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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
127/132

117’.13歳 ひみつの誘拐事件 7

音を立てないように荷台のドアを開ける。

小屋の隙間から明かりが漏れていてるが話し声はしない。…本当に夜通し見張りを立てないつもりなんだ…。



「かれらが誘拐して身代金を要求するってことに慣れていなくて幸いだったよ。本来だったら子どもを連れ去ったらすぐ目的地に向かっていたんだろう」


「あ、なるほど…」


たしかに身代金の金額も慎ましかった。慣れていないと思えば納得かも。


音を立てないように荷台から降りて、ルイ様が先頭にたち森に向かった。

森に添って街に出る計画だ。


森にさえ入らなければ『迷いの森』の魔力で精神を病むこともない。方角は月と星を目印にして進む。



オーギュスト様の知識の深さに感嘆してしまった。皇子でありながらサバイバルの知識までお持ちなんて…。

やっぱりオーギュスト様は素晴らしい。


森まで目前、という位置まで足が伸びたところで急にビービーとサイレンのような音がけたたましく鳴り響いた。


「何これ?!」


「ガキ共が逃げたぞ!」


小屋から親分の怒声が聞こえる。


「まずい!バレた!」


「森へ入りましょう!」


「は、はい!!」


周囲は遮蔽物のない草原。今みられたらどちらの方向に逃げたかすぐにばれる。


まだ私たちでは犯人たちから走って逃げきれるだけの体力も速度もない。それなら身を隠せる森に入ったほうが安全だった。


ルイ様に先導されて森に飛び込み、大樹の陰に身をひそめる。


抱きかかえてもなお有り余る大樹は私たち3人の姿をすっぽり隠してくれた。


「どうしてバレたんでしょう…」


「わからない…罠と同じく魔法を使わない武器の類かもしれないね」


現代日本にはセンサーで反応するドアとか普通にあった。

あれがいつ頃開発されたものかはわからない。

だけど自動ドアとか、トイレでお馴染みの流水音が流れるアレとか、人が通ったことを感知する機器なんてたくさんある。


クラティオが魔法に頼らない兵器を開発しているとしたらその過程で生み出されてもおかしくない。


魔力を使わない火薬兵器の恐ろしさは知っている。


どうしよう…丸腰の私たちで火薬兵器とやり合うなんて無理がある。

影もいない。ルーシーもいない。ディーもいない。チート能力もなければ戦闘スキルなんてない。


魔法世界のくせに魔道具が無ければ魔法が使えないなんて不便にもほどがある。


これまでこんな命の危機に陥ることなんてなかったからいらかなった。

でも、今ほどチート能力を望んだ瞬間はない。

異世界転生者なのにこれじゃまるで役立たずだ。


おふたりを守れるほどの能力も私にはないのだから。


どうして神様は私になんの特典もくれなかったのよ!!


「メアリー?メアリー!」


「は、はい!!」


オーギュスト様が強く私の手を握った。


暗くて表情はよく見えないが、そこに握られた手から伝わる温かさは確かなもので、頭を占領していた焦りや怒りがじわじわと解されていく。


「大丈夫。絶対帰ろう」


優しくて、力強い声だ。

なんの根拠もないのに大丈夫だという確信をくれる。


「え、えぇ…もちろんです…」


「不安そうにしてるけど、大丈夫。メアリーとルイは僕が守るから」


今、最も優先されるべきはオーギュスト様のはずなのに…。


私は代えのきく存在だ。


遅かれ早かれ、メアリーという存在はこの世界から消える。

だったら守られるべきはオーギュスト様なのに…。


オーギュスト様の手を握り返す。さっき送ってもらった優しさと同じくらいの優しさを込めて。


「すみません。少し動揺していました。もう大丈夫です」


「よかった…」


「だから、オーギュスト様もルイ様も一緒に帰りましょう。帰って…、別荘でピクニックしましょう。今度は邪魔されないところで」


「もちろんです!まだお見せしていないお花がたくさんあるのですから!」


ルイ様が反対の腕にしがみついて、思わずそちらに体が傾くとオーギュスト様が肩ごとひっぱって支えてくれた。


ち、近い!近い!近い!

ふんわりと、オーギュスト様の香りが鼻をかすめた。


ちょっとまって!私、今日お風呂入っていないから汗臭いじゃん!!ダメダメ!!


「で、殿下?!」


「ルイにいいところを持っていかれそうだったから…えっと…つい…」


お顔が見えなくてよかったかもしれない。こんな至近距離でオーギュスト様のご尊顔に直面したら失神していた。


ついでに私の間抜けた顔もみられなくてよかったかもしれない。


緩みきっただらしない顔をしていることは間違いない。


「あまり一か所に留まるのは危険です。特に彼らは森の魔力の影響をうけませんから僕らと違ってどれだけでも森に入れます…」


「みつけたぞ!」


「あそこだ!!」


やつらだ!

とっさに振り返りそうになるが、その前にオーギュスト様が私の手を握った。


「メアリー!走って!!」


「は、はい!!」



ルイ様が器用に木々の根を避けながら先導してくれた。



昼間は清涼な空気に満ちていた森だけど、夜にもなると光も差し込まない。


特にこちらの居場所を知らせることになるからランタンも持ってこれなかった。


ひたすら足元すらよく見えない闇を息をひそめてひたすら走った。


背後にすぐ犯人たちがいる鬼ごっこというのは非常に心臓に悪い。

私は前世から鬼ごっことかかくれんぼが苦手だったのだ。


「こっちです!」


でも今は逃げるしかない。

これは命がけの鬼ごっこなのだから。







どれくらい時間が経っただろうか。

ひたすらに走った。足もがくがくと震えているし息も上がっていて肩で息をしているような状態だ。


森のなかで少しだけ開けた場所に出た。


相変わらず大樹が茂る森だ。今どこにいるかもわからない。

ルイ様について走ってきたし方角すらわからない。


「兄上、少し奥まで入ってしまったようです」


「うん。この先には谷があるし深追いは禁物だね」


「しかしまだ追っ手が近くにいます」



ちょっとまって…、どうして地図もないのに現在地とかわかるの…?


「おふたりとも…ここがどこかわかるのですか…?」


「うん、おおよそだけどね。メアリーが昼間に犯人たちをひきつけてくれたおかげ」


「植物をみればだいたいの位置はわかりますよ」


「そ、そうだったんですね…」


絶対そんなことはない。

なんで外側からみただけで森の奥までわかるのよ。

植物をみればって…ナニが違うの??!!



なんだろう…私だけ役立たずでは…?

さっきお二人を守ろうって決意したばっかりなのに全く役に立たない…。



「だいぶクラティオ寄りになっています。ここらへん魔力の境界線があいまいな場所です」


「本当かい?」


「はい。この花、魔力の強い場所では咲かないですから」


「だから僕らも森の魔力の影響を受けないってことか」


「おそらく。本来ならこんなに長く森に留まるべきではありませんから」


「さて、どうするかな…?」




オーギュスト様とルイ様が同じ顔をして考え込むように顎に指を添えた。

そっくりな動作と表情に思わず和んで、小さく笑ってしまう。


「ん?どうしたんだい?」


「すみません。こんなときに…。おふたりが本当にそっくりだったものですから…」


「メアリーはどうやらまだ余裕がありそうだね」


「えっ!?ちょっと休憩がほしいです!」


「ふふっ、珍しいですね。僕ら兄弟ってあまり似ていないって言われることの方が多いのに」


「あぁ…そういえば…」


たしかにゲーム内でもあまりふたりが似ているということはなかった。


それぞれ個性を出すためでもあるけれど、オーギュスト様は王道の王子キャラ、ルイ様は小悪魔キャラだった。

キャラクターデザインもオーギュスト様よりルイ様のほうがショタキャラとして描かれている。


共通点があるとすれば御髪と瞳の色くらいだ。

御髪ですらルイ様のほうが甘めの蜂蜜色なくらい、おふたりはあまり似ているキャラクターとして描かれない。



「メアリーにそう言われるとルイとは血が繋がっていると実感できるよ」


「あ…」


オーギュスト様は少しだけ嬉しそうに、でも悲しそうに言う。

その言葉の裏に隠された意味を理解してしまう。


オーギュスト様とルイ様は1歳しか違わない。普通の妊娠期間では珍しいケースに相当する。


それはこちらの世界でも動揺だったようで、お二人はもしや血の繋がりが半分しかないのではとか、どちらかが皇帝陛下の隠し子ではないかという噂が流れたことがあったのだ。


皇帝陛下が正式に否定したこともあって公には言われなくなったが、心無い貴族は極たまに下品なうわさで盛り上がることもある。



「ごめん、気を使わせたね」


「…お母様がよくお話になっていますよ。ルイ様も殿下もソフィア様にそっくりだって」


「メアリー?」


「お二人のことを疑う輩なんて私が抹殺いたしますわ。お任せください、なんの証拠もなく消してみせましょう」


「あはは、メアリーが言うと冗談に聞こえないなぁ」


そりゃ冗談じゃないからね。

影を使って社会的物理的貴族的に存在すらなかったことにしてくれる。


おふたりの兄弟仲をひきはなそうなんてありえない。



「おっと、あまりおしゃべりしている時間がないみたい。メアリー、大丈夫?」


「もちろんです!」


来た方角から人の声がして、再び森の中に向かって走りだした。



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