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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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99’.事情聴取〜side others〜



「典型的な魔力不足だね。王子サマと主従契約をしたときに魔力を持っていかれたんだと思うよ。王子サマも魔力がかなり減ってたからその補給のためにお嬢サマが魔力を渡したみたいだ」


「メアリーは大丈夫なのか?!」


アルバートが不安そうにメアリーを寝かせたベットの周囲をウロウロしはじめた。


「ここは教会も近いしすぐに戻ると思うよ。もう少し減ってたら命の危機かもしれないけど大丈夫」


「そうか…」


ディーの所感をきいて安堵したのかアルバートは歩きまわるのをやめ、オーギュストは改めて話を切りかえた。



「…全員ここから離れるつもりはないだろうから、事情聴取をさせてもらおうか」


「…言い逃れはできないね。いいよ、ご主人様が目覚めるまでの間なら」


セイガの従者も椅子を用意し、片側にセイガとその従者。反対側にオーギュスト、アルバート、ディーが対峙する形となった。




「まず、どうして教会にいたんだ?しかも祭壇なんて皇族以外では教会関係者くらいしか何があるかしらないはずだ」


「オーギュストの予想通りだよ。あそこから皇族秘匿魔法の隠し場所に行こうとしたんだ。おおかた予想はついていると思うけど朱菫国の王からの命令で」


「それは諦めたって言ってなかったかい?メアリーに真名を知られてしまったから命令は果たせないと言っていただろう?」


セイガは諦め混じりに眉を下げると、悲しげに自身の従者に目を向けた。それが何を意味することなのか、オーギュストもアルバートも気付いてしまった。


「…ぼくが諦めることをよく思わない人たちがいるんだ。だからせめて行動だけでもしておかないといけなかった」


「それで秘匿魔法の情報を集めていたのか」


「ちょっと待って、秘匿魔法の情報なんてしらべて出てくるようなものじゃない。どうやって調べたんだ?」


「確かにそれは気になった。王子サマはどうやってあの場所をみつけたわけ?」


アルバートとディーの言う通り、皇族秘匿の魔法は調べたら情報が出てくるようなものではない。


本に残されているわけでもないし、あったとしても厳重機密扱いとなり国立図書館職員の立ち合いの元でのみ閲覧が可能となる。異国の王子であるセイガにはまず閲覧許可がおりない。



「婚約者だよ。ディーさんもみただろう?メアリーがリストにしてくれた貴族令嬢の婚約者たち」


「みたけど…あ!そういうことか!よく考えたもんだねぇ」


「え、どういうこと…?」


「順を追って話そうか。僕も自分の仮説が正しいのか知りたいところなんだ」


セイガが小さく頷いて、オーギュストの謎解きがはじまった。



皇族秘匿の魔法といえど、魔法は魔法である。


魔法には必ず魔法式を組んだ人がいる。


伝承や御伽噺では『初代皇帝が神から与えられた魔法』とされていて、確かに製作者のわかっていない魔法も多く存在しているが全てではない。


歴代の皇帝の命令によって作られた魔法も皇族秘匿の魔法のなかには数多く存在している。



皇帝たちはこれらの魔法を作った者たちの功績を称え爵位を与えた。開発者たちは自分たちの栄誉を子に語り、その子らもまた自分の子に先祖の栄誉を語って聞かせた。


長い歴史のなかでほとんど御伽噺や先祖の自慢話となってしまったが今でも開発者たちの家では茶飲み話として定番となっている。


「つまりセイガが声をかけていた令嬢たちっていうのはこの秘匿魔法を作った開発者の末裔の婚約者だったんだ」


「大正解。やっぱりきみは油断ならない相手だ」


パチパチと、観念したように拍手を送る。それは心からの称賛だった。


「しかし秘匿魔法は機密事項だろう?婚約者といえど簡単に話すものかい?」


「彼らもまさか自分の先祖が魔法を皇室に献上したなんて話を真実だとは夢にも思っていなかったはずだよ。だから国家機密情報を漏洩したって自覚があるはずない。


100年単位で昔のことだし、それこそだんだん話に尾ひれがついていただろうからどれが本当かなんてわからなかったんじゃないかな?」



「結局わかったのは祭壇に入り口があるってことだけだった。エスターライリン家なら過去に皇族と縁続きになっているから入れるかと思ったのに血縁者じゃないといけないなんて…。はじめから無理なことだったんだ」


「エスターライリン家との婚約は最初からそれが目的だったのかい?」


「少なくとも王はそのつもりだったようだ。エスターライリン家は古い家だから何か手がかりがあるとでも思っていたみたいだね。…浅はかなものだ」


「祭壇に向かったのは王の命令なのか?無駄だとわかっていながらそんなことはしないだろ?」


「…従者たちを人質に取られていたんだ…」


従者たちが小さく震えた。顔色は青く唇を固く引き結び、目を合わせないように視線は足元をうろついていた。



「そこの人たちは王子サマに名前を捧げているんだろ?どうして王サマの命令に従うワケ?名前を捧げられる相手は1人だけじゃないか」


「名前を縛る以外にも他者の命を自由にできる方法はありますよ。家族とか」


「あぁ…きみらの家族を人質にとっていたってことか」


「そういうこと。朱菫国では他人の従者に命令する行為はその者の主人への最大の侮辱と言われているんだ。彼らの家族が人質に取られていると気づかなかったぼくにも責任はあるし罪滅ぼしみたいなものさ。結局失敗して王はぼくを殺そうとして、あぁなった」


朱菫国の王はセイガのことなど駒のひとつにしか思っていなかった。

あわよくば排除してしまおうとすら。


「どうせもう朱菫国には帰れないわけだし、ぼくはアルテリシアに骨を埋めることにするよ。正式にご主人様も認めてくれたし」


清々したように言うセイガの表情に迷いはなかった。憑き物が晴れたようにも見えるほどに。


「そのことなんだけど、セイガはどうしてメアリーと主従契約ができたんだい?従者は複数人の主人が持てるの?」


「それはできないよ。従者はひとりの主人だけ。主人は何人も従者が持てるけどね。これは抜け道みたいなものなんだ」


「抜け道?」


「本来は主従は平等だったんだ。従者は主人が尊敬たりえる者である限り命をもって仕えること。だけどそうでなかった場合、主人を変えたくなった場合とか、ある条件を満たすと主人を変えることができる」


「そんな条件あったら主従契約自体が成り立たなくないか?」


絶対的に契約が解除されないからこそ命を預けるに値する。それが真名を捧げる主従契約だと、オーギュストもアルバートも考えていた。

騎士たちですらただ忠誠を誓っただけの相手に命をかけて守るほどなのだ。


「新しい主人がより優れた器の持ち主であること」


「それが条件?」


「そう。これ、従者を奪うっていうんだけど、判断基準が曖昧だし何を持って器が大きいかなんてわからない。そのうえ失敗したら死ぬ」


つまりそれはメアリーが朱菫国の王より優れた器の持ち主であるということを意味している。

セイガが新たな主人をメアリーと定め生き長らえていることが何よりの証拠だった。


「だからご主人様は本当にぼくの命の恩人なんだよ。このまま一生あの男に縛られて生きているのか死んでいるのかわからないままだと思っていたのに、ご主人様はあの男から開放してくれた上にぼくの望みも叶えてくれたんだ。ご主人様を選んでよかった」


生まれてこなければよかったと後悔した日は数知れない。

どこへ行くにも何をするにも監視され行動の全てに自由はない、一生そんな人生だと思っていた。

自死をしようにも朱菫国の王は利用価値のあるセイガの自死を許さない命令を下した。

生きろと王の下した命令はセイガに絶望でしかなかった。


『最初の命令よ。生きなさい』


そう、メアリーは命じた。

死によってようやくセイガは何もかもから解放される。死しか方法がない自分には酷な命令だとは思ったがメアリーからは生きる希望を与えられた。



最初こそただ真名を知っていたというだけの理由だったがセイガはメアリーを選んだ判断は最良であったと確信している。



「そういうことだから、よろしくたのむよ」


「…乗りかかった船だ…。セイガがアルテリシアに友好であるかぎり許すよ」


ため息まじりにオーギュストは肩の力を抜いた。

一度に色々と押し寄せ疲れたというのが本音ではあった。


「で、それはいいけど。セイガ、おまえの従者たちはどうするんだ?」



「あー、そうだなぁ…」


セイガは少しだけ考える素振りをしてニヤリと悪戯を思い付いた子供のようにわらった。




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