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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
114/132

103’.13歳 秘境の別荘

ヘルナン辺境伯領西部。


クラティオの国境近くに位置するここは静かな別荘地でもある。

有名な場所ではないけど、田舎の田園風景が広がる土地で隠れた名所で都会の喧騒を忘れノスタルジーに浸りたい貴族たちには人気のある場所だ。


森を越えたらすぐにクラティオでもあるから注意は必要だけどね。


別荘地までは魔車で向かう。

お兄様は先にオーギュスト様と到着されているので私は研究者たちを連れていく係を承った。

でも同じ魔車で向かうとうるさいのでルーシーとふたりだけにしてもらった。



「ルーシーはクラティオに行ったことあるの?」


「それがないのです。父の家系がクラティオの出身なのでこんなんってだけで…」


ルーシーは困ったように自身の黒髪を指で摘んでみせた。


「ふうん。いつか行ってみたい?」


「どうでしょう?興味はありますが魔法のない国ですから不便でしょうし」


「観光程度なら大丈夫じゃない?」


ルーシーの黒目黒髪はクラティオに由来する。

私にとっては前世の日本人を思わせる色で馴染みが深いけれど、ルーシーが小さいときは苦労したんだとか。


アルテリシアではわりとファンタジー色の強い髪色が主流だし朱菫国では栗色や明るい茶色、真っ黒なのはクラティオくらいだ。


ただクラティオは陸続きなのでこの辺りの住人たちは黒髪の人もよくみかける。



ずっと昔、クラティオはアルテリシアの属国だったけど内戦のあとくらいに独立した。

そのあと魔法がなくなって今では魔法のない国なのだ。

だから国交があったとしてもアルテリシアの人たちがクラティオに行くにはそれなりの準備が必要で気軽に行けるような場所ではない。


もっとも、アルテリシアの属国はたくさんあるし属国とも友好的な関係を築いているからわざわざクラティオにいく人は少ないけど…。


魔車はわずかな振動もなく目的地に到着して運転手がドアを開けた。

王都ともスティルアート領とも違う森林の香りがするような気がする、のどかな場所だ。


この田園風景と背景の緑に我がスティルアートの紋章入り魔車はかなり目立つ。

ちょっとはお忍び感を出すべきだったかな…。



「あぁ、メアリーたちも来たね」


「よくきたな」


奥から姿をあらわしたのはお兄様とユリウスだった。

こちらも普段王都で着ている服より簡素化されている。

…私も普段より地味な服にしてきたけど、外に停めた魔車のせいで台無しだろうなぁ…。


「自然の豊かなところですね。気持ちが落ち着きます」


「貴様もそういう感覚を持っていたんだな…」


「私のことをなんだと思っているのかしら…?」


「まぁまぁ、たまにはこういうところもいいよね。解放的なきぶんになれる」


早速ケンカ越しの私とユリウスのあいだにお兄様が割って入った。どちらかというと私は売られた側なんだけど。


「メアリー、ようこそ我が別荘へ」


「メアリー様!よくおいでくださいました!」


続いてオーギュスト様とルイ様が出迎えてくれた。

おふたりとも、お忍びのためか普段の見慣れた服装より装飾が少ない。

知らなかったらちょっと良いところのお坊ちゃんにしかみえないだろう。

まぁオーラが駄々漏れだからちょっと良いところどころじゃないけどね。


「殿下!到着が遅れて申し訳ありませんわ」


「時間通りじゃないかい?」


「本当なら朝イチでこちらに来たかったんです」


「メアリー…早朝じゃこっちも準備できてないから時間通りにしなさい…」


「あら、私は構いませんよ」


「僕らが構うんだよ!」


当たり前のことを言ったつもりなのに怒られた。解せぬ。


「メアリー様!お兄様の用事が終わったら僕と森林へ行きませんか?こちらは王都と違ってクラティオが近いぶん珍しい植物がありそうです!」


「まぁ!それはいいですね、是非ともお供させてください」


ルイ様がぴょんと可愛らしく飛び付いた。成長したと思っていたけれど、やっぱりまだまだ甘えたいお年頃なのだろう。



人目もないぶんオーギュスト様もユリウスもなにも言わずに微笑ましげにしていた。


こちらでは皇族らしくしなくていいから気が楽なのかもしれない。

オーギュスト様も学園よりリラックスされているようだし、ルイ様もはしゃいでいるようにみえた。


本来ならルイ様は中等部に上がるとき臣籍降下されることを発表されるはずだった。

しかし皇族内でトラブルががあってできなくなり、そのうえ第一皇子が廃嫡されたからできなくなったお父様が言っていた。

この第一皇子廃嫡事件はなぜか私の関与が疑われているが冤罪である。こっちはそのせいで記者に追いかけ回されたりしたしお母様は一時的にソニア商会の店を開けられなくなったり本当に迷惑したのだ。


そのうえルイ様は学園では次期皇帝選抜へのいらないプレッシャーを掛けられているらしく趣味である植物の栽培や観察もできない。

仲のいいご友人はいるけれど彼らからも『そういう目』でみられることが負担なのだと思う。


このバカンスもせめて夏休みくらいはリラックスさせてやりたいというオーギュスト様の気遣いかもしれない。




「観察は構いませんが…くれぐれも怪しい者にはご注意ください」


「外へ行くときは必ず誰かと一緒にお願いします…メアリーもだよ」


「はぁい」


「わかってますわ」


ユリウスもそんなお二人の状況を理解するようになったのかあまり小言は言わなかった。

お堅い騎士様もちょっとは成長したみたい。

誘拐事件のことがあるから注意程度はするけどね。

心なしか多く感じる護衛騎士と影の人数がお兄様もユリウスも誘拐事件を警戒していることを物語っていた。




「さて、じゃあ来て早々に悪いけど早速みてもらおうか」


オーギュスト様が空気を変えるようにポンと手を叩いた。

この別荘に招かれた本来の目的、みつかったという魔法の資料だ。


ここで2つのグループに分かれて私とオーギュスト様、ディー、研究者たちは資料の保管場所へ。お兄様とユリウス、ルイ様、ルーシーは残ることになった。

警備の配置とか夜に開く食事会の準備があるためである。

あと、まだ到着していないセイガ様の出迎えとか…。




「資料の置かれていた倉庫に魔法がかけられていてね、なかから持ち出すことができない。だからわざわざ来てもらったわけだけど…」


「殿下、ちょっとまってください。魔法がかけられていたってことは誰かが魔力供給しているということでは…?」


「誰もしていないんだ」


「それって…」


「そう。だからきみらを呼んだってわけ」


自動供給魔法。

それが実際に起動しているところがみられるということだった。



ぞろぞろと研究者たちを引き連れて廊下を進む。


別荘の奥に進んでいき地下に続く階段をおりまた上がって、カーブした廊下を進みまた階段を上がって降りて、これを2回繰り返したところにポツンと扉があった。


なんの変哲もないただの木の扉。なんの装飾もないただの1枚板で逆に別荘の中では浮いている。簡素なつくりはなかをあけたら掃除道具かリネンでも入っていそうだ。


「ここですか?」


「そう。あけてみて」


「……」


オーギュスト様に促されるままノブを回してドアを押す。ドアのつくりから押すタイプだと判断した。


「え……?」


箒とちりとり、バケツに洗剤。

雑巾とブラシ各種。


本当に掃除道具だった。


「殿下…??」


「あはは、メアリーもひっかかったね」


「どういうことですか…?」


「これ引くドアだよ。それも魔法が使われている…お嬢サマはまんまとひっかかったってこと」


「えぇ!?!?」


「ディーさんはわかるかい?なら開けてもらってもいいかな?」


「えぇーめんどくさい…」


「ディー、やりなさい」


「……あなたのメイなら聞きますよ…」


瓶底眼鏡越しにもわかるほどイヤな顔をしてディーは私と場所をかわった。


研究者たちとディーが何をするのかつぶさに観察する。

ディーは閉め直したドアをしばらく触れ指でトントンとドアを叩いた。


「……あった」


ディーの指がドアの蝶番に触れるとどこからともなく魔法式が空中に浮かび上がった。


「なにこれ…」


「空間保持魔法ってやつ。ここが鍵になっているんだ。婚約者サマはこれ解析できたの?」


「まぁ、一応ね」


「へぇ、たいしたもんだ」


ニヤっと挑戦的な笑みを浮かべてディーは魔法式を書き足す。

するとドアの表面がガラスのように砕けおちて代わりにステンドグラスのようなキラキラしたガラスのタイル模様のドアに様変わりした。


「わぁ…きれい」


おもわず伸びた手をディーがつかんだ。

強いちからではなかったが驚くにはじゅうぶんだ。


「ドアに触れると別空間に飛ばされるから気をつけなよ」


「えぇ…」


「別空間っていってもこの別荘の庭だから大丈夫だよ」


「ここまでしないといけないものがあるってこと…?」


「そう。国立研究所か教会にみつかったら抹消される可能性がありそうなもの」


「…………」


オーギュスト様がノブをまわしてドアを引く。

固唾をのんで中をのぞくと、そこには壁一面の本がびっしりと積まれていた。天井は高く2階まである。そこにもまた本が押し込まれていた。

足を踏み入れるとボッと音がして部屋中の照明に明かりがともった。


時代を感じさせる空間なのにカビや埃の臭いはしない、清潔な部屋だった。

ほのかに清涼な、懐かしいさわやかな香りがしたが、なんの臭いか思い出せない。



「これ…すべて魔法…?」


「そうだよ。百年以上も人の手に触れることなくずっと放置されてきた」


「………ねぇ婚約者サマ、ずいぶん趣味が悪いね」


「ん?なんのことだい?」


オーギュスト様がとぼけるように笑って、ディーが不機嫌そうだった。



「ここの持ち主ってロリーヌ様だろ?」

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