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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
120/132

110’.13歳編 ひみつの誘拐事件 2

メアリー


メアリー?


メアリー!


誰かが呼ぶ声がする。それはとても大好きな声で、慌てるような声で、そんな声させたくないのにその声はひっきりなしに不安げな声音で私の名前を呼ぶ。


そう、親の声よりよく知ったこの声は…


「で、殿下…?」


がたがたと、全身が痛い。

揺れてる?

硬い床に揺れられこわばった筋肉を労わりながらよいしょ、と体を起こした。

が、上手くいかず体をもぞもぞと動かす。

そうだ、腕がうまく動かない。


あれ、これ縛られてない…?


「え…どういうこと…?」


だんだんと覚醒する意識をひっぱたいてすぐに覚醒させる。

周囲は見慣れない木製の荷台で、後ろ手に縛られたオーギュスト様の傍らにはすやすやと眠るルイ様がいらっしゃった。


すぐさま理解して状況を確認する。

荷台はコンテナのようになっていてほかにも箱がいくつか積まれている。私たち以外の人間はいない。出入り口は一か所。窓は小さな窓が上にあるだけ。


荷台は魔車ではなく馬が引いているようで、しかも舗装されていない道なのかガタガタと不規則に揺れている。


これってまさか…


「ゆ、誘拐されたんですか…私たち…」


「どうやらそのようだね」


「殿下!お怪我は?!?!」


勢いよく立ちあがろうとしするが、両手が縛られているせいかうまく立ち上がれずもぞもぞと動くだけになってしまった。


「シーっ。気づかれる」


唇の前で人差し指を立てる。誘拐されたというのに妙にオーギュスト様は冷静だ。

こんなときでも冷静さを失わないなんてオーギュスト様はこんなときでも素晴らしい。

みたところルイ様もオーギュスト様もけがをしている様子はなかった。

少々御髪が乱れているが外傷はみられなかった。


「すぐに逃げないと…」


「うーん、それがそうもいかないんだよね」


「私には我が家の影が控えています。呼べばすぐ誘拐犯を抹殺できます」


間違いなく今世間を騒がせている誘拐犯だ。

気を付けろと言われていたのにまさか『迷いの森』にまでいるとは思わなかった。

油断したとはいえお兄様やルーシーには怒られることだろう。




「さすがメアリーはたくましいね」


「そんな悠長に構えている場合ではありません!」


今も自分たちがどこへ連れ去られているのかすらわからないというのにオーギュスト様は悠然と笑っていた。


状況を理解していないわけではもちろんないが、あまりの危機感のなさに焦りがつのる。


「それがね、騎士もスティルアートの影たちも巻かれちゃったみたいなんだ」


「は?嘘でしょ!?」


「メアリー!!」


思わず大きな声がでて、オーギュスト様が焦ったように聞き耳をたてた。

しまった!

誘拐犯にきかれた!



「なんか今声がしなかったか?」


「ガキ共が起きたんじゃねぇの?」


「おまえみてこいよ」


「えぇ~」


「ガタガタ言ってねぇでさっさと行け」


「いいか、怖がらせんじゃねぇぞ」


「わかってますよ」



咄嗟に地面に寝転んで狸寝入りを決め込む。

聞こえた声は3人分。全員男だ。会話を聞くにどうやら3人の間には力関係があるらしい。

荷台の後方からガタンと音がした。鍵が外れたようできしむ音と共に光が差し込む。

その場に縫い留められたように息を殺した。



「なんだ寝てんじゃねぇか。ったく…ガキはいいなぁ」


「おやぶーん、ねてますぜ!」


「そうかよ。まぁどうせ起きてたところでなんもできねぇんだけどな」


「オレが面倒だから寝ててほしいっす」


「はは~」


再び荷車が動きだした。周囲に気を付けならが起き上がった。


「すみません、殿下…」


「いや、いいんだ。犯人グループのことも少しわかった」


「怖がらせるなってどういうことでしょうね?これって十分怖がると思う状況なんですけど」


「うん、それについては同意だよ。もう少し情報が欲しいな」


「はい…、それより影たちが巻かれたってどういうことですか…?」


スティルアート家の影は国軍にも引けをとらない私兵だ。

そんな彼らから逃げ切るなんて相当の手練れだ。

会話を聞く限り金目当ての誘拐犯みたいだけど実は違うのかもしれない。



「本当は『迷いの森』のなかで犯人グループを捕まえる計画だったんだけど、かれら罠を仕掛けていたんだ」


「罠?」


「そう。足元から爆発する魔法とある一定の場所を越えたら攻撃を加える魔法」


「そんな魔法あるのですか?」


「聞いたことは無いけど罠に魔力を流している人間がいたらそいつを捕まえて尋問しているはず。でも森を抜けても助けは来ない」


「ってことは魔力を流している人間はいなかった…」


「もしくは全く関係ない人間だったから尋問に失敗した、あるいは…」


「自動供給魔法…?」


「の、可能性が高い。実際に動いている魔法はあの家でみれたけど使える人間は珍しい。ぜひともお話を聞きたいね」


「危険です!」


「そう?彼らは今のところ僕たちに危害を食わるつもりはなさそうだし探ってもよさそうじゃないかい?」


「しかし…」


あまりにも危険すぎる。

犯人たちが何者か、目的すらもわからないのだ。不用意に探りを入れていい相手ではない。


しかも今は騎士もいなければ影のサポートもない。


一端ひいて改めて探るべきなのだ。


しかしオーギュスト様は目的のためならかなりの無茶をする。

私はそのあたりの判断を誤っていた。



「お願いだよ、メアリー」


少しの上目遣いにキラキラとしたエフェクト(私にだけみえる効果)

甘えるような声。



うっ、ダメだ。

私はとことん攻略対象者たちに弱い。特にオーギュスト様のお願いには逆らえない。そのうえこんなイベント限定スチルとボイスを使われたら聞くしかないじゃないか。


いや、これは普通のお願いじゃないんだ。ルイ様とオーギュスト様の安全がかかっている。

ふたりを危険にさらす前に止めるのが私の役目!


かんたんに聞き入れるわけには…



「ダメかな?」


だめ押しと言わんばかりにこてんと頭が横に傾いた。あまりにもあざとい。効果はばつぐんだ。

これはよくない。私に対しては攻撃力が10倍くらいにはね上がる。

心のシャッターがガシャガシャと破壊寸前の音を立てて、ついに私は白旗をあげた。



「御身の安全を優先してくださいね」


「ありがとう、メアリー」


あぁ!!もう!!意思が弱い!!

ぱぁっと輝く笑顔でお礼なんて言われてしまったらもう私は聞くしかない。

溜息をつきながら己の意思の弱さに呆れながらも心のシャッターは連写を決め込んだ。


そしてここでひとつの疑問にたどり着く。

なんで周東に騎士たちを『迷いの森』に配置できたの?しかも森のなかで救助される予定だった…?



「…あの、殿下…」


「ん?なんだい?」


「もしかしてですけど、わざと誘拐されました?」


「あ、バレた?」


まるで悪戯がバレた子どものようににかっと笑う。

うそでしょ…。


「どうしてそんな危険な真似されたんですか!!ご自身のお立場をわかっていますか?!」


声を殺しながら心の底から叫び怒りをあらわにした。

あまりにも危険すぎる。しかもルイ様を巻き込んでいるのだ。私だけならまだしもルイ様には酷すぎる。


「ごめんごめん、たぶんこうするのが一番早かったんだよね。思わぬ収穫もあったし」


「ほかの人を使うとか…方法はあったでしょう…」


「アルバートは被害者の年齢から少し外れるんだ。囮としては少々弱い。ユリウスは騎士団を動かしてもらわないといけない。セイガは万が一の場合に国際問題になるだろ?」


「ルイ様を巻き込む必要はなかったのではありませんか?」


「…メアリーが思っているほどルイは弱くないよ」


「………」


そういって、オーギュスト様は優しくルイ様の髪を撫でた。ルイ様は未だにオーギュスト様によりかかってすやすやと眠っている。


オーギュスト様の言葉を信じたいのは山々だけどあどけない顔で眠るルイ様は私がなんとしても守らなくてはと思わずにいられない。


「メアリー、巻き込んでしまって申し訳ない…」


「そ、そんなことありません!殿下のお役にたてるならなんだってしますわ!こうなってしまった以上どこまでもお供いたします」


「ありがとう。隣にいるのがメアリーでよかったよ」


「殿下…」


当然のことを言っているだけなのにオーギュスト様からありがたいお言葉をいただいた。ジーンと胸が熱くなる。

これはなんとしても犯人グループを一網打尽にするしかない。

オーギュスト様の手を煩わせた罪の重さを十分に理解させないといけない。


「メアリー」


「はい」


「必ず生きて帰ろう」


「もちろんです!」




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