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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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95話

「ーーーで、なんでその話の流れで蔵介君だけしかここに来ていないのさ」

 僕がやって来たのはサークルが存在する敷地......というとちょっと変かもしれない。

 何度か話しているけれど、ここ、A大学は自然との共生が特徴である大学。ただ、野球やサッカー、陸上競技などは流石に自然と一緒になどと言ってられない。っていうか、走り回ったりする場所に低木があったら純粋に邪魔だもんね。

 そういうわけで、サークル活動をするための場所は講義棟とは少し別の場所に存在しているのだ。

 まあ講義棟の空いている講義室を活動場所にしている人や、そもそも都会の方へ足を延ばして活動をする(そこにしかない施設で勉強したり遊んだりする)サークルもあったりするし、スポーツ系のサークルに入っている学生以外にはあまり周知されていない場所だ。

 さてさて、場所の紹介が終わったところで。今僕がやってきているのは、サークル用の敷地の中にあるテニスコート。もちろん、隼斗にサークル活動を体験させるためだ。そして、今僕が話しているのは無能力者の友達だ。彼が所属しているテニスサークルを見学させてもらえないだろうか、そんな風に話をしたわけだけど。

「いやいや、ちゃんと隼斗もこっちに向かっているはずだよ。......多分」

 実際にテニスコートまでやって来たのは僕だけ。別に僕がわざと隼斗を引き離したとか置いていったとかそういう話ではない。

『わりい、ちょっとトイレ行ってくるわ』

『ん。待ってるよ』

『あー、いや。待っていなくていい。先行っててくれ』

『......ん、おっけ。道、分かる?』

『ああ、教えてもらった通り行けばいいだけだ』

『なら大丈夫かな。じゃあ先行ってるね』

 こんな会話をほんの数分前に隼斗とした。まあ直接トイレに行っていたと伝えても、なんでそれくらい待っていなかったんだと帰って来るだけだろう。

 遠回しに、少しだけ急用があったらしいと伝えると、大きなため息が返ってくる。

「あのねえ、いくら隼斗くんっていう人が賢くてもね、0から何かを把握することは出来ないと思うんだけど」

 それはそうだろう。来たことがない場所で僕の友達の場所に来るというのは至難の業だ。

「地図はあるから迷子になったりはしないだろうけど、隼斗君は不安だろうなあ」

 チラチラと横目で僕の様子を伺ってくる友達。これは暗に連絡しろということだろう。

 そりゃあ、僕だって一切心配していないわけではない。ただ、今話しかけるのは野暮だと思ったのだ。

 さっき講義中に出会った平田とかいう奴。そいつは口を滑らせて隼斗のことを『隼斗お坊ちゃん』と呼んでいた。さらに、元々隼斗をこうして僕が連れまわしているのは、隼斗に『普通の暮らし』を教えるため。

 普通の暮らしを知らなくて『お坊ちゃん』などと呼ばれている人間なんて、よっぽどの金持ちとしか思えない。そんな隼斗が遠回しに一人にしてくれと言っていたのだ(多分)。それは流石に僕も気を遣うというもの。

 そんな風にうじうじとしている僕を見て、何か事情があることを悟ったらしい友達が、ため息を吐きながら尋ねてくる。

「まあ連絡しないならそれでいいけどね。それで、どのくらい待ってれば来そうなの?」

「分からないけど、用事が済み次第かな。まあこのサークルの特徴は伝えといたからそんなに長くは待たなくて済みそうだけど」

「特徴? テニスコートが広いとか、建物の形とか?」

「いや、もっとわかりやすい特徴」

「ええ? そんなのあったっけ......」

「ほら、テニスサークルと言えば『女と酒を侍らせることが生きがいな連中が集まった、血沸き肉躍る修羅の地』ってことで有名じゃない」

「早く隼斗君に連絡して。絶対に違う場所にいるから」

 こうして僕は無能力者の友人に半ば追い出されるようにテニスコートを後にしたのだった。

 

「で、行けって言われたのがここかあ......」

 サークルの敷地内といっても、全てが運動場というか屋外施設なわけではない。バスケットボールコート、バトミントンコート、トレーニング設備などなど屋内運動設備が集まった大きな棟があるのだ。

 一度も入ったことのない棟なので中の様子などは一切知らなかったのだけれど、予想以上に綺麗な建物だ。汚れが見当たらない白い壁に、床の木材の明るい茶色。スポーツで使う備品を運ぶためだろう、幅広い廊下に高い天井。流石に傷一つないとまで言わないが、清潔な場所だ。

「これは運動のモチベ―ション上がるよね......ん?」

 靴を脱ぎながらきょろきょろとしていると、使用名簿が置いてあることに気がついた。へえ、すごくしっかり管理されているんだなあ。隼斗を探しに来ただけとはいえ、一応建物内に入るわけだし、記入しておこうかな。

 靴を下駄箱にしまってから記入のために近づくと、目当ての名前が目に入る。

「お、隼斗。やっぱりこっちに来ちゃっていたのか」

 独り言をつぶやきながら名簿に自分の名前を書く。さて、さっさと呼び戻すとしようか。

 それにしても、無能力者の友達はなんで隼斗がここに来ているって知っていたのだろうか? 友達が気づいたタイミングとしては僕がテニスサークルに対して抱いている特徴を伝えた時。そこかから考えるに、『女と酒を侍らせることが生きがいな連中が集まった、血沸き肉躍る修羅の地』がテニスサークル以外に存在するということだ。

「そんなところあったっけ......?」

 運動系のサークルを手当たり次第に回っているとか? それとも迷子になっているだけ? とりあえず足を動かして目についた部屋を覗き込んでみるけれど、パッと見ただけでは隼斗がいるかどうかわからない。というかやみくもに歩いているだけだと下手したらすれ違ったりしちゃうしなあ。でも探さないわけにはいかないし。

「うーん、どうしよ「なめんじゃねえぞクソガキ!」

 廊下に響いてきた怒号に思わず体が跳ねる。び、びっくりした! 

 怒号が聞こえてきた方を振り向くと、清潔な建物内に似つかわしくない、やけに汚れている部屋が目に入った。な、なんだここ。

「まーたやってるぜ」

「無視しとけ。俺たちは俺たちで試合が近いんだからよ」

 そんなことを話しながら近くを通り過ぎていく二人組の男。額から溢れている汗をタオルで拭きながらスポーツドリンク片手に歩いている。どうやらこの棟の常連のようだ。

 ちょうどいい、あそこが何か尋ねてみよう。

「あの、すみません」

「ん?」

「あの部屋って何ですか?」

「あー、君はここに来るの初めてか。あそこはとんでもない喧嘩サークルが使ってるのさ」

「喧嘩サークル?」

「そうそう。なんか総合格闘技サークルが変な奴に占拠されちまってさ。そこからは一瞬であんな感じだ。スポーツサークルからただの喧嘩サークルになっちまったのさ」

「へえ。そういうのって大学としてはいいんですか?」

「まあ良くはないわなあ」

「ただ、それ以上に関わりたくないっていうのが大きいのかもな」

「へえ......あ、すみません引き留めちゃって。ありがとうございました」

「いやいや、お安い御用だよ」

「お礼を言うくらいならあのサークルを潰してくれよ。なんだかんだ、近くに治安が悪い奴らがいるのはストレスだからさ」

「おいおい、新入生に変な絡み方すんなよ。それじゃあね」

「あはは......」

 去っていく二人組に手を振って見送る。さて、僕も目を付けられたりする前にこんな危なさそうな場所はさっさと離れるかな。

「喧嘩サークルなんて、所属している人は血沸き肉躍る修羅みたいな人なんだろうな」

 呟きながらその場を離れる......ん? 自分で口にしておいてなんだけれど、なんか聞いたことあるフレーズだ......って、まさか!

「僕の友達が言っていたのって......!」

 慌ててその部屋に駆け寄って中を見る。すると、そこにはガラの悪い男に囲まれている隼斗の姿があった。こ、怖い。けど目当ての相手は見つけたんだ、さっさと引き戻して帰ろう!

「ちょ、ちょっと!」

「「「あぁ!!?」」」

「なんでもないかもしれないこともないんですけれどもね」

「ああん? なんも聞こえねえぞ?」

「いや、僕の友達が来ちゃったみたいなので連れ戻しに来たんですよ。ほら、隼斗」

 ガラの悪い男を押しのけて隼斗の腕を掴もうとすると、他の男が阻止してくる。

「おいおい、まさかこのサークル、『酒池肉林』に逆らってただで帰れると思ってんのか?」

 名前だっさ。なんか、田舎のヤンキーみたい。

 ただそれを口にしたらただじゃ帰れない。僕のポーカーフェイスを見せてあげよう。

「名前だs......かっこいいっすね」

「なんか言いかけたなお前」

 くそ、ポーカーフェイスは出来てもポーカーマウス(?)は出来なかったみたいだ。

「まあ折角だ、二人ともちょっと奥までツラかせや」

「たっぷり遊んでやるぜ、へへへ」

 そのままヤンキーたちに連れられて汚い部屋の奥まで連れていかれる。ど、どうなっちゃうの。

大学にもヤンキーっているんだなあ。


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