない。

特に、セイガから習った反省の意を表すセイザというやつをさせられ仁王立ちのアルバートに怒られているところなど…。






「だいたいね、きみは自分の立場っていうのがわかっているのかい?そもそも僕だってきみが譲らないってわかっていたからこんな無茶な作戦に協力したんだ。それなのにどうして深追いしたんだ?どうせ犯人たちが自動供給魔法が使えると思ったんだろ?」


「全てお見通しのようで…」


「危うく国境を越えるところだったんだぞ。ただでさえクラティオとは危ない関係だっていうのに君が自分から火種を持ち込んでどうするんだ」


「返す言葉もありません…」


「そりゃね、僕だって誘拐事件の規模も頻度もどんどん上がってるからなんとかしたいとは思っていたよ。でもさ、オーギュストが自分から乗り込むとか思わないじゃん?メアリーが巻き込まれたのはまぁいいよ。いや、よくないけどメアリーなら何とかなりそうだし。でもね、君は立場が違うんだよ?わかってるかい?」


「…………」


繰り返される小言に、オーギュストはいい加減耳が痛くなってきて視線が明後日の方向を向き始めた。

同じような話の繰り返しで、言葉は変わっているが内容は同じだ。アルバートもよく同じ話をしていて飽きないものだと感心してしまう。


そういえばメアリーとルイは何をしているのだろう。

こんな天気のいい日だ。庭で日向ぼっこでもしたらさぞ心地よいだろう。

メアリーがルイによく草木を勧めていたがどうして植物に興味があることに気づいたのか、幼心に疑問と嫉妬心を抱いたのは懐かしい話だ。


あの頃はルイのことなら自分が一番よく知っているし知らないことなんてないと思っていた。


自分の興味がもてる得意分野をみつけたルイはまさに水を得た魚のようによく笑い活動的になった。

メアリーには感謝している。



「聞いてるの?!オーギュスト!!」


「…聞いてるよ。あれでしょ?アルバートにとても心配かけたことはよくわかったから。騎士たちにも迷惑かけたね」


「だからそういう話をしているわけじゃなくてー!!」



アルバートは外面がよく人当たりもいい。

人物像を聞かれた時、誰しも口を揃えて「穏やかで優しく聡明」と答えるだろう。

しかし彼と近しい人なら知っている。

アルバートは懐に入れた人間にはとことん甘いく過保護になる。

スティルアートの跡取りとして冷徹さを持ち合わせているが、誰にでも穏やかで優しいのはその冷徹な部分がうまく表れているだけなのだ。


ユリウスはその穏やかで優しいだけの虚像に騙されてきた人物を何人も知っている。

オーギュストに不利益をもたらす人や害になる人間には容赦しないし、昨日まで心を許してきた人物を平気で追い落とす様を何度もみてきた。


しかしその反動か、逆に1度懐に入れてしまえばだいたいのことは許しているし甘い。そのうえ実の親のほうがまだマシと思えるほどに過保護なのだ。


この説教の応酬は過保護の結果に過ぎない。これもアルバートの優しさだと思えば微笑ましいものだった。




「あはは!ご主人様を振り回したこと、よく反省するといいよ!朱菫国伝統の正座は効くだろう?」


ついにセイガが耐えられなくなったようで、腹をかかえて転げ回った。いつも澄ました顔でなんでもこなすオーギュストが小さくなっているのがおもしろくてしょうがないのだ。



「メアリーはいいんだよ。僕の婚約者だから」


「よ・く・な・い!!兄として言わせてもらうとあんな爆弾の塊みたいな存在なんだよ。今回は上手くいったかもしれないが犯人たちが逆上したらどうするつもりだったんだよ!」


「それでも身代金をつり上げたおかげで時間稼ぎできたじゃないか」


「あぁ、それはな!でもね、今回は犯人たちがオーギュストとルイの顔を知らなかったからうまくいっただけ。これで二人が皇子だとバレていたら誘拐そのものを隠せなくなっていたんだからな!」


「幸運だったよね」


「反省してるのか!?」


「してるって…だからもうセイザ…やめていい?…足が限界…むり…」


オーギュストには正直さっきから正座が辛くてアルバートの話なんて1ミリも入ってこない。

足の感覚がなくなってきた。これは立ち上がれなくなる前に血行が悪くなって死ぬ。死因、正座とかかっこ悪すぎる。


「知ってる?オーギュスト?今この足をつつくと川の向こう側の景色がみえるんだって」


危機的状況をわかっているのか、セイガが両手の人差し指を1本たててちょんちょんと、突く動作をした。

本能で身の危険を感じる。



「セイガ!絶対やめろ!!」


「えいっ!」


「あ…」


談話室にオーギュストの悲鳴が響き、なんだかんだ甘いアルバートが哀れになって説教は終わりになった。

防音魔法を使っておいてよかったと、ユリウスは再びため息をついたのだった。






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