アクヤクレイジョウってなんですの?
久しぶりの投稿になります。
よろしくお願いします。
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日間:異世界転生/転移で27位頂きました!
凄く嬉しいです。ありがとうございますヽ(*´∀`)ノ
「なによ!あんたなんて悪役令嬢のクセに!」
そう公爵令嬢のわたくしに向かってのたまっているのは、珍しいピンクブロンドの髪に、瑞々しい初夏の緑を思わせる様な翠色の瞳――を持つ、一見して可愛らしい少女だった。
だが、今の彼女はその容姿から想像する可憐さからかけ離れた、ギラギラした目でわたくしを睨みつけている。
「まぁ、怖い」
片手に持っていた扇子で口元を隠し、さも怯えたフリをしてその少女を見つめてやる。
―アクヤクレイジョウ?なんですのそれ。
彼女の言葉に反応したのは、たまたま興が向いたからだ。
彼女は子爵家の娘で、父親はこの国で初めて東方の島国との貿易に成功し、飛ぶ鳥を落とす勢いで力を付けていた。
つい先日もお母様の主催するサロンに、メルン子爵が色々な商品を持ち込んでいた筈だ。
その中でも触るとひんやりとして、光に当たると輝くような光沢を放つ織物に、母もご夫人方も夢中になっていた。
そんな家の娘だから、最初はなにがしかの興味を持っていた。子爵家では普段の生活で関わりようもないけれど、貴族の間での力関係はわたくしも興味をもって然るべきだから。
「いい加減堪忍袋の緒が切れましたわ!あなた、この方がタッカート公爵家のジュリアーナ様と知っての態度ですの!」
「たかが子爵家の娘が、なんですのその口の聞き方は!」
わたくしを取り囲んでいた令嬢の中でも、高位の爵位を持つアルバ侯爵家のミシェルと、ミュール侯爵家のマリアンナが、厳しい声で叱責する。
それは至極当然の事で、周りはその2人の態度を咎める所か、不快感を顕にしてでピンクブロンドの少女を見つめている。
本来ならば今叱責の声を上げた二人にさえ、件の少女は声を掛けることも出来ない。
わたくしの周りにいる者たちに、身分の貴賎はない。
基本高位貴族の者たちになるが、男爵家や子爵家の娘もいる。ただ彼女達は元々側にいた誰かの紹介で知り合っている。
お茶会であったり、有志で行っている孤児院、救護院への慰問、寄付する為の物資の作成へ協力してくれたりなど、そういった経緯を経て側にいる事になった者たちばかりだ。
また、領地を持つ家の娘たちは自分の家に関心を持つ者が多く、彼女たちの話は本だけでは得られない生きた知識として、有意義な時間を持つことが出来た。
コレばかりは学院の掲げる、学院では皆平等の精神に感謝するしかない。
ただ…ピンク髪の子爵家の娘は違う。
確かに何度か声をかけられたが、その度にわたくしの愛称ジュリを使ってくる。
彼女と名乗りも交わしていなければ、愛称呼びも許していない。
それに、またかと思うほど彼女とはよくぶつかる。曲がり角であったり、はたまた何も無い所であったり…その度に彼女は盛大に転び、潤んだ瞳でわたくしを見つめると、ひどい…と周りが気づく位の声量で言って走り去る。
正直気味が悪い…それが彼女に対する印象だった。
―それは、そうなのだけれど…
叱責を続ける二人は、ピンク髪の少女の声を聞いた途端、当然の如くわたくしを守るかの様に前に出た。
その場に居た他の者たちも同じ様な行動を取っている。
いつもながらの展開に、扇子の向こうでこっそりとため息をつく。
ピンク髪の娘の件だけではないのだ…
わたくしはいつも、誰かに守られている。
―それも、この容姿が原因なのかしらね…
社交に出る度に、支度をしてくれる侍女たちの賛辞の声が蘇る。
夜会の為にハーフアップにした銀糸の様な髪は、会場の灯りを受けてふわふわキラキラと輝く。日焼けなど知らぬ白磁の様な肌に、ほんのりと色づく頬。唇は朝露に濡れた花の様に紅く艶やかで、ぷっくりとしたそれに紅を指す必要も無い。そしてその瞳は、顔の半分を占めるかと思われる程大きく、朝方の薄いラベンダーから、日が沈めば夜の闇でも輝く深いアメジストに変わる稀有なものだった。
どこの女神かという色彩だが、その色味にも関わらず誰からも慕われ可愛がられる。
そう、ジュリアーナは絶対的に可愛く、この国では決定的に小さかった。
女性でも170センチを越す長身が多い国で、160にも満たない姿は、まさに妖精。
絶世の美少女であり、妖精姫という二つ名を持つジュリアーナには、親衛隊も存在していた。
公爵家の令嬢として威厳を持ちたいジュリアーナとしては、自分の背の低さがコンプレックスだった。
見た目と違い、理知的な彼女は学院の試験でも毎回三位以内は落とさない。
立ち振る舞いもマナーも完璧、いつも落ち着いた微笑みを浮かべ、学院の自治会の仕事も完璧にこなす。
まさに完璧な淑女。
だから、ジュリアーナは気づかない。
その見た目とのギャップこそ、人を惹き付けてやまない事に。
「ほら、わたくしが以前お話していましたでしょ?アレですわ」
未だ続く諍いに少しうんざりしてきた所だった。
扇子で口元を隠しながら、わたくしの耳元に口を寄せ少し興奮気味に話しかける声に、記憶を探る。
「アレ、ですの?」
「えぇ、わたくしの言った通りでしょう?」
幼馴染であり、同じ公爵家であるスタンフォード家の令嬢シュテフィン。
瞳をキラキラさせ、そのたわわに実った胸を更に強調するかの如く胸を張る彼女に、げんなりとした気持ちになるがなんとか堪えて言葉を返す。
―口元は隠せていても、楽しんでいるのが丸わかりでしてよ…
少し遠い目になったわたくしは、シュテフィンと出会った日を思い出していた。
「あなた、アクヤクレイジョウなのに、ずいぶんと可愛らしいのね」
ビシッとこちらを指差し、腰に手を当てて仁王立ちする彼女に、正直驚いた。
「え、アクヤク…?」
「そう!アクヤクレイジョウよ。あなた分かってないの?大丈夫?」
―え、わたし、心配されてるの?それにアクヤクってなんなの…
それはお母様が開いてくれた、子ども達の交流を兼ねお茶会での出来事だった。
基本公爵家から出ることもなく、社交シーズンに合わせて母と共に領地と王都の行き来だけしていたわたくしは、同じ年頃の子ども達と初めて出会うとあって、かなり緊張していた。
そんなわたくしの目に飛び込んできたのが、シュテフィンだった。
キラキラと陽に輝くふわふわの金の髪に、目も覚めるような真っ青な瞳。スラリと伸びた手足は幼いながらも人目を引き、まさに天使だった。
「ねぇ、おかあさま。あの子とお話してみたい…」
一緒にお客様の出迎えをしている母のドレスをちょこんと引っ張る。
一人では無理だ。なんて声をかければいいのかも分からない。母のアンドレアは、しゃがみこむともじもじしている私の目線を追ってくれた。
「あぁ、スタンフォード家のシュテフィンちゃんね。いいわよ、あとでお母様と一緒に伺いましょう」
母に願いが伝わった事がとても嬉しくて、一気にこのお茶会が楽しみになった。
早くお話ししたい!
その思いが伝わったのか、優しく微笑んで頭を撫でてくれるお母様の手が、少しくすぐったかった。
そして、いよいよシュテフィンと2人きりになり、何から話そうかと思った矢先に言われたのが、アクヤクレイジョウだった…
―なんなの、この子…さっきまでと全然ちがう…
母親たちがいる時は見た目通りの天使だったのに、突然今まで聞いた事も無い言葉でまくし立てられる。
知らぬ間に、視界もぼやけてきた。
その間も天使だった女の子は1人でしゃべり続けている。
「も、もう、おかあさまのところにもどっ…」
そこでやっと、シュテフィンはわたくしの様子に気づいた。
楽しみにしていた分、訳の分からない話をとうとうと続ける彼女の態度に、悲しさが押し寄せてくる。我慢の限界だった。
俯き涙を堪えていたわたくしは、突然手を引っ張られ、そのままバラ園まで走って連れていかれた。
お母様が丹精込めて手入れしているバラ園は、王都随一との呼び声が高い。
たどり着いたのは、少し奥まった場所にある可愛らしい四阿だった。
子ども達が来ると想定されていたのか、座り心地のいいクッションが並べられ、少し離れた場所には当たり前の様に侍女が控えていた。
気づけば目立たない場所に、侍従たちも控えている。
お母様の配慮の表れだろう。これならば、子どもだけでどこかへ行っても、大人の目が無くなることは無い。
荒い息もそのままに、シュテフィンは先ず私を座らせると、息を整えた所で侍女に飲み物と、何かをお願いしていた。
その姿に意外性を感じる。先程までの様子と一変して、幼いながらも令嬢としての態度に見えたからだ。
そこまで手筈を整えた所で、シュテフィンはガバりと思い切り頭を下げた。
「ごめんなさい!」
びっくりして声も出せないわたくしに、シュテフィンは頭を下げ続ける。
「や、やめて!」
「許してくれるまで、無理」
「もういいから、許すから!」
「え、ホント?」
パァァァっと笑顔になったそれは、天使の笑顔だった。
それからシュテフィンが話してくれたのは、正に荒唐無稽な話だった。
曰く彼女には前世がある。
その前世で読んでいた少女…漫画?にこの世界が似ていて、その中で私はアクヤクレイジョウ?
というものであり、最終的に国外追放になるという…
知らない言葉ばかりで、理解しきれなかったが、真剣に話す彼女の様子から無視は出来なかった。
「あなたは、先よみのまほうがつかえるの…?」
「違うってば。今より前に生まれて生きた時の記憶があるのよ。んー、突然こんな話しても信じられないわよね…」
そういう私も、つい最近思い出したのよねーと困ったような笑顔でこちらを見てくるが、困ってるのはわたしだ。
お互いに困って沈黙が続く中、パッとシュテフィンが輝くような笑顔を見せた。
「そうだわ!今度うちでお茶会をしましょう!その時に詳しく話してあげる。ね、いいでしょう?それと、私は家族からシュテフって呼ぼれてるんだけど、あなたは?」
「ジュリってよばれてるわ」
「そう、ジュリね!これからよろしく!」
「よ、よろしく…?」
さっそくお母様に報告だわ!と、シュテフに手を引かれ、バタバタと四阿を後にする。
お茶会の会場を目指しながら、シュテフがあー、良かったと言い出した。
普段から普通の令嬢と一線を画す行動をするシュテフに対して、母親から参加の条件をキツく言いつけられていた。
―今日はマトモに過ごすこと。
何か騒ぎを起こしたら、マナー教育の追加に加え、暫く交流会への参加は控えるから、と。
さっきジュリ泣きそうになった時、実はかなり焦ってたんだよねーと舌を出して笑う。
「だからね、ジュリと友達になれて、ホントに良かった!」
そうしてまた、シュテフは輝く天使の笑顔で、わたしに笑いかけた。
そうして私たちは、その後親友と呼べる関係になる。
ただ、その時の私は知らない。
アクヤクレイジョウについての話をしに来たはずが、いつの間にかその話は忘れ去られる事を。
シュテフと会う度に、わたくしの可愛いジュリと呼ばれ、可愛い可愛いと撫でくり回される事を。
そして、どこからかそれを聞きつけてきた母のアンドレアとシュテフが異常に意気投合し、ジュリアーナを愛でる会が作られる事を。
そして、シュテフに手を引かれ歩きながら、わたくしはひとつの教訓を得ていた。
人は見かけによらない。
第一印象は当てにならない、と。
それは今後の私を非常に助けてくれるのだが、それもまた、わたくしはまだ知らない。
読了ありがとうございました(*´∀`)
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心して受け止めます(;・`д・´)ゴクリ
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誤字脱字報告ありがとうございます!
こんなに便利な機能なんですねΣ(゜Д゜)スゴイ!!