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婚約破棄がはじまらない!!  作者: りょうは
'ラブファン~side M~
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93’.12歳 相談


『いいじゃない。私は賛成よ』


「えぇ!?いいんですか!?」



王都邸に帰るとお父様もお兄様もタイミングよく揃っていたので領地にいるお母様に連絡鏡をつないでもらい、リリー様からの商談を持ちかけた。


懸念していたお母様の反対はおこることすらなく、アッサリ承諾されたからこっちが拍子抜けしてしまった。



「しかし…エスターライリン夫人…コンカドール殿とは因縁があるだろう?いいのか?」


『フフフ…旦那様、メアリー。あなたたちなにか勘違いされているのではなくて?』


「勘違い、ですか?」


『そうよ!エスターライリン領に我が商会の商品を流し彼らが朱菫国の商品で商売できなくしてやるのよ!』


お母様によると、エスターライリン領ではリリー様の婚約以降、大事なお姫様であるリリー様を奪っていった朱菫国が憎いという領民が増加した。


…正確にはセイガ様は婿入りするので奪ったのはエスターライリン領なんだけど…。


そのためしばらく朱菫国を連想させるものは一切排除すべしという動きが出たのである。


でもアルテリシア全土ではソニア商会に起因する朱菫国ブームが起きていて、エスターライリン領でも徐々に朱菫国の品々も受け入れられるようになっていた。

ソニア商会に所属する朱菫国から来た職人たちがアルテリシアに合うようにお菓子や工芸品をアレンジするようになったことも理由として大きい。



そして現在、内密にとはいえセイガ様が留学してきたことでエスターライリン領では遅れて朱菫国ブームが到来しているのだという。


…どうしてセイガ様の留学は学内だけって話だったのにこうも広がっているのかしらね?



商売の街で国内の流行に乗れなかったことは大きな痛手でもあった。

ようやく朱菫国への忌避感が薄れてきたこともあってエスターライリン領に本拠地を置く商会は最近こぞって朱菫国の品々を流行らせようとしているのだ。



『ソニア商会で扱っている朱菫国の伝統品やお菓子についてはたしかにウチでだいぶアレンジしたものが主流よ?でもね、彼らはまだ本家本元の朱菫国伝統工芸やお菓子を作れるわ。だから研究所の支店を通じてエスターライリン領でウチの商品を売るの!本場の味とアレンジした味の両方が作れるなんてオトクよね。あとから似たようなものを作ろうとしたってウチがブランドイメージを確立させてしまえばこっちのものよ!』


固く拳を握ってお母様が一息に言いきった。

その迫力は鬼気迫るものがありおもわず拍手してしまう。

今までエスターライリン領に出店できなかったことがそれほど歯がゆかったのか、コンカドール様の鼻をあかせることがそれほど楽しみなのか…。


どちらにしてもお母様はやる気だ。




「しかしお母様、コンカドール様がそのようなことをお許しになるでしょうか?他領の、しかもスティルアートの者が大きな顔をしているというのはコンカドール様やエスターライリン領の領民を刺激すると思いますが…」


『アルバート、いいところに気づいたわね?そうよ。なんの策もなくエスターライリン領で幅をきかせればあちらだって黙ってないわ。でもね…研究所のコーヒーメーカーや魔道具ってねぇ…けっこうソニア商会が技術提供しているのよ』


「メアリー、そうなの?」


「そうですね。細かい機器の設計や製造には職人たちに協力してもらいました」


元々教会で使っていたコーヒーメーカーは教会という限られた場所でしか使わなかったためデザインもあまり美しくなく使い勝手も悪かった。

そこで職人たちと研究所のデザインが得意な研究者たちをつかって製造をしやすくしてデザイン性とメンテナンス性を上げたのだ。


教会もコーヒーの技術を独占する気はなく、便利になるならそれに越したことは無いとのことで快く教えてくれた。

お礼はしているし今でも教会は研究所のお得意様だ。


『コーヒーメーカーがほしいならそれに付随してお茶請けのお菓子とか食器だって売れる機会があるのよ。ソニア商会のひとめを惹く品は一気投入して細く長く使う研究所のものは少しずつ入れるの。研究所の商品はメンテナンスで儲けているから生活必需品になってしまえばこっちのものよ』


「なるほど…」


お母様の言っている意味がわかったのかお兄様はたじろいだ。

つまりスティルアート憎し、朱菫国憎しといえど商品の良さに気づいて生活に根付いてしまったらもう手放せなくなる。


そうなればコンカドール様がどう思おうと関係ないし商会としての利益は上がる。なにより研究所を引き入れてしまったのはコンカドール様本人なのだから文句は言えないということだ。


そのうえこちらには既に朱菫国の職人、アルテリシア向けに改良した商品、国内での成功、品質の良さというアドバンテージがある。


エスターライリン家が同じような商売を始めたところで負けるはずはないし、既によその商会がエスターライリン領で商売していたとしてもソニア商会が彼らに劣るとは思えない。



一切エスターライリン家に配慮しないつもりなのだ。



『そうそう。研究所の人間を外商として送り込むから偶然知られてはいけないことを聞いてしまうことだってあるわね』



「ではソニア商会から信頼のおける営業を貸してください。ウチはそのへんが弱いので金に目がくらんであちらに寝返る可能性があります」



『…研究所はもう少し雇用に力を入れた方が良いわよ…前から営業できる人間を入れなさいって言っているじゃない…』



それは私も思っていることです…。


我が研究所は圧倒的に事務や営業といった人材が足りていない。


研究者たちが研究所にいるのは好きにやりたいことをやらせてくれるから、という帰属意識の全くない理由で、素性を明かしたがらない人間が多いせいで本名すらわからない人もいるくらい。


もし他所からヘッドハンティングでもされたら引き留める術はないに等しい。



私も自分のほしいものを作ってもらうことを優先してしまうし、学園のお茶会で研究費は稼げたのであまり必要としていなかった。


当然、研究者たちは売り込みに向いていないので営業職をつくるなら外部から雇う必要があるが、企業スパイに入られた前科や私が人に恨まれやすいので積極的に人を募集していない。



「今は私が営業職みたいなものですからね…。でも雇用までしている余裕はありませんよ。研究所に新部署を立ち上げたりしないといけませんし」


『そうねぇ、メアリーだけで採用業務までとなるとちょっと難しいかもね。あそこの人たちはそういうの向いていないし…。そうだわ!アルバート!あなたがやりなさいよ!』


「僕がですか?」


『アルバートのほうが人当たりがいいし人望もあるから向いていると思わない?』


「たしかにアルバートの方がメアリーより人に好かれる。人に関わることをするならアルバートのほうがいい。メアリー、どうだ?」


「お兄様に任せられるなら私も安心です。是非お願いしたいわ」


「メアリーがそういうなら引き受けるよ。研究所にも顔がきいたほうがメアリーが何か企んでいるとき察知しやすい」


「…私のほうから何かしでかしたことなんてありませんよ…」


「…」


「そうですね、お兄様には研究所の副所長になっていただきましょう。役職があったほうが彼らもいう事を聞きますから」



こうして、お兄様が我がスティルアート研究所の副所長になることになったので私の負担は少し減った。

その日のうちにリリー様へ連絡をすると、あちらもヨロシクとだけ短く返された。


で、翌日。

学園。

食堂テラス。




「セイガ様の浮気を止めさせるって言っても…まだ確定したわけではないのでしょう?セイガ様と直接お話はされませんの?」


「あのかたとお話する機会がありませんわ」


リリー様と作戦会議をするためふたりだけのお茶会となった。

本当はベリンダやクリスにも知恵を貸してほしいけれどリリー様が嫌がった。


いつもは殿方に囲まれ自信に充ちたリリー様も今日はどこか落ち込んでいていつもの間延びした話し方もどこへやらだ。



「えぇ?セイガ様はエスターライリンの家に滞在されているのでしょう?」


「学友との交流を深めたいって学園の寮に入ってますわ」


なるほど。それも不満の理由か。


学園には遠方の学生のために寮がある。

上位貴族はたいてい王都に屋敷を持っているので使っているのはだいたい中位から下の人たちだ。


上位貴族で寮に住んでいるのはたいていワケアリである。


セイガ様が寮にいるということエスターライリン家からの嫌がらせでは?という疑問を持たせることになってしまう。


でもセイガ様ともあろう人ならそんな貴族同士の事情くらい話せばわかってくれそうたけどな。



「どうせそこでも浮気相手を物色しているに決まってますわぁ!みてください!アレぇ!!」


リリー様が睨み付けた先には先日の歓迎会同様、女子生徒たちに囲まれたセイガ様の姿があった。


「今日も女の子に囲まれていらっしゃいますね」


「鼻の下を伸ばして!だらしないわ!」


ちょっとまって、それを言うならあなたのわんちゃんのほうがよっぽど鼻の下伸びてますよ…。



「もしかして当てつけじゃありませんか?リリー様っていつも殿方に囲まれていらっしゃいますし」


「まさか。あの方、私に全然興味をしめされませんのよ?嫉妬する価値もないと思っているに決まっているわ」



おやおや?

これはもしや?


唇を尖らせて不満そうに溜息をつくその姿は恋する乙女といって差し支えないソレだった。

普段から逆ハーレムの女王みたいなリリー様でも年相応に恋する乙女みたいなところがあるのかと思うと好感が持てる。



「だからぁさっさとあのかたをオトとしてぇ私のわんちゃんにしたいんです!あのスカしたツラを蹴り飛ばしてぇ泣いて縋りつきながら私の足を舐めさせたらぁ!とぉっても愉快になりませんこと!?」


前言撤回。


ダメだこりゃ。


恋する乙女とかそういう純粋に可愛らしいものじゃなかった。

一国の王子様になんてことさせるんだ、このお嬢様は。



「セイガ様がなんであんなことしているかわからないことにはやりようがありませんよ?」


「…私が話しかけようとするとぉ逃げられてしまいますのよ。つまりこれってぇ婚約者に聞かれたくないやましいぃことがぁ、あるってことだわぁ」



どうしてリリー様が天敵である私に取り引きを持ちかけたかわかった。


自分のプライドが許さないからかと思っていたけど違う。


傷つくのが怖いからだ。


リリー様ならいくら逃げられようが家のちからを使えばいくらでもセイガ様と直接はなしをする機会はつくれる。


どういうつもり?と聞くこと事態は可能でも、返ってくる答えはどうだろう。


はたして心からの言葉だろうか。


婚約者という立場上、セイガ様がリリー様を傷つけることは言わない。


リリー様やエスターライリン家の顔色を伺った当たり障りのないことを耳触りのいい言葉でいうだろう。


それが本音でないことは、リリー様なら気づいてしまう。


気づいてしまって傷つくのが怖い。

だから私を使う。


私ならリリー様に気を使うことはしないし、どんなことでも明け透けなく言うから本音で話ができる。


なんという拗らせっぷり。


名家のお嬢様なら甘い言葉にだけ耳を傾けておけばいいのに。


わんちゃんたちを可愛がってきたあまり本音を読めるようになってしまったのだ。


故に本当に手に入れたいものを手にする恐怖に直面してしまったのだろう。



だったら素直になればいいじゃない!!

と、思うけれど素直にならないのがリリー様である。


「…わかったわ。私がセイガ様に直接お話を聞きましょう。どうせ生徒会でお話しする機会もあることだし」


「本当ぉ!?」


わかりやすくお顔をパァっと明るくされた。

素直になっておけば年相応に可愛い。



「えぇ」


それに、主従契約を迫ってきたくせに音沙汰もなく女の子をひっかけてるって言うのも腹が立つからね。




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