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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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91話

「改めて普通の生活がしたいって言うことだけれど」

 コホンと咳ばらいを一つしてから話を始める。先ほど道端で少しの間ボーっとしていたようで、隼斗に肩を揺さぶられて意識が戻った。少しだけふらつく頭となぜか痛む右腕に違和感を感じながらも、少し疲れがたまっているのかもしれないということで納得し、落ち着ける場所にやって来た。

 そんなわけで今僕たちは大学内のカフェテリアにいるわけだけれど。

「う、美味すぎる......! なんだこの食べ物!」

 隼斗は注文したクレープに釘付けだ。僕は呆れながらも、注文したアイスミルクティーに口をつけてから話の続きを口にする。

「一応僕たちにとっての普通っていうのを説明するのはまあなんていうか、結構主観が入っちゃうじゃない? だから助っ人を呼んだんだけれど」

 まだ来ないんだよね、そう言葉を続けようとした僕の肩を誰かがぽんと叩く。

「まーた面白そうなことしてんなあ?」

「堂次郎。遅かったじゃないか」

「さっきまで講義があったんだ、多少の遅れは許してくれ」

 言いながら注文してたのであろうアイスコーヒーを片手に僕の隣に座る堂次郎。

「あー、初めまして。高見堂次郎だ。話は蔵介から聞いたぜ」

「九条隼斗だ、よろしく」

 挨拶もそこそこに、堂次郎が話を始める。

「それで、隼斗は普通の生活が知りたいんだったか?」

「そうだ。堂次郎には期待してるんだぜ?」

「俺の話はもう蔵介から聞いているのか。なら話は早いな」

 先ほど登場してから話の中心になっている堂次郎。金髪で整っている顔なのに少しだけ小太りなこの男は、最高のゲームを作るために日々努力している。その成果とも言うべきかどんな話題にも付いていけるほどの作品を把握していてネタには事欠かない。また受け身の部分だけでなくプログラミングやデザイン、音楽制作となんでも出来る能力がある。しかしシナリオを作るのがどうも苦手で、公開している作品もシナリオに関して酷評されている。そんなシナリオをどうにかしようと模索しているところに無能力者の僕が現れて、なんやかんやで仲良くなっている。

「それじゃあ早速、普通の生活を教えてやるぞ」

 前のめりになって話を始める堂次郎。先ほども言った通り堂次郎は様々な作品に精通している。これが堂次郎をこの場に読んだ理由。誰よりも色々な作品を知っている堂次郎なら一般的な生活を語ることができるだろう。それに加えて説明する気力は十分。これは期待できそうだ。

「まず主人公をけなすところから「ちょっと待って」

 前言撤回。僕は頭に手を当てながら堂次郎に意図を尋ねる。

「主人公って何さ」

「そりゃあ自分だろう」

「じゃあ貶してくる人たちは何なのさ」

「そういう『モブキャラ』の生活が普通の生活じゃないか?」

「......それなら主人公の役は誰がやってくれるのさ」

「主人公は役じゃない。自分自身なのさ」

「自分で何言ってるか分かってる?」

「あー、それで俺はどうすればいいんだ?」

「ちょっと待ってね」

 僕は困惑している隼斗に待ってもらいながら堂次郎を問いただす。

「主人公が自分で、モブの生活が普通なら自分は特別じゃないか。っていうかどうせシナリオ作りのネタにしようとしてるでしょ」

「......そんなことはないぞ」

「図星なら図星って言いなよ。というかさっき連絡した時も言ったでしょ。ごくごく普通な学生生活を説明してほしいって」

「ああ、言われたな」

「分かってるならちゃんとやってよ」

「はいはい。それじゃあ次の世界観だが「世界観って言っちゃってるじゃん」

 このままだと埒が明かない。僕は頭を抱えながら提案する。

「もう意味が分からないからさ、僕が言う一般的な生活が正しいかどうかだけ判断してよ」

「むう。まあいいだろう」

 不服そうな堂次郎を横目に説明を始める。

「まず大学生っていうのは抗議っていうのを受ける。そしてある程度の期間講義を受けたら、理解できているかを様々な方法でチェックされる。それに備えて勉強しておく。これがメインだね」

 堂次郎に同意を求めるようにちらりと目線を飛ばすと、「まあ正しいな」と言いながら頷く。隼斗もそんなことは分かっているという表情で続きを待っている。

「で、理解しているかチェックされるんだけれど、何もずうっと勉強していなくちゃ合格しないっていうわけじゃない。ある程度何をしてもいい自由な時間がある。ここで一般的な人は何をするかっていうのが『普通の生活』ってことね」

 あくまで僕の解釈だけれど、と付け足すと、隼斗は納得したようなしていないような表情をしている。

「まあ、そういうことなのか......」

「そうそう。そこで一般的に何をするかということだけれど......これが結構多いんだよねえ。堂次郎、紙とかある?」

「ああ。講義直後だしな」

 カバンから紙とペンを手渡してくる堂次郎。早速紙に文字を書き込んでいく。

「今から書いていくことで分からないこととか興味があるものがあったら言ってね」

 興味津々な様子で僕の手元の紙を覗き込んでくる隼斗。別にそこまで大それたことは書かないけどなあ。

 さて、まずは何を書こうかな。読書、ゲーム、スポーツ。服とか買いに行くっていうのもあるなあ。映画もあるよね。あ、あとは楽しいことじゃないけどアルバイトとか。

「......随分すらすらと書けるんだな」

「へ? そ、そうかな?」

「ああ。随分詳しいんだな」

「......普通のことに詳しいって、なんかただの一般人って言われてる気がするんだけど」

「根っからの一般人なんだな」

「なんで言い直したのさ」

 はあとため息を吐きながらも隼斗に話を振る。

「それで、どれか興味湧いたものとかある?」

「ふーむ、そうだな。正直気になるものが多すぎる」

「ちなみにさ。実際にやったことがないとか知らないっていうのはどれくらいある?」

「これとかこれとか、これもやったことがないな」

 隼斗が指さしていく項目は意外と多い。うーん、これを教えていくのは結構大変だぞ。

「なんだ、それなら全部やってみればいいじゃねえか」

 悩んでいると、堂次郎が立ち上がって片手に持っていたコーヒーを一気に飲み干す。早速なにか始めようということなのだろう。

「随分急だね、堂次郎」

「思い立ったが吉日ってな。それに隼斗、いいこと教えてやるよ」

 慌てて飲み物を飲み干し始めた僕と隼斗。それを見下ろしながら堂次郎が話し出す。

「俺にとっての普通とお前にとっての普通は違う。今蔵介は普通の生活の中に含めなかったが、俺にとっての普通の生活には絵の練習だとかプログラミングの勉強とか、ゲーム制作もある。これが俺にとっての普通だ。お前も自分にとっての普通を見つけていけばいいさ」

「なるほど」

「いいこと言うじゃん」

 思わず感動してしまう。そうだよね、どんな人にとっても普通なんていうのはないよね。自分にとっての普通を探していくのが大切なんだよね。

 隼斗も感動した様子で立ち上がる。そうと決まれば早速行動しよう。

「まあ普通の生活というより趣味を探しに行くっていうのが正しいんだろうけどな」

「それは言いっこなしだよ」

 さあ、色々なことに手を出してみようか。

学生にとっては趣味とか自分の興味があることに専念できる時間があることが普通の生活と言えるのかも。

社会人になって痛感しますけど、そんな時間は作り出さない限りないのが『普通』ですし。いや、投稿が遅れた言い訳とかではないんですよ。

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