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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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88話

 才能が欲しいという人はどこでも見かける。

 なぜ唐突にこんなことを言い始めたかと言えばもちろん、才能というものについて思うところがあったからだ。

 俺は何でもできる。別に大した努力などしたことはない、ちょっとやれば何でも出来てしまうんだ。だから別に、この話を始めたのは才能がある人が羨ましいなんて言う話ではない。

 さらに言ってしまうと、才能がない奴は能天気だな、なんていう見下した意見でもない。

 ただ、ちょっとした興味がある。才能っていうのはどれだけの価値があるのか。

 例えば、友達一人との関係は値段にするといくらだろうか? 生まれ持った容姿の価値は? 家族からの愛情は? 恋人との時間は? そんな野暮ったい話だ。

 定量的な物差しがないと、本来の価値が見失われてしまう。だからたまに見直す時間が人間には必要だろう。

 友達と笑いあうのは楽しい。容姿が良いと人から好かれやすい。家族からの愛情が嬉しい。恋人との時間が幸せ。プラスな感情なのは間違いないが、人間の感情に置き換えてしまうと、個人差が出て価値が変わってしまう。だから、定量的な物差しというのは必要だと思う。

 少し話がずれたので戻す、というかまとめる。

 才能って、そこまで欲しがるものか? 別にこれがあるからって、得したことなんか一度もないぜ。

 だから、教えてほしい。才能の値段を。

 ちなみに才能を持っている俺目線で才能に値段をつけるなら......

「0円......いや、借金だな。借金手形」

「? 何か言った?」

「いんや、こっちの話だ」

「そう。とりあえず、案内は終わり。私は手続きがあるから先に理事長室に行ってて。場所は」

「一号館の奥の方にある部屋だろ? 一人で行けるさ」

 ひらひらと手を振りながら立花学長と別れてずんずんとA大学のキャンパス内を歩いていく。事前に渡された地図は一度目を通したから覚えている。まったく、才能がありすぎるのも困りものだ。誰かに頼る必要がないのだから、誰とも関われない。

「何も出来ないふりでもすればいいんだろうがな」

 苦笑しながら歩く。能ある鷹は爪を隠す......とはちょっと違うだろうが。それは俺の望むところではないし、却下だ。

 グチグチと頭の中で呟きながら、『理事長室』と無機質に書かれている扉の前にたどり着く。

 さて、今度は何をやらされることになるのやら......。まあ、いつも通りにやればいいだろう。

「失礼するぜ」

 ドンドンと乱暴に扉を叩いて理事長室の中に入る。そこではーーー

「やだ! 僕それ嫌いなんですよ!」

「嫌でも話はしないといけないからねえ。天馬さん」

「心苦しいのだが、我慢してくれたまえ」

「虐待だあああああああ!」

 白髪のじいさんが、金髪の男に拘束されている黒髪の男の額に指を突きつけているという、何とも奇妙なやり取りが繰り広げられていた。


「ごほん。見苦しいところを見せたね」

 突然の来訪者にその場の全員が一度固まって、その後再び僕の二重人格を引き出そうとしたので、流石に一旦清木教授と天馬さんを止めた。そして、来客者と改めて向かい合うことになったのだけれど。

「本当に見苦しいところだったと思いますよ。それで、彼は?」

 早速向かい合わせに置かれているソファの対面に座っている茶髪の男について、清木教授に尋ねる。

「紹介するね。君と同じく19歳の九条隼斗くじょうはやと君だよ」

「おう。九条隼斗だ。よろしく」

 グッと右手を差し出されるので、おずおずとそれを握り返しながら自分の名前を口にする。

「上木蔵介。よろしく」

 九条君はなんていうか、体格の何倍も力強さを感じる人だ。

 茶髪のショートカット。身長はそこまで高くない。多分170センチより低いだろう。体格もかなり細身だ。

 それでいながら、自信満々な表情や態度が印象的だ。丸く大きい目が印象的で、ニコニコと微笑んでいる表情からは一切の緊張を感じさせない。さっきの握手の仕方もそうだけれど、物怖じしない人だというのが第一印象だ。

「ええと。それで隼斗は清木教授に用事があるんでしょ? 僕は一旦席を外しますよ。よっこらせ」

 立ち上がると、清木教授が僕を羽交い絞めにしてくる。先ほどのように、天馬さんの力を使って僕の二重人格を出そうとしているようだけれど。

「清木教授、流石に来客中ですよ? 僕ならまた来ますから、今は隼斗の相手をしてくださいよ」

 そう言いながら清木教授を振りほどこうとすると、清木教授がとんでもないことを伝えてくる。

「ごめんね上木君。隼斗君関係で君にやってもらいたいことがあるから。そのためにも、ね?」

「いや、ね? って。何も分からないことはもう協力しないことにしたんですよ」

 そう。過去色々なことに巻き込まれてきたけれど、正直回り道をしたりこんがらがったりして大変だった。それもこれも、僕がまったく事情を知らなかったからだ。情報を知るために能力者と闘って、そこから助けに行ったり押し付けられたりして能力者と闘って......。正直、僕はもう疲れている。少しの間そっとしておいてほしい。

 ただ。そうは言っても僕は『防人』というサークルに入っている。これは、能力者を守るために発足されたサークル。僕はこれのリーダーだ。このサークルに入っていると、学費が免除される。言ってしまえば、お金が関わっているのだ。これを疲れているという一言で放棄するのは良くないだろう。

 つまり。

「何かあるなら事情を話してください。そうすればできる限り協力しますから」

 これだ。僕だって事情を知っている上で誰かが困っているなら、手を差し伸べるのはやぶさかではない。

 もちろん僕だって分かっているさ。言ってしまえば、清木教授は僕を『雇っている』。僕の感情など関係なしに突っぱねることだって簡単だ。

 ただ。なんだかんだ僕は今まで功績を上げてきたつもりだし、それも相まって僕と清木教授の間には『お金の力』を超えた『信頼関係』が生まれているはず。清木教授も事情を話してくれるだろう。

「まあまあ。それじゃあ天馬さんお願いしまーす」

 これがお金の力か。

 僕は抵抗を止めて、大人しく天馬さんに能力を引き出させることにした。


「驚いたな。まさか自分から出てくれるとは」

「正直、あんたに引きずり出されるのは辛いからな」

 ふぅと息を吐きながら清木教授に向き合う。

「それで、今度は何をやらせるつもりだ?」

「そんな警戒しないでよ。それより先に君に話してもらいたいことがあるんだ」

 言いながら、清木教授が普段使っている席に何かを探しに行く。

「来客中なのに随分呑気なもんだな」

 清木教授が戻ってくるまでの間に、先ほどまで座っていた席に改めてどっかりと座る。俺の対面に座る隼斗は物珍しそうに俺の顔を見つめてくる。

「なんだ、見世物じゃないぞ」

「いやいや。見世物だろ」

 言いながらも微笑んでいる隼斗。気味が悪い奴だ。

「いやー、お待たせ。どっこいしょ」

 ドン、と俺と隼斗の間にある机の上に黒いカバンを置く清木教授。

「これは?」

 率直に中身について尋ねる。すると、隠す必要もないといった様子で清木教授がカバンを開けて、中身を見せてくる。

「はい」

 ポンと手渡されたのは、この間俺が作り出したコンクリート製の棒だ。

 先日。俺は栞奈御庭番関係で『球体を爆弾に変える』能力を持っている敵と戦ったのだが、流石に素手では勝てないということで能力を使って棒を作り出し、何とか敵を退けたのだ。

「これさ。どうやって作ったの?」

 清木教授の目つきが鋭くなる。......まあ、特に隠すこともないか。

「そういやまだ話していなかったな。俺の能力は『触れたものと自分の硬度を変えることができる』というものだ」

「それは知ってる。だから、その棒の硬さについては分かっている」

 清木教授が渡してきた棒を指さしながら話を続ける。

「ただね。君が闘っていた場所の周辺ではそんな形の棒は存在しないんだよ」

 そんな形というのは、俺が握りやすい太さでかつ俺が扱いやすい程度の長さであるということだろう。

「全部が君に都合が良すぎる。素直に話してくれないかい?」

「そんな言わなくても話すさ。というか、清木教授も聞いたことがあるんじゃないか? 能力者がたまに『気づく』ってやつ」

 それを聞いて清木教授が納得したような表情を浮かべる。

「『気づき』っていうのはな。言っちゃえば『メタい話』のことなんだよ」

 俺は立ち上がって地面に手を触れる。そして、扉をノックするときのように地面をたたく。すると地面が軽く凹む。

「隼斗、お前のいるところも叩いてみてくれ」

 隼斗は怪訝そうな表情をしながらも、俺と同じように地面をたたく。すると、そこも地面が凹む。

「......で、何が言いたいんだい?」

「俺のいる場所と隼斗がいる場所。ある程度離れているよな? でも、俺の能力は効力を発揮している」

 ここからは脳がこんがらがるような話だ。

「おれの能力の『触れている』っていう部分はどこまでなんだ?」

「「「......」」」

 その場にいる全員が黙って話の続きを聞く。

「極端な話だが。触れている部分の硬度が変わるなら、ちょうど手の平の形しか硬度は変わらないはずなんだ。でも今隼斗が叩いた部分は俺が触れていない部分だろ? で、ちょっと天馬さん。この部屋の端に行って床を叩いてみてくれ」

 言われた天馬さんは黙って移動を始める。その間に天馬さんに頼んだことの意図を話す。

「じゃあ俺は触った『物』の硬度を変えられるのか? 例えば、実際にボールペンとかコップとかに触れたらその物全体の硬度を変えられる」

 言っている間に天馬さんが部屋の端にスタンバイする。

「俺は今『床』に触れた。さっきまでの仮定が正しいなら天馬さんがいる場所の硬度も変わっているはずだ。それじゃあ天馬さん」

 俺が天馬さんに目配せすると、天馬さんはその場でつま先をトントンと床にぶつける。しかし、床は形を変えない。

「これで分かっただろう? 俺の能力で硬度を変えているのはある程度の範囲なのさ。『物全体』が対象ではないわけだ」

「なるほどね。それが『気づき』ってやつなんだね」

 清木教授の言葉にうなずいてから話をまとめる。

「長々と語ったが、俺は能力を二回使ったのさ。一回目は『物体を柔らかくする』能力。これで床や壁の一定の範囲内を柔らかくした。そして二回目は形を限定しての『物体を硬くする』能力。これでこいつが出来上がったってわけさ」

 俺は清木教授が持ってきた棒を指さしながら答える。流石にこの部屋に大きな穴を開けるわけにはいかないので実際に作ることは出来ないが、まあ大分説明したし疑われることはないだろう。疑われてもどうしようもないんだが。

「っていうか、大分長々語っちまったな」

 よっこらせ、と。ふかふかのソファから立ち上がって出口へ向かう。横目でその場の人間の反応を伺うと、清木教授と隼斗は特に何も話さず、目と目を合わせていて、天馬さんは何事もなかったかのように窓の外を見ている。まあ俺の能力は疑われてはいないだろう。

「それじゃ、俺はおいとまさせてもらうぜ。隼斗とゆっくり話でも「ちょっと待った!」

 部屋にいる三人に背を向けてドアノブに手を掛けると、がっしりと二の腕を掴まれる。誰かが俺の腕を掴んだようだが......

 と、ここで。突然だが一応断っておくと、『俺』っていうのは『戦闘用の人格』だ。今は天馬さんに引きずり出されるのがしんどいので自分から出てきたが、本来は普段の俺や雪音が危険に晒されたときにだけ出る人格。

 この人格は言ってしまえば『疲れる』。っていうのは能力者なんていうやつらを相手にしていると、どんな些細な変化も見逃してはいけない。そいつの能力が分かるまでお互いの気温や触覚、位置関係などを常に頭に叩き込んでおき、変化するたびにそれを更新していく。手に入る複数の情報を常に更新し続けているのだ。

 これはもう癖みたいなもので、戦闘中じゃなくても行われている。もしこれをしなくなったら『俺』なんていらないわけだからな。

 また長々語っちまった。何が言いたいかというと。今この場にいる人間が俺の腕を掴むことは出来ないという場所にいることを知っているというわけだ。

 じゃあ誰が俺の腕を掴んているのか。それを確認するために、恐る恐る掴まれている腕を確認する。

「ーーー!!」

 思わず体が跳ねる。俺の腕を掴んでいるのは手だ。手、なのだが、とても人間の物とは思えない。

 真っ黒な皮膚で作られた手の甲に、血管だろうか、何本もの真っ赤な線が走っている。手の表面はゴツゴツとしていて、手自体が意思を持っているかのようにボコボコと蠢いている。

 指の先から伸びている長い爪が俺の腕に食い込む。振りほどけないどころか、腕が悲鳴を上げるほどの尋常ではない握力。咄嗟に体を硬化させて爪が食い込むのを防ぐが、問題はそれだけではない。

「おっと、そろそろヤバいな」

 パッと俺を掴んでいた手が離される。掴まれていた場所を見ると、腕が真っ赤になっている。火傷してしまっているのだろう、ヒリヒリとした痛みが掴まれていた部分から伝わってくる。

 それを確認した俺が戦闘態勢に入ると、座っていた隼斗が立ち上がる。

「改めて紹介するよ。この度『超能力者』に任命された九条隼斗くんだ」

「改めて、よろしく頼むぜ、蔵介?」

 ひらひらとこちらに手を振る隼斗。振っている最中に、ちょうど手首から上が消えて、俺の眼の前に先ほどと同じ真っ黒な手が表れる。

「......能力は?」

 俺は警戒を解かずに隼斗に能力の詳細を話すよう促す。

「『デーモンハンド』って俺は呼んでるな。俺の手首から上を変化させて自由な場所へ移動させられるって感じだな」

 大雑把な説明。これだけでは分からないことがある。

「『これ』はなんだ?」

 俺は目の前をふよふよと浮いている禍々しい手を指さして尋ねる。が、隼斗は肩をすくめるのみだ。

「さあな。俺も良く分からんが、悪魔っぽいだろ? だからデーモンハンドだ」

「......それで、清木教授。俺は隼斗の何をよろしくすればいいんだ?」

 もう隼斗の能力について知ることは出来ないだろう。本人にも分からないだろうし。というわけで俺を呼び止めた理由を尋ねてみる。

「それを話すと長くなるんだけどね。まあ彼の生い立ちがちょっと特別で。いわゆる、『普通の暮らし』っていうのを教えてあげてほしいのさ」

「本音は?」

「俺も疑われたもんだなあ......」

「疑われないような生活を心がけてくれ」

「これは手厳しい」

 苦笑いする清木教授。改めて話し出す。

「これは『素』の君に話そうと思っていたこと。あとで同じことを話すよ。戦闘状態、でいいのかな? 『もう一つの人格』の君には別で話すことがある。それはねーーー」


徐々に仲良くなりましょう。

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