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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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93話

「そ、それじゃあ。始めるか。まず初めのゲームはこれだ」

 言いながら懐から取り出したのは一つの箱だ。それを開くとリボルバーピストルと弾が入った小箱が現れる。

「これはリボルバーピストルだ。やるゲームはなんとなく想像がつくんじゃないか?」

「それはね。あれでしょ、アメリカンルーレット」

「ロシアンルーレットだ」

「し、知ってたけどね」

 呆れたようにため息を吐いて、随分とやりづらそうにしている平田。それは僕がこんな風に茶化しているからだろう。ただ、そう思うのも仕方がないのだ。

 箱とは言ったけれど、有名通販サイトのロゴが入っているダンボール箱に雑に入っている明らかにおもちゃなリボルバーピストル。隣に添えてある小箱にはひらがなで『かやくだま!』と明るい文字で書かれている。なんとなく手に取ってパッケージを眺めると、『小学生向け』だの『ひとにむけてはいけません』だの子供向けということを主張する文言が並んでいる。

「で、このおも「おっと」

 おもちゃで何をする気? そう聞く前に、ピッと先ほどまで危害を加えない証拠として使っていたナイフを僕の首元に突き付けてくる。思わずごくりと喉が鳴る。

「その発言は決してしちゃいけねえぜえ。俺の『ゲーム』には真剣に付き合ってもらう」

 獣を狩るような目つきに思わず体が固まる。能力や手に持っているナイフの脅威だけではなく、冗談のように聞こえるかもしれないけれど圧倒的な『威圧感』を感じる。

 そんな恐怖を感じる時間は一瞬だった。すぐに平田が元通りのおちゃらけな雰囲気に戻る。

「ゲームとはいえ真剣にやった方が面白いだろう? それじゃあ、始めようか」

「ちょっと待ってよ。これ、何のためにするのさ?」

 なれた手つきでリボルバーのシリンダーに火薬を一発入れて、シャーっとシリンダーを回転させながら元あった位置にシリンダーをはめ込む平田。

「色々説明するから慌てるなって。まずはルールだな。このピストルのマガジン数は6。それに対して装填した弾は一発。で、銃口を自分のこめかみに向けて引き金を引く。火薬が鳴ればそいつの負けだ」

「で、負けた方はどうするのさ?」

「そうだなあ、罰ゲームは......ああいや、ちょっと指向を変えてみるか」

 なにか考えていたと思えば、僕にリボルバーを渡してくる平田。これは僕から始めろということだろうか?

 早速こめかみに銃口を当てて引き金を引く。ピストルからカチリと音が鳴るのみで、火薬の音は聞こえない。

「ん、次は平田の番だよ」

 ポイと拳銃を投げ渡す。それを受け取りながら呆れたように平田がため息を吐く。

「まったくせっかちな奴だ。それでこのゲームだが、3回だ。3回火薬を引いたら終了。で、上木蔵介、お前には罰ゲームはない」

「え? どういうこと?」

「っていうのは、このゲームに参加したこと自体がお前に対する罰ゲームなんだよ。まああんまり深く考えるなや」

「ふうん。まあどうでもいいや。それで、お前に『は』ってことは、平田には何か罰ゲームがあるんでしょ?」

「ああ。俺がハズレを引いたら隼斗の情報を教えてやるよ。とはいってもゲームだからな。3回のうち2回ハズレを引いた方が負けってことで。もしお前が勝ったら隼斗のことをなんでも教えてやるよ」

「なんでも?」

「ああ。質問に答える感じでな。気になる情報があったら考えとけや」

「スリーサイズは?」

「お前、きもいな」

 確かに茶化す以上に気持ち悪かったかもしれない。ちょっと反省。

「まあ普通にやるだけじゃ暇だよな。ちょっとおじさんとお話でもしないか?」

「やだ。さっさと終わらせて」

「男に拒絶されても悲しいものなんだなあ」

 悲しそうな表情をしながらこめかみに銃口を当てて引き金を引く。銃声は鳴らず、カチリと撃鉄が弾倉を叩く音だけが響く。

「それにしても、上木。お前結構有名人なんだな」

「え? そうなの?」

 再び手渡された拳銃の引き金を引きながら相槌を打つ僕。平田が僕から銃を受け取りながら頷く。

「ああ。調べればすぐにお前のことが分かる。それで、こうして相対すると有名な理由も納得だ」

「イケメンだから?」

「鏡は知っているな?」

「言いすぎだよ」

 4発目も不発。次で音が鳴らなかったら確実に平田の負けだ。

「それで、お前が化け物だってことも知った」

「何さ、嫌味が言いたいの?」

 引き金を引く。ここでも音は鳴らない。1回目のハズレは平田のものだと確定した。

「別にそういうわけじゃないがな。お前が化け物な理由は各々考えが違う。『硬化』という能力の強さだったり、それを利用して作られた攻撃的な人格だったり。そんな中で俺が考えているのはーーー」

 喋りながら僕から受け取ったピストルの銃口をこめかみに突き付けて、引き金を引く。

「ーーー『無意識』だ」

 パアン! と思わず身を竦ませてしまうような破裂音が辺りを支配する。周りを見渡しても、誰も何も気にせずに講義を聞き続けている。

 おもちゃのピストルなので当然平田は傷一つついていない。改めて火薬をシリンダーに入れて、クルクルと回してから銃身に弾倉を戻す。

「無意識、ね。ちょっと言いたいことは分かるけど」

 何も言わずに始まった2回目のロシアンルーレット。平田が初めに引き金を引いてから僕に手渡してくる。

「そりゃあさ、人が攻撃してくるのを無意識のうちに受け止めて殴り返せるならとんでもないけれど、実際はそこまで出来ない。っていうか、無意識って自分でも気づかないうちに何かすることだから、直感とも少し違うし。そもそも能力が強いとか筋力が強いとか色々な前提も必要だし。僕は賛成しきれないかな」

 言いながら引き金を引いて平田にピストルを渡す。

「そうかもしれない。ただ、一番強力なのは無意識なのさ。なぜなら、前提が現れるからだ」

 相変わらず音の鳴らないピストル。僕がこめかみに銃口を当てながら尋ねる。

「前提が現れる?」

「そうさ。俺たち能力者がいい例だ。俺たちが初めて能力に開花したとき、『火が出せる』なんて思ったか? 気が付けば発現した。これを無意識と言わずになんていう?」

「......」

 思わず黙ってしまう僕。そんな僕の代わりにというべきか、ピストルが銃声を上げる。

「これでお互いに一勝一敗だな」

 言いながら弾倉に火薬を詰めて、三回目のロシアンルーレットを始める平田。今度は外れを引いた僕から開始される。

 カチリと頭の横で鳴る音を聞きながら、話の続きを促す。

「前提が現れてからもう役に立たないかと言えばそうじゃない。無意識は前提を働かせる」

 声を上げないピストル。僕は手渡されたピストルを構えながら口を開く。

「難しい言い方しないでよ。もう答えがある話でしょ?」

 平田に回るピストル。最早ロシアンルーレットはおまけだ。

「そうだな。ペン回しなんかいい例かもしれんな。最初は練習して回せるようになったりするだろ? それがいつの間にか気持ちを落ち着かせるものになって、無意識のうちに回している。無意識は自分にプラスになるように色々なことを働かせるのさ。まあただ手持無沙汰でペンを無意識に回している場合もあるがな」

 僕に回ってくるピストル。これで最後になるか、次で最後になるか。ゲームも佳境だ。

 それが分かっているからか、平田が話をまとめだす。

「まあ要するに。ペン回しは気持ちを落ち着かせるために行っているとするだろう? じゃあ能力が無意識のうちに発動したらどうなるかってこった。お前なんかは命のやり取りもしたことがあるから分かるだろ。そのまま、自分の命を守ってくれるのさ」

「なるほどねえ。まあ敵の攻撃を直感してから反応する場合って、無意識のうちに能力を使うくらいじゃないと自分の命を守れないもんね」

 話のまとめを聞いてから、僕は引き金を引く。音は鳴らず、静寂の内に僕がゲームに勝利したことが確定した。

「おっと。お前さんの勝ちか」

 僕からリボルバーピストルを受け取って、このゲームを締めるために引き金に手を掛ける。

「それじゃあ、そろそろかな」

 言いながら、スッと立ち上がった平田が銃口を向けた先は......隼斗の後頭部だ。さっきまでそうだったかのようなあまりに自然な動きに反応が遅れる。

 そして、隼斗の後頭部にコツンと銃口を当てながらとんでもないことを言いだす。

「最後の一発は実弾だ」

「ーーーは」

 瞬間、僕の意識が切り替わるのと同時くらいのタイミングでパアン! と銃声が鳴る。

「ーーーおいおい、どうなってんだよ」

 言ってしまえば、室内は変わらず講義中。生徒たちは全員先ほどまでと同じように講義を受けている。隼斗もその一人だ。

 そして、唯一の異分子であった平田が向けていた銃口は天井を向いている。平田本人は、

「ぐぁ......、じ、実験、成功、だな」

 手首を禍々しい手に掴まれて、無理やり銃口が天井に向くように腕を曲げさせられていた。これは、隼斗の能力か?

 俺の読みは当たったようで、隼斗の手元に目を向けると、ノートを抑えている左手の手首から先がなくなっていた。これで間違いない、隼斗のデーモンハンドが発動したんだ。

 カツン、とピストルが地面に転がる。その音をきっかけに、平田の手首を抑えていたデーモンハンドがスッと消えた。


また一つ。

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