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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
125/132

115’.13歳 ひみつの誘拐事件 5

20回を超えたあたりで、下っぱをお使いに出した回数を数えるのはやめた。

哀れに思ったのか兄貴が買い出しを変わってくれたりしたので途中から見張りは交代でされていたけど、どうも下っ端は兄貴以上にやる気がないようで、見張りの最中に何度もうたた寝をしてくれた。


「メアリー、戻ったよ」


「おかえりなさいませ!相変わらず寝てますわ」


「本当だ。ずいぶん呑気な見張りだね」


「えぇ。誘拐されているとは思えません」


荷台はオーギュスト様とルイ様が少しでも過ごしやすくなるようクッションやラグを敷き、夜も寒くないよう温かい毛布を用意し少しでも快適に過ごせるようにした。


それからお菓子と飲み物まで用意させたから誘拐されているというよりちょっとした秘密基地みたいになっている。


「そのおかげでおおよその場所がわかったよ」


「まぁ!朗報ですね」


「まだここはヘルナン辺境伯領だけどかなり端だね。『迷いの森』の終わりくらいだからクラティオが近い」


「ということは早くこの場所をお兄様たちに伝えて…」


「うん、メアリーが頑張ってくれたから時間の問題だと思う」


「お褒めに預かり光栄です」



すぐに、親分と兄貴の声が迫ってきた。

ふたりが戻ってきたのだ。親分は私の連絡鏡を脅迫文と一緒に届けさせたらしい。

まぁ本人が届けたわけじゃないだろうけど。




「もうこれでいいだろ!ほしいものがあるなら1度に言え!!」


泣きそうになりながら兄貴が懇願する。

クラティオ寄りの位置ということは街が近いとはいえ相当の距離があるはずだ。往復はさぞ疲れたことだろう。

そのうえ馬は親分が使っているので彼らは徒歩で街に行くしかない。

可哀想に。



「そうね。もう夕方になるしこのくらいにしてあげましょうか。さ、あなたたちも寝たら?明日は早いんでしょ?」


「クッソ…立場わかってんのかよ…ガキどもが」


兄貴が買ってきた食糧をまとめて荷台にドスンと置いた。

夕食分と朝食分を買いに行かせたのだ。サンドイッチとか水とか、食べやすいものが紙袋にまとめられている。

パッケージのロゴはソニア商会のもので間違いない。わざわざ細かい注文をつけて買ってこさせたから間違っていたらやり直しだ。



「おいコラ!てめぇ寝てんじゃねぇよ!」


「わぁっ!!兄貴!親分!戻ったんですか?!」


荷台の外では下っぱが怒られてるところだった。

彼らは交代で見張りをしつつ近くの空き小屋で寝るらしい。外から見ても使われていなさそうなボロボロの小屋は風に吹かれてきしんだ音を立てていた。

お世辞にも一夜を明かすに快適とはいいがたい。


…もしかしてこの荷台のほうが寝やすいんじゃないかしら…。


「いいなぁ…おいらも食べたいなぁ…」


見張りにきた下っぱが私たちのサンドイッチをみながら指をくわえて自分のパンを握っていた。


「もしよかったら半分食べますか?」


ルイ様が、天使のような微笑みを浮かべてサンドイッチを半分千切って下っぱに差し出した。


「い、いいんですか?!」


「えぇ。お使い頑張ってくださいましたし僕のぶんはまだありますから」


「ありがてぇ…ありがてぇ…」


下っぱは目に涙を浮かべルイ様からうやうやしくサンドイッチを受け取った。

安いサンドイッチひとつでここまで感動できるなんて…。

下っぱはかぶりつくようにサンドイッチを平らげ、持っていた自分のパンもぺろりと腹に納めた。


「なんだ、あなたたち自分のぶんを買ってこなかったの?」


「おれは一番下っぱだから兄貴や親分よりいいもん食えねぇんですよ」


「ふうん、たいへんねぇ。お金持たされてるのだから買い物に行ったときうまい事やって隠しちゃえばいいのに」


「あ…」


下っ端は驚いたのか、ぽかんと口を開けた。


「気づいてなかったの…?」


もしかしてわかっていたけど下っぱはあまり賢くないのかもしれない。


「まぁ、ウチの領地だったら食事はみんな同じもの食べるけどね」


「そうなんですかい?」


「えぇ。身分で差はあるけど…公共事業で提供したときは責任者も新人も同じものを食べていたわ」


公共事業のときはアパートの食堂で一斉調理だったから給食形式なのだ。

ソニア商会が入っていたから食事の質もよかったし班の結束を高める効果もあって好評だった。

いわゆる同じ釜の飯を食った仲だったみたい。


衣食足りればなんとやらってやつで食事の質が高かったことはモチベーションにもつながったらしく領地内ではしばらく社食に力を入れる商会が出たとかなんとか…。



「えぇ…いいなぁ…」


食事は思いのほか響いたらしい。興味をもったのか遠くをみるように目に光が宿った。

もう少し何か知りたいようなら教えてやってもいいかな、と思ったあたりで親分が呼ぶ声がして名残惜しそうに走って行った。



「どうやら毒は盛られていないようですね」


ルイ様が小さな声で耳打ちした。可愛らしい口調と声音からは想像できないような内容に理解が追い付かず挙動不審な声を上げてしまう。


「え、ルイ様…毒?」


「はい。これまで全て器が閉じられていましたから毒を仕込める食事はありませんでした。しかしサンドイッチは紙で包まれているだけ。パンの間に挟めば毒を入れることは可能ですから」


ソニア商会はたしかにコーヒーもアイスも器を一度開けたら再度、封ができない器で提供している。

テイクアウトのコーヒーも持ち運びのとき零れないよう蓋は厳重にされているのだ。

転倒防止と異物混入を防ぐための方法だったんだけど…こんなところで役に立つとは…。



「ま、まさかさっき渡したのは…」


「えぇ。毒見させるためです。毒が盛られていたら仲間には言うはずですし、さっきの人が一番わかりやすそうでしたから」


「そうだったんですね…」


…もしかしてルイ様って私が思っているよりもう小悪魔?


うそぉ…。

オーギュスト様がルイ様なら大丈夫といった理由が少しだけわかったかもしれない。やはりルイ様も皇族の人だったということだ。



「ありがとう、ルイ」


「兄上だと怪しまれる可能性がありましたから僕が適任です。彼らも油断してましたし」


「そうだね」


オーギュスト様も当たり前のように受け入れている…。

知ってたの…?

オーギュスト様がルイ様を労うように頭を撫でていて、ルイ様のしたたかさが珍しいことではないことを物語っている。


にわかに信じがたい事実をどう頭で処理しようか考えて、とりあえずサンドイッチに食いついた。


ソニア商会のサンドイッチは相変わらず美味しい。


「さて、嬢ちゃん、お待ちかねのパパとママだぜ?精々泣きわめくことだな」


親分が、手鏡程度の小さな連絡鏡を私に手渡した。蓋をあけるとそこにはただの鏡がはめ込んであるだけで繋がってはいない。

汎用品の安い連絡鏡らしい。


「…繋がってないんだけど」


「てめぇでやんな」


「いいけど、余計なこと言うかもしれないわよ?」


「そうなったらそこの兄弟がちょっと痛い目にあうかもしれねぇな」


親分はニヤニヤと卑下た笑い方をしてアゴを撫でた。言いなりになるのは癪だけど、お兄様に連絡が取れるチャンスだ。今どの程度捜索が進んでいるのか気になる。


連絡鏡に魔力を通して起動する。鏡面がトロリと歪んでみるみるうちに見慣れた別荘の天井が写った。


『あ!!メアリー?!無事かい!?』


「お兄様!私たちは元気ですわ。そちらは如何です?」


『そんな呑気なことを言っている場合か?!今どこなんだ?!』


「おっと、それ以上は変わってもらおうか!」


親分が私の手を握って連絡鏡を自分の方に向かせた。痛みで顔が歪む。

魔道具は魔力を通し続けないと起動しない。


これで確定だ。

彼らは魔法が使えない。


親分にみつからないようオーギュスト様に視線を送ると、オーギュスト様も気づいたようで小さく頷いた。


「ってなんだよ!こっちもガキじゃねぇか!」


『僕はアルバート・スティルアート。父の代理人としての許可はもらっている。僕の発言は父と同格と考えてもらって構わない』



「チッ!!まぁいい…。このお嬢ちゃんを無事に返してもらいたかったら金を用意しな!!」


『金が目的ならいくらでも出す!』


「あ!ふたりも一緒に助けてほしいからその分上乗せして頂戴ね!お兄様!!」


「おまえは黙ってろ!!」


「いたっっ!!」


「メアリー!?」


親分が吠えて腕を引っ張った。不意打ちに強い力をかけられて肩と腕に強い痛みが走る。

連絡鏡を落とさなかったのは幸いだった。


オーギュスト様が一瞬立ち上がったが、視線を送って問題ないと伝える。

お兄様がもし『殿下』とでも言おうものならここまでお二人の素性を隠してきた努力が全て水の泡になる。


私が連絡鏡を使っていることでお兄様も何か察したのかオーギュスト様たちの名前は呼ばないでいてくれた。



『メアリーに傷ひとつでもつけたら身代金は用意しないからな!』


「はっ!!そうなったら冷たくなったコイツと再会するだけだ!」


『いくらだ?』


「そうだな…」


親分は少し思案して、かなりの高額をふっかけた。平民だったら2年分くらいの年収にあたる金額だ。

誘拐事件における身代金の相場がわからないし、こういうのって1億円くらい要求するものだと思っていた。

こちらのお金を円換算したらいくらになるのかわからないけど…。


「少ないわね!!もっとふっかけなさいよ!!」


「はぁ?!」


『め、メアリー…?何を言っているんだ?』


「私たちがそんなはした金程度の価値しかないとでも思っているの?私はスティルアート家の令嬢で第三皇子であるオーギュスト様の婚約者なのよ!その倍以上の価値があるに決まってるじゃない!」


「え…?は??」


今度は親分が固まる番だった。

人質からの思わぬ横やりに戸惑っているらしい。厳つい顔も台無しだ。


「いいこと?私をその程度の女だと思わないで。誘拐までしておいて身代金を要求するなら遠慮なんかするんじゃないわよ!私の価値が下がるでしょ!わかっているの?!」


「は、はい…」


「その5倍は要求しなさい!いいわね!!」


『何言ってるんだ?!』


「お兄様もお兄様です!我がスティルアート家ならもっと出せるでしょう!?いいのですか!?他所に舐められますわよ!!」


『そんなことはないと思うけど…』


「せめて5倍!いいえ!10倍は要求するべきよ!わかった!?」


「は、はい!!ならさっきの5倍だ!」


「10!!それ以下なんて認めないわよ!!」


「あーもう!!10倍だ!!10倍!!」


『わ…わかった…用意させるが今すぐ受け渡しができないから待ってほしい…朝には用意させるから…』


「引き渡し場所は…」


引き渡し場所と引き渡し方法のやりとりをして、連絡鏡は通話を切った。


「じゅ、じゅうばい…」


「当然でしょ?私にはそれだけの価値があるのよ!」


思わず大金を手に入れるチャンスに手が震えているのか、親分はふらふらしながら小屋に戻っていった。

どうやら今日はこれ以上の移動はしないらしい。



「メアリー、さすがだね。これで時間稼ぎができる」


「あら、そうでしたか?お役に立てて光栄です」


「…うん」


なんだろう、ルイ様もオーギュスト様も少しだけ引いている気がする。

でもこの身代金ってオーギュスト様とルイ様の分も含まれているわけだからこれでも少ないと思うのよね。

本当なら桁が足りないじゃない!



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