94話
カツン、とピストルが地面に転がる。その音をきっかけに、平田の手首を抑えていたデーモンハンドがスッと消えた。
「これでまた強くなれたな」
「あ、おい」
真っ赤になった腕を庇いながら俺たちに背を向ける平田。俺は思わず引き留める。
「そうだ、まだ賞品を与えていなかったな。何が聞きたい?」
別にその話をしようと思ったわけではない。反射的に引き留めただけなのだが、思わぬ収穫だ。いや、勝負に勝ったんだから何かを聞くチャンスを逃さなくてラッキー、か?
「ああ、それと。もう戦闘状態は解いてくれや。なんていうか、ピリピリして落ち着かねえ」
「防がれると分かっていたのかもしれないが、銃弾を放つような奴に警戒しないわけないだろ」
「おいおい、ありゃあ冗談だよ。ほら」
言いながら平田が天井を指さす。ちらりと目を向けると言いたいことが分かった。
「な? 傷一つねえだろ? それに弾丸が落ちてきた音もなかったべ?」
「......そんなの気づけるか分からないだろ」
「気づける状態じゃねえか。そのための人格なんだろう?」
「随分こっちの俺に詳しいな。ファンか?」
「ああ、ファンだよ。だから恥ずかしくてうまく話せねえ。もう片方のお前に戻ってくれや」
「......一応警告しておくぞ。『俺』はいつでも出てくるからな?」
「あいよ~」
あ、意識が返ってきた。相変わらずへらへらとしている平田が片手でペンを回しながら僕に尋ねてくる。
「で、何が聞きたい? さっさと帰りたいからできる限り早く聞いてくれよ?」
ふうむ。隼斗について、かあ。本人がいないところであんまり聞きすぎるのも良くないし、かといってずっと何も分からないままなのも困る。
「そう、だね。隼斗の実家って......あー、うーん。周りの環境......いや、違うなあ......」
これって聞いてもいいの? 本人が知らないところで知っていいことってそんなに多くないと思うけれど......。
「なんでも聞けるんだ、さっさと答えてくれねえか? 能力が切れちまう」
険しい目つきで僕を睨んでくる平田。いや、そんなこと言われても......
あ、そうだ。
「隼斗の好きな物教えてよ。あ、食べ物はいいや。クレープが好物って知ったからさ」
「好きな物? そんなこと知ってどうなるんだ?」
「質問したのは僕。平田は答えてくれればいいよ」
まあ特に聞きたいことがまとまらなかっただけだけど、ちょっと含みを持たせてそんなことを言ってみる。
「ふうむ、好きな物か。食べ物じゃなくてっていうなら、やっぱあれだな」
「ほう」
「花だよ。綺麗なら綺麗なだけ好きだと思うぜ」
「へえ」
花、ねえ。思わず講義に集中している隼斗をチラリと見てしまう。強気で常に自信家な隼斗が花を愛でているというのはなんていうか、......ギャップ萌え?
「それじゃ、またどこかで会うだろうからその時はよろしくな」
「あ、ちょっと」
「それと、そろそろ能力は解けるから黙って授業受けといた方がいいぜ? じゃあな~」
「く、大学生の単位を人質に取る気なんて卑怯だぞ!」
「そんなに言われるとは思ってなかったぜ」
若干肩を落としながら講義室を出ていく平田。まあ引き留めても話したいことは何もないからいいんだけどね。
席に座り直して、改めて講義を聞きながらボーっと考え事をする。
なんていうか、みんな殺意がないよなあ。いや殺意がないっていうのは違うか。隼斗に会いに来たっていう感じだ。
そして隼斗に会いに来る目的は分かった。それはーーー
「えー、ここの公式はレポート作成時にも使えますからね。もちろん、試験にも出ますよー」
おっと、まずい。一先ずは大学生に集中しないとね。
「ふへ、ふひひひ」
こんな風にゲーム作りに夢中になりすぎている堂次郎を反面教師にしないと。
「初めての講義はどうだった?」
トコトコとキャンパス内を歩きながら隼斗に尋ねる。ちなみに堂次郎は用事があるようなのでここで一旦お別れだ。
「面白かった。こんないいことを体験するのが『普通』なのか?」
「うーん、まあそうだね。でも講義を受けることがいいことっていう人は多くないんだよね」
「? わざわざ金払って時間使ってるのにか?」
「そうだね。やっぱり興味がないことはみんな興味がないから。僕も自分が興味ある分野以外は辛いなあ。英語とか」
「そうか、贅沢な奴らだな」
「かもね。さて、次は何がしたい?」
先ほどカフェテリアで書き出したメモを隼斗に渡しながら尋ねると、すぐに隼斗から返事がくる。
「体が動かしたい気分だ。部活、じゃねえや。サークルってやつがあるんだろ? 体を動かす関係のサークルに行ってみてえな」
「ん、オッケー。内容は何でもいい?」
「ああ、任せる」
そういえば僕の無能力者の友達がサークルに入っていたはず。ちょっと見学できないか聞いてみよう。
「ん、もしもし。ちょっとサークル見学したいんだけどーーー」
次はだれが待ち受けているか。




